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1-23.ママの悪事(1/3)

last update Huling Na-update: 2025-07-29 06:00:35

 大型モニターに映し出された十六夜はいつもの明るい顔をしていた。

「夏波。久しぶり、かな? 夏休みになってどれくらいたった? バイトは順調? 相変わらず暑いのだろうね」

 そこまで言うと、十六夜は言葉を切った。そして改まった顔になって、

「実は夏波に隠していたことがあってね。それをこの映像で言っておきたいと思って高倉さんに夏波が訪ねて来たら見せてもらうように頼んで置いたんだ。それからきっとボクの姿、おっと、あたしの姿を見て怖がらせてしまったかもしれないけど、それはゴメンね。いま、ボクとあたしの統合が起こってて……。そっかそんなこと言ってもわからないか。とにかく、ボクは『辻沢の鬼子』と言われる存在で姿は見たままの獣なんだ。と言ってもあたしも最近になって分かったんだけどね。それが隠していたことなんだけど。何がそうさせたか。そうだな。まず、あたしのママとママの親友の話からするよ」

 十六夜は前園日香里と調由香里の話を始めた。それは、以前あたしが高倉さんに聞いた話と同じだった。ただ、最後のところが違った。

「調由香里は首を切られて死んだけれど、ママはそれを生き返らそうとしたんだ。ヤオマンには屍人からホムンクルスを生成する技術があって、それを応用すれば可能だと思ったみたいなんだ。でもね、結局屍人は屍人だった。いくらやっても元のように生き返らせることはできなかった。それで何度も出来たホムンクルスを滅殺しては試行錯誤を繰り返し15年という歳月が流れた。そして3年前、ホムンクルス生成技術にイノベーションが起きた。それは、若い女の血を使うという方法だったんだ」

 そこで十六夜は言葉を切って下を向いた。むせ返っているかと思ったら、顔を上げると笑っていた。

「笑っちゃうだろ。若い女の血を使うだって。それ、おっさんの発想だよ」

 めっちゃハゲドー(死語構文)。

「けれど、それでずいぶんと人らしいホムンクルスが誕生するようになったからママの暴走に拍車がかかってね。瀉血や浄血騒ぎに紛れて女子高生の血を集め出した。経営に興味がある子を屋敷に呼んで眠らせ血を採ったりって、犯罪だよね」

 経済界の大立者がいったい何をしていたのか。これってばれたら大スキャンダルになる。
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    「そろそろお時間です。あちらのベッドにおもどりくださいませ」 部屋を出るときVRブースの十六夜をもういちど振り返って見た。そのときフラッシュバックのようにあの言葉がよみがえってきた。「鬼子は船であの世へ渡る」 鞠野文庫で見付けた『辻沢ノート』に書いてあった言葉。ミユキ母さんが補陀落渡海って言ってたのを思い出した。VRブースの中にがんじがらめになった十六夜が即身成仏の行者のように見えたせいかもしれない。 なんで他人のために命を賭けるの? じゃあ、だれが十六夜を助けるの?「あたしが十六夜をなんとかするから。待っててね」 あたしは高倉さんに促されるままVR部屋を出て、もとのベッドに横たわった。高倉さんがベッドの枕元の側に来た。あたしはその金色の瞳をみつめながら聞いてみた。「高倉さんは本当は何者なんです? ひょっとして」 十六夜のママが宮木野の亡霊って言ってたのが高倉さんのことだとすると、メイドさんではなくて本当は。「私は宮木野……」 やっぱりそうか。「……神社の宮司の妻です」 違った。残念。そもそも宮木野だって大昔の人だもの、生きてるはずないか。いや、ヴァンパイアっていうからありだけど。もうわけがわからない。「心配ないですよ。ちゃんともとの場所にお連れしますから」 高倉さんがあたしの額に冷たい掌を当てた。あたしは急に眠くなって目をつむったのだった。 目が覚めたのは園芸部の部室だった。あたしはVRブースの中で眠りこけていた。「夏波センパイ。心配になって来てみたらお昼寝ですか?」 鈴風がブースを覗き込んでいた。「外から見たらVRブースに火が入りっぱなしだったんで」モニターの時計を見ると17時だった。鈴風の家は宮木野線で辻沢から六駅先だ。一旦帰ってまた戻ってきたというのだろうか? それにしてはタイミングがよすぎやしないか。あそこで響先生を見てしまって、鈴風もどこかで十六夜のママとつながっているんじゃないかと勘ぐってしまう。家からロックインして確認したというのも用意された言い訳にしか聞こえなくな

