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・Chapter(34) あの人、誰にでも優しいんです

last update Huling Na-update: 2025-07-18 21:47:16

「つーか、俺も気になってる事があるんですけど……」

もつ鍋の具材を全て食べきり、シメのラーメンを鍋に入れている最中、古田は思い出したかのように瑞穂に目を向けた。

「何ですか?」

「高畑さんは、付き合っている人はいないんですか?」

「えっ、ど、どういう意味ですか?」

虚を突くような古田の質問に、瑞穂は動揺を露《あらわ》とさせた。

それでなくても、自分はひと月近く前に、古田の学生時代の先輩である和田マネージャーと身体を重ねているのだ。

別に和田マネージャーと付き合っている訳ではないが、その矢先に古田のこの質問は、瑞穂に動揺と深読みをもたらすのに十分なモノであった。

「いやいや、大した意味はないですよ」

肩の力を抜いて、とばかりに古田は微笑を浮かばせる。

「俺はともかく、高畑さんって見た目がキレイじゃないですか。

『のはら』で肉買った時は、高畑さんは『彼氏はいません』って言ってましたけど、あれから結構経ってるからどうなってるのかな、と思って。

つーか、お返しです。

俺に彼女がどうとか、って話になってましたから、俺も訊き返しているだけで、深い意味はないですから。

単純に、ただの反撃でしかないので、答えにくかったら別に答えなくてもいいです」

「えっ……。

あっ、じゃあ想像にお任せしますね。

見た目がキレイかどうかは、さすがに否定しときますけど」

瑞穂は明言を避けると、ごまかすように笑い声を上げた。

「気になってる人とかも、いないんですか?」

古田は質問を続ける。

「それも、想像にお任せしますね」

片目をつむり、古田の質問攻めを瑞穂はやり過ごすと、煮えたぎった鍋の中で回遊魚のように泳いでいるラーメンを箸でつかんだ。

「ラーメン、美味しいですね。凄く出汁を吸ってるから」

話題転換、とばかりに瑞穂は今、口にしているラーメンを絶賛する。

「和田さんは、気になっていないんですか」

しかし、古田は話題を先程の流れに戻す。

そして、古田のその質問は瑞穂が今、最も避けたいと思っていた話題であった。

「あ……」

瑞穂は咄嗟にこう述べる事で時間を稼ぐと、浮かび上がってきた言葉を煙幕のごとく矢継ぎ早に古田に対してぶつけていった。

·

「いやいや、古田さん。

どうして、アタシが和田マネージャーの事を気にならなきゃいけないんですか。

そりゃ、和田マネージャーは、確かにいい上司ですし、古田さんとはまた
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