第4話

喬念が林鳶の好意を拒絶したのを見て、林華は心中の愧疚を押し隠し、冷ややかに言った。「そんな皮肉を言うでない。体に傷があるなら、何故すぐに言わなかった？口は飾りか？」

念々が早く言っていれば、われは必ず御典医に膏薬を貰いに行ってやったものを！

「たった今申し上げようとしたのですが、若様は機会をお与えくださいませなんだ」喬念は静かな声で、両手を林夫人の手から離した。

林華の眉間には深い皺が刻まれた。侯爵邸に戻ってきたというのに、未だに兄上と呼ぼうとしないとは。

心中の怒りは収まらず、低い声で言った。「逆に聞きたい。お前は我が侯爵家の令嬢だ。幼い頃から屋敷の武術指南に付いて武術を習っていたはず。洗濯番に一体どれほどの使い手がおるというのじゃ？お前をこれほどまでに傷つけるような」

その言葉に、喬念の胸は締め付けられた。

彼女は目を伏せ、袖を下ろし、静かながらも身の竦むような冷たさを帯びた声で言った。「最初は抵抗もしました。若様の言う通り、あの下女たちは確かに私の相手ではありませせなんだ。ですが、彼女たちはわたくしに敵わぬと分かると、陰湿な真似をしてきました。例えば、わたくしが寝入った隙に、寝床に冷水を何杯も浴びせかけたり、食事の時には他の人にはお米を、わたくしには残飯をよそったり。苦労して洗ったばかりの着物を厠に投げ込んだり、あるいは彼女たちが洗うべき分量を全てわたくしに押し付けたり」

そこまで言うと、彼女は顔を上げ、林華を見た。澄んだ瞳には感情が読み取れぬが、林華の両手は震え始めた。

「わたくしもかつて洗濯番のお局に助けを乞うたことがございました。しかし、返ってきたのは鞭の痛みのみ。慰めなど一切ござりませなんだ。故に、抵抗することもやめ、寝床が濡れていれば床にて眠り、残飯混じりの食事もそのまま口にするようになりました。一度などは、お局の酷い仕打ちにより、今わの際まで追い詰められたこともございました。恐らくは侯爵邸への憚りからでしょう、その後は幾分か手加減されるようになりました」

林華の目に浮かぶ、信じられないという表情を見て、喬念の口元には嘲りの笑みが浮かんだ。「それで、若様はわたくしがわざとあんな屈辱を味わって、そなたの罪悪感と後悔を引き出そうとしておるとでも？」

「愚かな。わたくしは自分の立場をよく分かっております。そなたは罪悪感を持つかもしれぬが、決して後悔はしまい。今までの話を聞いて、恐らくは、あの時洗濯番に送られたのがわたくしで、林鳶でなくてよかったと思っておるだけでしょう？」

喬念の瞳に潜む問い詰めに、林華は心臓を誰かに強く掴まれ、引き裂かれる思いがした。

しかし、彼は反論の言葉を発することができなかった。

「念々、もう言うのはよせ！」林夫人は胸を押さえ、息も絶え絶えに泣きじゃくった。「全てわたくしの不徳の致すところ。申し訳ないことをした」

「奥方様はわたくしに申し訳ないことをなどしておりませぬ」喬念は相変わらず優しく、穏やかな声だった。

しかし、この優しさは林鳶のものとはまるで違っていた。

林鳶の優しさは、人の心を慰め、安らぎを与えるものだった。

しかし、喬念の優しさは、まるで柔らかな刃物のように、一言一言が人の心を切り裂き、血を流させるものだった。

「奥方様は十五年間育ててくださいました。わたくしには養育の恩がございます。何をされても当然のことです」

「だが、お前には恨みがある！」林華は再び口を開いた。心の中の引き裂かれるような痛みは、彼を苛立たせた。

彼は喬念を見透かしたように、冷ややかに笑った。「お前が今しておることは全てわざとだ。わざと我々に冷たく当たり、わざと母上の前で倒れ、章衡の前でも同じ手を使ったのだろう。彼の同情を買って、彼の馬車に乗せてもらって戻ってきたのだな？林念、よく覚えておけ。章衡はもうお前の許嫁ではない。彼は今、鳶の許嫁だ。二人はもうすぐ祝言を挙げるのだぞ！」

