——四月半ば頃……。
(せっかく暖かくなったと思ったのに、また数日の間少し寒くなるのかぁ……)
仕事の休憩時間、何気なく窓の外を見ようとレースカーテンをチラッと開けてみる。
ヒュッ……!
(ひゃっ! 冷たっ!)
雲がなく晴れているものの、窓からひんやりと伝う冷気がまだ残っていた。
この感じだときっと、外はもっと寒いのかもしれない。
私のルームウェアすら、まだモコモコとした冬用の厚手を着ているくらいだから。
(うーん、今年は相当、寒い日が多い気がする……)
もちろんこの日も外には出ず、長時間ずっと部屋に篭りっぱなしだ。
仕事でパソコンとにらめっこしては、原稿と照らし合わせて修正箇所など確認している。
部屋の中をずっと篭っていたら、息苦しさもだんだん感じてしまう。
少しでも空気の入れ替えを兼ねて息抜きが必要だった。
だがそろそろ四月の後半へ差しかかるのに山奥では、まだ寒さが残っている。
エアコンの暖房がいまだ手放せないのである。
(そろそろ、暖房の要らない時期になってほしいものだけど……まだまだ程遠そうだな)
我が家の住んでいる山奥の気候は、北海道並の気温まではいかない。
むしろ昼過ぎになると、平地とは変わらないほど暖かいくらいだ。
けれど朝と夜のみ一桁台の温度といった地方だから、ここだけポツンと冬の感覚が残っている。
とにかく今の季節は春だとしても、まだ三寒四温の状態が激しく続いている感じだ。
恐らく大気中にいる寒気の気持ちから読むと、まだ居座りたい気持ちなのかもしれない。
(ん、そういえば……)
今日のニュースで見た天気予報では、確か雲がないほど澄んだ青空と言っていた。
つまり日中は、晴天の快晴である。
夜もそのまま雲が少ない状態を保つのなら、きっと夜の空も透き通っているはず。
そんな条件が揃うと、綺麗な星空も見えそうな気がする。
(星空の見頃となれば、久しぶりに観察をしよう!)
私の趣味の一つ、星空観察が楽しめそうだ。
そうなれば、外の周りを明るすぎなくする道具を用意しよう。
周りが明るいと、星の輝きや細かいところまでが見えづらい。
星空を綺麗に見るなら少しでも暗い方がいい。
(だったら、焚き火よりランタンで明かりを灯す方が良さそうかな?)
その前に、問題が一つある。
ご飯を食べてから、星をゆっくり眺めたい気持ちだ。
しかし、今日はパソコンとの戦いで疲れている。
オマケに夜間で過ごす外は、昼間に比べるとかなり寒い。
(外に出たとしても冷えるから、何か対策しないといけない。どうしようか?)
寒さ対策として、身体を温められる食べ物が欲しい。
料理をしたい気持ちはあるけど、まずは手をつけている仕事の締切を守らないと。
それ以外に、他の仕事もあってこの先まだ続くからだ。
終わった頃には、そこまでの体力があまりない。
(んっ! そうだ、アレがある!)
私は良いことを思いついた。
パントリーの中から探れば、手軽に作れる食べ物があった。
尚且つ、片付けも楽ですぐに済ませられる。
外でのキャンプなどにも重宝される一品だ
その食べ物といえば……そう、カップラーメンである。
その中でも、味の種類があるから何味にしようか悩みどころ。
(家にあるラーメンの味は、確か醤油と塩に……。あっ、あの味も買っておいたはず!)
それは、スープにスパイスの効いた「カレー味」である。
カレースパイスの効果で、きっと私の身体をポカポカにしてくれそう。
お湯を沸かすだけなら、シングルバーナーにコッヘルで沸かせば大丈夫だ。
(あとは食後のコーヒーと一緒に、ゆっくり飲んだり眺められたらいいなぁ)
星を観察するのが目的だから、今日はタープを立てないことにした。
テーブルとローチェアだけ用意すれば充分だろう。
万が一、どうしても寒さが耐えられなかったとしてもすぐに家の中へ戻れるから安心できる。
それが、庭キャンプの良いところでもある。
今の時刻は、午後三時のおやつ時間を過ぎた頃。
計算して、日が沈む前の夕方ぐらいに準備に取り組むと決める。
(よし! 決まったとなれば、それまでにお仕事を急いで終わらせなきゃっ!)
私は急いで画面に向かう。
パソコンのキーボードを打ち続け、原稿を仕上げようとするが……。
(あっ、そういえば……今の時期の星空って何が見えるのかな?)
原稿の修正を考えている合間に、なぜか寄り道みたいなことをしている。
今夜見えるであろう星空を頭の中で描きながら想像してしまう。
だったら、この仕事も含めて早めに準備終わらせなきゃだ。
お湯を沸かす時の合間に、星空の本をチェックすればいい。
(いやいや、考えている内に仕事が長引いてしまう! とりあえず今は仕事に集中しないと!)
