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キャラクター紹介

last update Last Updated: 2025-07-02 18:00:28

第1章 辻沢のこのごろ

◆主要登場人物

○藤野 夏波(フジノ ナツナミ)<主人公・語り手>

 藤野家の養女。辻沢女子高校3年生。6月30日生まれの18才。

 前園十六夜に運命を感じ園芸部の創部メンバーとなる。

 入部後、作業用AIに学習させているうちに「偶然」庭師AIを生成する。

 「日本庭園の辻女園芸部」の知名度を足がかりに

 卒業後は十六夜とともにメタバース内へのディストリビューターでの起業を目指す。

○藤野 冬凪(フジノ フユナギ)

 藤野家の養女。辻沢女子高校3年生。12月31日生まれの17才。

 幼い頃から藤野ミユキの薫陶を受け

 将来フィールドワーカーを目指す

 専門は過去に起きた事故、事件の社会的要因を探る

 アクシデント・インシデント・エスノグラフィー(シデント・エスノ)

 現在の興味は20年前に辻沢で起った

 辻沢要人連続爆死案件の調査。 

○前園 十六夜(マエゾノ イザヨイ)

 ヤオマンホールディングス創業家のお嬢。

 辻沢女子高校3年生。8月生まれの18才。

 ヤオマンHD前会長爆死後に生まれた。

 園芸部創部メンバー兼部長。

○佐倉 鈴風(サクラ スズカゼ)

 辻沢女子高校1年生。15才。

 園芸部所属。

 本当はゲーム部に入りたかったが十六夜からの強引な勧誘に屈して入部した。

 ツール類の習得が早く、次期部長候補。

 VRブースに火を入れるのはこの人の役目。

○藤野 ミユキ

 夏波と冬凪の養母。

 N市立大学社会学部准教授。

 フィールドワークが専門。

○野太(ノタ)クロエ

 藤野ミユキの大学時代からのパートナー。

 N市で最も人気があるガールズバー「Reign♡In♡Blood」の経営者。

 経営は他の人に任せ、所有するVRゲームチームに帯同して世界各地を

 飛び回っている。

○ユウ

 血のつながりはないがクロエと瓜二つの顔を持つ謎の女性。

 夏波の誕生日だけ藤野家に現れてカレーパンマンのミニぬいぐるみを置いてゆく。

 夏波は産みの母でないかと思っているが、不明。

◆辻沢女子高等学校

○川田校長先生

 辻沢女子高等学校校長。

 元バスケ部顧問だけあって、ゴミ捨てのコントロールはいい。

○遊佐(ユサ)セイラ先生

 夏波たちの担任(教科不明)。

 以前ヤオマンHDの子会社YSSで働いていたらしい。

○響(ヒビキ)カリン先生

 保健室の先生。

 以前ヤオマンHDで働いていたらしい。

◆辻川市役所

○「帰って来た」辻川 ひまわり町長

 高校3年生の時に失踪(女バス連続失踪事件)したが数年後突然帰って来た。

 失踪していた間の記憶はない。

 父親の辻沢町長の爆死後、しばらく他人が務めていた町長の座を奪い返し町長となる。

 2期目。

◆ヤオマンホールディングス

○前園 日香里(ヒカリ)会長

 ヤオマンHDの会長、アントレプレナー(創業者)。

 辻沢という小さな街の八百屋を一代で世界的なコングロマリットに成長させた大立て者。

 あることがきっかけで10年以上表に出てきていない。爆死した前会長は元夫。

○伊礼(イレイ)魁(カイ)社長

 ヤオマンHDの社長。事実上の経営権限者。

 六道園プロジェクトの受託者。

 十六夜と夏波の園芸部を物資面でサポートしてくれている。

 庭師AIからは大殿と呼ばれている

○Zen@mi(ゼンアミ)

 夏波が作業用AIを学習させていたら突然生成された庭師AI。

 六道園プロジェクトのプロジェクトマネージャー。

◆遺跡踏査の人たち

・調査員(全員マスク着用)

○赤(アカ)

 班長。語尾にでちゅと付けると受けると思っているおじさん。

○佐々木

 副班長。中年男性。

○曽根

 記録係。若い男性。

・作業員

○ブクロ親方

 痩せていて若く見えるが30代。

 鞠野教頭から譲られたバモスホンダ360に乗る。

○豆蔵(マメゾウ)くん(=ユンボくん)

