Masuk大学時代、恋愛していた頃のことだ。 彼氏の三上恭介(みかみ きょうすけ)は毎日、朝食を二人分届けてくれた。 一つは私・東雲知夏(しののめ ちなつ)の分で、もう一つは同じ寮の親友、長谷川美咲(はせがわ みさき)の分。 けれど、私にくれる朝食はいつも決まってコンビニのおにぎりと味噌汁だった。 美咲の朝食は、主菜と副菜のバランスまで考えられていて、しかも毎日違うものだった。 私の誕生日でさえ、彼が用意したプレゼントは二人分だった。 私への誕生日プレゼントは、簡素なグリーティングカードで、四年間で全部で四枚。 美咲へのものは、コンサートのチケット、手作りのラインストーンで飾った写真、夢みたいにきれいな白いチュールドレス、それからピンキーリングだった。 卒業旅行の日、私たち三人は駅に着いた。 二人はスマホのチケットをかざして問題なく改札を通ったのに、私は外で止められた。 恭介はしまったというように額に手を当て、申し訳なさそうに気まずく笑った。 「ごめん、美咲の分に気を取られて、お前のチケット忘れてた。俺たちもう入っちゃったし、今さら買い直すのももったいないだろ?今度ちゃんと二人で旅行しよう」 美咲は胸を張って、私に約束するように言った。 「安心してよ、知夏。私がちゃんとこいつを見張っておくから」 二人が肩を並べて楽しそうに笑い合いながら遠ざかっていく背中を見つめ、私は苦く笑った。 もうこれ以上、自分をごまかしたくなくて、私は踵を返し、実家へ帰る切符を買った。 「お父さん、卒業したらすぐ結婚しろって言ってたでしょう……わかった。その話、受ける。それと、私が推薦した、三上恭介のインターン採用の件……取り消して」
Lihat lebih banyak「知夏、ずっと前に、必ず二人きりで旅行に連れていくって約束しただろ。お前が一人でここに来たって知って、追いかけてきたんだ。ここに来たのは……まだ俺のことを忘れられないからじゃないのか?」期待をにじませた彼の目を見た瞬間、ふと昔のことを思い出した。大学時代、私は東雲家の令嬢ではあったけれど、お金を無駄遣いしたことはなかった。むしろ時々、アルバイトまでしていた。自分で苦労して稼いだお金を手にするのは、とても誇らしかった。私たちはかつて、海辺の町へ行って、二人でゆっくり旅をしようと約束していた。彼がそこに美咲も入れようと言い出したとき、私は断らなかった。今になって思えば、彼はきっと、どちらも手放したくなかったのだ。同時に、この数日ずっと感じていた妙な不快感の正体も、ようやくわかった。私は冷たく笑って、彼に返した。「考えすぎよ。せっかく作った旅程を無駄にしたくなかっただけ。それに、私たちはもう何の関係もない。これ以上つきまとったら警察を呼ぶから」私が遠ざかる背中を見つめながら、彼はその場に立ち尽くし、どうしていいかわからない様子だった。十数メートルほど歩いたところで、彼はまた駆け寄ってきて、私の前に立ちはだかった。その目には怒りと未練がにじんでいた。「俺は東雲グループから採用見送りの通知を受け取った。どこへ面接に行っても、ろくに相手にされない。知夏、お前まで俺を見捨てるのか?」そのとき、私の体を大きな影が包み込んだ。両肩を抱かれる。顔を上げると。景吾だった。彼は私を抱き寄せたまま、恭介を見て冷たく笑った。「ゴミを捨てずにそばへ置いておいて、腐らせる趣味でもあるのか?」私は驚いて彼を見上げた。彼にこんな毒舌な一面があるなんて知らなくて、思わず笑ってしまった。恭介は怒りで顔を真っ赤にし、何度か口を開いたものの、言葉は出てこなかった。景吾は私の手を取った。「海辺へ行こう。こんな気持ち悪いものは忘れさせてやる」そう言うと、彼は目の前の恭介を無視して、私の手を引いて歩き出した。海風が吹いてきて、私はふいに胸がずいぶん軽くなった気がした。恭介だけは、相変わらず後ろからしつこくついてきていたけれど。私は波打ち際を歩きながら、何気ない口調で言った。「まさか、わざわざ私に会いに
「黙れ!」恭介は顔を真っ赤にして、美咲の頬を思いきり打った。「全部お前のせいだ。この最低女。使用人の娘のくせに、着ているものも持っているものも知夏よりずっといいものばかりだったから、俺はお前を本物のお嬢様だと勘違いしたんだぞ。お前なんか、ただの遊びだった。俺が本当に好きだったのは、最初から最後まで知夏だけだ」美咲が身につけている高価な服や小物を見て、私は力なく笑った。小さい頃から、私は彼女を本当の姉妹のように扱ってきた。彼女が劣等感を抱かないように、いつも一番いいものを彼女に渡してきた。それが最後には、彼女が私を裏切るための道具になったのだ。父の眉間の皺は、ますます深くなっていった。冷えきった目が、二人の上を何度も行き来する。「娘が心から大切にしてきた親友と、娘がわざわざ俺に頼み込んでまで就職先を用意させた男か。お前たちは、四年もの間、うちの娘を馬鹿にしていたというわけだな」父はそばにいる執事へ目を向けた。「小春は自分の娘のしつけもできなかった。東雲家がこの十数年、美咲にかけてきた費用をすべて返させろ。母娘そろって東雲家から出ていかせるんだ。古くからいる使用人たちも、誰が主人なのかさえ見分けられないのなら、まとめて解雇しろ。それから外にも伝えておけ。東雲家を追われた者を雇うということは、東雲家に敵対するということだとな」床に跪いていた人々の顔から、一瞬で血の気が引いた。東雲家を追われれば、この街にもうこの者たちの居場所はない。ほどなくして、外の間から一斉に許しを請う声が響いた。恭介は引きずり出される間も、私に向かって叫んでいた。「知夏、あいつの言うことなんか聞くな。俺たち、四年も付き合ってきたんだろ!」続いて、短い悲鳴が上がった。どうやら、幼い頃から私を見守ってくれていた執事に殴られたらしい。美咲は私の表情が冷えきっているのを見て、もう取り返しがつかないと悟ったのだろう。憎しみに駆られ、堪えきれずに叫んだ。「知夏、あんたは小さい頃から何でも私より上だったわよね?いいことを教えてあげる。恭介は私の前で、何度もあんたの悪口を言っていたの。私を愛してるって言ってくれた。あはは、少なくともそこだけは、私のほうがあんたに勝っていたのよ。お金も権力もあって何になるの?あんたは一生、本
