機内に入った瞬間、アナウンスが流れ始めた。『ようこそ、NJA(ネオジャパンエアーラインズ)の空旅(そらたび)へ。現在、空旅は休止状態となっておりますが、代わりに"睡眠空旅(すいみんそらたび)"を実施中です。座って是非体感してください』 ⋯⋯急になに? "睡眠空旅"? 歩いて行くと、所々寝ている人がいる。何やら、今はリラックスルームとして使われているらしい。 この飛行機、やたら広いと思ったら2階建て。ジャンボジェットってヤツかな? 奥に行くほどクラスが上がっていき、エコノミークラス、プレミアムエコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスとなっていった。一番奥まで来ると、"スーパーファーストクラス"なんてものまである。 もちろん全席使われており、個室内は見る事が出来ない。ネットでスーパーファーストクラスを調べてみると、個別で浴槽や冷蔵庫など、あらゆる最新小型AIが設置されているという。もう住めるほどになっているみたい。 ⋯⋯いつかゆっくりできる時に、ルイと来たいな 2階に上がると、1階と同様に分かれていた。こっちの方が人気のようで、さらに人が多い。体感、1階の倍以上はいる。 結局、どこを探しても"ルイのL.S."は見当たらず、帰り際に少しだけ"睡眠空旅"とやらを体感してみた。スイッチを入れて寝ると、どういう仕組みなのか、脳内に"空の旅行風景"が浮かんでくる。 これ凄い。寝ているだけで映像や音などの臨場感を味わえ、もう空を飛ばなくてよくなってくる。何かデバイスを付ける必要も無いため、気軽にできるのも良い。 ⋯⋯だけど、今はこんな事してる場合じゃない さっき出て行った人たちは、ここでこうして休んでいたのね。ヤツらも来ないし、住み着いている人も多そう。いつまで安全かは分からないけど⋯⋯ 集合場所へ戻ってくると、私以外みんないた。見るに、誰も"ルイのL.S."を見つけられなかったらしい。「ユキ先輩の方も無かったみたいですね」「えぇ」「ねぇユキちゃん、"睡眠空旅"やってみた?」「⋯⋯ほんのちょっとだけ」「やっぱやっちゃうよね~、結局みんなやっちゃったんだ」「黒夢はしないと思ってたけどねぇ」「いいでしょ、数秒なんだから」 まぁやりたくなるよね、あれは。 ニイナがやってるのを想像すると、ちょっと面白いかも。 残るは"3階のみ"
時間は≪2030.09.26 PM 20:35≫。 外を見ると、真っ暗な都会に赤い光が未だ漂う。この中で生き残っている人数は、もう東京人口の半分にも満たない。約700万人が殺されるという、前代未聞の死者数になっている事を"あのモノリス"で見てしまったから。 放物線のように、加速的に人が死んでいっている。残っている人は、戦う覚悟を決めた人か、上手く逃げ続ている人か、その辺なんだろう。これから私たちの未来はどうなってしまうのか、そんな不安が常に心を襲い、息苦しくなる。「おう、新崎さん一人か」 個室からシンヤ君が出てきた。「なぁ、羽田空港の国際線は【第2ターミナル】と【第3ターミナル】にあるけどよぉ、どうする? どっち行く?」「うーん⋯⋯」 そういやそうだった。どうしよう。「アスタが言ってたけどよぉ、女子が2番、男子が3番で分かれて探索しようって話が出てんだけど」 ⋯⋯【第3ターミナル】って、新しくなってからよく知らないのよね。詳しくない私が行くのは、足手まといになる可能性がある。「そうしましょうか。私たちが【第2ターミナル】ね」 ここで「一緒に行動しないの?」という言葉が首の根本まで出かかったけど、さっきのアスタ君の言葉がそれを塞き止めた。"僕の方でも調べたい事がある"、その言葉が。 羽田が微かに見えてくる頃、ここも赤い光に包まれているのが見えた。どこまでも"この赤"が付いてくる、逃げる事が出来ない。「そろそろ到着します」 ロアツーのアナウンスが車内に響く。このマッサージチェアともしばらくお別れ。おかげで、かなり身体の疲れが取れた気がする。 先に着いたのは【第2ターミナル】で、【Terminal 2】と上に書かれた場所の前で車が止まる。「ねぇ、場所を"国際線のみ"に絞ってるみたいだけど、海外に悪用されるかもしれないからって話からよね?」「そう。ルイ君は今いない?」「⋯⋯出てこないわね」「たぶんルイ君でもそう判断するはずさ」 私たちは降り、「何かあったらすぐ連絡して」とアスタ君の声が最後に響いた。男子組と分かれ、また女子組だけでの行動が始まる。「また女子だけになってしまいましたね。まぁ、望んでの形にはなりますが」「そうだね~」 ニイナとヒナが先を歩いて行く。 そう、前とは違う。次はちゃんとみんながいて、武器も使える。連絡
