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6、ドムが寄ってこないまじない

Penulis: 架月ひなた
last update Tanggal publikasi: 2026-01-17 20:00:00

 突然背後から声をかけられ、飛び上がる。振り返るとスーツを手にした白月が立っていた。

 悪戯が成功したと言わんばかりに、にこやかな顔をしているのを見て、空良は少しムッとした表情を作ってみせた。

「返事くらいしてくれてもいいだろう?」

「空良が私の名を呼びながら探している姿があまりにも愛らしくてね。もっと私の名前を呼んで欲しいなと思っているうちに返事をしそびれてしまったんだ」

「……」

 ——どうしよう。この甘すぎるセリフにはどう返していいのか本当にわからない。耳まで熱がこもっている気がしてその場に蹲ってしまった。

「どうしたの? どこか痛む?」

「いえ、何でもない、です」

 思わず畏まってしまい、気恥ずかしさを堪えるように眉根を寄せる。

「ふふ。照れてるの?」

「〜〜、分かってるなら……やめて下さい。本当に慣れていないというか、全く免疫ないんです」

「空良がまた敬語をやめてくれたらね」

 短大に入ってから初対面の相手には敬語がデフォルトになっていたのもあって、これはこれで慣れない。いくら本人に言われてこっちが納得したとしても、染みついた習慣はすぐに取っ払えるものではなかった。

「分かりまし……分かったから、普通に喋って欲しい」

「私は何も我慢していないし、普段のように話しているよ」

 素面でこうなのか、と空良は心の中で呟いた。

 慣れなきゃいけないのはこっちかもしれない。となれば、自分以外にもこうして優しく甘く囁くのかと考えてしまい、少しだけ胸の奥がモヤっとした。

 ——本当に……今日の僕はどこかおかしい。

 綺麗に畳まれたスーツに視線を落とし、受け取る為に腕を伸ばす。

「スーツまで乾かしてくれてありがとう。助かったよ。あの、下着……は?」

 気まずくて視線を横に流す。

「履くの?」

「当たり前です。僕を変質者にするつもりですか⁉︎」

「それなら全裸でも構わないよ」

「それはちょっと……僕が嫌です。ごめんなさい」

 嫌そうにしてみせたのが伝わったのか、白月が笑った。

「ふふふふ。冗談だよ。ジャケットとズボンの間に挟んでいるよ。それより、もうサブドロップは抜けているみたいだね」

 唐突に話題を変えられ、空良はゆっくりと瞬きする。あんなに気分が悪かったというのに、言われるまですっかり忘れていた。

「そういえば抜けてる。あれってコマンドに入るの? ケアされたのは初めてだから分からないけれど、僕が知らないケアの仕方? それとも妖ならではのやり方?」

 少し興奮気味で畳み掛けるような質問に、白月が口を開く。

「ドムとサブ、そのコマンドと呼ばれている言葉も、元来は妖が使っていた言葉だよ。その妖に対抗する為、似たような効果を求めて人の子が勝手に作った呪文みたいな物が今のコマンドとして定着している。だから私たち妖には必要ないよ。態々語頭をつけなくてもプレイ出来る私たちには、あってもなくてもあまり意味を成さない」

 初めて知る事実に、空良は目を丸くした。

「え、妖からきてるんだ。知らなかったよ」

「そうだね。ただ妖は支配力が強いから殆どがドムなんだよね。その中でも優劣があって、力があればあるだけドムさえ従えてしまえる。その際には妖ならではの言葉を扱うけれど」

「言葉を……て、それって僕たちで言うところのコマンド?」

 白月が頷く。

「そうだね。でも、普通の言葉でも私たちが力……言霊を乗せて使うと効果が出過ぎてしまうんだ。普段は障りがないように普通に話すよ。効果を付けたい時は言霊を乗せずに敢えて人の子が使うコマンドとやらを使ったりもするけどね」

「効果が出過ぎる?」

「例えばサブスペースに深く入り過ぎてしまったり、サブドロップに陥り過ぎてしまったり。時と場所と場合を選ばないとそれこそ空良をすぐに素っ裸にしちゃって変質者にしてしまい兼ねない。ふふふ、試してみる?」

 勢いよく左右に首を振る。サブとしてはサブスペースに憧れてしまうが、その反面全てを相手に委ねる事が怖かった。

 サブスペースは、サブドロップとは逆に位置していて、サブの気分の高揚感や陶酔感を極限まで高める状態を指す。それこそ相手のドムに身を投げ出してしまいたい状況下に置かれる。

「遠慮しとく。サブスペースも一度も入った事がないから、まだ怖い……かな」

「そう? 入りたくなったら教えてね。空良の相手は私がしたい。サブスペース目的なら私以外とプレイして欲しくない」

 伸ばされた手に顎を持ち上げられる。

「……僕はプレイに良い印象がなくて……。したくなくても、いつも無理やりグレアで動けなくされてしまうんだ。なので約束は出来ないと思う。入らされるのは今の所サブドロップだけだけど」

 顔を俯ける。会社という逃げ場のない場所で、グレアを使われると自身ではどうしようも出来ないのが現状だった。しかも伊藤は他のドムよりも力が強い。厄介な事この上ない。自分の意思と関係なく体が勝手に反応してしまう。思考を巡らせていると、頭の上に優しく手を乗せられた。

「ではドムが寄ってこないまじないをかけよう。口を開けてご覧?」

 白月からの問いかけに頷く。

 ——何かを食べさせられるのかな?

 自分からお願いしていたのを忘れていた。緩く口を開けると「もっと」と促され、言われた通りに目一杯開く。

「うん。それで良い」

 何をするんだろうと思った時には、白月の口に塞がれていた。

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