LOGIN視線が絡んだ気がして見つめ合う。
絡む程の距離にいないのもあって、気のせいだと前方に視線を戻した直後だった。 『ξκιβ κα ηκρΰ ακν τκπ(貴方にラヴソングを)』 ——へ? 何の呪文なのかは分からなかったが、ランベルトの音声で紡がれた呪文と、何かのメロディーが直接脳内に響いた。 「う、おっ⁉︎」 瞬間、鮮やかな青い薔薇の花が大量に頭上から降ってくる。 魔法では青い薔薇の生成は加減が難しい。それをこんな大量に瞬時に作り出した上に、枝の棘まで綺麗に取り除くという器用さと技術と技量に脱帽だ。さすが魔法大学院創設以来初と謳われる程の魔法力を有しているだけある。 箒も使わずに浮遊して、軽やかに窓まで移動してきた。普段はランベルトに横抱きにされたまま飛行しているのもあって、目の前で見るのは片手で数えるくらいしかない。 ——本当に空を歩いてるみたいだ。 全てを自由に、自分の思い描くままに操る魔法師。ランベルトは理想像そのものだった。 ——いいな。どうやっているんだろ。俺もランベルトみたいだったら良かったのに……。 勝手に劣等感と、多大な憧れを抱いている。 顔には出さないように気をつけて、ランベルトに向けて口を開く。 「ランベルト。お前何の嫌がらせだ?」 一時も視線を離さずに問いかけると、ランベルトは箒を手元に呼び寄せてその上に腰掛けた。 お腹を抱えてケラケラと器用に笑っている。 「似合ってるよ~。レオンの青い髪と瞳みたいでしょ? どこかの国の皇子様みたいだね。俺、レオンの色大好き」 ——精霊族の本物の皇子様が何言ってんだか……。 周りが騒めき、口笛が鳴り響く。 「ね、見てて?」 続けてそう告げられた。 薔薇の数があっという間に増え始め、ある程度の本数までくると、今度はまるでワインのような真紅の赤薔薇へと変わったのだ。 問題はその過程だ。青がレインボーに変わり、その後で赤になった。レインボーの薔薇は、作ろうと思って作れるものじゃない。魔法化学クラブの連中らがこぞってランベルトを欲しがる理由が身に染みて分かる気がした。 規格外過ぎて驚きを通り越し、もう意味が分からない。 ——本当に何でアイツ、俺にあんな契約なんて持ちかけてきたんだ……。 自分で評価するのは気が引けるが、容姿は多少褒められても数える程度だ。ゆえ、普通と称していいだろう。 魔法力は中の下で大した事ないし、筆記でも中の中くらいで頭脳においても突出した魅力はなかった。 比べてランベルトは、入学試験も魔法力共に周りの追随を許さず首席で合格し、在学中の試験も全て満点、容姿、人柄も良い。好奇心旺盛な所がある為、多少問題児ではあるものの、家柄は精霊族の王族第二皇子という最上級以上のランクだ。 大学院にいる間に胡麻を擦ってでも繋がりを持ちたがり、仲良くなろうとする輩が多い。あわよくば玉の輿を狙っている。 七割は男しかいないが、医療魔法の発達で、魔法で擬似的子宮を作れば男も出産可能になっている現代では同性婚も珍しくない。 法でも万国種別問わずに同性婚はきちんと認められていて、合法的で安全に使える子宮を作る魔法もちゃんとある。ランベルトなら男も女も選びたい放題だというのに理解に苦しむ。 ——なのに、何で俺……? 未だに理由がわからない。 「全部レオンにあげる」 教室内の三分の一が薔薇で埋まっている。これをどうとらえて良いのか分からなくて、一層のこと現実逃避したかった。 ——この薔薇を俺にどうしろと? 態々花の色を二度も変えた意味もわからない。そこはもういつもの思いつきのイタズラなんだろうと勝手に解釈した。もしかしてこの薔薇、全て自分が片付けなければいけないのかと思うと胃が痛い。 「ランベルト・イルサル、レオン・ミリアーツは放課後に教室の掃除をするように。今日の授業はここまで」 大きなため息を零した教師が、呆れた口調で言って教室を出て行った。ランベルトはもう既に居ない。レオンだけが誰に向けるわけでもなく「はい」と返事する。 ——だよな……。でも一人で片付けるわけじゃなくて良かった。 同じくため息が零れた。ランベルトと合わせてとった合同魔法薬学の時間となった。大学院内にある温室で調合に使う薬草や花を集めていく。
