Share

2-46.ココロ(1/3)

last update Last Updated: 2025-08-22 06:00:26

 響先生はコンクリ土台に戻ると、間取りの中でも比較的広めのブロックに入ってそこに積もった枯れ葉をどけ始めた。

「ここはもとはココロんちのキッチンだったんだよ」

 冬凪とあたしも響先生に倣って足を使いながら湿った枯れ葉を脇に寄せていった。するとちょうどブロックの中央辺りに座布団くらいの四角い枠が現れた。枠は赤くさびて、中央に埋め込み式の取っ手が二か所付いていた。

「地下室の入り口。これ持ってて」

 響先生は懐中電灯をあたしに手渡すと、枠を跨いで腰を落とし取っ手を掴んで、

「うおりゃーー!」

 力いっぱい引きあげた。枠は少しだけ上がったけれども、すぐに重たい音を立てて塞がってしまった。

「やっぱ、だめか。あたしの力じゃ簡単に上がらなくてね。夏波、そこにほうきが落ちてるから取って来て」

 響先生が指さしたのはブロックの隅で、そこに庭掃き帚が落ちていた。

「どうするんですか?」

「少し上がったところに柄を差し込んでこじ開ける」

 あたしが庭掃き帚を取ってくると冬凪が、

「あたしが持ち上げるのやります。先生どいててください」

 響先生と同じように枠を跨いで両手で取っ手をつかんだ。そして気合を入れて、

「それ!」

 一気に引っ張ると冬凪の手元で破断音がした。

 枠があったところに穴が開き、そこを跨いで立ち上がった冬凪は、両手を上に差し上げた格好になっていた。

「とれちゃった」

 と言ったあとすぐ、すり鉢のどこかで重いものが落ちる音がした。冬凪はコンクリの入り口をもぎ取って放り捨ててしまったのだった

「冬凪、お前、何してくれてんだよ」

「すみません。力入れ過ぎました。あとで取って来ます」

「力入れ過ぎたってレベルじゃないだろ」

 響先生は呆れたように言うと冬凪の明けた穴に頭を入れて中を覗いた。その時小声で、

「すごいな。鬼子の力は」

 つぶやくのが聞こえた。そういえば響先生って、あたしが十六夜の部屋で寝てた時、前園日香里と鬼子のエニシのことを話していた。やっぱり用心したほうがいい人なんだ。

「中に入るけど一つ約束してほしいのは、
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-61.冬凪の献身(1/3)

     冬凪とあたしは蓑笠連中に囲まれて大ピンチだった。あたしは光の球を引き上げるのを助けるつもりで冬凪の腕にしがみついていた。蓑笠連中ばかりでなく、竜巻も狂ったように冬凪とあたしのことを攻撃して来ていた。巻き込んだ瓦礫が猛烈な勢いで冬凪とあたしの体のどこかに当たって鈍い音をたてる。右肩に当たった。腕が根こそぎ吹っ飛ぶかと思った。冬凪は頭部を直撃されて一瞬白目を剥いて気を失いかけたけれど、「平気」と持ち直してくれたからホッとした。冬凪がいなかったら蓑笠連中と竜巻が押し寄せるこの状況でどうすればいいかわからない。あたし一人でなんて辻川ひまわりもミワさんも絶対助けられない。「手、掴まれた!」冬凪が水面ギリギリまで沈み込んだ口で叫んだ。その背後に生首が口を開けて迫っていた。他の生首もドロ水から生え出る蓮のように生白い首を伸ばしながらこちらに近づいて来ていた。水中で光の球を奪い返そうとしている? その後すぐあたしの喉に生首が巻き付いて来て後ろに引き摺り倒されそうになる。それを堪えているうちにこの間のように息が出来なって来た。その生首の顔があたしの鼻先に迫る。「ともがらがわざをまもらん」同じことしか言えんのか。てか、口臭い。歯磨きしろ! 悪口言うくらいしか出来ない自分が悔しい。全身の力が抜ける。目の前がだんだん暗くなってゆく。「助けて」冬凪に手を差し伸べる。すると、「コミヤミユウは自分でなんとかする子だったぞ!」生首がしゃべった? 首のしめつけが緩くなった。目をあけると、生首のツルツル頭に爪の長い掌が乗っていた。その鋭い爪に力が入り生首を握りつぶす。目玉に爪が食い込み血飛沫が吹き出す。頭部が不気味な音をたててひしゃげ脳汁が吹き出した。ヘドロと血で赤黒くそまった拳の向こうに金色の瞳があった。辻川ひまわりだった。「何で?」「この子の腕を伝って這い出た」冬凪が水面ギリギリに顔を出したまま頷いた。光の球から辻川ひまわりとミワさんを救い出せたのなら、冬凪は立ち上がってもいいはず。「まだミワは中にいる。あの竜巻を殺らないと辻沢がまずい」竜巻は一層勢いを増し、凄まじい速さで六道園の中を移動しながら瓦礫を撒き散らし

