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7.初陣

Auteur: 空空 空
last update Dernière mise à jour: 2025-04-19 18:12:55

 俺たちに続くようにほかのメンバーもなだれ込む。

いきなり群れの一人を殺された上に、そこからさらに大挙して押し寄せるものだから魔物たちはさらに混乱する。

皐月はそれを見るとふらりと騒がしい場所から離れた。

 皐月は三十体居ると踏んでいたが、しかし見たところ十体ほどしかいるように見えない。

皐月ほどの者がそんなことを間違えるともあまり思えないのだが……。

不思議に思っていると、突然一匹の魔物が急に魂を抜かれたかのように動きを止めた。

「な、なんだ……?」

 動きが止まったとあれば普通に考えればこちらの攻撃チャンスなのだが、その不可解な様子に戸惑う。

他のメンバーもすぐにその違和感に気づいたようで、武器は構えつつも様子を窺っている。

すると……。

「……なんなんだ? 気味が悪ぃな……」

「どういうことなんだよ……」

 まるで伝染するかのように、他の魔物たちもその動きを止めた。

誰もがその光景の異様さを気味悪がり、口々に困惑を吐き出す。

さっきまで阿鼻叫喚というくらいの様子だった魔物たちが、この一瞬で微動だにしなくなったのだ。

 始まるかに思われた混戦は始まらず、最初に皐月が退治した一体の死体だけが転がる。

魔物たちは白眼のない真っ黒な瞳で虚空を見つめ、俺たちもそれに言い知れぬ恐怖を感じて手を出せない。

あまりにも不自然な静寂。

その張り詰めた空気に不釣り合いな緊張感のない声が響いた。

「あーあ……っつってね」

 今までどこに姿を隠していたのか、全然見つからなかった皐月。

その彼女が少し笑みを浮かべて壁に寄りかかっていた。

「外であったひと悶着の仕返し。耳塞いだ方がいいかも?」

「そ……それってどういう……?」

「さてね」

 皐月に聞き返すが白々しい態度で返されてしまう。

俺らは黙って話聞いてたし、仕返しに巻き込まれる形になるんだけど……。

 なんだかよくわからないままだろうが、夏山さんは皐月の言ったとおりに耳を塞ぐ。

そして説明やその意味を求めた俺含むその他はワンテンポ遅れる。

その一瞬の遅れが、運命を分けた。

「オオオオオオオオオオオオッッッ……!!!!!!」

 魔物の一匹が絶叫する。

その音はまるで破裂するかのようにダンジョン全体に響き渡る。

そして魔物たちの急な静止のようにそれは伝播する。

「ぐッ……アァッ……」

 頭痛を引き起こすほどの大音量と地を震わせるほど
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