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    「十六夜?」 あたしが中の人をよく見ようと近づいたら、突然ブースを揺らすほど上下に動き出した。それは大きく跳ねるような痙攣だった。心電図の波形が激しくなった。そして痙攣がピタリと止まると、〈ピーーーーーーーーーーーー〉 とすべての波形がフラットになった。心肺停止状態。「これって?」 高倉さんを見たが、まったくの無表情だった。 なんでそんなに冷静なの? 蘇生しなきゃじゃないの? 放っとけないでしょ? お医者さんを呼ばないの? あたしがパニックになりかけていると、中の人は両手足が真っ直ぐに伸びて硬直状態になったと思ったら、すぐにだらりと弛緩し、〈ピーーーーピ、ピ、ピ、ピ、ピ〉 と心電図が再び波形を刻み始めたのだった。それでようやく高倉さんが言った。「一度死んで再び生き返る。ずっと、この繰り返しなのです」 そしてVRブースの前に回ると、「どうぞ。こちらからご覧ください」 高倉さんに促されたままブースの前から中の人のことを覗いた。 その人はVRゴーグルをしていた。下の顔半分は酸素マスクを付けていて息で曇って口周りはよく見えなかったけれど、銀色の牙が生えていることは分かった。顔色がひどく悪い。青白いを通り越して灰色をしていた。「元祖」六道園で見た獣と同じだった。チューブやコードを付けるためにはだけた胸は引きつった乳房の下に肋骨が浮き出ていた。手足は筋肉が落ちて痩せ細っていた。これではまるで人のぬけがらだと思った。「これが十六夜なの?」あたしは心が張り裂けそうになった。「そうです」 高倉さんが言った。あたしはもう一度変わり果てた十六夜を見てみた。そしてとてつもなく異常なところに気が付いた。その十六夜は金属の管で二の腕を拘束されていて、そこから正面の機器に向かって真っ赤なチューブが伸びていたのだ。チューブで十六夜の玉の緒が吸い取られている。「浄血! なんでこんなことを。早く! 早く外してあげてください。お願い!」 あたしは半べそをかきながら懇願したけれど、高倉さんは首を横に振った。「これは十六夜様が望まれてしていることです。外

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     頭がズキズキして目が覚めると、あたしはベッドに寝かされていた。やはり門のところで倒れてしまったようだった。腕に違和感があった。怪我でもしたかと見てみると、そこにチューブが刺され真っ赤な血が流れ出しいていた。 瀉血! 体をひねり急いでチューブを取ろうとしたけれど胸に鋼鉄の重しが乗せてあって身動きがとれない。拘束されてる。瀉血じゃない。 これは浄血だ! ゲーム部のあの子のことを思い出した。柱に縛り付けられ顔面蒼白でうつろな目をしていた。救急車で運ばれて行ったけれど、あの後、何もしてあげてなかった。相当なトラウマになったろうのに。あたしは腕に毒蛇のように纏わり付く赤いチューブをむしり取ろうとした。でも反対の腕さえ言うことを聞いてくれない。誰か助けて。このチューブを取って。「大丈夫。落ち着いてください」 声がした方に頭を向けると女性の顔があった。高倉さんだった。あたしは高倉さんの細い手で腕を掴まれ、もう片ほうの手で胸を押さえつけられていた。鋼鉄の重しと思ったのは高倉さんの掌で、そのせいであたしは身動きがとれなかったよう。か細い体のどこにこれだけの強力があるのだろうと思ったら逆らえなくなった。「これは点滴ですよ。血が逆流しただけです」 高倉さんがあたしの目をぎゅっと見つめていた。それはまるで心の底を覗き込んで溜まった澱をつかみ取るかのようだった。そのせいだろうか、あたしはだんだん落ち着いてきて、「点滴」チューブを受け入れる気になった。「すみませんでした。あたし、倒れたんでしょうか?」「はい。私が見ているうちにぱったりと。それで急いで中へ入っていただきました」 やっぱ熱中症かな。水分とらずに炎天下歩いてきたから。「お医者様もそう仰っていました。しばらくここで休んでいればよくなるとも」 足の方のベッドカーテンの隙間から見えたのは、窓のカーテンが閉められ暗くなった部屋で、連結された大型モニターにワークテーブル、アーロンチェアのある部屋の様子だった。「ここは?」「十六夜様のお部屋です」「十六夜はどこですか? 会いに来たんです」「お隣の部屋にいらっしゃいます。後でお会いください

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