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第572話

Author: 北野 艾
柊也くん、何を考えているの……

志帆自身、今の柊也の心境を読み切れずにいた。

だが、『パース・テック』の上場準備は最終段階に入っている。彼のような合理的な人間が、このタイミングで婚約破棄などというリスクを冒すはずがない。ビジネスにおいて、二人は一蓮托生なのだから。

今は、耐える時よ。この学歴詐称騒ぎさえ鎮火すればいい。

人の噂も七十五日。世間の記憶なんて曖昧なものだ。

上場を果たし、正式に資本家(キャピタリスト)の仲間入りさえすれば、周囲の掌なんてすぐに返る。勝てば官軍。誰もが、成功した私の輝かしい姿だけを称え、媚びへつらうようになるだろう。

そう、あと少し待てば、また笑える日が来る。

自滅さえしなければ、活路は必ず開けるはずだ。

だが、現実は非情だった。

翌日、志帆は街金を回ったが、個人の信用だけで億単位の融資を引き出せるはずもなく、二、三軒回ってすべて門前払いを食らった。

返済リミットは刻一刻と迫ってくる。

追い詰められた志帆は、なりふり構わず知人たちに連絡を取り始めた。

最初に選んだのは、太一だ。

今回のスキャンダルが出た直後、真っ先に病院へ見舞いに来て
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