 2mを越える巨体の高校生。

 何故かシャムシール(新月刀)を持っている。

○定吉(サダキチ)くん(=ミニユンボくん)

 筋トレマニアの髭面の高校生。

 何故かシャムシール(新月刀)を持っている。

○江本さん(=ティリ姉さん)

 夏波たちにエグい苦労話をする人。

◆その他

○高倉さん

 前園家のお手伝いさん。

 調由香里の首のありかの情報を夏波たちに教えてくれる。

○千福 まゆまゆ

 六道辻の爆心地近くの土蔵に住む謎の双子姉妹。

 それぞれ白黒の市松人形のような格好をして

 白黒市松人形の中から登場する。

○夜野 まひる

 伝説のVRゲームアイドル。鈴風の推し。

 20数年前、冬のオホーツクに搭乗機が墜落して帰らぬ人となった。

○チブクロ

 元々は夜野まひるのファンクラブだったが、

 今は、浄血というスローガンで血を集めて夜野まひるの復活を

 祈念するカルト集団化している。

◆辻沢要人連続爆死事案の犠牲者。

 ○調(シラベ)由香里(ユカリ)

  辻沢を裏で牛耳ると言われる六辻家筆頭(辻王)当主。

  爆死はしなかったが自宅で首なし遺体で見つかった。

  ヤオマンHD会長の前園日香里とは幼なじみで、

  ユカ、ヒカと呼び合う仲だった。

 ○辻川 雄一郎町長

  辻川ひまわり町長の父親。

  六辻家(辻まん)当主。

  元は東京で反社をしていたらしい。

  青物市場で野垂れ死にそうになっていたのを

  前園萬太郎に拾われ辻川家の養子となる。

  市役所の倒壊事故の前の町長室での爆発に巻き込まれて

  亡くなったと言われているが遺体は発見されていない。

 ○千福オーナー

  辻沢不動産のオーナー。辻沢の長老。

  六辻家(辻一)当主。

  六道辻の爆心地で爆死した。遺体は発見されていない。

 ○前園 萬太郎ヤオマンHD前会長

  ヤオマンHD現会長の元夫。浮気者のサイコパスと噂されていた。

  自宅爆発事故で死亡。

◆鬼子△とその他の人外◇

 △鬼子(オニコ)

  人狼の一種で、満月新月の夜に自失して獣身の「ボク」に変化し、地下道や青墓にいる屍人、ヒダル、蛭人間や地縛霊等の人外を滅殺して回る。

 △鬼子使い(オニコツカイ)

  鬼子が自失している間に人を害さないよう監視する役を担うもの。満月新月でも「ボク」にはならない鬼子の亜種。

  鬼子に自分が鬼子であることを悟らせないよう、明け方の自失から目覚める閾(しきい)の間に元の生活圏に連れ戻す。

  鬼子とは、前世、現世、来世の永劫の時に渡って、赤い縁(エニシ)の糸で結ばれている。

 △夕霧太夫(ユウギリダユウ)

  鬼子使いの始祖。

  街道一の楼閣、阿波の鳴門屋の名妓。

  絶世、傾城、別品とはこの遊女のためにある言葉。

  病に伏しているときに、焼き討ちに遭い焼亡した建屋の下敷きとなるが、

  後に伊左衛門らよって掘り出され、故郷青墓への旅に出る。

 △伊左衛門(イザエモン)

  鬼子の始祖。

  夕霧太夫付きの禿。海に身を投げ浜に打ち上げられたところを夕霧太夫に拾われた。

  死を予感した夕霧より印(しるし)の薬指を授かり、死後、墓より掘り出して故郷の青墓へ連れ帰るように頼まれる。

 ◇辻沢のヴァンパイア

  妓鬼(ギキ)ともいう。

  始祖の母宮木野から派生した吸血鬼の血統。

  母宮木野が死後出産した双子の宮木野と志野婦の子孫。

  吸血行為は必要だが、吸血行為でヴァンパイア化(V化)しない。

  宮木野の血を引く者のうち双子として生まれた者はどちらかがヴァンパイアの因子を保有し

  大量の血液成分を摂取するか浴びるかすると覚醒してV化する。

  非保有者はV化した兄弟姉妹に死ぬまで血を提供し続ける。必ず先に死のでその役目は子供に引き継がれる。

   双子の両方が因子の保有者で覚醒した場合は、他家から餌となる双子を調達する。

 ◇屍人(シビト)(=ゾンビ)