美咲が、私からここまで冷たくされたのは初めてだった。彼女は一瞬で力を失い、その場に崩れ落ちた。恭介も、このときようやくすべてを理解したらしい。彼は信じられないという顔で美咲を見つめ、何度もつぶやいた。「俺を騙してたのか?よくも俺を騙してくれたな……」そして、はっとしたように私へ視線を向け、慌てて弁解した。「知夏、違うんだ。俺は全部この女に騙されてたんだ。こいつが、自分と一緒にいれば東雲グループのインターンに入れるようにしてやるって言ったんだよ。お前だってわかるだろ。俺たちみたいに後ろ盾のない人間は、卒業したら職に就くのだって簡単じゃない。俺はただ、いいスタートを切って、お前にちゃんとした未来を用意したかっただけなんだ……」今の彼の卑屈な姿に、大学であれほど人目を引いていた面影は、もう少しも残っていなかった。初めて会ったときの、星のように輝いていた彼の瞳を覚えている。「こんなにどんくさい子がいるんだな。面白い。はじめまして。学生会の会長をしている三上恭介だ」その瞬間、胸が跳ねて、顔が一気に熱くなった。恭介を知らないはずがなかった。寮でも、食堂でも、並木道でも。いつも何人かの女子たちが、憧れた声で彼の話をしているのを耳にした。すらりとした体つき、整った顔立ち、笑えば春風のように柔らかい。経営学部の成績トップ、学生会の会長、バスケットボール部のキャプテン……いくつもの肩書きを持つ人だった。彼が寮の下に立ち、私を見上げて思いきり叫んだ日のことも覚えている。「東雲知夏、俺の彼女になってくれ!」寮中から上がった黄色い声とざわめき。彼が女子からラブレターを受け取ったとき、その手紙をそのまま私の手に押し込んだことも覚えている。「もうこんなの書いてこないでくれ。俺の彼女が怒るから」卒業を前にした彼の焦りも、今でも覚えている。大学で得ていた肩書きは、就職となるともう役に立たないようだった。いいインターン先を早く見つけたがっていた彼は、何度も壁にぶつかっていた。彼は寂しそうな顔で私の隣に座り、うつむいていた。「知夏、俺って本当にそんなに駄目なのかな。俺はただ、給料がよくて将来性のある仕事を見つけたいだけなんだ。卒業したあと、お前にいい暮らしをさせたいだけなのに」彼があんなに落ち込む
入院すると、景吾は出張先で商談中だった父に連絡してくれた。それから、私の傷に丁寧に薬を塗ってくれた。「四年も相手を見誤ったからって、それは君のせいじゃない。結婚してから相手の本性に気づくほうが、よほど悲惨だ」そう言って、彼は朝食まで買ってきてくれた。主菜も副菜も入っていて、栄養のバランスもきちんと取れていた。「適当に買ってきただけだ。少しでも食べろ」朝食は、おにぎりと味噌汁だけじゃなかったんだ。私は顔をそむけ、鼻をすすった。「ありがとう」景吾が細やかに世話をしてくれたおかげで、私はほどなく退院できた。再び家の門をくぐると、小春をはじめとする使用人たちが、青ざめた顔で一面に跪いていた。その最前列にいたのは、美咲と恭介だった。父は上座に腰を下ろしていて、新しく入った使用人に目配せし、私を支えてそばへ座らせた。「知夏、お前が根っから優しい子だということは、俺もわかっている。だが、もう卒業したんだ。これからは東雲グループで働くことになる。今日はまず、人を使う立場に立つとはどういうことか、教えておこう」父が言い終えると、一人の使用人が美咲の前へ進み出て、重い平手を彼女の頬に叩き込んだ。男の容赦ない力に、美咲の口元から血が流れた。それでも息をつく暇すら与えず、続けざまに何度も頬を打った。あの日、彼女が私を打った力とは比べものにならなかった。ほどなくして、彼女の顔は腫れ上がり、真っ赤に変わっていった。恭介はその光景に愕然とし、顔を真っ青にした。彼は顔を上げて父を見つめ、瞳に浮かぶ恐怖を必死に押し殺した。「意味が……わかりません。美咲は、あなたの娘じゃないんですか?」父は泰然として、手の中の湯のみをゆったりと揺らした。「使用人の娘ごときが、東雲家の令嬢になれるとでも思ったのか。娘と幼い頃から一緒に育ったよしみがなければ、とっくに外へ放り出していた」美咲は血を吐き、体を傾けてその場に倒れ込んだ。それでも痛みも顧みず私のそばまで這ってくると、私の裾をつかみ、哀れっぽく許しを乞うた。「知夏、私たち、子どもの頃から一緒に育ってきたじゃない。私を本当の妹みたいに思うって言ってくれたでしょう?たった一人の男のことで、私たちが憎み合わなきゃいけないの?私が悪かった。恭介はあなたに返すから、前み
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