LOGIN——夕方四時を回った頃。
夕焼けの差す茜空が鮮やかに見える。
その傍ら、境目からチラッと覗きにきたのだろうか。
夜の顔がほんのり見え始めようとしていた。
(ふぅ~! やっと一つ終わったぁ……頑張った、私!)
今日中に済ませたかった分の仕事が、ようやく一段落着いた。
ちょっと強引に終わらせたというのが正しいけど、なんとかなると思いたい。
(残りの仕事は余力あれば、庭キャンプの終わった後にしよう)
急いで服装を変えることに、部屋のクローゼットへ向かう。
いつものように上は黒の暖用肌着、紺色のトレーナーパーカーとワインレッド色のウインドブレーカーに着替える。
夏以外はほぼ定番化しているコーディネートだ。
下は気分転換に今回、黒色のジーンズにすることにした。
この時間はそんなに冷えることはないだろうと思い、準備をすることも含め外へ出てみる。
(夕方でこの寒さかぁ……今のところ悪くはなさそうだけど)
夜になると、一転して急激に寒くなってしまう。
今回はその寒さ対策としてブランケットや毛糸マフラー、使い捨てカイロを持参する。
ただ、耳まで冷えると長居をするのにはちょっと厳しい。
耳の冷えを防ぐために覆えるニット帽も被り、庭へ向かった。
(防寒出来そうなものは持ってきたけど、夜は更にどうなるんだろう?)
収納庫から黒色のテーブルとベージュ色のローチェアを出し、いつもの所定地に広げる。
ローチェアの背もたれにマフラーを掛け、座るところにはブランケットを置いた。
追加でウッドデッキの棚も一緒に置いている。
そこへ星空の本やコーヒーを淹れる時の道具も置くことが可能だ。
(物は少ない方がいいけど、たまにはちょっとオシャレ感も取り入れたい……)
本当は焚き火も合わせて暖をとりかった。
けれど他に周りの景色が明るすぎると、写真を綺麗には撮りにくい欠点だ。
代わりに暖をとる方法として選んだのが「携帯カイロ」。
(手軽ですぐに温まるし、特に冬は必須アイテムの一つで欠かせない)
たまに炬燵を用意してくつろいでいるシーンが、動画サイトやテレビで見かけたことはある。
もちろん、そう出来たらいいなぁと憧れを持っている。
しかし、それをするには電源コードやバッテリーが必要になるだろう。
(うぅむ、欲しいけど……まだその機器類は持ってないのと予算があるし……。いつか恭弥さんに、相談してもいいかなぁ……?)
次に明かりをとるのは、主に二種類。
一つは、机や手元用に灯すOD缶を取り付けたリトルランプ。
リトルランプは私が初めて購入した筒状の形をしたテーブルランプの一つ。
明るさはそんなにないが、幻想的な優しい灯りを灯してくれる。
(ほんのりとした明るさが、不思議と癒してくれるものだ)
もう一つは、乾電池で使えるLEDタイプのランタン。
蛍光灯色と暖色の切り替えが可能なものだ。
最近だと百円均一のお店で値段は百円ではなく、高めのものだがよく見かける。
(星を見る時だけ、その場ですぐ明かりを消すことが出来る)
リトルランプだけでは、手元は良くても周りへの明かりを灯すパワーが弱い。
特に片付けの時間、テーブルランプは消しちゃうから真っ暗な景色で何も見えない。
ランタン一台あると手軽に持ち運べるし、どこかへ移動したい時に便利だ。
(電池は昨日新しいものに入れ替えたし、この二つがあれば充分だろう)
あとは残りの道具を揃えるだけ。
家のキッチンにある棚から次々と取り出した。
シングルバーナーとカップ麺、お箸とコッヘルとコーヒー一式を取手付きのコンテナに入れる。
忘れ物がないか確認し、いつもの場所である庭へ運んでいく。
(ふぅ……。さてと配置は、コレとコレを……)
庭でセッティングしたテーブルの上へ、この後すぐに食べるカップ麺など並べる。
コーヒー用の道具は全て木製折り畳み棚に置いた。
コーヒー一式の中身に関しては、食後のコーヒータイムの時に説明をするとしよう。