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-60.夏波&冬凪絶体絶命(3/3)

    「あたしの顔見て」冬凪に見てもらった。「変わってたらこんなに近づけない」 言った冬凪が慌てたように、「潮時だって毎回変わらない人いる」あたしってばそれなのかな。気分だけ凶暴になってる感じ?「栓を」冬凪がブロックを差し出した。それを受け取り竜巻の根元へ。その時丁度、光の球が猛烈な回転をしながら目の前の渦の中に落ちて来た。手を伸ばすが周囲を巡る高速瓦礫に当たって弾かれる。ワンチャン当たるかとブロックを投げつけた。それが一瞬だけ竜巻の芯を歪ませて大きく軌道を変えた。のたうつ竜巻。光の球が目の前に近づいて来た。思いっきり手を伸ばす。目の前を人影が過る。何かがぶつかるグチャっという音。大きな水飛沫をあげて池に突っ込んだのは冬凪だった。「捕まえた!」水の中から顔だけ出して叫んだ。「こっちへ」手を差し出したけど、冬凪は首を横に振る。「ダメ、めっちゃ重くて持ち上げらんない。抑えるのがやっと」小爆心地でコンクリの蓋を投げ飛ばした冬凪が言うのだから相当な重さだ。あたしは手を貸そうと冬凪に近づいた。すると突然池の水が沸騰したようになって激しく波が立ち始めた。ヘドロ臭い水が冬凪とあたしを盛大に濡らす。水が滴る前髪を手で払って辺りを見回すと、「夏波。後ろ」そう言う冬凪の後ろにだって蓑笠連中が出没中。何人? 10人はいる。そして口々に、「ともがらがわざをまもらん」と気味の悪い重低音で呟いている。冬凪とあたしは完全に蓑笠連中に囲まれてしまっていた。「これってばヤバイやつ?」「それっぽい」「なんて言って豆蔵くんと定吉くんが助けには?」「ネストしすぎて来れなさげ」 惑星スイングバイのせいで頼みのSPをどこかへ置いてきぼりにしてしまったようだ。ならば頼みの綱は鞠野フスキ。どこにいるかと探したけど、六道園の外で瓦礫を避けてうずくまっていた。あかん、あの人。「あたしたちって絶体絶命?」「間違いない」 見渡せば大勢の蓑笠連中の周りに生首がいくつも水中から生え出ていて、「「「「「「ともがらがわざを

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-60.夏波&冬凪絶体絶命(2/3)

