LOGIN第五幕
自分のペースで進みたいのに、リオンがそれを許さない。正直彼の事なんてどうでもよかった。どうせ目立ちたいだけ、そう思って変な目で見てただけだった。 ──それなのに。 私の身体をしっかりサポートしながら、余裕のある笑みで私を見つめるリオン。その視線が熱くて、痛くて、頬が赤くなってしまいそうになる。 視線から逃れようにも、密着度が高すぎだ。変なプライドで先ほどのように体制を崩してリオンに迷惑をかけるのも嫌だ。本来なら主導権を握るのは私なはずだった。 エスコートをされる前に自分が優位に立つ事で、安心をしていた部分もある。リオンはどうだか分からないけれど、他の男性からすると、私みたいなタイプはめんどくさいと思う。 突き放す事で、どうにか回避出来ると思ってたのが甘すぎたのかもしれない。 「何を考えているのです?」 「へ?」 「顔に出ていますよ?」 「は、はあ?」 「先ほど「楽しむ」と言った言葉は偽りだったのでしょうか」 私が他事を考えている事に気付いていたリオンは|わざと《・・・》落胆したように演技をし始めた。彼からしたら、私の反応を見る為にしただけのようだったが、そんな事に気付く事が出来ない私は、内心「マズイ」焦り始める。 「楽しんでいるわ」 「本当ですか?」 「勿論よ。じゃなくとダンスに対して失礼でしょう?」 「そうですよね。シャデリーゼ様のような素敵な方がダンスを冒涜するような真似しませんよね……僕の勘違いだったのかもしれません」 ──うっ……。 真っ直ぐ向けてくる言葉には悪意があるように感じて、ない。純粋に思っている事を口にしているだけみたいだ。私はリオンの様子を伺いながら、余計な事を考えるのはやめようと心に誓った瞬間だった。 第六幕 今までロクに殿方と踊った経験のない私は二曲目で疲れてきた。リオンの手から逃げようと何度も試みたけど、なかなか離してくれなくて困るのが本音だ。 最初、このダンス会場に来た頃は、色々な方に声をかけられていた。しかし私はお父様の言いつけの通りに来ていただけで、誰かとダンスを共有する事なんて、興味がなかった。 一応講師がついていたので、ある程度は踊る事は出来る。だけど、どうしてもこの空間に馴染めなかったのだ。 私とリオンの姿を見ている人達から、色々な言葉が流れてくる。 「あの令嬢、私の相手は断った癖に、あの男の相手はすんなり受けるのか」 「リオン様、どうしてあんな年増女とダンスなんてしているのでしょう?」 「ある意味「似た者同士」でお似合いかもな」 自分でも気づいていなかったのだが、私達は自分の想像を超える遥かに、目立っているらしい。その言葉を聞きながら、クロウは腕を組みながら、噂をしている人達の方へコツコツと近づいていく。 「貴方達を選ぶ訳がないだろう? あのお二人にも「選ぶ権利」はある。そんな噂を流すのなら、帰っていただきたい」 「「「クロウ様!!」」」 「悪いがここはダンスを楽しむ場所。貴方達のような者が来るべき場所ではないな。身を|弁《わきま》えてほしい」 黒い髪がユラリと揺れる。一つに結わえられている後ろ髪が感情の高ぶりを静かに表しているようだ。クロウは騎士が着るような服で発言しているから、余計に怖いだろう。 「ここは私達クロウ家が主催しているダンス会場だ。その事をお忘れかな?」 闇に包まれているような雰囲気の中で影があるように微笑むクロウ。その姿を見ている人達は、凍り付いて何も言えなくなってしまった。何か言い訳を言いたいだろうが、それを許さないのだ。 「反論がないと言う事は、反省の色がないと判断してよいのだな……?」 静かに怒りを見せるクロウは、奥の部屋にその人達を連行していく。 第七幕 変に外野が騒がしいような気がする……一体何があったのかと視線を向けようとするが、リオンが阻止しながら言った。 「三曲通しで踊らせてしまいすみません。疲れたでしょう?」 「ええ」 「少し休憩しましょう。いい場所を知っているのです」 エスコートするって言っていたのに、私が疲れているのも気づかずに、ダンスに没頭してたのね。まだ若いわね、そう思いながらも、彼の提案を受ける事にした。 正直、休憩するのなら一人がいい所なのだが、リオンがそれを許してはくれないだろう。