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7、マーキング

Penulis: 架月ひなた
last update Terakhir Diperbarui: 2026-01-18 20:00:00

 ——え? これって……。

 思い切り口付けられている。しかも深い。舌を絡ませられて、思わず白月の服を掴んだ。

「ん、っん」

 ——でも、温かくて気持ち良い。

 段々と頭がぼんやりしてきたのと同時に、舌の上に何か形のある球体が生まれて目を瞠った。

「結界玉だよ。そのまま飲み下してみて? 飲もうとすると溶けるから大丈夫だよ」

 ビー玉くらいの大きさがあったのに、嚥下しようとすると結界玉が同時に消えて喉の奥に落ちていく。心なしか口内から胃の辺りまで温かい。

「結界?」

「そう。ドムを寄せ付けない結界。私のマーキングを兼ねたね。初めてだから空良が私の力に酔わないように弱目にしたけど。慣れてきたら徐々に効果を上げていこう」

「分かった。ありがとう白月」

 ——マーキングって動物的な縄張りみたいなものなのかな?

 逡巡していると、バスローブの帯を解かれていた。

「あの、白月?」

「着替えなきゃいけないでしょう?」

 前で合わせられている部分を開かれそうになって寸でのところで両手で押さえる。このまま開かれてしまうと、恥ずかしい部分を曝け出してしまうからだ。

 一度は見られているかも知れないが、意識がない時とある時では話が変わってくる。

「待って! 僕自分で着替えられるからっ!」

「えー、私やりたかったのに……」

「僕、下着も履いてないし恥ずかしいから嫌だよ」

「でもさっきは全部み……「わー! 聞きたくないから黙って!」……」

 言葉尻を奪って叫ぶように言った。

 白月を逆向きにさせて、そのまま座らせる。その間に手早く着替え始めたが、クリーニングに出した後のように綺麗になっていて驚いた。

「スーツが、綺麗に直ってる……」

 短大を出て社会人になったお祝いに祖父母が用意してくれたスーツ一式だったので、嬉しくて胸に抱える。

「私の妖力で、生地の状態を本来の物へと戻したんだ」

 今日は伊藤に屋上やフロアで散々正座をさせられたせいで、膝から下の生地が傷付いていたのだ。

 どれだけ本気で抗ってもその度にグレアを浴びせられた。

 生地を傷付けないように取った行動だったのだが、かえって何度も膝をつく羽目になって傷が酷くなった。

 それが綺麗に消えている。

 祖父母に申し訳なく思っていた所だったからとても嬉しかった。

「嬉しい。……ありがとう」

 感動して目頭が熱くなったかと思えば、頬を生暖かいものが伝落ちていく。

「空良、もう大丈夫だよ。これからは私が守ってあげる。泣かないで」

 背後から白月に抱きしめられていた。

「……っ」

 いつの間にか零れ落ちていた涙がスーツの上にシミを作っているのが分かって、慌てて手で拭う。

 折角綺麗に直して乾かしてくれたのにこれでは台無しだ。手早く着替えた。

「直してくれてありがとう。僕にとって……っ、とても大切なものなんだ」

 このスーツをプレゼントされた一ヶ月後、祖父母は病で二人とも他界している。今日は二人の四回忌で、弔いを込めて着ていたのが災いした。

 あんな目に遭うなら普段着ている安物スーツにしておけば良かったと後悔していた所だった。

「白月、本当に色々とありがとう。どうしてかな。白月とは今日初めて会ったのに、初めて会った気がしないんだ。白月はどうして僕を知っているの?」

 振り返って正面から白月を見上げる。白月は朗らかな笑みを浮かべて口を開いた。

「人の子の記憶は産まれる度にリセットされてしまうからね。空良と私はリセットされる前にも出会っているよ」

「リセット……て、もしかして生まれ変わりとかって言われるもの?」

 正直驚いた。瞬きもせずに白月を見つめる。

「そうだね。ああ、名残惜しいけれどそろそろ帰る時間だよ。空良は明日も仕事があるでしょう? 現世まで送って行ってあげる。おいで」

 異世界だと思っていた事は当たっていたらしい。ここは現実社会じゃない。妙に納得出来た。

 手を伸ばしかけて、とめる。

 ——帰りたくないな。まだ白月と話していたい。

 自分で自分の思いが信じられなくて、またどう言葉を紡いでいいのかも分からず、困ったように笑い返す。

「姿が見えなくても私はいつも空良の近くで見守っているよ。この神社に来てくれても会える」

「神社ってどこの神社?」

「空良が住んでいる近くにある神社だよ」

 確かに家の近くに神社がある。驚愕で大きく瞬きした。

「そんな近くに居たの?」

「そう。私はそこを守護している。道路で会った時みたいに、あのわらべ歌を歌ってくれれば私も気付ける。あの歌は私と空良が出会うきっかけになった歌だからね。でもね、黄昏時のあの横断歩道ではもう歌ってはいけないよ。あそこは神道があるから神隠しに遭ってしまう」

「神道?」

 耳馴染みのない言葉だったので聞き返す。

「神や神格化した妖たちが通る道を指す。あそこは私以外のモノも通るから、気に入られたら連れて行かれてしまうよ」

 ——ああ、だからあの時歌ってはいけないと言っていたのか。

「分かった。あそこではもう歌わない」

 歌自体は生まれ変わる前の自分と白月との思い出が原因なのだと分かり、何故懐かしく思えたのか理由が分かったのと共に、自分の事なのに少し羨ましく思えた。

「行こうか。異次元空間を通るから目眩がするかも知れない。その間、私と手を繋いだまま目を瞑っていて」

「分かった」

 ぐにゃりと世界が歪んだ気がした。目を閉じていても眩しいくらいの白い空間が続き、白月に手を引かれるまま歩いていく。

「空良、目を開けていいよ」

「ここ……」

 本当に家の近くにある神社だった。こんな近くに居たなんて思わなかったから驚きを隠せない。

 学問の神様が祀られている有名な神社だ。自分が好きなわらべ歌の発祥の地とも言われている。石碑にも刻まれているので、ここの神社はとても好きなのだ。

 何もなくてもつい足を運んでしまう。

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