     池周りの遊歩道を渡り池端に着いた。たしか図面では水深はそれほどないはずだった。せいぜいあたしの膝上くらい。でも暗いのとアオコで水の中がまったく見えない。恐る恐る足を池に入れる。つま先で底を探ったけれど感触がない。しかたないので両足揃えたまま池の中に降りた。ズボッと音がして一旦は膝下で止まったけれど、少し動いたらズブズブと膝上10センチぐらいまで沈み込んでしまった。この気持ちが悪い感触はヘドロが溜まっていたせいだろう。それでもなんとか足を抜きながら前進するけど凄まじい遅さだった。上空を見上げると、瓦礫が渦巻く向こうに光の球が透けて見えていた。その中に胎児のように体を折り曲げた辻川ひまわりとミワさんの姿があった。それはもう竜巻の中にあって、どんどんと下降してきていた。「あそこに吸い込まれる前に止めなくちゃ」 言いながらしまったと思った。栓がない。渦に蓋するものを持っていなかった。「冬凪!」 聞こえるはずないと思って後ろを振り返ったら、「ここにいるよ」 すぐ後ろにいてくれた。「栓がない。あそこに栓がしたいのに」「待って」 冬凪は腰を落として両腕を池の中に浸した。「あった。これじゃだめ?」 水から拾い上げたのはレンガの破片だった。池に落下した瓦礫なんだろう。「充分すぎ」 今度は冬凪と二人して竜巻の根元に進む。それにしても足が重い。一歩足を出すたびにヘドロに取られてしまう。しまいにがっちりかたまって動けなくなった。狂ったように回転する竜巻は目の前だ。光の球はすぐ上まで落ちてきているのに。「夏波。何か変」 冬凪が水面を見ながら言った。「水が?」「違う。足を掴まれてる」 足に何かが絡まる感覚があった。藻とかではなさそう。そして水の中から聞こえて来たのはお経のような、「ともがらがわざをまもらん」 蓑笠連中の重低音だった。そういえば竜巻が激しく渦巻いているのに音が静かすぎた。精気の無い色が支配していた。別世界にづれ込んだ感覚があった。「夏波足あげられる?」 めっちゃ重かったけれど冬凪の言う通りに池から片足を上げると、

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-60.夏波&冬凪絶体絶命(1/3)

     あたしが六道園に走ったのは、爆発の光が収縮する時に辻川ひかりと千福ミワの二人を呑み込んだように見えたからだった。それが光の球となって町役場の裏手の六道園にゆっくりと落下していく。倒壊する町役場から瓦礫が飛んでくる。ガラスの破片が頬をかすめた。倒壊しつつある町役場の瓦礫が何かの力に導かれて六道園に押し寄せていた。その中心に前回見付けた小さな渦があった。それは水面から少しずつ上方に飛沫を上げながら回転していた。見ているうちに飛沫はうねり、さらに上方に勢いを増しながら成長していった。最後は町役場の半分の高さまで伸び上がると、凄まじい竜巻となった。それはまるで光の球を捕食する水龍のように見えた。 「あれに呑まれたら助けられない」  咄嗟に思った。けれど飛散する瓦礫に邪魔されて六道園の敷地内に入ることが出来ない。もしそれを避けられても、瓦礫がどんどん竜巻に巻き込まれ、それが龍の鱗のように侵入者のあたしを拒絶するのだった。 「夏波」  冬凪が追いついて声を掛けた。振り向くと四つん這いだった。もともと体調が悪いのだ。無理を押してここまで這いずってきたらしい。手を取って、 「大丈夫?」 後方に鞠野フスキが見えた。両腕を前方で交差させ飛びしきる瓦礫を避けている。 「先生! 冬凪を」 「全速力でhogehoge」  死語構文に強制変換。ところが冬凪は、 「あたしだって鬼子のはしくれ。潮時には力が漲る、こともある」  一抹の不安がよぎる。肩をかして六道園の外周の生け垣へにじり寄る。そこで瓦礫の飛来を避けながら光の球を奪取する方法を考えた。  普通の竜巻は上昇気流のはずだけどこの竜巻は下向きだった。明らかに光の球を吸い込もうとしている。でも、元々はそれは小さな渦だった。巨大な竜巻に成り上がったとしても元は極小の渦だったのだ。 「ようはあそこに吸い込まれなきゃいいんだ」  思ったときはもう体が動いていた。あたしは瓦礫が飛散する中に進み出た。 「夏波?」 勢いで付いて来られなかった冬凪が垣根に隠れたまま聞いた。 「栓して来る」  渦に栓をしてみたらどうだろう、案外いけるんじゃないかと思ったのだった。大声で言っ

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-59.町役場倒壊(3/3)

