LOGIN人の顔色を読み、本心を隠して生きてきたコピーライター・朝倉透は、眼の不調をきっかけに眼科医・神谷恒一と出会う。感情を逃がす透の視線の癖に気づいた神谷は、静かに、しかし確かに彼を見つめ続ける存在だった。診察室の外で関係を深める中、互いが抱える喪失と孤独が明らかになり、透は神谷に恋をしていることを自覚する。しかし過去への恐れから距離を取ろうとする神谷。すれ違いと別れを経て、二人は「見られること」「見ること」への恐怖を乗り越え、相手の瞳に未来を映す選択をする。 ──視線から始まる、静かで確かな愛の物語。
View More視線が、怖い。
三年後──春の陽射しが差し込むカフェ。透と神谷は、窓際の席に座っていた。「ここ、本当に久しぶりだね」透がカフェラテを一口飲みながら言った。神谷も周囲を見渡して、懐かしそうに微笑んだ。「ああ。最初に、医師と患者以外の関係で話したのが、ここだった」「神谷さん、あの時すごく驚いた顔してたよね」「そうだったか?」「うん。『こんなところで会うとは』って顔してた」神谷は少し照れくさそうに笑った。「確かに、驚いた。偶然だと思っていたから」「俺も」透は窓の外を見た。「でも、今思えば、あれは偶然じゃなかったのかもしれない」「運命、とでも?」「うん」透は神谷を見つめた。「運命だったんだと思う」神谷の目が、優しく細められた。「……俺もそう思う」ふたりは、しばらく静かにコーヒーを楽しんだ。カフェには、穏やかな音楽が流れている。平日の午後、客はまばらで、ゆったりとした時間が流れていた。「そういえば」神谷がふと思い出したように言った。「透、今日は仕事休みだったのか?」「うん。有給取ったんだ」「何か特別な用事でも?」
◆春 桜の花びらが舞う、三月の午後。 透と神谷は、あの小さな公園を訪れていた。 出会ってから、もう二年が経とうとしていた。 「ここ、久しぶりだね」 透がベンチに座りながら言った。神谷も隣に腰を下ろす。 「そうだな。最後に来たのは……いつだったか」 「去年の夏だったかな」 透は空を見上げた。 「あの時は、すごく暑かったよね」 神谷は微笑んだ。 「透が、アイスを三本も食べた日だ」 「神谷さんだって二本食べたじゃん」 ふたりは笑い合った。 公園の桜は、満開だった。風が吹くたびに、花びらが舞い散る。 透は一枚の花びらを手のひらで受け止めた。 「綺麗だな」 「ああ」 神谷は透の横顔を見つめていた。桜色の光に照らされた透の顔は、穏やかで、幸せそうだった。 「透」 「ん?」 「今、幸せか?」 透は神谷を見て、少し驚いたように目を見開いた。それから、ゆっくりと笑った。 「うん。すごく」 神谷の表情が
同棲を始めて半年が過ぎた、秋の夜だった。透がキッチンで夕食の準備をしていると、リビングから神谷の声が聞こえた。「透、ちょっといいか」いつもより少し、硬い声だった。透は手を拭いてリビングに戻ると、神谷がソファに座って、何かのパンフレットを手にしていた。「どうしたの?」透が隣に座ると、神谷は少し躊躇うように視線を落としてから、パンフレットを差し出した。「パートナーシップ制度について」表紙にそう書かれた、市区町村が発行している案内だった。「これ……」透の声が、少し震えた。神谷は透の横顔を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。「この前、クリニックの患者さんで、パートナーシップ証明書を持っている方がいたんだ。ふたりで受診に来られて、とても自然に、お互いを支え合っていた」神谷の声は、静かで、でも確かな意志を含んでいた。「それを見て……俺も、透と、そういう関係でいたいと思った」透はパンフレットを手に取り、ページをめくった。パートナーシップ制度の説明、申請方法、必要な書類。活字が、透の視界に入ってくる。「法的な効力は限られているけど」神谷が続けた。「病院での面会や、賃貸契約での同居人証明、いろいろな場面で、ふたりの関係を証明できる」透は、パンフレットを握りしめた。「……神谷さん」「嫌なら、無理にとは言わない。ただ、俺は――」「嫌なわけない」
八月。 夏の暑さが、東京を包んでいた。 透と神谷は、それぞれの仕事で忙しい日々を送っていた。 ある週末の朝。 透は、珍しく早く目が覚めた。 隣で、神谷がまだ眠っていた。 穏やかな寝顔。 透は、その顔をじっと見つめた。 (この人と出会って、もうすぐ二年になる) 透は、そう思った。 あの日、眼科を受診したことから、すべてが始まった。 視線を逸らしていた自分。 本当の自分を隠していた自分。 でも、神谷と出会って、変わった。 透は、そっとベッドを出た。 キッチンへ行き、コーヒーを淹れる。 リビングに戻ると、神谷が起きていた。 「おはようございます」 神谷が、眠そうに言った。 「おはようございます」 透は、コーヒーカップを差し出した。 「ありがとう」 神谷は、カップを受け取った。 ふたりは、ソファに並んで座った。 「朝倉さん」 神谷が、コーヒー