(星を見る前に、お腹が空いてしまうから先にご飯を……)
ひとまず、腹ごしらえと身体を温めるためカップ麺を食べることにする。
カセットコンロ用ボンベ(通称:ガス缶)をシングルバーナーに取り付ける。
バーナーについている五徳の上に、水の入った深めのコッヘルを置いて点火する。
まぁ、いわゆるお湯を沸かすだけの作業だ。
その際しばらく時間が掛かるため、手が空いてしまう。
(合間に、タブレットで夜の気温と星空の情報でも検索してみようかな)
私はタブレットを手にとり、今夜の天気予報と季節ごとで見える星空を検索してみた。
(今のところ星マーク……。気温は十度台と……)
天気はこのまま曇ることなく、気候も急激に寒くはならないみたいだ。
でも、身体を温かくするには越したことはないだろう。
次は「春の星空」と検索を掛ける。
(ふむ……この時期は、春の大三角と北斗七星が見えるのかぁ……なるほど)
思えば星空って都会では、なかなか山奥みたいに綺麗な星を見れるわけではない。
見えても、せいぜいちょこっとだけ小さい星やお月様を綺麗に見られるくらいが限度だ。
——これが、自然で囲まれている田舎に住むところの特権なのだろうと思うのである。
——夜鷹家、自宅内のリビング。「なんでやねん、それはないやろ!」「ワハハッ!」私達、夜鷹夫婦はリビング内の暖房にあたっている。ぬくぬくと家の中で籠りながら、テレビで今放送されている正月用の特別番組をボーっと鑑賞している最中だ。(やはり正月の時だからこそ、初笑いだからかお昼から漫才やバラエティ番組が多いなぁ……)今年最初を飾るハレの日、一月一日。新年の幕開けの日でもある。私も恭弥さんも、年末年始は仕事がお休み期間中。初詣は家の近くにある神社で無事にお参りを済ませた。今はこたつの中でのんびりと温まっている。毎年届く年賀状も無事に受け取ったし、お雑煮やお節料理もお昼ご飯も……。(ただ、キャンプができる日はまだまだ遠い先……)現在、庭キャンプは冬季休み期間である。冬用のキャンプ道具やテントを持っていない。それが一番の理由がそれだから。我が家の住んでいる山奥での外は、雪一面の景色。特に、朝と夜はマイナスの気温まで下がる世界。昼間でも一桁の気温には、流石に耐えきれない寒さだ。だけど、家にいるとやはり身体が鈍ってしまうのも事実である。しかし、夕刻になって晩ご飯の時間が近づくにつれて……。——ぐぅ~……。盛大な音が部屋の中で響く。「空、お腹空いただろ?」「……うん」隣にいる彼はクスッと笑いながら、私のお腹の空き具合を聞く。(うぅ、バレちゃったか……)「お腹が鳴ってたの、すぐわかったよ」
——ピピッ、ピピッ!スマホのタイマーが鳴り響いた。十五分の煮込みは、長く感じるような気もした。恭弥さんと話していれば、あっという間だと感じる。鍋の中に入っているローリエを取り除き、一旦火を止める。シチューのルーと牛乳を入れて再度火をかける。少し弱火にして、じっくりルーと牛乳を馴染ませるかのように混ぜていく。「おぉ、良い匂いしてきているね」「うん、クリーミーな感じがする」恭弥さんが鍋の中を少し覗き込みながら、シチューの完成を待ち望んでいる。(あ、そうだ! かき混ぜるのと同時に、忘れずにこれも入れておかないと)そう、彩りを足す役割をするブロッコリーのことだ。それも加えてかき混ぜていくうちに、とろみも出てきた。沸々と湧いてきたから火を止めることにした。「出来た?」「うん、あとはパンをスキレットで軽く温める」「そうだね、パンがあると更に美味しくなるしな」シチューの入った鍋は鍋敷きの上へコンロから下ろし、スキレットで切り分けていたフランスパンを二枚温める。パンをだんだん温めていくうちに、小麦とバターの香りが漂ってくる。(はぁ、特にバターの香りが美味しく感じる)恭弥さんは、私の心の中を覗いてニヤニヤしているような気がした。いやいや、そんなことよりもシチューの盛り付けをしないと!「恭弥さん、量はこれくらい?」「うーん、もうちょいだけ」パンを温めている間は、シチューをそれぞれのボウル型のお皿に取り分けていた。恭弥さんの分を入れ終わった後、自分の分も盛り付けてようやく完成。