怒りに満ちた林華の顔を見て、喬念は心の中で嘆息した。十五年間も兄であっただけあって、林華の言葉の一つ一つが彼女の心に突き刺さった。

幸い、彼女の心はこの三年間で鍛えられ、もはやどんな毒にも侵されぬようになっていた。

「若様は公務でお忙しいようで、三年前、わたくしを階段から突き落としたことをお忘れのようだな。あの時、わたくしは足を挫き、まだ癒えぬうちに洗濯番に送られました。この三年間、足の古傷は幾度も痛み、今日、若様がわたくしを馬車から蹴り落とした時にもう一度挫いてしまったのだ。だから、先ほどは本当に踏ん張ることができませなんだ。そして、章将軍については......若様はなぜ彼がわたくしに同情すると思うのじゃ？わたくしを買い被りすぎているのですか？それとも、林鳶お嬢様を見縊りすぎているのですか？」

その言葉に、傍らの林鳶は恥じ入り、顔を赤らめた。

林華は思わず林鳶を心配そうに見て、喬念に向かって低い声で言った。「ここで仲違いをさせるようなことを言うでない。お前の性分はわれが一番よく知っておる。三年経っても、相変わらず執念深い！警告しておく。われがおる限り、鳶を苛めることは許さん！」

「兄上......」林鳶は泣き出しそうな声で言った。「そんなことを言うてはなりませぬ。姉上は鳶に何もしておりませぬ」

「鳶、お前は優しすぎるのじゃ！」林華は眉をひそめ、喬念を指差した。「だが、彼女はお前とは違う。彼女は腹黒く、恨み深い！我々は彼女を三年間も洗濯番に閉じ込め、何も聞かなかった。今、彼女が出てきたら、必ず復讐してくるであろう！母上が彼女を一番可愛がってくれるのを知りながら、わざと冷たく接し、わざと母上の前で傷を見せつける。母上がどれほど泣いておるか、見てみろ！」

林鳶は傍らの林夫人を見た。確かに、林夫人は泣き崩れ、侍女に寄りかかって息をしていた。

林華の言葉を聞いて、林夫人は何か言おうとしたようだが、手を小さく振るだけで、言葉が出てこなかった。

林鳶は心の中で思った。母上がこんな風になっているのを見るのは初めてだ。喬念が洗濯番に送られた時でさえ、母上は少し涙を流しただけで、逆に彼女を慰めてくれたのに！

今となっては......

もしかして、本当に兄上の言う通り、これは全て喬念の仕組んだことなのだろうか？

喬念は、そんなに策士なのだろうか？

彼女は思わず喬念に視線を向けたが、喬念もまた彼女を見ていた。その冷たく澄んだ瞳は鋭く、まるでナイフのように彼女の心の奥底に突き刺さり、彼女はそれ以上見ることができず、慌てて視線をそらした。

一方、喬念は林夫人に一礼した。「どうやら今日はわたくしが祖母上にお会いするのは相応しくないようです。奥方様から祖母上に、明日改めてお見舞いに上がるとお伝えくださいませ」

そう言うと、喬念は足を引きずりながら立ち去り、林家の誰にも視線を向けなかった。

しかし、そのよろめく後ろ姿は、林家の全ての者の心に深く焼きついた。

章衡も含めて。

林華は、林鳶が林夫人を送り届けてから、ようやく章衡の姿に気づいた。

彼は少し離れた回廊に立っており、先ほど起こった全てをきっと見ていたのだろう。

林華はっらだち、眉をひそめ、章衡に近づいて言った。「なぜここに来たのじゃ？」

「御上様から貴重な薬材を賜り、われには必要ないので、林老夫人にお届けしようと思ったのだ」章衡は落ち着いた様子で、表情を変えずに言った。

しかし、林華は何かに気づいたようで、眉をひそめ、章衡をじっと見つめてから口を開いた。「正直に言え、念々のために来たのだろう？」