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第10話

Author: marimo
last update Last Updated: 2026-01-10 20:07:38

それは、懐かしい熱だった

 その男は、真琴の名前をフルネームで呼んだ。

「……秋山真琴?」

 声に振り向くと、少し驚いたような、でも楽しそうな顔があった。

 スーツ姿。ネクタイは緩め、仕事帰りらしい。

「あ……」

 一拍遅れて、記憶が追いつく。

「久しぶり。覚えてる? 大崎」

 覚えている。

 忘れるほど薄い関係ではなかった。

「大崎、慎也……?」

「懐かしいな、その呼び方!まだ覚えてくれてたんだ」

 彼はそう言って、笑った。

 あの頃と変わらない、軽くて人懐っこい笑顔。

 場所は、駅近くの立ち飲みバーだった。

 真琴は仕事帰り、なんとなく寄っただけだった。

 誰かに会う予定など、なかった。

「真琴、今は何してるの?」

 呼び捨て。

 それだけで、胸の奥が少しだけざわつく。

「医療事務。病院で働いてる」

「へぇ。意外」

 そう言われるのは慣れている。

 広告代理店時代の真琴を知る人間は、だいたい同じ反応をする。

「大崎は?」

「俺? まだ広告。相変わらずだよ」

 懐かしい単語だった。

 締切、修羅場、深夜のコンビニ、朝焼け。

「一杯、付き合わない?」

 断る理由はなかった。

 断る必要も、感じなかった。

 グラスを合わせた瞬間、

 真琴は、昔の自分に戻ったような錯覚を覚えた。

 会話は軽く、テンポがいい。

 仕事の愚痴、昔の同僚の噂、どうでもいい笑い話。

「真琴さ、変わったよな」

「そう?」

「落ち着いた。でも……それ、好きだった?」

 一瞬、答えに詰まる。

 好きかどうか。

 考えたことは、なかった。

「悪くはないよ」

「ふーん」

 大崎はそれ以上、踏み込まなかった。

 その距離感が、心地よかった。

 楽しい。

 ただ、それだけ。

 帰り際、大崎が言った。

「また飲もう。今度は、ちゃんと時間あるとき」

 名刺代わりに、スマホを差し出される。

 真琴は一瞬迷い、連絡先を交換した。

 駅のホームで、電車を待ちながら、

 胸の奥が、少しだけ熱を持っていることに気づく。

 ――楽しい、だけじゃダメなんだっけ。

 そんな疑問が浮かんだが、すぐに消えた。

 翌日、真琴は所用で訪れていた楓と再会した。

 病院のエントランス。

 白衣姿の楓は、相変わらず忙しそうで、それでも凛としていた。

「真琴」

 名前を呼ばれて、足が止まる。

「久しぶり。こ
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