焚き火の火が安定してきた頃。いよいよ、カセットコンロでシチューを作る準備だ。ちなみに我が家の使用しているダッチオーブンは直火、IHでも両方使える。オリーブオイルでダッチオーブンの鍋の底を馴染ませ、コンロの五徳に乗せる。——カチャンッ! ボッ!ツマミを全開に回し、火を付けた。ここからは、いつも家で作る感覚で手順を踏まえる。(鍋が温まったところで、まずは鶏肉から炒めよう)炒めているうちに鶏肉の透明感のあるピンク色から変わり、少し狐色の焼き目がついてくる。「おぉ、良い色ついてるなぁ~」恭弥さんが匂いを嗅ぎつつ、時折覗き見をしている。しかし、彼に料理をしている姿を見せていない。そのせいで、近づけてくるほど緊張してしまう。(今は意識しない……! 次はキッチンで切った野菜を……)火の通りにくい人参、玉ねぎを先に投入して木製のヘラで回し炒める。(玉ねぎはあらかじめ切った後でもまだ引っ付いているから、先に剥がしておいて正解だ)ここで皆さんに豆知識だが、このことはご存知だろうか?玉ねぎを食べている白い部分は、実はキャベツやレタスと同じく葉っぱであるということだ。ちょっと恥ずかしながら、私も最近知った知識だ。(野菜の知識は、私でも知らないことが色々ありそうだし勉強しなくっちゃ!)玉ねぎが半透明になったところで、ジャガイモを入れて軽く炒める。ここから煮込みタイムへ入ろう。水を具材が浸かる程度まで注ぎ、コンソメとローリエを加え蓋を閉める。少し弱めの中火にして十五分ほど、タイマーをスマホで設定
(さて、恭弥さんは必要な道具を全部、出してくれたかなぁ?)玄関から外へ出て、右側の端っこ付近にある収納庫へ向かった。すると、恭弥さんが既にタープを広げているではないか。そのタープは前回、クリスマスの時期に届いたあのヘキサタープだ。しかも彼はポールを一本にするため、分解されているのを組み立ててまで行なっている。「あれ? もう広げちゃったの?」「ん? あぁ、広げないとタープの端につけるロープを取り付けられないからさ。あとどれぐらいの広さかも知りたいし」今日初めて使う新品のタープだから、ロープの取り付けも全て一からやらないといけない。(あっ、そういうことかぁ……なるほど)パソコンに例えてしまうが、初期設定みたいなものだ。すなわち最初からある程度まで用意しておけば、後々楽に立てられる。幕の端についている輪っかは、六角形の角の数だから全部で六つ。ロープで通し、ペグなどで引っ掛けるところだ。他にも前後それぞれ金属の留め具みたいな穴の空いている部分がある。そこにはポールを立てて、布製の輪っかを通した紐はペグに引っ掛けて固定するものだ。通称「スタンダード」と呼ばれる立て方で、今回はそれに挑戦する。まず、広げたタープの幕にポールの金属が見える部分のみで前と後ろそれぞれ穴を通して一旦、直線上に寝かす。(最後に立てるためなのかな……?)次にポール穴がある箇所の布製輪っかにロープを通していく。寝かしていたポールから左右に大体四十五度ぐらいの斜め位置に二辺作りつつ、ポールの端に合わせてペグで位置を仮止めで打つ。「空、この辺で軽く打って」「ここ、だね」私はペグを地面に
