LOGIN「ごめんなさい! せっかくサンドイッチ作ってくれたのに……」
用意してもらったものを食べなかったことを怒られると思い、今更クッキーを背中に隠した。迷惑や心配をかけないようにしようとしていたのに、たった数時間でこの有り様だ。
(どうしよう。いい子でいなくちゃいけないのに。私――)
びくびくとする私に、りんごおじさんは黙って近づいて来て──。
「つらかったですね、ましろさん。我慢していたんですね……」りんごおじさんは、怒っていなかった。私の頭を自分の胸に優しく引き寄せて、ギュっと抱きしめていた。
「え……。だ、大丈夫だよ⁉ 私、平気だよ⁉」
「平気だったら、どうして泣いているんですか……?」りんごおじさんに言われて、私は初めて自分の目から涙が零れていることに気がついた。驚いて目をこすったが、ぽろぽろと溢れる雫は止まる様子がない。
「えっ、なんで……。ご、めんなさい。こんな子、嫌ですよね。でも私、ひとりだとダメで……。おじさん、私……」
ひとりにしないで。
嫌いにならないで。 置いていかないで。心の叫びは、涙といっしょにどんどん溢れてくる。
悲しくて、寂しくて、寒くて、何もかもが遠くてよく見えない。どうしたらいいのか、分からない。
りんごおじさんは、何も言わず、静かに頷いていた。そして――。
「お店に……、《りんごの木》に行きましょう。一緒にご飯を食べましょう」
「ご飯?」突然何を言い出すのかと、戸惑った。けれど、りんごおじさんはいたって真面目な顔をしていて、強い力で私の手を握り、そのまま家を飛び出した。
***
お店に1日2回も来ることになるなんて思っていなかった。
私はグイグイとりんごおじさんに手を引かれ、《りんごの木》の奥のテーブルに案内されていた。《りんごの木》は、2人がけと4人がけのテーブルが2つずつ、そして3人がけのカウンター席がある小さなお店だった。統一感のあるこげ茶色の家具が可愛らしい。白いテーブルクロスが掛かった四角いテーブルには、赤いチェック柄のランチョンマットが敷かれている。
今はまだディナータイムの前なので、お客さんはいなかった。いるのは私たち2人と、開店準備をしているアルバイトのお兄さんだけだ。静かなお店はなんとなく居心地が悪いなと緊張していると、気を利かせてくれたのか、アルバイトのお兄さんが店内に音楽を流してくれた。知らない曲だったけれど心が落ち着くような音楽だった。
「私、ご飯はあんまり食べれないと思います。その……最近、味がよく分からなくて」
念のため、先に言っておかなければと、小声でりんごおじさんに伝えた。
作ってもらたった料理を美味しく食べられないことで、りんごおじさんを傷つけたくなかった。親切を仇で返すことになるのが怖かった。
しかし、りんごおじさんはどこ吹く風だった。
「僕はましろさんが喜ぶ料理を作りますよ! 必ず」
「え、でも……」 「任せてください……いえ、騙されたと思って、信じてみてください」私はりんごおじさんに圧される形で、「じゃあ、お願いします……」と、おずおずと頭を下げた。
それを皮切りに、りんごおじさんはシャキシャキと動き始めた。急に店長モードのスイッチが入ったのか、声が大きくなり、動作もスピードアップして驚いてしまう。
「アリスくーん! ましろさんに飲み物を……。あ、ましろさん、何か飲みたい物はありますか?」
「えっと……リンゴジュース、ください」 「リンゴジュースですね。うちのは近所の果物屋さんのリンゴを使っていて、とても美味しいんですよ。……アリスくーん! リンゴジュースひとつお願いします! アリスくーーん!」(うわ、声がおっきいよ!)
