今日もいつものトレーナーパーカーやジーンズ、ウインドブレーカーを着て外へ出る。
最近は寒さも緩和されて過ごしやすくなったかなぁと思う。
でも、私にとって夜はまだ少し寒い。
(虫はそんなにいないけど、念のためにメッシュタープを立てておこう。おっと、少しだけ風も出てる)
今はそよ風くらい弱いけれど、万が一と考えて備えることにしよう。
外にある収納庫からタープと固定用の紐と重石と大物を運ぶ。
その後に焚き火台、テーブル、ローチェア、木の棚、炭などの一式も……。
(とりあえず、一旦はこれだけかな?)
まずは土台となる、メッシュタープの設置を始めることからだ。
角の四本の支柱を目一杯伸ばす。
(よいしょ!っと……ふぅ……)
今回は風で揺れないようにと、固定用の丈夫な紐で長さを調整してフック型の金具付き重石を結びつけた。
重石といっても、レンガの柄で施されているもの。
メッシュの布は、真正面だけ全開にするためそのまま下さずにしている。
(これである程度、風が強くなっても大丈夫でしょう。あと、もうひと息……)
タープを設置し終えたら、テーブルとローチェアを中に設置した。
テーブルは前回でも使用した、半分だけ黒のメッシュ付きテーブル。
テーブルのメッシュの部分に焚き火台を受け皿ごと置く。
焚き火台の中に細かい枝と炭、大きめの炭と乗せていった。
残りの半分のテーブルには、食材や食器一式を揃えるのみ。
(うん! これで役者が揃った)
焚き火台へ火を起こす作業に入る。
乾燥したカサの開いた松ぼっくりに、ライターで炙る。
これが、自然から生まれた着火剤だ。
少しずつ火の明かりが出たところで、火吹き棒で吹きながら他の炭に連鎖するかのごとく燃え移っていく。
そしてようやく火が渡り切ったところで、大きい炭を一つ、二つと追加する。
(しばらくは、炭火を追加しながら様子見……だね)
――火力が丁度いい具合になった頃。
焚き火台の上に網を置き、先にメスティンを乗せ白米を炊く。
(今日も美味しいご飯が炊けますように……。では、行ってらっしゃい)
ご飯を炊いている間、今日の主役である『鯵の干物』を焼く作業だ。
鯵は『味が良い』と言葉の通り、本当に美味しい魚だ。
干物を焼くのだが、私の理想は焦げすぎず焼き目も程の良い色。
その上で、身がふっくらしている状態の美味しさを目指したい。
家ではコンロにあるグリルで焼いたり、IHヒーターを使ってフライパンで焼く方法が多い。
(けれど今回は直火だから、見極めが重要だ)
そう思いながら、ゴクリと固唾を飲む。
ここは慎重に焼こう。
干物を皮の面から網の上に直接乗せ、じっくり焼く。
(干物の皮が焼けたらケトルでお湯を沸かして、味噌汁を作ろう)
焼き時間の隙間にあらかじめキッチンで作った味噌玉を、ラップからシェラカップに移し入れた。
ケトルの中には、もう既に水が入っているからいつでも沸かせる状態だ。
――パチッ、パチッ!
網の隙間から弾ける音が聞こえる。
(魚の脂が雫となって落ちた時、温かい炭に当たってる……。あぁ、いい音してるなぁ……)
魚の表面の白さが少し目立ってきたから、そろそろ反対側を焼いていこう。
魚の焼ける匂いが、美味しそうに私の方へ漂っていく。
その匂いと同時にご飯の入ったメスティンの蓋が浮いて、沸騰しながら水分が側面に垂れていく。
(あっ、ご飯もだ……。沸騰が落ち着いたら、そろそろ蒸らし作業に入らないと)
しばらくすると、沸騰のビークが終わりを迎える。
スルスルとメスティンの蓋が落ちていった後、ピタッとキレイに止まった。
中にあった水分が無くなった合図だ。
私は耐火手袋を装着し、米が炊けているか少しだけ中を覗いてみた。
(おぉ~良い感じだ!)
私はメスティンを網の端っこに寄せたら、そのまま蒸らしておこう。
その空いたスペースで小さめのケトルを置いていく。
先に出来上がったのは、鯵の干物。
表面の確認をすると、より良い黄金色の焼き加減になっていた。
(うん。これ以上焼いてしまうと焦げちゃうから、もうここで引き上げよう)
私は焼き上がった干物を、カッティングボードの上に乗せる。
これは新しく登場するのだが、実は先日に雪絵さんからもらった贈り物だ。
正確には早めの誕生日プレゼントということで、宅配便で送られてきたのが正しい。
(あら、雪絵さんからだ! 中身は……おっ! オシャレなものだ)
プレゼントの中身は、あるメーカーが作った正方形の木のカッティングボード。
雪絵さんもキャンプが好きな上に、休みを見つけたら彼氏と一緒に活動しているみたい。
雪絵さんの彼氏は、元々アウトドア関係の仕事をしているらしい。
だから、いつも使い方を教えて貰っているんだとか。
(それにしても……雪絵さんの彼氏さんって、どんな人だろう?)