    「夏波、平気?」 冬凪がおずおずと聞いた。「何が?」「ううん。なんでもない」 変だなと思って冬凪を見ると何故か目をそらした。まるで真実を見たくないというように。すると鞠野フスキが、「そう。今夜は潮時だ。夏波くんは月が南天したら鬼子に発現する」 そうだった。自分が鬼子であることを忘れていた。鬼子は潮時になると発現して獣の姿になる。バモスくんのバックミラーを見た。顔色に変化なし。銀色の牙は? 生え出てない。でも、目は金色になっていた。「あたし、鬼子になったらどうなるんですか?」「朝まで別人格になって、その間、自分が何をしていたか分からなくなる」「南中は何時ですか?」「0時05分。あと20分だ」 町役場は静まりかえっていた。中で何かが起こっているようには感じない。それよりもあたしの内なる衝動が心配だった。別人格って? それがもしも凶暴で冬凪や鞠野フスキを傷つけたらどうしよう。 0時になった。見上げる議事堂の中で何かが起きていた。上から小さな爆発の音が振ってきた。窓に真っ赤な炎が映っていた。それが他の窓にも広がっていき、ついに全ての窓ガラスが割れて大きな火炎となって夜空を嘗めた。議事堂炎上が始まったのだ。あたしはそのスペクタクルを呆然として見上げていた。どんどん下層を焦がしてゆく炎。倒壊ももうすぐに違いない。「夏波、平気なの?」 冬凪がまた同じ事を聞いた。「大丈夫だけど、何で?」「月が南中したんだけど」 時間は0時5分を回っていた。鬼子になる時間を過ぎていた。バックミラーを見た。さっきとまったく変わっていなかった。「何で?」「異端だから?」 鞠野フスキも不思議そうにあたしの顔を見ていたのだった。 そうしている間にも火災は大きくなっていった。中にいた人が駐車場に出てきて一所に集まっていた。逃げる様子はただの人に見えるけど本当にあの人たちはヴァンパイアなのだろうか。「調レイカが出てきた。ナナミさんと一緒だ」 そのあとも響先生や遊佐先生かもって人も出来た。高倉さんまでいた。でも、10階建ての町役場は頑丈

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   2-59.町役場倒壊(2/3)

     ひとまずバモスくんの後部座席に収まり鞠野フスキに、「今晩はどちらへ」 と聞いてみたけれど、行くべき所は分かっていた。「町役場だよ。今晩はミワさんを六辻会議に送って行くよ」 と予定調和な会話をしていると、ミワさんが、「六辻会議に出る前に、レイカたちに合流するの」 と言った。ヴァンパイアの調レイカを六辻会議で辻川町長にぶつける作戦だった。鞠野フスキが、「どちらにお送りしますか?」「町役場の駐車場にカリンたちと来てるはずだから」「では、全(ry)」 辻沢の街中は静かのはずだった。でも、暗闇のあちらこちらにすり鉢を頭にすりこぎ棒を持った「スレイヤー・R」のプレイヤーが蠢いていた。「なんですか? あの人たち」 鞠野フスキに聞いてみた。「今晩は『妓鬼・フィーバーナイト』なんだって。辻沢のヴァンパイアを掃討するイベント」 それを聞いたミワさんが、「おかしいな。辻沢中のヴァンパイアは議事堂に集まってるのに」「どういうことでしょうか?」 返事はなかった。 町役場の駐車場に着くと、広いスペースの真ん中に街灯があって、その下に響先生の紫キャベツの軽自動車が停まっていた。「あたしはここで」 とミワさんはバモスくんから降りて行った。あたしは駐車場の一番奥にバモスくんを停めるように鞠野フスキに言った。この年の7月31日深夜、つまり今夜、旧町役場は倒壊する。その時この場所は被害が及ばなかったことを、あたしは六道園プロジェクトの資料で知っていた。 しばらくして紫キャベツにバスケのビブスを着た人が合流した。おそらくは調レイカだろう。その後、すぐに二人の人が出てきて裏手の入り口から町役場に入っていった。それに続いて三人が出てきて正面から町役場に向った。その中にミワさんの姿と調レイカの姿があった。無事作戦が成功しますように。といいつつ結果は知っている。辻川町長と町長室秘書のエリさんが倒壊事故に巻き込まれて死ぬ。でもそれは公式発表で、実際はエリさんは「帰ってきた」辻川町長のこと、つまり辻川ひまわりだから生きていて、ヴァンパイアの辻川町長のみ死亡。成功

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status