「レオン見て。この花可愛い」 終始機嫌の良さそうなランベルトに視線を移した。作る魔法薬には必要のない花をランベルトが摘んでいた。 「ランベルト、それは使わないぞ?」 間違える筈がないのは知っているので、不思議に思って問いかける。 「ねえ、たまには違うもの作ってみようよ。案外新しい薬が出来ちゃったりするかもよ?」 ——出た……。 ランベルトの好奇心旺盛なとこはこういう所でも発揮される。 「それやると怒られるだけだからな?」 釘を刺すと無邪気な笑顔で返された。 魔法薬学は出来上がる物が決まっていて、材料もきっかりとグラム単位で決まっているので、ランベルトには退屈なんだろう。別の授業を選択すれば良いのにと思ってしまうのが常だ。 「お前経済学とか攻撃魔法とか防御魔法を受けた方が良かったんじゃないか?」 「だってそこにはレオン居ないじゃん。それだけでやる気出ないよ。退屈すぎて欠伸がでちゃう」 「……」 ランベルトの頭の中が見てみたい。その言葉に返す言葉が出て来なくて、項垂れる。 ——卒業したら会えなくなるのに、この男はどうするつもりなんだろうか? 鼻歌を歌いながら、一人楽しそうなランベルトを見つめた。 「ほら戻るぞ」 腕を引いて教室へと連れ帰る。ランベルトはまだ摘んだ花を手にしたままだった。 「で、それ使って何を作るんだ?」 「レオンにケモ耳と尻尾を生えさせる薬作るの」 「ランベルトが飲めよ……。お前容姿だけは良いし、もし犬耳と尻尾が出て来たら首輪つけて散歩くらいなら一緒に行ってやる。絶対似合う」 真顔で言うとランベルトが笑いを吹き出す。 「それ褒められてんの? 貶されてんの?」 「両方だ」 「じゃあ、一緒に飲もうよ。気分の変わったプレイが出来そうでしょ? 楽しいよきっと」 耳打ちされ、意味深に微笑まれる。同じ様にニッコリと微笑んでやった。 「絶対嫌だ!」 ランベルトに遊ばれるだけ遊ばれて終わりそうで、即座に却下する。文句を言いながらも、ちゃんと授業で使う薬草を探して集めてきたランベルトの頭を撫でた。 「ちゃんと出来て偉いなランベルト」 「何か俺小さい子みたいな扱い?」 大差ないな、と笑うと今度はランベルトが項垂れた。こういう所は可愛いなと思う。材料を持って帰り、調合していると上手くいったまま最後まで来ていた。 「レオン~」 悪戯を仕掛ける子供のような顔で笑ったランベルトが、もうすぐ完成という時に、ぐつぐつと煮立っている瓶の中にさっきの花をドサッと混ぜる。 「あ、バカ! やめろ!」 ランベルトを止めようとした時にはもう既に遅くて、ビンの中が発光し始めていた。*** ちびっ子達の悪戯で、レオンはまた青いドラゴンを産んだ。今度は女の子だったので、それを知った同じ青いドラゴンのフィーリアが喜びを隠しきれない様子で目の前にある広間ではしゃぎ回っている。「フィーとおなじおんなのこ! レオンまたうんで!」 それを聞いてレオンが遠い目をする。そんなレオンを横抱きにして歩きながらランベルトが苦笑していた。「ねえおねがい!!」「あー、でも次に産まれても男の子かも知れないぞ?」 このままだと永遠に出産させられそうだ。それだけはさすがに勘弁して欲しい。せっかく青いドラゴンになれるようになったのに、どちらかといえばランベルトに特訓をして貰いたかった。「フィーリア、レオンは疲れているから休ませてあげよう」「はーい」 ランベルトがその後会話を交わしながら何とか宥めすかして、女官たちにフィーリアを預ける。部屋に入りベッドに腰掛ける。毎回貧血で死にそうだ。