なぜ「らしい」や「みたい」という言葉をつけるのか?
実は、本人の口からはまだ詳しく聞かされていないからだ。
(そういえば、プライベートで雪絵さんと会ってないなぁ……)
そんな理由で、今はどうなっているのだ?というのが正しいと思う。
恋人同士でキャンプが出来るなんて、なんとも微笑ましいことだ。
私たちも、いつかは恭弥さんと外でやってみたいなぁと少し妄想するのである。
――ありがとう、雪絵さん。この機会に早速使わせていただきました。
「今日は超良い天気だし、こういう時の朝食なんて最高だな」恭弥さんはそう言いながら腕を上に伸ばした後、よいしょっとチェアから立ち上がった。「……?」「そろそろご飯を作ろう、お腹空いただろ?」(あ、そうだった……! まだ食べてなかった……)彼の淹れたコーヒーをじっくり堪能したくて、つい食べることを忘れるところだった。それくらい、彼とのコーヒータイムが落ち着く。「うん、すいた……」「てか、ごはんのこと……忘れそうだっただろ? ちゃんと俺が作るから」やっぱりお見通しだった。今日の朝食は、彼が振る舞ってくれる。自分以外の作る手料理を味わえるのが、久しぶりだから楽しみだ。(焚き火台の火を用意してからごはんかな?)そう思っていたらもう既に火がついている。オマケに火力の調整は出来上がっていた、網も用意してあった。あとは焼くのみだから、スキレットを彼に渡す。(恭弥さん……やる気満々だ)まずはベーコンから焼いていく。厚切りでも、あらかじめ四等分に切られている。それをそのままスキレットの中へ……。(はぁぁ……!)ベーコンの脂とお肉の表面から、ジューっとじっくり熱が伝わっていく。その音と同時にリズムを刻むようなパチパチした音が、食欲を掻き立ててくれる。私はそれを見て思わず、ヨダレが垂れそうにもなる。表と裏の焼き目が付いたら、ベーコンを二枚ずつそれぞれのお皿に移し盛り付けていた。(ベーコンから出た固体の脂が液体の油に変わって旨味も流れ出
「あぁ、そうだった!」「なぁに?」彼からの抱擁の余韻があるものの、恭弥さんから話を切り出した。というよりも、きっとある音を聞かれたからかもしれない……。「空、まだ朝ごはん食べてないだろ?」(あっ……! バレちゃった……恥ずかしぃ……)時折、空腹の音が静かに鳴っている。音を立てないように耐えようとしても、我慢が限界だった。「うん……。まだ、食べて……ない」「ハハッ、そっかぁ。俺もなんだが、この様子だと空も外で食べようと?」「うん。これから食べようと思って、準備に取り掛かろうとしてたら……」私は、彼に聞かれたことを正直に答える。なるほどな、と彼も私が外へ出た理由を聞いて納得した。「じゃあ、一緒に今から庭で朝ごはん食べよう」「……!」私は嬉しさから思わず、コクコクと短めに頷く。「メニューは……どうしようか。冷蔵庫の中、何がある?」「えーと……確か、卵と厚切りベーコンとか……」「うんうん。パンはある?」「パンは……あっ、テーブルロールならある」ひとまず冷蔵庫の中にある食材を、頭の中でイメージしながら思い出している。「それなら、今日の朝ごはんは洋食でベーコンと目玉焼きにしようか」
——ある休日のこと。寝室の窓には生成色をベースに薔薇と蝶の柄の入った遮光カーテンで閉めている。けれど朝の日差しが、完全に閉ざされていないカーテンの隙間から入ってきた。その温かみのある光から私の顔に当たる。何気なく目を覚ませようとしていた。(うぅん、今……何時だろう……?)布団の中でモゾモゾ動いてから、チラッと時計の針を見てみる。時刻は、もう朝の8時半をとうに過ぎていた。平日だと、大体六時半を目安に起きる。だがペースを崩したくない私は休日であっても、そろそろ起きる時間である。「ふあぁ~……」むくりとベッドから起き上がり、小さなあくびを一つ。目を擦った後でも瞑ったまま、腕を上へ伸ばし肩周りをリラックスさせる。ちょっとだけ夜更かしもしちゃったから、僅かな眠気は残っている。(ん~……なんか今日は深くゆっくり眠った気分だなぁ……。けど、休日だから罪悪感なんて一切なし)私は寝ぼけながら、寝室から出てリビングへ向かう。(んーと、今日の天気はどうだろうか?)私はひとまず、今日の天気予報を調べることにした。スマートフォンに入っているアプリでチェックする。昨夜テレビで放送していたニュース内の天気予報からは、曇り時々晴れと聞いていた。リビングの窓越しで見ると、雲の量はそんなに多くない。(うーん、この量だと三割といった程度かな?)確かに、所々だけど白い雲が見えている。それでも青空が広がっていることに変わりなく、爽やかな気候っていう雰囲気はしていた。(いい天気……。朝のこれから