初対面から強引な所があったから、予想がついてしまう。 私の方が年上なのだから、ここは合わせるべきなのかもしれないと思いながら、やっと休憩が出来るとホッとしながら、彼と共にテラスへと向かった。 優しく握られている右手が熱い。ダンスを踊っている訳ではないのだから、離してほしい……そう伝えると、名残惜しそうにゆっくりと離れていった。 「僕とした事が、エスコートをすると言っていたのに」 落胆するリオンを見つめながら、困った笑顔で包み込む。 「いいのよ。それだけ楽しかったのでしょう? 私も貴方とのダンス、楽しかったからお互い様よ」 「そう言っていただけるのなら、安心しました」 「ふふっ」 リオンの落胆する姿をつい「可愛い」と思ってしまった私は、ふと笑ってしまう。意地悪なのか素直なのか本当に分からない──それでも、初対面の印象からは遠ざかった。 私達はいい雰囲気の中で互いに苦笑いをしながら、会話を紡いでいく。 時々はいいかもしれない──3スウィブル ソッと触れた手から温もりが広がっていく。リオンとの関係性とはまた違った新鮮さを感じた。だけど、きっとこの予感は心の中から消してしまわないといけない。自分が苦しむ結果になると予感してる。 「ここまでくれば大丈夫でしょう」 口調が元に戻っている事に気が付いた。私はクロウを見つめると、悪戯な笑みでウィンクをする。二人の内緒だと言うサインでもあるようだ。どうにか察する事が出来た私は、ソッと手を離し、いつものシャデリーゼに戻った。 「それではご案内しますね、|シャデリーゼ《・・・・・・》様」 「はい」 私はここから歩いていく。勿論リオンの元へと満面の笑みで向き合う為に、だ。令嬢として、一人の女として歩いていく決意は出来ている。リオンの傍にミシャがいようと、そんな事なんて関係がなかった。 歩いていくと、皆様が待っていると言う部屋についた。緊張しながらもコンコンとノックをし、ドアを開ける。私がクロウと一緒に現れる事により、周りの視線が少し気になるけど、ここはひるんではいけない。 「──失礼します」 私の背中には見守るようにクロウがいる。私は真っすぐな瞳でリオンを見つめた。その横にはクベルト伯爵が驚いた表情でこちらを見ている。 「遅れて申し訳ありません」 私が一言添えると、我に返ったクベルト伯爵はいつもの表情を取り戻し、笑みで迎えてくれる。リオンは少し表情が曇っている様子だが、今の私には関係ない。視線を動かしてミシャがいるのか確認したのだが、そこに彼女はいなかった。 少し気が抜けそうになるが、まだ予断は許されない。もしかしたら遅れてくるかもしれないからだ。クロウが親戚なのだから、ミシャも来るに決まっている。私はそう判断していた。 彼女を見ていて分かる。リオンに対して愛情よりも恐ろしいものを抱いているのが。執着心に近い
運命 二人の令嬢が交わる時、本当の運命が動き出す。一人は光の力を扱う者、もう一人は闇の力に支配される者。全ては繋がっていないように見えて、繋がっているのだ。 「おとう……さま」 「……」 「お父様!!」 考え事をしていたグール伯爵を現実へと引き出したのはシャデリーゼだった。ずっと何度も何度も呼ばれていた事に気が付かない程、過去の忌々しい思い出に支配されていたのだろう。 しかし何も知らないシャデリーゼからしたら、いつものグール伯爵と様子が違う事でかなり心配をしている。ハッと我に返ったグール伯爵は、何事もなかったように口を開いた。 「シャデリーゼ、来ていたのか」 「やっと気がつきましたか? 顔色が悪いですわ」 この純粋な瞳を守る為に、今まで生きてきた。あんな過去の事を今になって思い出すとは……|その瞬間《とき》が近いのかもしれないとグール伯爵は悟る。 「体調が悪いのですか? そうなら無理はいけませんわ」 「大丈夫だ、考え事をしていただけさ」 「あんな長時間ですか?」 何かを隠しているグール伯爵に疑いのまなざしを向けるシャデリーゼ。いつもの彼女ならきっと「お父様」の言葉を鵜呑みにしていたのかもしれない。しかし彼女は直観力に優れている部分がある、何かが起こりそうな感覚がすると、グール伯爵に忠告をするのだ。 「とりあえず横になってください。お母さまを呼んできますわ」 「……すまない」 一度言い出したら聞かないのを知っているグール伯爵は、安心したかのように苦笑いをして提案を受け入れる。じゃじゃ馬で女らしくない娘、だが本当は誰よりも真っすぐで純粋なのだから。 そこには愛がある── 香るのは不思議な匂い 私の心をかき乱そうとする匂い 嫌な感覚の中でも自分の道を守るしかない その先に何があるのかは誰にも分かる事などないだろう お父様の様子が変だった。何度呼んでも抜け殻のようで、何かに魂を取られ