「あー、もー、あいつらには本当に振り回されてばっかりだ」 そこまで考えて、ランベルトを見つめる。「なんかさ……」「え? 何? 何言おうとしてるか分かったけど言わなくて良いよ?」 ランベルト自身も痛感しているらしい。気まずそうな顔をしていた。隣に腰掛けてきたランベルトに向けて口を開く。「良かったな、ランベルト。仲間がたくさんできたからもうお前一人だけ〝異質〟じゃないだろ?」 揃いも揃ってあのチート加減だ。育てばランベルトと並ぶかそれ以上になるだろう。今後が楽しみだ。「覚えてたの?」 ランベルトが大きく瞬きした。「当たり前だ。ランベルトの言葉は覚えてるよ」「ふふ、嬉しい」 持ち上げられて膝の上に乗せられる。背後から抱きしめてくるランベルトを見る為に上を向く。長く伸びたランベルトの髪の毛が顔にかかった。「お前は髪伸びるの早いよな。俺全然伸びないんだよな。昔はそうでもなかったのに何でだろ?」「レオンにはその長さが一番似合うからね。俺が魔法で調整してるし伸びないの当たり前だよ」「……」 無邪気に笑われ、唖然としたまま閉口せざる
「ランベルト、一回抜いてやろうか?」 風呂で萎えかけていたランベルトの陰茎を、ソープを垂らした手で包み込む。柔らかい手付きで弄っていると質量が増してきたので、片手は先端を刺激しながらもう片方の手で上下に扱いた。「……っ」 息を詰めたランベルトに気をよくして、何度も繰り返していく。伸びてきたランベルトの手が上半身を掠め、胸の突起を緩やかに刺激されて体が跳ねた。「あ……!」 もう片方の手では下肢のモノを同じ様に刺激される。「イかせてくれるんでしょ? 手止まってるよレオン」 ソープがクチクチと音を立て、もう誰の所から聞こえているのか分からなかった。 上半身に伸びていた手が下半身に伸びていって、膝の上に乗せられて兜合わせにさせられる。ランベルトだけをイかせるつもりが、セックスする流れになっていた。「俺のとレオンの両方扱いててね。俺は後ろやるから」 魔法で生成された潤滑剤を纏った指が潜り込んできて思わず「んんっ」と声が出る。 言われた通りにランベルトのと己の陰茎を纏めて擦り合わせていると、イキたくて腰の奥が重くなってきた。「あ、あん、ふ……ッぁ、あ……ん!」「腰揺れてるよ」「ラン、ベルト……っ」「可愛いね、レオン。顔蕩けてるよ。もしかしてもう中に欲しい?」 頷くと、指を抜かれてソープを流した陰茎をあてがわれた。対面座位で挿入され一旦呑み込むのを止めようとすると、両膝の裏を掬われて結腸まで押し込まれる。「や、ぁ、ッあ、あああ!」「っは、キツ」 手で何度も押し込まれる度にイッて、精液が混じった潮が飛んだ。「ああ、ん……っ、ァ、あ、ああっ、ランベルト……気持ちいい!」「ん、俺もッ気持ちいいよレオン」 艶めかしいランベルトの声にも感じていて、腰の奥に力を込めた。「ランベルト……、あ、んん、アアッ! もっと……っ」「ふふ、もっと……なに?」 分かっているくせに聞いてくるランベルトに口付ける。「あ、ん、ぅ……っ、もっと……欲しい!」 シャワー中なのもあり水音が激しく響く。「レオン、ベッド行こうか」
「お前は役立たずなんかじゃない。俺をこうして助けてくれるのはいつもランベルトだ。昔からそうだっただろ。家族もランベルトの事をちゃんと考えてくれる優しい人たちだったんだよ。それにランベルトは家族や周囲の意志を継いでこうして立派に国も立て直した。新しい医療魔法も作った。あれも今後の医療にとても役に立つ。ランベルトが役立たずな訳がない。俺が保証する。お前は偉業を成し遂げた凄い男だよ。ランベルトはもっと誇りに思ってもいいと思う。俺にとってお前は昔からの憧れで一番大切な人だ。仮に誰も必要としなくても俺にはお前が必要だよ。そんな風に言うな」「レオン……」「それに俺はお前を嫌った事もないよ。