——三月下旬の残り冬。今年もまた、春を迎え始めようとしてる。雪はまだ所々で少し残っている。それでも、二月まで山ほど積もっていたときと比べたらほとんど溶けていた。読者の皆さんとこうして出会うのは、久しぶりな気がする。冬の間、庭キャンプはお休みして部屋にある炬燵の中で暖まっていた。(だって、炬燵の中に温もりと睡眠の誘惑が……)でもその期間を終わりにしてそろそろ、今日から再開しようと思う。山奥の冬の朝と夜、寒さが残っては消える。お昼間にはようやく和らいでくれた。ただ天気次第では、三月でも雪が降ったりすることもある。だけどその雪は積もることなく一日経てば、すぐに溶けて水となって元通りの姿。そして……。「おぉ! 空、今日はすげぇ良い天気だぞ!」彼の掛け声から朝が始まった。——今日から、夜鷹家の庭キャンプご飯がまた新たに始まるのである。 ◇ ◆ ◇カーテンを開けて威勢のいい声をしているのは、私の旦那さんである恭弥さん。実は三月下旬から末日まで、仕事のお休みを取っている。「うぅ~ん……むにゃぁ……」「空、起きろー!」「まだ、眠ぅいょ……」彼に起こされるも、私にとっては「春眠、暁覚えず」といったこの頃。目が覚めているような……でもまだ寝ているようなと、あやふやな境界線にいる感じだ。特にカーテンを開けた日差しが、より暖かく差し込んでいる。その温もりのせいで、より心地のいい眠りを誘われて再び微睡に入りそうだ。「……せっかく良い天気だしさぁ、
クリスマスの日まで、もう間もない日のお昼頃……。——ピンポーン!(ん? インターホンのチャイムが鳴っているではないか?)「はい」(珍しい……。今日、来客する予定は確かいないはずだけど……?)私は画面越しから出てみることにした、ひとまず、来客が誰なのかを確かめるためだ。「大地運送です」「あ、はい。少々お待ちください」(あれ? 今日って、何か届く予定とかあったかな?)疑問はまだ残るけど、とりあえず宅配便だった。わかったからには、外でずっと待たせるわけにもいかない。急いで部屋から出て、玄関の扉を開ける。「こんにちは! 宅配の商品をお届けに参りました!」「は、はい! お疲れ様です」「ちょっと大きいものですが、すぐに荷物お持ちしますので待ってくださいね!」その方はいつも来てくれるエリア担当の男性。中年のおじさんぐらいの年齢層で顔見知りだ。我が家では、大きな荷物が届くことは少ない。だが、今回は少し大きめダンボールの荷物を二つ抱えているではないか。(おっと、これはちょっと大物だなぁ……その場凌ぎに玄関に置いてもらおう)一つだと、女性でもそこそこ抱えられる範囲かもしれない。しかし、二つもあると少し大掛かりという印象だ。「荷物……結構大きそうですね。どうぞ、こちらへ」「あぁ、すいません! 中の方へ失礼します」そう思い、玄関の扉を開けたままにして、配達員を荷物の置き場所へ誘導した。&n
——♪~いつか~君と~虹の~架け橋へ……。今日は恭弥さんと一緒に、ドライブとお買い物デート。彼は、所有している漆黒色で施した四輪駆動の車で運転している。目的地はホームセンターやアウトドアショップなど、主に庭で使うキャンプ用品のものを買い物へ出掛ける。——それは遡ること、先日の夜。「俺の寄りたいところ以外、最終日にお買い物する場所はどこにする?」
「今日は超良い天気だし、こういう時の朝食なんて最高だな」恭弥さんはそう言いながら腕を上に伸ばした後、よいしょっとチェアから立ち上がった。「……?」「そろそろご飯を作ろう、お腹空いただろ?」(あ、そうだった……! まだ食べてなかった……)彼の淹れたコーヒーをじっくり堪能したくて、つい食べることを忘れるところだった。それくらい、彼とのコーヒータイムが落ち着く。
「あぁ、そうだった!」「なぁに?」彼からの抱擁の余韻があるものの、恭弥さんから話を切り出した。というよりも、きっとある音を聞かれたからかもしれない……。「空、まだ朝ごはん食べてないだろ?」(あっ……! バレちゃった……恥ずかしぃ……)時折、空腹の音が静かに鳴っている。
——ある休日のこと。寝室の窓には生成色をベースに薔薇と蝶の柄の入った遮光カーテンで閉めている。けれど朝の日差しが、完全に閉ざされていないカーテンの隙間から入ってきた。その温かみのある光から私の顔に当たる。何気なく目を覚ませようとしていた。(うぅん、今……何時だろう……?)布団の中でモゾモゾ動いてから、チラッと時計の針を見てみる。時刻は、もう朝の8時半をとうに過ぎていた。平日だと