――シュッ、シュッ!その側で、ケトルの口から吹き始めた。(あっ! そろそろ、お湯が沸く頃になるなぁ)ご飯の蒸らしもそろそろ良い感じだろう。メスティンを耐熱の手袋で網から引き上げた。(開けるのは、味噌汁用のお湯を入れてからにしよう)ケトルの口から湯気がどんどん吹き出ている。お湯が沸いた合図だ。その取っ手を手袋したまま掴む。味噌玉を入れたシェラカップへ、濃すぎない程度にお湯を六分目ぐらいまで注ぎ入れた。お箸で混ぜ、固まっている味噌を溶かしていく。メスティンの蓋を開けると、湯気の中から覗き込むお米の艶が綺麗に光っていた。(今回もいい感じに炊けた証拠だ)炊けたお米の半分くらいをプラスチック製のお椀へ移し入れる。(よし、これで和食キャンプ飯の完成!)ここでおさらいとして、今日のお品書きを紹介しよう。ご飯、味噌汁、白菜ときゅうりの漬物、メインは鯵の干物焼き。一汁一菜の雰囲気はあるけど、一人で食べる分には充分な量だろう。(では、頂きます)ごはんを食べる合図を呟きながら、手を合わせて食事を始めることにした。(まずは、味噌汁から啜るとしよう)私は猫舌で、熱いものは簡単に飲めない。フーフー息を吹きつつ、汁物からゆっくり味わう。やはり、外で飲む味噌汁も温かい。風が時折吹いていて少し冷え込むから、より感じやすいのだろう。(うん、味噌と一緒に鰹の粉を入れて溶かしているけど、意外とほんのりと出汁が効いている!
今日もいつものトレーナーパーカーやジーンズ、ウインドブレーカーを着て外へ出る。最近は寒さも緩和されて過ごしやすくなったかなぁと思う。でも、私にとって夜はまだ少し寒い。(虫はそんなにいないけど、念のためにメッシュタープを立てておこう。おっと、少しだけ風も出てる)今はそよ風くらい弱いけれど、万が一と考えて備えることにしよう。外にある収納庫からタープと固定用の紐と重石と大物を運ぶ。その後に焚き火台、テーブル、ローチェア、木の棚、炭などの一式も……。(とりあえず、一旦はこれだけかな?)まずは土台となる、メッシュタープの設置を始めることからだ。角の四本の支柱を目一杯伸ばす。(よいしょ!っと……ふぅ……)今回は風で揺れないようにと、固定用の丈夫な紐で長さを調整してフック型の金具付き重石を結びつけた。重石といっても、レンガの柄で施されているもの。メッシュの布は、真正面だけ全開にするためそのまま下さずにしている。(これである程度、風が強くなっても大丈夫でしょう。あと、もうひと息……)タープを設置し終えたら、テーブルとローチェアを中に設置した。テーブルは前回でも使用した、半分だけ黒のメッシュ付きテーブル。テーブルのメッシュの部分に焚き火台を受け皿ごと置く。焚き火台の中に細かい枝と炭、大きめの炭と乗せていった。残りの半分のテーブルには、食材や食器一式を揃えるのみ。(うん! これで役者が揃った)焚き火台へ火を起こす作業に入る。乾燥したカサの開いた松ぼっくりに、ライターで炙る。これが、自然から生まれた着火剤だ。少しずつ火の明かりが
――大型連休に入る少し前のある日のこと。私はいつもの仕事部屋で、今日も原稿を書いている。唐突だが原稿を執筆している最中、こんなことを思ってしまった。(んー……アレ? そういや、最後に焼き魚や煮魚を食べた日って……いつだっけ?)なぜ、そんなことを言い出したのか?麺類や肉類、簡単な炒め物やスーパーで売っていた惣菜はよく食べている。しかし、最近は献立の中に自分で作った和食らしいものを取り入れていなかった。(本当は健康を意識したいところだけど、忙しいと簡単なものをついつい……)オマケに今原稿を書いている内容は、決まったテーマがある。雪絵さんから雑誌に掲載する提案で「私の好きな和食」というコラムで依頼が来ていたのだ。ちなみに私の好きな和食は、焼き魚や肉じゃがなど色々とメニューが挙がっていく。だけど、いざ文章にしたい食材が意外と思い浮かばない。自分の決めたメニューからどんな内容にして書こうか悩んでいる。いわゆる、キッカケ作りが難しい。(うーん、ここは気分を変えてアイデア探しに冷蔵庫の中身をみてみるかぁ……)そう思いながら一旦、仕事部屋から出ることにした。キッチンにある冷蔵庫の中を見に向かうよう、席から立ち上がる。台所の部屋に入り、冷蔵庫の扉を開いてみる。最初目に見えたのが、黄緑色の蓋で閉じている半透明のタッパー。(あっ! この前、残った白菜ときゅうりを切って白だしで漬けていたままだった。そろそろ食べないと!)そして、その隣に魚の入った袋を発見した。先日スーパ