私は恥ずかしくて壁に埋もれてしまいたい気持ちになりながら、黙ってうつむく。
りんごおじさんが「では、少し待っていてくださいね」と言い残して席を離れると、入れ違いに若い店員さんがやって来た。アリス君と呼ばれていたお兄さんだ。
「お待たせいたしました。リンゴジュースです」
赤色の縁をした黄色のコースターの上に、グラスに入ったリンゴジュースがコトンッと置かれた。りんごみたいなコースターで可愛い。
「ありがとう、ございます」
お礼を言ってストローの外紙をぴりぴりと破いていると、なんだか店員のお兄さんに見られているようで落ち着かない。実際、お兄さんはまだテーブルのそばに立っていた。
(わわっ。気まずいな)
「あの……」
「ごめん、じろじろ見てた。天パとか色白なとことか、店長にそっくりだな。姪っ子なんだよな?」 「姪、です。今まで、りんごおじさんと交流はなかったですけど」お兄さんの鋭い目つきに少し緊張しながら答えた。
「ぷっ。りんごおじさんって呼び方、面白いな。超ファンシーじゃん」
「で、でも名前がりんごだから!」「うんうん。そーだよな。りんごおじさんだ。りんご店長の料理はびっくりするくらいうまいから、楽しみにしとけよ!」
お兄さんはニヤッと笑うと、ストローの紙ゴミを回収して帰っていった。第一印象と違って、とてもフレンドリーな人だった。
( お兄さんの笑った顔、とってもかわいいんじゃない? アイドルの飛燕君に似てるんじゃない? お母さんにも、教えてあげなきゃ……)
そこまで考えて、また心がシュンとしぼんでしまった。
最近、ずっとこれを繰り返している。お母さんが死んでしまったことが受け入れられず、気がつくとお母さんのことを考えてしまう。そして、現実を思い出して悲しくなる。ぐるぐると同じ所を回って出られない、輪っかのトンネルにいるみたいだ。
「出口なんてないんじゃないかな」
私はポツリとつぶやいて、リンゴジュースをひと口吸った。
どうぜ、味なんてしないのに、つい好きだった飲み物を頼んでしまった。けれど――。
唐突に爽やかな甘さが口の中を通り抜けていき、私は思わず目を丸くした。月曜日──。 私は、おとぎ小学校の転校初日にやらかしてしまった。 いきなりの遅刻だ。けれど、原因は寝坊ではない。「すみません。朝ご飯が美味しすぎて、いっぱい食べてたらこんな時間に……」 5年2組の教室が、朝から明るい笑いに包まれたけれど、私は不本意で仕方がなかった。 本当は自己紹介をビシッと決めたかったのに、いきなり大失敗だ。それもこれも、美味しいご飯を作るりんごおじさんのせいだ。「ましろさん、今朝は【プリンセスの朝ごはん】ですよ」と、満面の笑みでキッチンから出てきたりんごおじさんの両腕には、お皿が全部で5枚も乗っていた。 不思議なネーミングはさておいて、右にはコーンポタージュ、海藻サラダ、スクランブルエッグとカリカリベーコン。左にはロールパンとデニッシュ、そしてカットされたグレープフルーツ。 リビングのテーブルはノートだらけなので、カウンターテーブルにお皿がズラリと並ぶ様子はなかなかの迫力だった。「プリンセスは、朝からこんなに食べないと思うよ?」 「いえいえ。食べ盛りの姫は、これくらい」 そんな会話をしていたはずなのに、私はまさしく「食べ盛りの姫」になってしまっていた。おかわりを何度もして、時間ギリギリまで朝ご飯を食べていた。美味しすぎるのがいけないのだ。気がつけば授業が始まる15分前で、私は人生で一番の全速力で走るはめになってしまった。「しっ……、白雪、ましろです! よろしく……、はぁっ、お願いします!」 ぜいぜいと息を切らして自己紹介を終えた私は、「こんなはずじゃなかったのに……」と落ち込みながら席に着いた。多分、朝ご飯のカロリーはすべて消費されている。「白雪さんって、《りんごの木》の店長さんの親戚?」 朝の会が終わると、隣の席の女の子がため息をついていた私に話しかけてくれた。短い髪がよく似合う、スラッと背の高い女の子だ。なんだかかっこいい。「りんごおじさんは、私のおじさんだよ」 「やっぱりーっ! あっ。あたしはキビノモモナ。よろしく」 女の子はノートに書いてあ
