第801話

そう言った後、林さんはすぐに後悔した。

「いや、私はそんなつもりじゃなくて、ただ......その......奥さん、じゃなくて......華恋さ、じゃなくて......」

栄子は、林さんが慌てふためいている様子に思わず吹き出した。

くすくすと笑ったその瞬間、もともと漂っていた悲しい雰囲気もどこかへ消えた。

林さんは、彼女の笑顔を見つめながら、ふと口を開いた。

「栄子、君の笑顔は本当にきれいだ」

栄子の顔は一気に真っ赤になり、まるで空いっぱいの夕焼けのようだった。

「林さん......」

「栄子......」林さんは喉を鳴らした。

その時、背後からクラクションの音が響いた。二人は一斉に現実に引き戻された。

「邪魔になったようだ......」と、栄子は気まずそうに言った。

「ああ、そうだね」林さんは照れくさそうに頭を掻きながら、ようやく車を発進させることを思い出し、慌ててエンジンをかけた。

その様子を横で見ていた栄子は、またもや笑みをこぼした。

彼女の笑い声を聞いて、林さんの心も自然と明るくなっていった。

心にかかっていた暗雲も、少しずつ晴れていった。

その後、林さんが結婚式当日の現場対応と貴仁の補佐を担当し、商治は華恋の海外生活の世話をすることが正式に決まった。

それぞれが静かに、結婚式の日を待ち構えていた。

その中には、南雲夫婦も含まれていた。

雅美と和樹は当初、結婚式に出席するつもりはなかった。

だが、まさか華恋が記憶を失ってしまったとは思いもしなかった。

しかも、結婚後の記憶をすっかり失っていたのだ。

つまり、彼女はすでに絶縁した過去のいざこざも、華名が彼女は娘ではないと言ったことも、すべて覚えていないのだ。

この事実に、彼らは一晩中興奮して眠れなかった。

華恋に会うと、まるで何事もなかったかのように、優しい両親のふりをして接した。

哲郎は、華恋と南雲家の過去の因縁を知っていたが、今はそれどころではなく、彼の注意はすべて時也に向いていた。

だから南雲夫婦のことを気にしなかった。

それに、水子からも念を押されていた。華恋には何も言ってはならないと。

もし話したことで記憶と食い違いが生まれれば、強いショックを受けてしまうからだ。

このことは彼自身、目の当たりにしていた。

彼としても、せっかくの結婚式が、華恋の