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第三話 和食 de 庭キャンプ(その二)

last update Last Updated: 2025-05-22 10:30:34

 今日もいつものトレーナーパーカーやジーンズ、ウインドブレーカーを着て外へ出る。

最近は寒さも緩和されて過ごしやすくなったかなぁと思う。

でも、私にとって夜はまだ少し寒い。

(虫はそんなにいないけど、念のためにメッシュタープを立てておこう。おっと、少しだけ風も出てる)

今はそよ風くらい弱いけれど、万が一と考えて備えることにしよう。

外にある収納庫からタープと固定用の紐と重石と大物を運ぶ。

その後に焚き火台、テーブル、ローチェア、木の棚、炭などの一式も……。

(とりあえず、一旦はこれだけかな?)

まずは土台となる、メッシュタープの設置を始めることからだ。

角の四本の支柱を目一杯伸ばす。

(よいしょ!っと……ふぅ……)

今回は風で揺れないようにと、固定用の丈夫な紐で長さを調整してフック型の金具付き重石を結びつけた。

重石といっても、レンガの柄で施されているもの。

メッシュの布は、真正面だけ全開にするためそのまま下さずにしている。

(これである程度、風が強くなっても大丈夫でしょう。あと、もうひと息……)

タープを設置し終えたら、テーブルとローチェアを中に設置した。

テーブルは前回でも使用した、半分だけ黒のメッシュ付きテーブル。

テーブルのメッシュの部分に焚き火台を受け皿ごと置く。

焚き火台の中に細かい枝と炭、大きめの炭と乗せていった。

残りの半分のテーブルには、食材や食器一式を揃えるのみ。

(うん! これで役者が揃った)

焚き火台へ火を起こす作業に入る。

乾燥したカサの開いた松ぼっくりに、ライターで炙る。

これが、自然から生まれた着火剤だ。

少しずつ火の明かりが出たところで、火吹き棒で吹きながら他の炭に連鎖するかのごとく燃え移っていく。

そしてようやく火が渡り切ったところで、大きい炭を一つ、二つと追加する。

(しばらくは、炭火を追加しながら様子見……だね)

――火力が丁度いい具合になった頃。

焚き火台の上に網を置き、先にメスティンを乗せ白米を炊く。

(今日も美味しいご飯が炊けますように……。では、行ってらっしゃい)

ご飯を炊いている間、今日の主役である『鯵の干物』を焼く作業だ。

鯵は『味が良い』と言葉の通り、本当に美味しい魚だ。

干物を焼くのだが、私の理想は焦げすぎず焼き目も程の良い色。

その上で、身がふっくらしている状態の美味しさを目指したい。

家ではコンロにあるグリルで焼いたり、IHヒーターを使ってフライパンで焼く方法が多い。

(けれど今回は直火だから、見極めが重要だ)

そう思いながら、ゴクリと固唾を飲む。

ここは慎重に焼こう。

干物を皮の面から網の上に直接乗せ、じっくり焼く。

(干物の皮が焼けたらケトルでお湯を沸かして、味噌汁を作ろう)

焼き時間の隙間にあらかじめキッチンで作った味噌玉を、ラップからシェラカップに移し入れた。

ケトルの中には、もう既に水が入っているからいつでも沸かせる状態だ。

――パチッ、パチッ!

網の隙間から弾ける音が聞こえる。

(魚の脂が雫となって落ちた時、温かい炭に当たってる……。あぁ、いい音してるなぁ……)

魚の表面の白さが少し目立ってきたから、そろそろ反対側を焼いていこう。

魚の焼ける匂いが、美味しそうに私の方へ漂っていく。

その匂いと同時にご飯の入ったメスティンの蓋が浮いて、沸騰しながら水分が側面に垂れていく。

(あっ、ご飯もだ……。沸騰が落ち着いたら、そろそろ蒸らし作業に入らないと)

しばらくすると、沸騰のビークが終わりを迎える。

スルスルとメスティンの蓋が落ちていった後、ピタッとキレイに止まった。

中にあった水分が無くなった合図だ。

私は耐火手袋を装着し、米が炊けているか少しだけ中を覗いてみた。

(おぉ~良い感じだ!)

私はメスティンを網の端っこに寄せたら、そのまま蒸らしておこう。

その空いたスペースで小さめのケトルを置いていく。

先に出来上がったのは、鯵の干物。

表面の確認をすると、より良い黄金色の焼き加減になっていた。

(うん。これ以上焼いてしまうと焦げちゃうから、もうここで引き上げよう)

私は焼き上がった干物を、カッティングボードの上に乗せる。

これは新しく登場するのだが、実は先日に雪絵さんからもらった贈り物だ。

正確には早めの誕生日プレゼントということで、宅配便で送られてきたのが正しい。

(あら、雪絵さんからだ! 中身は……おっ! オシャレなものだ)

プレゼントの中身は、あるメーカーが作った正方形の木のカッティングボード。

雪絵さんもキャンプが好きな上に、休みを見つけたら彼氏と一緒に活動しているみたい。

雪絵さんの彼氏は、元々アウトドア関係の仕事をしているらしい。

だから、いつも使い方を教えて貰っているんだとか。

(それにしても……雪絵さんの彼氏さんって、どんな人だろう?)

なぜ「らしい」や「みたい」という言葉をつけるのか?

実は、本人の口からはまだ詳しく聞かされていないからだ。

(そういえば、プライベートで雪絵さんと会ってないなぁ……)

そんな理由で、今はどうなっているのだ?というのが正しいと思う。

恋人同士でキャンプが出来るなんて、なんとも微笑ましいことだ。

私たちも、いつかは恭弥さんと外でやってみたいなぁと少し妄想するのである。

――ありがとう、雪絵さん。この機会に早速使わせていただきました。

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