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ピロトーク:ふたりで共同作業3

Author: 相沢蒼依
last update Last Updated: 2025-07-04 14:13:26

「お先に風呂、頂きました。どうもありがとう」 

 カレーをお腹いっぱい食べて風呂を先に済ませ、パジャマ姿でリビングに戻った僕。それまで「アレ」を意識しないように、料理に夢中になったり、つい喋りすぎたりしてた。でも郁也さんがどんどん無口になって難しい顔をするから、どうしていいかわからなくて……。

  

(――正直、この状況を持て余してる!)

  

「ビール飲むか?」  

「えっ⁉  いや、えっと大丈夫です」

  

 あたふたする僕を見て、郁也さんが口元を綻ばせる。柔らかい笑みを浮かべて「じゃあこれな」とオレンジジュースのペットボトルを手渡してくれた。 

「それ飲んで、待っててくれ」  

 頬をそっと撫でるように触れて、浴室へ消えていく。触れられた頬が、じんわり熱い。ちょっと触られただけで、ドキドキが止まらない。体がカッと熱くなる。 

 

 さっきだって、調理中にキッチンでいきなりキスされた――「今すぐお前が欲しい」って、ひしひし伝わる、気持ちのこもったキスだった。  

 口では「気持ちの整理ができてる」って言ったけど、完全にはできていない。抱かれたい思いと不安が、ごちゃ混ぜになってる。

 キレイじゃない僕を、郁也さんはどんなふうに抱いてくれるんだろ。いや違う。どんな気持ちで、僕を愛してくれるんだろうな。

  

 はぁっと深いため息をつき、不安を振り切るようにペットボトルの蓋を開け、オレンジジュースを一口飲む。甘酸っぱさが体に沁みまくった。

「やだやだ、考えすぎて頭がぐるぐるしてる。こういうのは、なるようにしかならないのに」

 

 テーブルにペットボトルを置き、ソファの上で膝を抱えたまま横になる。 

 

 すごく居心地がいい――この家に来てから、妙な安心感がある。きっと、家中に郁也さんの香りがするから。まるで体と心を包み込んでくれるみたいな感じ。 

 

 自分の家より落ち着けるなんて、ほんとにすごいな。

「……幸せって、こんな身近にあるんだ」 

 お風呂上がりのポカポカ感と安心感で、うつらうつらしてしまう。

「げっ! こんなとこでガチ寝してるし!」 

 遠くで郁也さんの声が聞こえた。あ、もうお風呂からあがったんだ。

「涼一、慣れないことして疲れたんだな。困ったヤツ……」

  

 文句を言いながらも、その声はすっごく優しい。つい口元が緩む。  

「なんの夢を見てんだ? 随分と幸せそうな顔をして」  

 僕の顔を覗き込んだのか、郁也さんの前髪が頬に触れて、結構くすぐったい。

 

 くすぐったさを回避しようと身じろぎしたら「よいしょ」と抱き上げられ、ふかふかのベッドに横にされる。

  

「ありがとう、郁也さん……」

  

 そう言いたかったのに、どうにもまぶたが重くて、口がパクパク動くだけ。声にならない。

  

「ぷっ、変な顔。口を動かして、なんか食べてんのか?」

  

 僕の寝顔を見て隣で横になったのか、郁也さんの息が肌に触れる。目を開けなきゃ、せっかく二人きりの夜なのに。

  

「おやすみ、涼一」

 額にちゅっとキスされ、ぎゅっと抱きしめられた。 

 

(……郁也さん、大好き――)

 その温もりに包まれているだけで幸せすぎて、そのまま眠りに落ちた。いつも寝つきが悪いのに、信じられないくらい自然に眠ることができちゃった。

  

そして真夜中。寝返りが打てなくて目が覚めた。  

「ん……息が、苦しい」

  

 しかも、なんか暑苦しい。体が金縛りみたいに動かない。

 うっすら目を開けると、郁也さんの胸が目の前にあった。耳に規則的な鼓動が聞こえる。

 

(うわっ、すっごく密着してる!    この状態、ヤバすぎ!)