チキンステーキを食べ終わった後は、店員さんの休憩室──、バックヤードにいさせてもらった。 りんごおじさんは、「お店でゆっくりしていたらいいですよ」と言ってくれたけれど、お客さんが来たのに満席で座れなかったら申し訳ないからだ。 バックヤードは意外と快適だった。荷物を入れるロッカーと、2人用のテーブル1つとイスが2脚。冷蔵庫とテレビまであって、私の新しい部屋よりも楽しい場所かもしれない。 とはいっても、やはり、お店の様子が気になってたまらない。ついさっきまで自分もそこにいたものの、目立ちたくないあまりにキョロキョロすることができなかったのだ。「ちょっとだけのぞいてもいいよね」 私はバックヤードとお店をつなぐドアを、そぅっと少しだけ開いて中をのぞいた。 お店に流れている、ゆったりとしているけれど軽快な音楽。ジュウジュウトントンと、美味しそうな料理の音。お客さんの明るい笑顔……。「おいしいわぁ、店長さん」 「そう言っていただけると、うれしいです」 「いつものオムライスね!」 「デミグラスソースのやつですね? かしこまりました」 「ごちそうさま~。また来ます」 「はい。いつでもお待ちしております」 お客さんたちの声に、りんごおじさんやアリス君は嬉しそうに応えていた。楽しそうで目が離せない。 さっきは気がつかなかったが、このファミリーレストラン《りんごの木》は、なんだかホッと安心できて、のんびりとあったかい気持ちになるようなお店なのだ。お客さんも、お店の人も。「いいなぁ。このお店、好きだなぁ」 「ありがとうございます」 「ひっ!」 気がつくと、腰を屈めたりんごおじさんがドアの向こう側からこちらをのぞいていたのだ。「りんごおじさん! びっくりさせないでください!」 「ふふふっ。のぞき見はよくないですよ」 りんごおじさんは面白そうに口の端を持ち上げながら、素早くドアを開けてバックヤードに入って来た。そしてメガネについた汚れをエプロンのポケットから出した布で、キュッキュッと拭いている。「どうですか? 《りんごの木》は。また来たくなりました?」 「はい! とっても! とっても……」 ここまで言いかけて、頭にふわっと疑問が湧いてきた。(さっきわたしが『いいなぁ』って思ったのって、お客さんがうらやましかったから? なんか違うと思う。違わ
「あれ……すっごく美味しい⁉」 久しぶりに感じた甘い味に、全身がびっくりして飛び上がるかと思ったほどだ。(てっきり味がしないと思ったのに……)「かんちがいじゃないよね? ね?」「料理もお口に合うと嬉しいのですが」 もう一度リンゴジュースを飲もうとした時、りんごおじさんが料理のお皿を運んできてくれた。小さな木のカゴに入ったきつね色のパンからは、こんがりと香ばしい香りが。鮮やかな黄色のソースがかけられたチキンステーキからは、食欲をそそるジューシーな香りが立ち昇っていた。「あれ。これって……」 私がハッとして見上げると、りんごおじさんは目を細めながら料理を勧めてくれた。「【白雪りんごのチキンステーキ】です。召し上がれ」 もしかして、と胸がざわつく。「いただきます」 銀色のナイフとフォークでお肉をひと口サイズにすると、それをぱくりと口に入れた。「ん!」 鶏もも肉が外はカリカリ。身はとてもぷりぷりで、噛むたびに肉汁が口いっぱいに広がる。けれど、脂がしつこく感じないのは、この甘ずっぱいソースのおかげだ。「私、知ってます。りんごとニンニクとショウガとはちみつのソース、ですよね?」 瞳から、じんわりと涙が溢れる。悲しくて泣けてきたわけではない。懐かしさが込み上げてきたのだ。「お母さんと、同じ味がする」 お母さんがお誕生日やクリスマスの時など、お祝い事のたびに作ってくれた料理――大好きなりんごソースのチキンステーキだった。