頭の中を仕事モードにさせようと首を横に振る。
半分終えても、残りがまだ山ほどある。
今日中に終わらせられるものは、もうこの時間の内に済ませておきたい。
(それに外での準備もしないといけないから、ここでちゃんと頑張らなくては!)
「頑張れ、自分!」と言い聞かせ、気持ちを切り替える。
——そんな勢いをつけながら、私は懸命に仕事へ打ち込むのであった。
——タイマーの待ち時間、彼は私たちの出会いを語ろうと提案してくれた。「俺らって、初めて会ったのは何年前だっけ?」「確か……」そう、あれは出版社の創立記念パーティーのこと。「乾杯!」私は当時、編集社員としてまだ一年か二年目くらいの頃だった。重要な事情がない限り、全社員はそのパーティーへ出席していた。(うぅ……。コミュ障の私にとって雪絵さんがいないと心細いなぁ)しかし、当の本人は別の事情あってどうしても出られないという理由で欠席。彼女以外の仲の良い人は一人も居なくて困っていた。乾杯の挨拶など進行通りに進めた後、歓談会へとフリータイムになった。(どうしよう……。私から話しかけるのも……怖い)その時のことだった。一人の男性から、私が一人でいるのを見かけて声を掛けてきた。「ねぇ。君、一人?」「は、はい……」黒のスーツ姿に紅色のネクタイで締めていて、まるでバーテンダーの佇まい。そして彼の手には、ネックホルダー付きの立派な一眼レフのカメラも持っていた。彼の顔から、優しそうな目の眼差しと柔らかい微笑みを見せる。それが、後の夫・恭弥さんだった。当時の彼は、パーティーの出席者兼写真撮影の担当として呼ばれていた。私はふと、その当時のことで一つ疑問に思っていた。「そういえば、あの時、なんで声を掛けてくれたの?」「ん? あぁ、一人だったからのもあるけど……」「けど?」恭弥さんの顔を少し覗き込むと、なぜか少し頬が赤い。「
——次の日の午後。いよいよパーティーの当日がやってきた。恭弥さんは外の収納庫で、キャンプの道具を取り出してメッシュタープなど設営に勤しんでいる。私はキッチンでの作業として、二品のメニューを庭で料理できるように材料の下準備をする。(恭弥さんの料理は楽しみ! だけど、私の作る料理は……大丈夫かな?)緊張も相まって手が少し震えるけど、ひとまず調理から始めなきゃだ。まずは、ローストチキンの下ごしらえから。(えーと、鶏肉に使う調味料はコレだけかな?)……というのもチキンをスパイスやオリーブオイルにつけて、ある程度寝かさないといけないからだ。私は手袋をはめ、鶏肉をフォークで何箇所か突いてからポリ袋の中に入れる。その中にオリーブオイルやハーブソルト、胡椒、ローズマリーを加えて揉みこんでしばらく置いておく。次は、野菜を切る作業に入る。(昨日買った野菜だけど、皮も食べられる新じゃがを選んだんだね)新じゃがをしっかり水で土落としをして、食べられる一口ぐらいのサイズに切っていった。人参はジャガイモよりも少し小さく乱切りにし、ブロッコリーは軸から切り落として小分けに切っていった。野菜も、ジップ付きの袋にまとめて入れた。(ローストチキンに使う食材の準備は完了。次は、パエリアの下ごしらえ……)量の少ないものを作るのは、意外と容易ではなかったりする。玉ねぎをみじん切りにしておいてから、パプリカを切る。(パプリカは四分の一以下ぐらいしか使わないから残りは冷凍しておこう)
——ある記念日の前日。私と恭弥さんは、今スーパーで食材を買いに行っている。なぜなら、夫婦にとって重要なイベントの準備をしている最中だ。それは……次の日に行う私達の結婚記念日。いつもならレストランで予約を取ったりしている。けれど、今年はちょっとした事情があった。 ◇ ◆ ◇ ——遡ることある日、私が晩御飯を食べている時間。この日のおかずは、人参やジャガイモの入った煮込みハンバーグ。リビングでテレビを見ながら、のんびりと頬張っていた。その最中にピコンっと、スマホから通知音が鳴った。(あっ、恭弥さんからだ)恭弥さん「空、今LIMEしても大丈夫?」私「うん、大丈夫だけど……どうしたの?」何となくだけど、彼がちょっと焦っているような気がした。そして、次のメッセージを見て腑に落ちた。恭弥さん「いつも予約しているレストランなんだけど、今年は臨時休業で予約取れなくなったんだ」私「え? そうなの?」恭弥さん「なんか、オーナーシェフが言うにはお店の設備点検らしい」恭弥さんが予約をしようとしているレストラン。その店は仕事関係も含め、私達が懇意しているイタリア料理のカジュアルレストランだ。夫婦で営む一軒家の小さなお店を構え、コース料理を売りにしている。味は一級品なのに、値段が手の届く範囲のリーズナブル。なんでもオーナーシェフは、下積み時代にホテルや有名料理店で修行を積んでいたらしい。オーナーの奥様も、パティシエのスタッフとして店を手伝っている優しい方である
