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26話

Author: 東雲桃矢
last update publish date: 2026-05-21 09:00:52

 翌日、ゲイリーは寝室の前に衛兵を置き、調査に向かった。レイスも短剣を枕の下に忍ばせた。いつジュディスが襲いかかってくるか分からないからだ。

 おかげでアンナがいないというのに、まったく休まらない。虚しい休日だ。

 だが、虚しい休日も1日で終わった。夕方に父のアルフレッドから魔便りが届き、ゲイリーも報告しに現れた。

「レイス、もう大丈夫だ。安心してくれ」

「ということは、分かったの?」

「あぁ。それは、フレアージュ公爵の魔便りか?」

「そうよ。あなたの話を聞いてから、こっちも確認してみましょう」

「分かった。まず、ジュディスの正体だが、アマンジュ家の使用人だ」

「アマンジュ家って、まさか……」

「メリンダの家だ」

 ゲイリーは苦々しい顔で言う。彼もメリンダをよく思っていないのだろう。半分は責任転嫁、半分は自業自得だが、メリンダが彼を誘惑していなかったら、とっくに王位に継いていたのだから。

「ジュディスには、病弱の母親がいるらしい

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