  辻沢のヴァンパイアに吸血されても感染しないが、失血死した場合は屍人(ゾンビ)となる。

  辻沢の青墓の杜や地下道に生息し、滅殺してもしばらくすると青墓のどこかで

  復活して未来永劫濁世をさ迷い歩くと言われる。

 ◇蛭人間(ヒルニンゲン)

  非合法バトルゲーム「スレイヤー・R」のエネミー。主に青墓の杜に生息する。

  ヤオマンHDが屍人を人為的に改造したホムンクルス。

  ハンプティーダンプティーのような体形で、両手の指が鋭利な鉤爪状に

  なっている。

  男は、改・ドラキュラといい、坊主頭にセーラー服。

  女は、カーミラ・亜種といい、三つ編みにセーラー服。

  「スレイヤー・R」のプレイヤーのスレイヤーを見ると襲って来る。

  通常一体二体ごとに出現するが、時に青墓中を埋め尽くすほど出現することがある。

 ◇ヒダル

  ダル神のこと。「だるい」の語源という説もある。

  行路死亡人、行き倒れた人の残留思念。

  行路で弱った人に取り憑き人格を乗っ取ると言われる。

  長い坂道などでひもじくなって歩けなくなった時はヒダルに取り憑かれているので、

  掌に「米」の字を書いてそれを呑むふりをするとヒダルが騙されひもじさが直るという言い伝えがある。

  辻沢の「ひだるい」は疲れたを意味する方言。

第2章 辻沢のあのころ(20年前)

◆辻沢市役所

〇エリさん

 町長室兼広報室秘書。

 実質的な町長室の支配者。

◆ヤオマンホールディングス

○前園 日香里社長

 HDの実質的経営者。

〇響 カリン

 経営戦略室付きのOL。

◆辻沢女子高等学校

○鞠野教頭先生

 ミユキ母さんの大学生時代の指導教授。

 ミユキ母さんたちの神隠し事件後に大学を退官して辻女の教頭になる。

 辻沢に来た夏波たちにまゆまゆさんからのミッションを授ける。

 バモスホンダ360に乗る。

 発進するとき「全速力で参りましょう」というが超のろい。

◆辻女バスケ部員失踪事件関係者(24年前)

