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第3章 – 契約

Author: Marghie
last update publish date: 2026-09-23 12:50:47

ナンシー

「お母様? なぜ彼女がダメなんですか? ジャネラは有名な女優ですよ。多くのCMや番組に出演しています。きっと気に入るはずです。彼女に頼んで一時的な妻になってもらうよう交渉することならできますよ。遺言に書かれているのは、パパが亡くなる前に結婚していればいいということだけなんですから」とドウェイン社長は言った。

「私は彼女が嫌いだ。お前の女たちに対して私が身元調査をしていないとでも思っているのか? ジャネラは、多くの政治家や金持ちの男たちと裏で密会している女の一人よ。それに、あの女がただの契約上の妻のままで満足するはずがないし、ましてやあなたと婚約契約(プレニュプ)を結ぶことになんて絶対に同意しないわ」とエレナ夫人は真剣な表情で答えた。

私は思わずうなずいてしまい、エレナ夫人が何かを考えているような目で私を見つめた。

「ドウェイン、いっそのことナンシーではどう?」彼女は提案した。

私は呆然となり、自分自身を指さした。「わ、私ですか?」 「ナンシーに頼みなさいよ。彼女はお前に忠実だ。彼女にとっては、仕事の延長みたいなものよ」エレナ夫人はあごをマッサージしながら言った。

私は生唾を飲み込み、ドウェイン社長を見た。彼も私を見つめ返し、それから深く息を吐き出した。

「ナンシー、俺と結婚してくれ。1億ドル支払う。父さんが亡くなるまでの間、俺たちは夫婦でいるんだ。その後で離婚する。セックスなし。感情なし。ただのビジネスだ」

セックスなし? もう嫌だ。 さっきはあんなに大きくて太い彼のジュニアにかぶりつきたい、いや咥えたいなんて思っていたのに!

ショックだったし、傷ついた。彼にとってはただの取引だったのだ。しかし彼女にとっては? それは叶わないと知りながらも夢見たものだった。

「社長……」 ドウェイン社長は私の手を握った。「頼む、ただの民事婚だし、俺が遺産を手に入れたらすぐに離婚するから。僕たちが結婚したことなんて誰も知らない。二人だけの秘密だ」彼のその言葉で、私はさらに深く傷ついた。

二人だけの秘密? 誰も知らない? どうせ私のことを妻として恥ずかしいと思っているのだろう。無理もない。私はブサイクなのだから。

「ナンシー、あなたとドウェインの間で婚約に関する契約(プレニュプ)を結ぶことになるけれど、心配しないで。1億ドルの現金に加えて、会社の1%の株式もあなたに譲渡するわ。ただし、結婚は秘密にし、誰にも言わないことが条件よ。レオの命があと1ヶ月だというのが本当なら、あなたたちの夫婦生活もそれと同じくらいあっという間に終わるわ。息子が遺産を手に入れた後にちゃんと離婚の手続きをするから」とエレナ夫人は説明した。

「頼むから引き受けてくれ。心配いらない、給料も10倍にしてやるから」とドウェイン社長も追い討ちをかけた。

私は深く息を吸い込み、繋ぎ合わされた私たちの手を見つめた。「……わかりました。引き受けます」

ドウェイン社長が突然私の手にキスをしたので、私は驚いた。「ありがとう。明日、結婚しよう」

家に帰っても食欲が湧かなかった。出かける前、明日民事婚が終わったら、夫婦でいる間は当分の間彼の邸宅に引っ越すことになるとドウェイン社長から告げられていた。

喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、自分でもわからなかった。 嬉しいのは、私が愛してやまない、そしておそらくこれが人生で最初で最後の愛となるであろう男の妻になれることだ。

しかし同時に悲しいのは、すべてが偽りだと分かっているからだ。愛もなければ、感情もない。 私はただ、書類上の妻にすぎない。いっそのこと、レオ様があと10年以上生き延びてくれたらいいのにと、私はふと願ってしまった。

なぜなら、私たちが離れなければならなくなる時のことを想像しただけで、今からすでに胸が締め付けられるからだ。 ドウェイン社長が遺産を手に入れたら、教会の祭壇でジャネラと結婚するのは確実なのだから。

涙が頬を伝い落ちた。まったく、腹立たしい。秘密の片思いなんて苦しすぎる。私は頭を振って涙を拭い、服の荷造りを始めた。

翌日、市役所ではなくジョンソン家の大きな邸宅のなかで私たちの民事婚が行われた。やってきた判事も、ドウェイン社長から大金を受け取っているに違いなかった。

結婚なのだから何かしらのセレモニーがあるものだと思っていたが、そうではなかった。私たち二人が書類にサインをしただけで、もう夫婦だと言われた。

は? キスもなし? 指輪もないの? じゃあ、私は今日から「ナンシー・ジョンソン夫人」になったってこと?

