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第五幕〜第七幕

last update Last Updated: 2025-10-15 03:28:05

第五幕

自分のペースで進みたいのに、リオンがそれを許さない。正直彼の事なんてどうでもよかった。どうせ目立ちたいだけ、そう思って変な目で見てただけだった。

──それなのに。

私の身体をしっかりサポートしながら、余裕のある笑みで私を見つめるリオン。その視線が熱くて、痛くて、頬が赤くなってしまいそうになる。

視線から逃れようにも、密着度が高すぎだ。変なプライドで先ほどのように体制を崩してリオンに迷惑をかけるのも嫌だ。本来なら主導権を握るのは私なはずだった。

エスコートをされる前に自分が優位に立つ事で、安心をしていた部分もある。リオンはどうだか分からないけれど、他の男性からすると、私みたいなタイプはめんどくさいと思う。

突き放す事で、どうにか回避出来ると思ってたのが甘すぎたのかもしれない。

「何を考えているのです?」

「へ?」

「顔に出ていますよ?」

「は、はあ?」

「先ほど「楽しむ」と言った言葉は偽りだったのでしょうか」

私が他事を考えている事に気付いていたリオンは|わざと《・・・》落胆したように演技をし始めた。彼からしたら、私の反応を見る為にしただけのようだったが、そんな事に気付く事が出来ない私は、内心「マズイ」焦り始める。

「楽しんでいるわ」

「本当ですか?」

「勿論よ。じゃなくとダンスに対して失礼でしょう?」

「そうですよね。シャデリーゼ様のような素敵な方がダンスを冒涜するような真似しませんよね……僕の勘違いだったのかもしれません」

──うっ……。

真っ直ぐ向けてくる言葉には悪意があるように感じて、ない。純粋に思っている事を口にしているだけみたいだ。私はリオンの様子を伺いながら、余計な事を考えるのはやめようと心に誓った瞬間だった。

第六幕

今までロクに殿方と踊った経験のない私は二曲目で疲れてきた。リオンの手から逃げようと何度も試みたけど、なかなか離してくれなくて困るのが本音だ。

最初、このダンス会場に来た頃は、色々な方に声をかけられていた。しかし私はお父様の言いつけの通りに来ていただけで、誰かとダンスを共有する事なんて、興味がなかった。

一応講師がついていたので、ある程度は踊る事は出来る。だけど、どうしてもこの空間に馴染めなかったのだ。

私とリオンの姿を見ている人達から、色々な言葉が流れてくる。

「あの令嬢、私の相手は断った癖に、あの男の相手はすんなり受けるのか」

「リオン様、どうしてあんな年増女とダンスなんてしているのでしょう?」

「ある意味「似た者同士」でお似合いかもな」

自分でも気づいていなかったのだが、私達は自分の想像を超える遥かに、目立っているらしい。その言葉を聞きながら、クロウは腕を組みながら、噂をしている人達の方へコツコツと近づいていく。

「貴方達を選ぶ訳がないだろう? あのお二人にも「選ぶ権利」はある。そんな噂を流すのなら、帰っていただきたい」

「「「クロウ様!!」」」

「悪いがここはダンスを楽しむ場所。貴方達のような者が来るべき場所ではないな。身を|弁《わきま》えてほしい」

黒い髪がユラリと揺れる。一つに結わえられている後ろ髪が感情の高ぶりを静かに表しているようだ。クロウは騎士が着るような服で発言しているから、余計に怖いだろう。

「ここは私達クロウ家が主催しているダンス会場だ。その事をお忘れかな?」

闇に包まれているような雰囲気の中で影があるように微笑むクロウ。その姿を見ている人達は、凍り付いて何も言えなくなってしまった。何か言い訳を言いたいだろうが、それを許さないのだ。

「反論がないと言う事は、反省の色がないと判断してよいのだな……?」

静かに怒りを見せるクロウは、奥の部屋にその人達を連行していく。

第七幕

変に外野が騒がしいような気がする……一体何があったのかと視線を向けようとするが、リオンが阻止しながら言った。

「三曲通しで踊らせてしまいすみません。疲れたでしょう?」

「ええ」

「少し休憩しましょう。いい場所を知っているのです」

エスコートするって言っていたのに、私が疲れているのも気づかずに、ダンスに没頭してたのね。まだ若いわね、そう思いながらも、彼の提案を受ける事にした。

正直、休憩するのなら一人がいい所なのだが、リオンがそれを許してはくれないだろう。初対面から強引な所があったから、予想がついてしまう。

私の方が年上なのだから、ここは合わせるべきなのかもしれないと思いながら、やっと休憩が出来るとホッとしながら、彼と共にテラスへと向かった。

優しく握られている右手が熱い。ダンスを踊っている訳ではないのだから、離してほしい……そう伝えると、名残惜しそうにゆっくりと離れていった。

「僕とした事が、エスコートをすると言っていたのに」

落胆するリオンを見つめながら、困った笑顔で包み込む。

「いいのよ。それだけ楽しかったのでしょう? 私も貴方とのダンス、楽しかったからお互い様よ」

「そう言っていただけるのなら、安心しました」

「ふふっ」

リオンの落胆する姿をつい「可愛い」と思ってしまった私は、ふと笑ってしまう。意地悪なのか素直なのか本当に分からない──それでも、初対面の印象からは遠ざかった。

私達はいい雰囲気の中で互いに苦笑いをしながら、会話を紡いでいく。

時々はいいかもしれない──

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