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偶然とは確率-2

Author: よつば 綴
last update Last Updated: 2025-04-27 06:00:00

「そうかそうか、なら話は早い。ヴァニル、お前だろ? ヴェルの相手してんの」

「はぁ····そうですが」

「俺にも喰わせろ」

 タユエルはニタッと笑い、圧《プレッシャー》を掛けて言った。一瞬たじろいだヴァニルだったが、すぐに毅然とした姿勢で断る。

「いくらタユエルさんの頼みでも、それは承服致しかねます」

「ハッ····頼んでんじゃねぇだろ。喰わせろつってんだよ、なぁ?」

 タユエルは、ヴァニルの肩を壁に押さえつけると、もう片方の手で俺の首を掴み牙を見せた。

「なっ!? タユエル····どうしたんだ!? 来た時から様子がおかしいとは思っていたが、何かあったのか」

「や~、別にこれと言ってねぇけどな。お前がイイ匂いふり撒きながらウチに来る度によぉ、溜まるんだよ、色々とな」

「はぁ!? 甘い血の匂いか? 俺にはわからんのだから仕方ないだろ! 溜まるって何が····あぁ!! 今まで誘ってたのって本気だったのか」

 タユエルとヴァニルの溜め息が地下にこだました。

「ヌェーヴェル、タユエルさんにも狙われてたんですか。この人、昔は手当り次第好みの人間を食い散らかしていたんですよ。よく無事でいられましたね」

「俺だって理性くらいあるわ。流石に、ヴァールスに手を出すと厄介な事くらいわかってるっつぅの」

 脳筋なのだと思っていたタユエル。意外と冷静にものを考えられるのだと感心してしまう。

「だと思ってたから、ずっと揶揄われているだけだと思ってた。まぁ、タユエルも吸血鬼だからな。いつ理性が飛んで襲われるかわからんから、常に警戒はしていたが」

「そっちの警戒だったのかよ。お前、鈍感だとか言われねぇか?」

「言われた事はない。俺は鈍感じゃないからな」

 自慢じゃないが、母さんには気が利くとよく褒められた。それに常日頃、細事にも気を配っているつもりだ。

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     ほとんど眠れずに、俺はタユエルの店へ赴く。人使いの荒い父さんから、先日の銃を仕入れてこいと仰せつかったのだ。「ヴァニル、相手が俺に何を言おうと、たとえ何をしようと、絶対に口も手も出すなよ」「事と次第によりますよ。それより貴方、あんな事の後でよく私を護衛につけましたね」「これは仕事だ。私情は挟まん。だから、馬車《ここ》でシようとか考えるなよ。約束は今夜だろ」 俺は書類に目を通しながら言った。チラッとヴァニルを見ると、むくれた顔で窓から外を眺めている。「キ、キスくらいならいいぞ。軽いヤツな」「····子供じゃあるまいに」 気を遣って言ってやったのに、無下にするとは腹立たしい。「そうか、ならもういい。指一本触れるな」「わかりましたよ。······ヌェーヴェル」「なんだよ」 やらしい声で呼ばれたので、鬱々とヴァニルを見る。ヴァニルは恍惚な表情で俺を見て、滾らせたイチモツを見せつけてくる。「バ、バカか!! こんな所でナニおっ勃ててるんだ!」「シィー····声が大きいですよ。御者に聞こえてもいいんですか?」 唇に人差し指を当てて言う。無駄にエロい所為で、こっちまでその気にさせられてしまうじゃないか。「夕べ、途中で終えてしまいましたからね。で、どっちの口に欲しいですか? 今なら優しくしてあげますよ?」 俺の話を聞いていなかったのだろうか。いや、聞いた上での愚行か。 これに逆らったら、きっと御者に気づかれてしまう程度には激しく犯されるのだろう。そうなれば厄介だ。「······くそっ。資料に目を通さにゃならんから、し、下の口にしろ」 おずおずとヴァニルにケツを差し出す。到着まで1時間足らず。間に合うのだろうか。

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     ヴァニルは俺のケツに爪を食い込ませ、力一杯奥を抉って言う。「こういう強い刺激がないと、ヌェーヴェルはイけないんですよねぇ」「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁっっ!! ケツ、イッひゃう····ヴァニル、お゙ぐっ、ぎも゙ぢぃぃ!! ノウェル、ごめっん゙ん゙っ! 俺、もう····酷くされないと、イ゙ッ、けなぃあ゙ぁ゙っっ····」 懸命に話す俺の邪魔ばかりするヴァニル。奥を抉るだけでなく、千切れてしまいそうなほど乳首を抓りあげる。「そういう身体になってしまったんですよね。だから、お嫁さん探しも諦めたんですものねぇ。··はは、恥辱にまみれる貴方は最高に愛らしいですよ、ヌェーヴェル。ここまで躾けた甲斐がありました」「悔し··けど、もう、戻れにゃ··ふあぁっ····女でイけない··って····お前らじゃないと、満足できないって····わかってるんだよぉ····」 ボロボロと溢れる涙。必死に抑えてきた感情が、精液や潮と共に際限なく溢れ出してくる。「だったらいい加減、跡を継ぐのもやめて私達に溺れたいと言ったらどうです? いつでも連れ去ってあげますよ」 ヴァニルは、俺の首をねじ切れそうなほど振り向かせ、深いキスをした。「ん、あ··はぁ····あにぅ····あにぅ······」「ん? 何ですか?」「なんでお前が、

  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   勝手気まま我儘-1

     ノーヴァのちんこを喉奥にねじ込まれて目が覚めた。「んぶっ、ぉがッ、ぁ゙え゙っ····」「あ、起きた。おはよ、ヴェル」「お゙ぇっ、がはっ、ごぼぇっ····」「あぁ、ごめんごめん。喋れないよね」 ノーヴァはちんこを引っこ抜き、俺の前髪を掴んで持ち上げた。「おはよう、ヌェーヴェル」「お、おは····ゲホッゴホッゴホッ」「さ、もう1回いくよ。口開けて」 なんだかキレている様子のノーヴァ。挨拶を終えると、再び喉の奥まで一気に突っ込む。 チラッと視界に入ったのだが、俺の横にはノウェルが泡を吹きながら倒れていた。ヴァニルが俺のケツに腰を打ちつけながら、片手間に回復をしている。 どういう状況なんだ。「お前の所為だぞ、たらし野郎」 声の主を探すと、椅子に縛られたイェールが抜け出そうと藻掻いていた。「んんんっ!? ぅぶぇっ」 ノーヴァの腰を押して逃げようとしたが、頭を押さえられ逃げられなかった。 俺が激しく嘔吐くと、ノーヴァは嬉々として腰を強く打ち込む。昂った笑顔が厭らしくも愛らしい。だが、あまり見る余裕はない。「そのまま吐いていいよ。アッハハ、ヴェル、お漏らし止まんないね」「ノーヴァ、こちらも奥をヤりますよ。噛み千切られないよう、気をつけてくださいね」 言い終えるが早いか、ヴァニルが結腸をぶち抜いた。あまりの衝撃に目が眩み、ノーヴァのモノを咥えながら吐いた。と言っても、ごく小量の胃液が出ただけだったのだが。 どれだけ苦しかろうが嘔吐いていようが、ノーヴァは容赦なく俺の喉奥を抉り潰す。全く息ができなくなった俺は死を覚悟した。「ヴァニルさん、いい加減にしないとそろそろ死にますよ。どうせ、また回復すれば良いと思ってるんでしょうけど。まったく····愛する人に、

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