 急に恥ずかしくなり、両手で目の前にある胸を押し返した。

  

「ん、涼一……?」  

 寝てるのに郁也さんは僕の両腕を押さえつけ、上に乗ってくる。体重でガッチリ押さえられて、さっきより動けない。  

「郁也さん、すっごく苦しいよ!」 

 耳元で訴えてみたのに――。

「そうか、わかった。今すぐ気持ちよくしてやる」

 肩口で囁いたと思ったら、突然耳たぶを甘噛みしてきた。

「なっ、なんで⁉ んんっ!」

 横目で見ると、郁也さんの両目はしっかり閉じてる。寝ながら襲うって、どういうこと⁉

 耳から首筋に舌が滑り、ゆっくり降りていく。 

 

「もうダメだよ、郁也さん!」  

 なんとか片腕を抜き出し、起きるまで何度も頭を叩いた。これは正当防衛だ!  

「いてっ! 涼一、なんだよ?」  

「なんだじゃないよ! 寝ながら僕を襲ったんだから!」 

 郁也さんは頭を擦りながら、じとっとした目で僕を見る。

  

「ああ、そっち系の夢を見てたかも。お前、ソファで爆睡してたからな」  

「それは……ごめん。思ったより疲れてたみたいで」 

 モゴモゴ言い訳するしかない。

「もう疲れ取れた?」  

「え?」  

 いきなり鼻がぶつかりそうな距離まで、郁也さんの顔が近づく。

「今から、仕切り直しがしたいんだけど?」 

 僕の返事を待たずに、噛みつくようなキスをされた。にゅっと舌が入り込み、求めるように絡んでくる。

 

「んっ、ゃ……」  

「嫌じゃねえだろ。散々待たせやがって」

 郁也さんの手が、僕のパジャマを素早く剥ぎ取っていく。

  

「涼一、めっちゃ綺麗だ」  

「でも、僕…その……」  

「大丈夫、優しくする。身をまかせてくれ」  

 髪を梳くように、優しく撫でてくれる。  

「郁也さん――」  

「怖かったら言えよ。いつでも止める」  

「できれば、止めてほしくない」 

 

 恐るおそる言うと、郁也さんが首を傾げる。

  

「僕を郁也さんのものにしてほしい。お願い、抱いて」

 

 暗闇で、ふっと笑う気配が伝わった。

  

「そんなふうに求められたら、止められねえよ。でも、辛かったら言え。止める気ねえけど、優しくするから」

 額、まぶた、頬にキスを落とし、ゆっくり唇を重ねてくる。さっきの貪るキスじゃなく、僕を味わうような、しっとりしたキス。角度を変えるだけで、頭がクラクラする。

  

 キスの嵐と郁也さんの言葉が、胸にじんわり染みて、初めて抱かれる喜びを感じた。

  

「涼一、もう少し……力を抜いて」  

「はっ、ん……はぁ、んんっ」  

「大丈夫か? 辛くない?」  

「だ、大丈夫っ、辛く、ない……うっ」

  

 胸を上下させる僕を、いたわるように抱きしめる。郁也さんの熱が直に伝わり、体温がさらに上がる。

 

 その後――腰を動かすたびにズレる僕の肩を押さえ、ゆっくり動き出す郁也さん。いま僕たちは、ひとつになってる。

「ずっと繋がってたい、涼一」  

「はぁ……僕も、そう、思ってた」  

「涼一、りょう――」

  

 激しくなる律動が頭を侵食して、意識がふわふわする。

  

「郁也さ、もっと…あっ、求めて、ほしい…んうっ!」 

 郁也さんの体に腕を絡ませる。僕の声に応えて、激しいキスをしてくれる。腰の動きがさらに深くなる。貫かれる喜びと気持ちよさが混じり、声にならない声で達すると、郁也さんも僕の中で果てた。

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