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12.思わぬ出会い

Auteur: 空空 空
last update Dernière mise à jour: 2025-04-19 19:19:09

 それから数秒、程なくして揺れは収まった。

まだ砂嵐の中にいるかのように視界は晴れないが、地鳴りも収まったようだしとりあえずは異変の終息とみていいだろう。

本当に、最終日だというのに不幸が重なってばかりだ。

いや、最終日だからなのか?

 肩の塵を払い、ゆっくりと立ち上がる。

「みんな、大丈夫か?」

 そして今度こそ、今度こそ答えてもらうつんりでみんなに尋ねた。

「なんとか……大丈夫です……」

「……口のなかがじゃりじゃりする……」

「結局、なんだったんでしょうね?」

「ていうか……あっつ」

 直接口で大丈夫と言ってくれたのは夏山さんだけだったが、みんな無事という認識で間違いなさそうだ。

 やがて視界もクリアになっていき、みんな互いの汚れまみれの顔を認識できるようになった。

誰一人欠けていないので、ひとまずそこは安心だ。

だがしかし、それとは別に事態は混迷を極める。

「で、なんなんだよこれ……。どうなってんだよ……」

 洞窟の崩落……だと思っていたのだが、どうもそれとはわけが違そうだ。

「道が……増えてる……?」

「それにオレンジ色の鉱石が……。こんなのさっきまでなかったよな?」

 崩れたという表現ではやや不適切。

明らかにダンジョンの構造が変化していた。

そしてその性質も。

 氷のような結晶、炎のような結晶、その二つが入り交じる。

かといって熱いと寒いでちょうどいいかと言えばそれはまた別の話で、ダンジョン内部の気温は無茶苦茶だ。

暑いところは暑いし、寒いところは寒い。

 ただでさえ複雑な構造に悩まされていたというのに、道が増えたとあってはいよいよどうしたものか分からない。

正直、これからあの蛇男に追いつくのは絶望的な気がした。

 ただ、蛇男は蛇男でこの状況にどう対処しているのだろう?

あいつにとってもこれは想定外だったろうし、やたらむやみに行動しているとも思えない。

「これから、どう……します?」

「うーん……」

 夏山さんの言葉に剛史くんが頭を悩ませる。

そして剛史くんが出した結論は、皐月の教えを守った基本的なものだった。

「とりあえず、出口を探そう。状況が状況だから、いったん脱出することも考えといた方がいいと思う。ただ、その……その場合、この研修の七日目がどういう風に処理されるのかは分からないけど……」

「……」

 未覚醒者が大半を占めるこのチーム。

もしこれ
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