ドウェイン社長とエレナ夫人は判事と握手を交わし、厚みのある封筒を手渡した。中身はおそらく現金だろう。判事はその書類を持って立ち去った。

そこにバーナード・サンドウェル弁護士がやってきて、ボスの妻に選ばれたのが私だということを知ると驚きの声をあげた。

なんだこのおっさん、少し残念そうな顔をして! 私は端で不満そうに唇を尖らせた。 「ドウェイン様、形だけの奥様を見つけたのですね。せっかく私の姪を紹介しようと思っていたのに、残念だ」

そういうことか! この弁護士のジジイにも下心があったわけだ! 「ああ」とうなずきながらドウェイン社長は言った。「さあ、俺の遺産の手続きを進めてくれ」 「わかりました、ご心配なく」とサンドウェル弁護士は答え、再び私に視線を向けた。

その目を今すぐ突き刺してやりたい気分だ!

「ナンシー、あなたの当面の部屋は2階の廊下の突き当たりにあるゲストルームよ。ドウェインの部屋の隣だ」 私はエレナ夫人を見てうなずいた。「はい、ジョンソン夫人」

彼女は私のそばに歩み寄り、私の手を握った。「手伝ってくれて本当にありがとう、ナンシー」 「とんでもございません、奥様。私にできる限りのことをさせていただきます」と私は微笑みながら言った。

「そういえば、聞きそびれていたけれど、ボーイフレンドはいるの?」彼女は尋ねた。 ドウェイン社長がすかさず私の肩に腕を回した。「いませんよ」 「はい、おりません」と私は答えた。

「それならよかった。この結婚は秘密にしておきたいのだからね」とエレナ夫人は言った。 「ご安心ください。これはただの仕事であり、個人的な感情は持ち込まないと割り切っておりますので」

するとドウェイン社長が突然私を抱きしめた。「だからこそ、俺はナンシーを信頼しているんだ。どんなことでも頼りになるからな」

ゲストルームのベッドは信じられないほど柔らかく、そして大きかった。さすがは大富豪の家だ。 1億ドルに、会社の1%の株式、そして10倍に跳ね上がる給料。

損な取引ではないはずなのに、どうしてこんなにも胸が痛むのだろう? 私のボスが、私の愛する、そして恋い焦がれる男が、今や私の夫になったのだ。

「私たちが夫婦になった」というその響きは心地よいはずなのに、すべてが芝居なのだと思い知るたび、自分の境遇が哀れでならなかった。

彼らにとって私は、どんな命令でもこなせるただの便利な使用人にすぎないのだろうか。お金で買われ、言いなりになる存在として見られているのだ。

今日は私たちのハニムーンのはずなのに、私はこの部屋で一人きりだ。窓から外を見ると、ドウェイン社長が車で出かけていくのが見えた。どうせまた彼の女の一人と会うに違いない。 あるいは、ジャネラと……。

彼はいつか、私を愛してくれるようになるだろうか?

翌日、私はドウェイン社長と一緒に会社に出勤した。いつも一緒にいるのだから誰も不思議には思わない。いわば、私は彼の影であり、しっぽのような存在なのだから。

会社のロビーに足を踏み入れると、社員たちが一箇所に群がっていた。気になって近づいてみると、その理由が分かって私は息を呑んだ。

ジャネラ・アンダーソンだ。

誰もが彼女と一緒に写真を撮りたがっていた。彼女は快くそれに応じ、ドウェインの姿を見つけると、「ちょっと失礼」と言って彼の腕に自分の腕をからませた。

「ドウェイン、やっと来たのね!」彼女は嬉しそうにそう言いながら、彼の唇にキスをした。

私の夫なのに! そう叫び出したい衝動に駆られた。

社員たちの間から冷やかすような声が上がり、誰もがときめいた様子だった。そんな中、私はただ静かに突っ立っていた。すると、ドウェイン社長がふと私の方に視線を向けた。

その瞳の意味が私には分からなかった。しかし私はすぐに目をそらし、社員たちに仕事に戻るよう指示すると、早足でエレベーターに向かった。

三人でエレベーターに乗り込み、私は彼らの後ろのポジションに立った。ドアが閉まった瞬間、二人が熱いキスを交わしたのを見た私の心は、文字通りズタズタに引き裂かれた。

私のことなんて、見えていないの?

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