「姉さんにレシピを教えたのは、僕なんです」 りんごおじさんはニコッと笑うと、赤色のエプロンを外して私の正面の席に腰かけた。まっすぐに視線が注がれ、真剣さが伝わってきた。「今日からは、僕がましろさんとご飯を食べます。ご飯は『家族』と一緒に食べると、いっそう美味しいですから」 私は「家族……」と単語をオウム返しした。その言葉が咀嚼するたびに、あたたかく柔らかく心の中へと染み込んでいった。私が失ったと思っていたものだった。「りんごおじさん、私の『家族』になってくれるんですか?」「はい。まぁそこは、追々検討してもらってもかまいませんが、僕にとってあなたはすでに『家族』ですよ」 トクン……と胸が高鳴った。 私が返事をする前に、りんごおじさんは「いただきます」と両手を合わせ、自分のチキンステーキのひと切れをパクリと口に入れた。
「ごめんなさい! せっかくサンドイッチ作ってくれたのに……」 用意してもらったものを食べなかったことを怒られると思い、今更クッキーを背中に隠した。迷惑や心配をかけないようにしようとしていたのに、たった数時間でこの有り様だ。(どうしよう。いい子でいなくちゃいけないのに。私――) びくびくとする私に、りんごおじさんは黙って近づいて来て──。 「つらかったですね、ましろさん。我慢していたんですね……」 りんごおじさんは、怒っていなかった。私の頭を自分の胸に優しく引き寄せて、ギュっと抱きしめていた。「え……。だ、大丈夫だよ⁉ 私、平気だよ⁉」 「平気だったら、どうして泣いているんですか……?」 りんごおじさんに言われて、私は初めて自分の目から涙が零れていることに気がついた。驚いて目をこすったが、ぽろぽろと溢れる雫は止まる様子がない。「えっ、なんで……。ご、めんなさい。こんな子、嫌ですよね。でも私、ひとりだとダメで……。おじさん、私……」 ひとりにしないで。 嫌いにならないで。 置いていかないで。 心の叫びは、涙といっしょにどんどん溢れてくる。 悲しくて、寂しくて、寒くて、何もかもが遠くてよく見えない。どうしたらいいのか、分からない。 りんごおじさんは、何も言わず、静かに頷いていた。そして――。「お店に……、《りんごの木》に行きましょう。一緒にご飯を食べましょう」 「ご飯?」 突然何を言い出すのかと、戸惑った。けれど、りんごおじさんはいたって真面目な顔をしていて、強い力で私の手を握り、そのまま家を飛び出した。*** お店に1日2回も来ることになるなんて思っていなかった。 私はグイグイとりんごおじさんに手を引かれ、《りんごの木》の奥のテーブルに案内されていた。《りんごの木》は、2人がけと4人がけのテーブルが2つずつ、そして3人がけのカウンター席がある小さなお店だった。統一感のあるこげ茶色の家具が可愛らしい。白いテーブルクロスが掛かった四角いテーブルには、赤いチェック柄のランチョンマットが敷かれている。 今はまだディナータイムの前なので、お客さんはいなかった。いるのは私たち2人と、開店準備をしているアルバイトのお兄さんだけだ。静かなお店はなんとなく居心地が悪いなと緊張していると、気を利かせてくれたのか、アルバイトのお兄さんが店
マンションに向かう道中、痛いくらい首を持ち上げながら、りんごおじさんに尋ねる。会話がスムーズにできるよう、事前に考えてきた質問だった。「りんごおじさんは、いつからここでレストランをしてるんですか? 外国にいたんじゃなかったんですか?」 「果物の『りんご』の発音じゃなくて、小鳥の『インコ』とか、ゲームの『ビンゴ』とかの発音なんですが……。まぁ、そのままにしておきましょうか」 りんごおじさんは笑いながらごろごろとキャリーバッグを引き、その上にランドセルを乗せた。 幼稚園の時、お母さんと選んだラベンダー色のランドセル。気が付けば、ついお母さんのことを考えてしまい、私の心はこっそりしゅんと元気をなくす。 