これからも嫌いにならない。あの時はごめんな、ランベルト。俺、本当は二年の時にはもうお前が好きだったよ。契約に抵触してお前の側にいるのが辛かったから、俺は自分が楽な方に逃げたんだ。お前の事、傷付けてるなんて考えてもみなかった。本当の意味で嫌った事もない。愛してるよ。これからもずっとランベルトだけを愛してる」 ランベルトの顔を上げさせて、誓うように口付ける。正面から視線が絡んで破顔してみせると、照れたように微笑み返された。それからまた何度も口付ける。「「あーてるー」」「こら、めっ!」 双子とエスポワールの声が聞こえてきて、ハッと横を向いた。「レオンとパパなかよししてるから、めっ!」「「めっ」」 エスポワールの言葉を聞いて双子が頷いていた。途端に恥ずかしくなってきて、ランベルトと顔を見合わせるなり笑ってしまった。「そういえば、うちの赤い皇子にも名前をつけなきゃだな」 ランベルトを見ながら言った。「うん。それにしてもコイツらも大活躍だったね。いつの間にあんな魔法使えるようになったの?」 不思議そうにランベルトが首を傾げる。「ゆかにまるいおえかきしたの。ねんねしてるときね、レオンがわるいのにつかまってたの。ばあばにいったらね、おしえてくれたの」 エスポワールが眦を下げて笑う。こういう笑い方もランベルトにそっくりだった。「丸いってもしかして魔法陣かな。エスあれ描けたの? マジで⁉︎ 古代文字だよ。天才じゃんエス!」 ランベルトに抱き
「ちっ」「せ、んせい……何で?」「レオンが言ってた奴ってコイツか! オレが知ってる奴と全然顔が違うじゃねえかよ」 ケミルが叫ぶように口にする。やはり違っていたみたいだ。「アンタ一体いつから生きてる?」「知っているのかサーシャ」 ランベルトからの質問にサーシャが忌々しそうに口を開いた。「知ってるも何も、うちの主人を殺した張本人だからね。青いカルト教団の教祖本人だ。だからレオンを知っていたのか」「あの男は青の一族の血を引きながらドラゴンにもなれない、青いドラゴンの魔法さえも使えない出来損ないだったじゃないか。生きる価値もない。それに比べてレオン・ミリアーツ君は素晴らしい変化を遂げてくれたよ。本当は男児を産ませる為に子宮を作ったんだがな。まあ、青の一族が復活したのなら、青の一族が王になるべきだろう? ミリアーツ君は皇后の座につかせる」 ザウローの言葉を聞いて、サーシャが顔を歪める。「お前たち……スライムと拘束だ」「はい!」「「あいっ」」 サーシャに答え、ベッドの下にいた三人が元気よく返事をした瞬間、ザウローの体は水色のスライムの中にいた。「なっ! くそ、何だこれは!」 スライムを取り囲むように上から白と青の紐がまるで結界のように絡みつき、実質上縛られた形になっている。それでも子どものかけた魔法だ。手間取ってはいたものの、拘束からは逃れていた。かえって刺激してしまったようで、こめかみに血管を浮き上がらせてザウローが怒りに肩を震わせている。「くそ、この紛い物どもが!」 標的とする矛先が子どもたちに向こうとしていた。青い炎がザウローの手に宿る。「アンタ……まさかアンタも青の一族なのか!」 サーシャが言うと、皆も目を見開く。「そうだ。だったらどうした!?」 ここまで熱狂的に青の一族を支持する理由が分かり、舌打ちした。そのまま自らが王になる事で復活させる気なのだ。その隣の座に自分を欲している。ザウローの魔法力が増していく。バチバチと音を立てて、体の周りに青い雷光をまとわり付かせていった。 ——このままじゃ、犠牲者が出る! レオンは咄嗟に魔法