○川田先生

 バスケ部顧問。

○調 レイカ

 元バスケ部マネージャー。

 調由香里の娘。

○響 カリン

 元バスケ部シューティングガード。

 高級国内スポーツカー、エクサスLFAに乗る。

○遊佐 セイラ

 元バスケ部サブ。

○千福 ミワ

 元バスケ部センター。副キャプテン。

 千福まゆまゆの母親。

○蘇芳 ナナミ

 元バスケ部パワーフォワード。

 辻沢一の山椒農園主。

●辻川 ひまわり

 元バスケ部ポイントガード。キャプテン。

 連続失踪事件の最初の失踪者。

●ココロ

 元バスケ部サブ。

 連続失踪事件の二番目の失踪者。

●シオネ

 元バスケ部スモールフォワード。

 連続失踪事件の三番目の失踪者。 

◆その他

○高倉さん

 調家のお手伝いさん。

○作左衛門さん

 蘇芳家に居候する青年。

 人の目を覗き込む癖がある。

○コミヤ ミユウ

 夏波が鞠野フスキに名乗らされる名前。

○サノ クミ

 冬凪が鞠野フスキに名乗らされる名前。

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    「最初の額絵は夕霧太夫がいた阿波の鳴門屋の場面だよ」クロエちゃんが説明してくれた。夕霧太夫は阿波の鳴門屋という街道一の楼閣でとても人気があった遊女だったそうだ。そして一番近くにいるかわいらしい禿さんが伊左衛門で、この二人のつながりが鬼子の最初のエニシだと言った。「次のは鳴門屋が炎上した時の場面」 隣の額絵は阿波の鳴門屋が炎に包まれ、夕霧太夫が火中でもだえ苦しんでる様が描かれてある。すでに体は赤く焼けただれ、まるで火炎地獄で責めさいなまれる亡者のよう。「次のは伊左衛門が、鳴門屋が焼亡したあとの瓦礫の山の中から夕霧太夫を引き出す場面」焼け落ちた瓦礫の山から黒々とした異形の者が引き出される様子が描かれてあった。夕霧太夫は真っ黒な消し炭のような状態になっても生きていたのだそうだ。「その横のが三人のアラビア人と伊左衛門が再会する場面」ここに再び豆蔵くんと定吉くんとブクロ親方が登場する。そして旅姿の遊行上人(この人だけ説明付)が何かを指ししめていた。「遊行上人が夕霧太夫を青墓にあるブルーポンドに連れて行けと言ってる」ブルーポンド? それだけなんでカタカナ?「それでその次のが、黒焦げの夕霧太夫を幟旗の付いた土車に乗せて、伊左衛門と三人の異国の人たちが街道を運んでゆく場面」 道中の様子が描かれている中、暗い山道の箇所で夥しい数の怪物に一行が襲われていた。「これはひだるさまというヒダルとはレベチの強敵。あのユウでさえ手を焼いてた。あたしたちは地獄の獄卒って言ってた」婉曲した刀、シャムシールを振り回して先頭で交戦しているのは大男の豆蔵くんや定吉くんとブクロ親方だ。けれども相当苦戦しているのが分かった。伊左衛門などは片足を切り落とされてしまっている。「その次は、青墓の杜の近くの六地蔵の前で三人の異国の人たちと伊左衛門が握り飯を分けあっている場面」 この先に危険が迫っていることを知っている伊左衛門はここで豆蔵くんたちに別れを告げるけれど、豆蔵くんたちはそれを聴き入れず最後まで夕霧太夫に付き従うと言っているのだそう。「その次の場面は、青墓の杜でこれまでにない数のひだるさまに襲われた一行の激戦の雄姿

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-68.夕霧物語(2/3)

     しばらくしてクロエちゃんが、「あったけど、こんなの不気味すぎ」 と手にしていたのは赤い和蠟燭と取っ手の付いた蝋燭立てだった。「怪談とかに使うやつ」「そうそう」 でも、どうやって火を点けるんだろうと思っていたら、「たしかこの辺に」 とクロエちゃんが鴨居の中を手探りし始めた。「あった。点くかな」 と手に持ったのは上の部分が銀色で薄青色で透明のライターだった。そのライターを何度か擦ってようやく火が点くと、その火で和蝋燭を灯した。みんなの影が揺らぎながら社殿の壁に映っている。クロエちゃんが蝋燭立てを床に置いた。社殿の中には何もなく、板敷の床は土埃が浮き、いつのか分からない足跡がたくさんついていた。一番奥の、普通なら鏡とかがある高くなった場所には何も置かれていなかった。神様不在の神社。そんな感じがした。「さて。ここに夏波を連れて来たのは」 とクロエちゃんが壁の上のほうを指した。そこにはいかにも昔のものといった絵が何枚か掲げてあった。漆塗り風の黒い額に縁どられ、素朴な彩色の絵は所々絵の具がはがれてキャンバスの板目がむき出しになっていた。それがあたしにおそろしいことが描いてあるという印象を与えた。「額絵って言ってね、この神社の縁起、どうやって建てられたかってことね、が描いてある」 冬凪が説明してくれた。「夕霧太夫と伊左衛門の物語だよ」 それからクロエちゃんはその一枚一枚の絵を示しながら、鬼子の祖と言われる夕霧太夫とその従者、伊左衛門の死と再生の物語を語って聞かせてくれた。 一番右の絵には吹抜屋台の寝殿に人々が配されていて、ただそれが物語絵巻とかで見る宮中ではないのは、中央に描かれた女性がどう見ても遊女で、そのまわりに集まっているのが酔客、禿たち、それと彫が深く肌が浅黒い3人の異国の人だったから。その三人のうちの一人は軒を超えるほどの大男だった。そしてその横にいるのは髭面の戦国武将のような男。そして細身の若い男。この三人にどこか見覚えがあると思ったのは、豆蔵くんと定吉くん、それにさっきあたしたちをポルシェにのせてくれたブクロ親方にそっくりだったからだ。

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