6スイング 花の香りが部屋中に充満している。その中で『お香』と言う異国のもので匂いを漂わせているらしい。炎を灯す事で煙と共に香りが出るような仕組みになっている。 私はこの匂いがあまり好きではない。その香りを纏っている一人の女を連想させてしまうからだ。だから一端、別の場所で民を装う服装に着替えて、あの部屋へと向かう。 表の道はおもおもの店で成り立っている。そこには私達が口にするものとは見た目も匂いも違う食べ物が並べられている。最初の頃は物珍しさに購入して食してみたが、私には合わなかった。 その部屋があるのは黒い建物で作られた裏路地にある店だ。独特の雰囲気の中で存在を醸し出している。普通の店でないのは分かり切っていた事だった。 私の配下の者達が調べてくれたおかげでこの店に辿り着く事が出来たのだ。 ザッ── 慣れていない靴を履いているせいか、どうも歩きにくく感じる。足が少し重いような感覚の中で店の内部へと踏み入れた。 「いらっしゃいませ」 この国とは思えない程の異空間の中に迷い込んだようだった。異国の地の生地を初めて見た。何重にも羽織っているような着こなしに、目を奪われてしまいそうだった。 「ブルーの瞳の方がこの店に来るのなんて珍しいですわ。さぁさぁ、部屋の方へ」 「……ああ」 黒い着物と呼ばれる羽織を着た女性が先頭に立ち、道案内を始めた。外観からしたらシンプルな作りのように見えたのだが、色々な仕掛けがある。急に武器が飛んできたりとか、こんな屋敷は初体験だ。 「この屋敷の造りは……」 「カラクリと呼ばれています。この店に来る方は簡単に超える事が出来るかと……貴方様も軽やかに避けているじゃありませんか」 「……」 「ふふっ」 無表情で女の話を聞く事しか出来ない。自分から言葉を発してしまうとボロが出そうになる。武器が飛び交う中で冷静に判断するのは、いくら私とて、難しいもの。 「無言を貫く……それも一つの選択肢でしょう」 意味
3スイング 「クベルト貴様!!」 十人の兵士に囲まれているクベルトと父親。二人が逃げれないように円陣を組まれてしまっている。 「お久しぶりですね……クレイ伯爵」 ドアの向こうからゆっくりと近づいてくる人影と声。兵士はその人物が通れるように間を開け、敬礼する。 「グール・リベスタ!!」 「閣下の名前を呼び捨てにするなどど、愚弄だ」 一人の兵士が怒号を鳴らすのをクスクスと笑いながら、いいのだよ、と諭した。兵士の横をスッと通り、二人との距離を詰めていく。クベルトは自信を持ち、凛としたリベスタの横顔を見つめる。自分とは違う世界で生きている人間。妬ましくもあり、羨ましくもあり、そして美しく感じた。 それがクベルトとグールの出会いだったのだ── ガシャンと机を叩くクレイ伯爵、その姿はあまりに哀れだった。リベスタがここにいると言う事は、違法取引の密売に気付かれたとしか思えなかったクレイ伯爵は、自分の息子の裏切りを知る事になった。 「私が|ここ《・・》に来た意味が理解出来ていますよね?」 二人の間を割るように、大量の資料を机の上にばらまき、目を通すようにと命令する。『お願い』ではなくあくまで『命令』なのだ。国家権力を使っているから逃げる事は出来ない。 クレイ伯爵に冷静な眼差しを向けていたかと思うと、思い出したかのようにクベルトの方へ向き、困ったように笑みを見せた。 「クベルト様も確認していただけますか?」 「は……い」 こんな大物に話をかけられるなんて考えもなかったクベルトは自分が大きな物事を動かしてしまった事実を回らない頭で受け入れようとした。自分が望んだ事なのだ、こうでもしないと自分の運命も立場も変化はない、と言い聞かせながら……