——カシャッ、タンッ、タンタン。(うん、この写真がいいからこれにして……送信っと!)私はスマートフォンのカメラで、出来上がったカレーライスの写真を数枚撮る。写りのいいいものを選択して、恭弥さんにLIMEで送った。もちろん、メッセージも添えて……。(あとは返事が来るまで待つ……その間冷めないうちに食べてしまおう)彼からの返信を待ちながら、カレーライスを食べることにする。「いただきます」手を合わせて食事の挨拶をした後、カレーの皿に添えた木製のスプーンを手に取る。カレーとご飯の狭間の部分をひと口分すくって口へ運ぶ。(おぉ! ガラムマサラをかけたことで、ピリッとしたスパイシーさが増してる)でもそんなに嫌な辛さはなく、大人なら誰でも食べられる辛味が良い。それも加え奥にある甘みや酸味、旨味といったコクのハーモニーが上手く調和されている。(くぅぅ~、やっぱりカレーは美味しいから最高!)一口食べるごとに、どんどん食欲が増していく。時折、カレーに添えた甘めの福神漬けで食感を変えるととまらない。これを食べて、今年も夏バテから乗り越えられたらいいなぁと思っている。——カレーライスを半分くらい食べた頃……。ピコンッ!スマホからメッセージの通知がきた。(あっ、恭弥さんからだ! どんな返事が来たかなぁ?) 
——扉を開け、外へ出てみる……。(うっ! 眩しい……!)青空の天上から、太陽が燦々と眩しく照らしている。梅雨の期間、あまり外へ出ていなかったから尚更だ。目や肌へ日差しの刺激がより感じる。(今日はそんなにジメジメした湿気が少ないけど、これから先はもっと湿っぽくて暑くなるだろうなぁ)しかし、ここでへたれていたらダメと気合いを入れ直す。もちろん念の為、水分補給用のスポーツドリンクも用意している。この時期でも、やはり熱中症には気をつけたいことだ。(よし、行きますかぁ!)家の外の右端にある収納庫へ向かう。メッシュタープやローチェア、焚き火台などを出していつものように作業を開始する。メッシュタープを立て風に飛ばされないように、紐を引っ掛けられるフック付きレンガ調の重しもつけて固定していく。これからの夏は、日差しが強い。側面のうちの二面分だけメッシュの上から日光避けのシートも一緒に取り付けてある。(今日は出入りする面の遮光シート一枚を、屋根にして立てよう)その後、テーブルとローチェアを設置し、テーブルの近くにはトレー付きの焚き火台を置いた。今回も切炭をメインに使用するけど、そのためには着火の素が必要だ。下に乾かして傘が開いた松ぼっくりと細かい枝木、ナタで捌いた細めの木を山の形になる様に組む。(土台は出来たから、先にカレーの材料を持ってきた方が良さそう)キッチンからカレーのルーやカット済みの野菜やお肉、食器などをひとまとめておく。暑さ対策として、食材は保冷剤の入った小さいクーラーボックスに入
——七月初旬のある日の午後。(ぬぅ~暑い……。暑いよう……)季節は、もう夏を迎えている。薄手の長袖から半袖への衣替えも兼ねて、そろそろ部屋の中へ扇風機を設置しようか迷っていた。最近、この時期の昼間は少しずつ暑くなってきた。天気予報では、夏日に近い気温を示す日中も増えている。けれど山奥の気候は平地と違い、朝と夜はまだ涼しい。(長袖の服もそろそろおしまいかなと思ったら、逆戻りもするしどっちを着ればいいのだろう)こんな心境で毎日迷うから困る。特に雨が降ると冷えて肌寒くなるくらい、昼との気温の差が激しい。ただこれから訪れるであろう厳しい暑さに耐えられるのだろうか?そういわれたら、この先は絶対バテるに違いない。身体が、なかなか外の気温に順応してくれないのである。(暑さを凌ぎれるスタミナが欲しくなるし、そろそろつけたいなぁ……)今のままだと身体がドロドロに溶けてしまうくらい、私は夏バテしやすい体質だから尚更だ。夏を乗り切るために、簡単にスタミナのつくスパイシーなものが食べたい。(うーん、夏といえば……。あっ、それに相応しいメニューがあるじゃないか!)そうだと一人で相槌を打ちながら閃いた。(夏……スタミナがガッツリつくスパイシーなもの……カレーだ!)キャンプ飯の定番メニューの一つだけど、まだ作ったことがない。先週の話には触れていなかったものだが……。&