「なんで"ロアツー"がここにいるの!?」「スカイツリーへ来たのがGPSにて判明しましたので、エレベーター内部に、この"超小型カメレオンドローン"で侵入し、追跡させてもらいました」「そんなのがあるの!? 気付かないわそれは⋯⋯」 米粒サイズの変色型ドローン。 その場に沿った色へと変わり、どこにいるか目を凝らして見ないと本当に分からない。「"ユエ様の死亡"から規定時間を超えたため、我々の所有権は"新崎ユキ様"へと移ったのです。これからは"ユキ様"にお仕えします」「え、私!?」「はい。"三船ルイ様も死亡"のため、"ユキ様"へとなっています」 ヒナとシンヤ君が小さな声で「いいな~」と言ったのが聞こえた。 私には何が何やらって感じなんだけど⋯⋯「羽田空港へ行かれるのですよね。こちらへ準備しております」 ロアツーの案内先に、あの車があった。飯塚さんに散々お世話になった、あの車が。その手前で、プロトロア2体までもが立って待っている。「んじゃ! また世話になるしかねぇな!」 シンヤ君が一番に乗り、次にヒナが乗ろうとした時、「(これって、僕たちも乗っていい感じ?)」 アスタ君がこそっと私の耳元で囁いてきた。「(ダメって言ったら?)」「(え、この流れで?)」「(嘘に決まってるでしょ。好きなとこへどうぞ)」「(そういう事言うようになったんだ、新崎さん)」「(前と変わった?)」「(なんか、より人間らしくなったというか、そういうとこ好きだよ僕は)」「(え、告白?)」「(さぁ?)」 全員が乗り、車は羽田空港へと向かい始めた。約30分ほど掛かるみたい。この車はフライト機能も付いてるらしいけど、モンスター等に狙い撃ちされる可能性があるため、それはしないで行く。 各々が到着までゆっくりする中、私はアスタ君がいる個室へと入った。この車には個室が4つほどあり、ヒナ以外が今使っている。「ねぇ、ちょっといい?」「いいよ」「悪いわね、一人でいるとこ」「構わないよ」 L.S.で何かを調べながら、私の話を聞いている。「新宿警察署⋯⋯行ったのよね?」「行ったよ。君たちが僕らを探すために入った可能性があったからね。そっちも同じ?」「うん。やっぱりすれ違いだったんだ」「みたいだね」「気になってた事があるんだけど、新宿警察署の9階、あれはどうやって行
「なにを言ってるの⋯⋯? ここにいるじゃないッ!」『これは⋯⋯ユエさんが死後に送ってくれた"特別なアイテム"の効果だ。紀野大臣が使った"赤い注射"の応用で、死ぬ直前に銃剣に打ち込んで、気力だけで"UnRule内"に漂ってる』「⋯⋯そんな⋯⋯そんなわけないでしょ? あなたがそんな事になるわけ」『落ち着け、ユキ。"UnRuleの具現化"でこうしていられるって事は、もしかしたら身体だってどうにかなるかもしれない』「ほんと!?」『あぁ。逆にこれを利用してやればいい。だから、これから手伝って欲しい事がある』「分かった。なんでも言って」 ルイの手を握った。 ⋯⋯体温を感じない。『見ての通り、このやり方だと、大臣のようにまで上手くいかないらしい。これを補うには、"俺の持っていた本物のL.S."が必要になる。今付けているL.S.は、"UnRule上で体現されているだけの偽造品"だしな』「どうして、それがあれば上手くいく事が分かるの?」『⋯⋯俺を殺したのは"未来の俺"だ。アイツは操られて、利用されている。アイツの内にある、"抗う声"が伝わってきたんだ。"お前はL.S.を取り戻せば、実体化してまだ戦える"って』「未来の⋯⋯ルイ⋯⋯? それって、前にした"夢の話"に出てきたのが、正夢になったとか?」『かもしれない。本来の目的は、"みんなを助けたかった"そうだ。それを誰かが邪魔してる。アイツも被害者、助けてやらないと』「⋯⋯まだ、何となくしか理解が追い付かないけど、まずは"本物のL.S."を取り戻せばいいのね」『悪いな。でも、死んだのが俺でよかった。こうやってまだ、引き継ぐ事ができる』「バカな事を言わないで。あなたが戻ってくるのを、みんな待ってるんだから」「そうですよ、ルイ様。私たちは待ってます」 ニイナが当たり前のように傍に来る。『み⋯⋯見えるのか?』「はい。私とユキ先輩だけにしか、見えないようですが」『⋯⋯俺とユキに関連する物、何か持ってるんじゃないか?』「ん⋯⋯あ、もしかしてこれでしょうか」 彼女が左ポケットから出したのは、"円雪花(えんせっか)のお守りの半分"だった。「え、それ私の!」「実は、ユキ先輩が倒れてる時に拾ったんです。返すのを忘れていました」 これのおかげでニイナはルイが見えてるの? 原理は分からないけど、それなら⋯
