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第57話

Penulis: 北野 艾
密が詩織に白湯を注ぎ、心配そうに尋ねた。「詩織さん、大丈夫ですか」

「ええ、まだ平気」詩織は温かい白湯を喉に流し込み、少しだけ強張りが解けるのを感じた。「外の様子はどう?」

「滞りなく進んでいます」密はため息交じりに言った。「それよりご自身の心配をしてください。顔、真っ青ですよ」

「あなたは先に戻って。私はもう少し休んでから行くわ」ホールに人手が足りなくなることを懸念し、詩織は密に戻るよう促した。

「わかりました。何かあったらすぐに呼んでくださいね」

密が休憩室から出ていくと、詩織は壁に寄りかかって一息つこうとした。その瞬間、ポケットに入れていたスマートフォンが静かに震える。

画面に表示された名前に、彼女の心臓が冷たく軋んだ。『賀来柊也』

通話ボタンを押し、耳に当てる。隠しきれない疲労が滲む声で、なんとか言葉を絞り出した。「……賀来社長」

「どこにいる」

電話越しでもわかる、刺すように冷たい声だった。

「お手洗いです」

「さっさと来い」

何かを問い返す間もなく、一方的に通話は切られた。

まるで、自分と一秒でも長く話すのが時間の無駄だとでも言わんばかりに。

詩織は重い体に鞭を打ち、きらびやかなホールの喧騒の中へと戻っていく。

視線の先で、柊也は満面の笑みをたたえ、来賓たちとグラスを片手に談笑していた。

仕事も恋も、全てを手に入れた男の得意げな顔。無理もない。

そんな彼が、ふとこちらに気づき、眉を僅かにひそめた。

おそらく、詩織がドレスではなく、スタッフ用のスーツ姿のままであることが気に食わないのだろう。

だが、来賓の手前、さすがに声には出さず、ただ顎をしゃくってグラスを運べと無言で命令を下すだけだった。

わざわざ電話までしてきた理由は、火を見るよりも明らかだった。自分を酒の盾にするためだ。

昔と何一つ変わらない。用がある時だけ呼びつけて用が済めば容赦なく切り捨てる。彼にとって自分は、今も昔もその程度の存在でしかないのだ。

詩織は一瞬ためらい、か細い声で告げた。「賀来社長、少し胃の調子が……」

柊也は眉をひそめた。詩織がそんな反応を示すとは、思いもよらなかったらしい。無意識に声のトーンが一段低くなる。

「こちらは東華キャピタルの坂崎社長だ」

金融界でも名うての重鎮――

つまり、無下にはできない相手だということだ。

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goodnovel comment avatar
智恵子
もうさー、屑なんかさっさと見切ればいいじゃん 捨てれない主人公も屑
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