りんごおじさんは商店街の人たちとすれ違うたびに「こんにちは」、「姉の子なんです」と挨拶をするので、私も合わせてペコリと頭を下げた。 りんごおじさんは商店街の人たちと仲が良いらしい。これまでご近所とさえもあまり付き合いがなかった私にとっては、新鮮な感じと不思議な感じがしてたまらない。私が知っていた人は、マンションの管理人さんと学校の友達くらいだった。「僕がこの商店街に来たのは2年前です。ここは食べ物を司る神様に守られた御伽町といいまして、レストランを開くにはピッタリの素敵なところなんですよ」 りんごおじさんは、八百屋のおばさんに手を振りながら教えてくれた。「少し上がれば、世界遺産にもなっている神社やお寺。少し下がれば、桜のきれいな川や紅葉のきれいな自然公園。西と東には、若者の集まるショッピング街。その真ん中にちょこんとあるのがおとぎ商店街。のんびりしていて、いい所なんです」 「へぇ~。観光地だから、もっとガヤガヤしてるのかと思ってました」 おとぎ商店街はりんごおじさんが言う通り、たしかにのんびりとした雰囲気だ。 私が通って来た隣の筋の商店街は、もっと派手で賑やかで、若者がいっぱい歩いていた。けれど、ここにはゆっくり歩く子連れのお母さんや、散歩をしている老夫婦なんかが目につく。正直、商売がしやすそうな気はしなかった。 私は余計なお世話とは思いつつ、「お客さんは来ているのかな。レストランの売り上げは大丈夫なのかな?」と、心配になってしまった。 そしておとぎ商店街を抜けてしばらく歩くと、きれいなマンションの前に出た。各部屋はそれほど
「ファミリーレストラン《りんごの木》」 白雪ましろ――私は、木でできた看板に書かれた文字を読み上げた。 ファミリーレストランといえば、いくつか有名なチェーン店が思い浮かぶのだが、ここは個人経営の小さな小さなお店だ。 白い壁に木のドア、赤い屋根が可愛らしい。まるで絵本に出てくるお家のような店構えだ。 私は緊張しながら、ゆっくりとお店のドアを開く。カランカランとドアベルが店内に鳴り響き、椅子を運んでいた男の人がこちらをくるりと振り返った。「いらっしゃいま……。おや、 ましろさん」 見た目は30歳くらい。眠たそうな目にメガネをかけていて、背がとても高い。そして黒色のふわふわしたくせっ毛は、私やお母さんの髪とそっくりだった。「こっ、こんにちは! りんごおじさん、今日からよろしくお願いします!」 ガチガチに固いままペコリとお辞儀をすると、ポニーテールの髪の端っこが顔にかかって、少しくすぐったかった。「連絡をくれたら、駅まで迎えに行ったのに。よく来れましたね。場所が分かりにくくありませんでした?」 「地図を見て、なんとか……。人にも聞きました」 「そうでしたか。偉かったですね。僕の方こそ、ぜひよろしくお願いします」 りんごおじさんはにこりと優しく微笑むと、赤色のエプロンを外しながら歩み寄って来た。近づくとますます背の高さを実感させられ、彼を見上げる私の首は痛くなってしまった。「家は、ここのちょっと先にあるんですよ。一緒に行きましょう。……アリス君、しばらくお留守番をお願いできますか?」 りんごおじさんが言うと、アリス君と呼ばれた高校生くらいのお兄さんが、「大丈夫っす」とお店の奥から返事をした。羨ましいくらいサラサラとしたきれいなチョコレート色の髪だ。けれど、目つきが悪くて少し怖い。 アリス君にも慌ててお辞儀をすると、私の代わりに大きなキャリーバッグを引いてくれるりんごおじさんを追いかけて、急いでお店を出た。 本当はどんなお店なのか気になっていたけれど、仕方がない。りんごおじさんは私のために仕事を中断して、新しい家へ案内してくれるのだ。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。 そう。私は今日から、おとぎ町に住んでいるりんごおじさんこと、白雪凛悟《しらゆきりんご》さんと一緒に暮らすのだ。りんごおじさんは、私のホゴカントクセキニンシャというやつらしい