「その声⋯⋯新崎さんか!?」「え⋯⋯シンヤ君!?」「おう! やっと会えたな!」「よかったぁ! 生きてたのね!」「ったりめぇだろ! 死ぬわけがねぇ!」 なんとその人影の一人は"シンヤ君"だった。 やっと⋯⋯やっと見つけた⋯⋯! あまりに嬉しくて、泣きそうになる。「お、そっちは?」「この子はノノ。私とルイが昔よく一緒に遊んでいたの、小学生の時にね」「へぇ~、よろしくな!」「えっと、どうもっす」 さらに、残りの二人が霧から姿を現した。「"これ"で来ているのは分かっていたよ、やっと会えたね」「アスタ君ッ! それが"死者生者確認"モノリスってやつなの?」「そう」 アスタ君が触る"真っ赤なお墓?"のようなシステム。あれで私たちが来るのが見えていたという。「"これ"の示す内容が本当に正しいかどうか、分からなかったけど、ここで会えたという事は正しいんだろうね。ニイナも大変だったね、生きていると信じていたよ」「⋯⋯私も⋯⋯ずっと信じていました。こんな嬉しい事、ありません⋯⋯カイも無事でよかった」「ニイナも、な」 二人にニイナは飛び付いた。 初めて涙を流す彼女を見ると、諦めなくて良かったと心から思う。「ひなひー! 会えて嬉しいぜぇ~!」「私もですよ~! それでどうしてそんな格好してるんですか?」「あぁこれはな、アスタの野郎に借りたんだよ! この格好ならよぉ、銃で撃たれた時防いでくれるらしいんだ。"近くの3人以上が同じ服装なら、そういう効果がある"んだとよ!」 それでシンヤ君も"黒い服装"をしてたのね。 なら、前に聞いた目撃情報に納得がいく。「え⋯⋯私、知りませんでした」「ごめんね、どこまで効果があるか分からないから、実際に食らった時に言おうと思ってたんだよ。まぁ効くのが分かったから、さっきカイには言ったんだけどね」「僕がヘマして撃たれちゃって、これのおかげで助かりました」 それぞれが嬉しそうにする中、私は一人、"死者生者確認モノリス"へと近付いた。 ホログラムのタッチパネルが起動する。 安心できた今、"早く確認しなければいけない人"がいる。私は検索欄に【三船類(みふねるい)】と入れる。 何人か同名が一覧に出てきたけど、顔、年齢、身長、体重など、個人情報を比べてすぐに分かるようになっている。 とにかく今は彼の無事が知り
エレベーターが来るまで、近くにあった"土星ベンチ?"へと座った。今のうちにXTwitterを確認してみても、相変わらず"はぐれた3人"の手掛かりは見当たらない。 その代わり、スカイツリーが現状どうなっているのか、書いてる人が結構いた。「赤い霧だらけで危険そう」「赤霧で何が何やらよく分からない」といった感じの内容ばかり。みんなにも情報を共有する。「赤い霧ってさぁ、"毒霧"じゃないよね!?」「どうだろ⋯⋯」 新宿警察署で使ったお面、吸った酸素を浄化する仕組みも付いてるのよね。ノノの言う"毒霧"なら怖いし、ニイナまだ予備持ってるかな。「ニイナ、私たちが付けてるお面の予備ある?」「はい、ありますが」「ノノに1個あげて。一応対策しといた方がいいわ」「⋯⋯仕方ないですね、これは"先輩方のための物"なんですけど」「そんな強調しながら言わなくてよくない!?」 つっこむノノに、私たちと同じお面が渡される。 これ本当に便利なのよね。付けていて違和感無いし、肌にも優しくて、耳も痛くない。「ねぇ黒夢、その"黒い能面"はどこで手に入れたの?」「⋯⋯今探しているアスタ様が、分けてくれた」「へぇ~、その"アスタ様"ってのは強い?」「あんたよりも私よりも何倍も」「ふ~ん。黒夢がそこまで言うなら、大丈夫そうだね、その人」「当然でしょ。無駄な質問しないで」 相変わらずの二人。 それにしても、あの"黒能面のようなモノ"は他にもあるのかな? カレンさんの持ってた"梅の花の鎧"もあるみたいだし。 私とヒナは持っていないから、正直かなり羨ましい。 ⋯⋯って言っても、死ぬほど苦労しないと手に入らないのでしょうね。 ニイナとノノの会話を聞いていたら、巨大な金のエレベーターが帰ってきた。このエレベーターは"どの辺りの1階"に繋がってるんだろう。もちろんSNSに情報は一つも無い。 エレベーターが動き出すと、突然プロジェクションマッピングが始まり、"スカイツリーのフロアガイド"が立体的に映され、アナウンスまで流れ始めた。『ようこそ、東京スカイツリーへ。現在、内部全体が赤霧(せきむ)によって包まれており、大変見にくい状態となっております。ライトは付けず、目の前と足場を確認して歩くよう、ご注意ください。なお、フロア450にて、"死者生者確認モノリス"が特別に設置されており