「どうしたんだエス? パレンティアとフィーリアも」「れおー」「うー、れおー」「エスたちね、たたかいごっこするの!」 我が子たちが円陣を組むように遊んでいる。ここは転んでも大丈夫なように床が柔らかく作られている場所だ。三人を女官たちや乳母が微笑ましく眺めていた。「チビ共なにしてんだ?」 背後から顔を出したのはケミルだった。普段は護衛や偵察隊をしているので、王宮を離れる事が多いが今回からは役目が変わっている。レオン専用の護衛になっていた。「戦いゴッコらしい」「うはは、勇ましいな! あ、オレ出産の時に治癒魔法含めて防御魔法係も兼任するから。実は大学院でも成績優秀だったんだぜ?」「そうなのか? 凄いなケミル。俺はどっちも並以下だったよ。あ、大学院といえば三ヶ月前くらいだったかな、初めてドラゴン化した時にあの人見かけて驚いたよ。大学院の時にいたザウロー先生。あの人も精霊族だったんだな。知らなかったよ」 直後、何故かケミルが固まった。「え、誰だって?」 ケミルの問い掛けに戸惑う。「誰って、カメリナ・ザウロー先生だよ。男の先生で魔法学を教えていただろ?」「ちょっと待て、レオン。魔法学を教えていたのは、サリミワ・キャメロン先生で女教師だぞ」「え……。いや、そんな筈は……」 クラスが違うとは言え、教師は変わらない。意見が食い違う筈がなかった。記憶があやふやになる程過去の話でも無い。ケミルは即座にmgフォンを取り出し、通話していた。「王、大学院内で青の一族としてレオンに目星を着けていた人物が分かったかもしれません。魔法学を教えていたカメリナ・ザウロー。オレの記憶ではサリミワ・キャメロンだった人物です。どっちが本当の顔かは分かりません。レオンの話ではソイツはもう王宮内にいます。三ヶ月前に見かけたと話していて……」 ケミルがそこまで言った時だった。血液が全て沸騰してしまいそうな熱を感じて膝をついてしまった。「あ、ああああああ!」 体が熱くて堪らない。下半身を中心に直火で炙られているような痛みが全身を駆け巡る。「レオン!」 ケミルが即座に治癒魔法を施
*** 次の日。王宮の前の広場にランベルトと向かい合わせで立った。これからドラゴン化しながら気をコントロールする術を身につけていく事になっている。遠巻きに王宮の皆んなが眺め、自分たちの仕事をこなしながらまた戻って来たりしていた。 ——あれ? あの人確か……。 一瞬姿が見えただけですぐに見えなくなってしまった。ザワリ、と首元の毛が逆立つ。頭を触られた気がして振り返るが、そこには誰もおらずに首を傾げる。大学院生だった時にも一度同じ事があった。あれは……。「どうかしたの、レオン?」 ランベルトの声で意識を戻される。「ううん……何でもない。俺さ、ランベルトがドラゴンになった姿も見てみたい」「レオンには百聞より一見だったね。先にそうしようかな」 ランベルトが脱力したように力を抜くと、バチンと何かが弾け飛んだ音がした。体の周りを幾重にも連なったパライバトルマリン色の雷光が横向きに走る。輪郭がボヤけて行き、十メートルはありそうな大きな体に、背にある翼も全身を覆い隠せそうな程に大きい。四本の手足が地に降ろされると振動が来た。『怖い?』 頭の中に直接語りかけられる。「ううん、怖くない。かっこよくて綺麗だランベルト」 フワリと空を舞って、ドラゴンになったランベルトの鼻先に口付ける。それから真似をするように力を抜いた。 空にいる筈なのに、水の中を揺蕩っている気がして、流れに身を任せる。肩甲骨あたりがやたらむず痒くなった。バサリと音がしたのと同時に体の感覚がおかしい事に気がつく。視界がやたら高い。「レオン、目を開けてみて?」 言われた通りにすると人型に戻っているランベルトにmgフォンで連続で写真を撮られた。抜かり無い。「レオン可愛いね。綺麗。俺の大好きな青」 ニッコリと微笑まれる。「ちゃんとドラゴンになれたじゃないか」「レオン~かっこいいね」 サーシャとエスが混ざり、その後ろから城にいる者たちが数名駆け寄ってきた。その中にケミルもいる。「レオン、マジで青の一族だったんだな!」 喋ろうとすると「グルル……」と喉が鳴った。このまま言葉は喋れ