ミシャの心 ねぇ、あの時の事覚えてる?── あたしは貴方の事が大嫌いだった。理由はどんくさいから。いつもあたしの後ろを追いかけてきては、転ぶの繰り返しで、何度振り返って、駆け寄ったか消してしまいたいくらい、心の中に想い出として残っている。 『嫌い』は『好き』の反対でありイコールなの。 いつの間にかそんな貴方の事を可愛いと感じるようになった。男の子らしくない貴方と触れ合う度に、優しさが満ちていく感覚がした。 心が満たされるって言うのかな? あたしより年上の貴方の名前は『リオン』 年齢を重ねれば、重ねる程、彼は大人になり、たくましくもあり美しい男性へと変貌を遂げていく。あたしは昔と何も変わらない、悪く言えば変化がないのかもしれない。人の見方によれば『安心』に結び付くものかもしれない。 他の女性の影なんて、見えなかった。特別はあたしだけ。他の女性はあたしの立場を超える事なんてないと過信していた……今、考えると幼稚な考え方だったのかもしれない。 今のあたしはクロウの膝の上で眠っている。暴走なんてしたくなかった。迷惑かけたくなかったのに、どうしても止めれなかった。クロウはこんな情けないあたしでさえも受け入れてくれる人。私とは血が繋がっていない事も、幼少の頃、お父様とお母様の話を盗み聞きしていたあたしは、その事実を聞いて、泣きそうになったのを覚えている。 「……あたしは一人ぼっち」 両親もあたしと血の繋がりがない、身近な存在であたしの心を守ってくれているクロウでさえ、他人なのだから、ショックが隠せなかった。一人だけの空間に置き去りにされた感じに、絶望を感じてしまった。 「もう期待なんてしない」 そう決めていたはずなのに、リオンの存在があたしの心を癒したの。だから、もう一度『信じて』もいいかもしれないと、淡い気持ちを抱いていた。 あたしはクロウ
4シェイプ リオンの部屋で穏やかな時間を過ごす私達。この満たされた空間を邪魔する人なんて誰もいない。見つめ合う私達はゆっくりと微笑み合う。この世界に二人しかいないようにーー リオンの手が私の頬に触れようと手を伸ばしてくるーーひんやりとした感触を確かめるように瞳を揺らした。 彼の瞳は真剣な光を灯しながら訴えかけてくる。リオンが何を望み、語りかけているのかを理解した私は受け入れるように頷く。 「……分かっているわ」 覚悟は出来ている。男性の部屋に入る事の意味を理解している私は高鳴る心臓の音を抑えながら目を瞑った。 余裕があるように見えたリオンはただポーカーフェイスを演じているだけ。余裕があるように見えるが、全くない。感情が突き走って体がついていかない。早る気持ちを緩ませながら、私の唇へキスを落とした。 「……ん」 最初は壊れないように優しく、啄むようにキスをする。私の反応を確かめるように、次第に深く深く絡めていった。どこにも行き場のない熱をお互いの体温へ送りながら、息が高まっていく。 「はぁ……ん」 勝手に出てしまう声を止める術はなかった。私はその甘さに理性を壊され、自分を保つ事に必死になっている。これ以上されると壊れてしまうだろう。覚悟を決めていたはずなのに、経験した事のない感覚は知らない自分を見せようとしている。怖くなってしまった私は後ろへ逃げようとすると、リオンは私の後頭部に手を添え、逃さない。 私達は「恋人」と言う立場を捨て「婚約者」へとなった。 5シェイプ リオンが自分以外の女性を愛する所なんて見たくない、想像もしたくない。私の隣にはいつもリオンがいて、その横で笑っている自分がいて……クロウとクベルト伯爵は見守ってくれる。それがミシャの願いであり、夢だった。 リオンの顔が見たく鳴ったミシャはルンルン気分で彼の部屋へ行った。急に現れた自分の姿を見て、どんな表情をするのか、喜んでくれるのかドキドキしながらドアの隙間から様子を見ていた。 「……は?」 彼女の視界が捉えたのはリオンとダンスをしていた相手、あの時の女性がいた。どうして彼の部屋にいるのか分からない。二人は見せつけるように唇を重ねていく。見たくない現実を受け止める事が出来ないようだった。 「何よ……あれ」 隠れて見ている事も忘れて、静かに呆然と立ち尽くしている。その様子に