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第203話

作者: marimo
last update publish date: 2026-06-19 23:48:34

綾乃が心春の腕を軽く叩いて言った。

「心春、部屋に行ってなさい。ママ、ちょっと和真と話すから」

その声は穏やかだったが、有無を言わせない強さがあった。

心春は一瞬だけ不安そうな顔をした。

和真と会えば、自分はどういう顔をしていいのかわからない。

責めたいのか。

信じたいのか。

自分でも整理がついていなかった。

だが綾乃の落ち着いた表情を見ると、心春は小さく頷いた。

「……うん」

そして立ち上がる。

綾乃は安心させるように微笑んだ。

心春はその笑顔に背中を押されるように、リビングの奥にあるもう一つのドアへ向かった。

静かにドアノブを回し、振り返る。

綾乃はいつものように穏やかに座っていた。

それを確認すると、心春は部屋を出て行った。

そして――

心春がドアを閉めた瞬間、メインのドアが勢いよく開いて、和真が血相を変えて入ってきた。

普段の和真からは想像もできないほど余裕のない姿だった。

ネクタイは少し緩み、額にはうっすら汗が滲んでいる。

急いでここまで来たことが一目で分かった。

ソファに座って顔を上げた綾乃が和真を見る。

「騒がしいわよ、和真」

まるで遅れてきた学生を叱る教師のような口調
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    綾乃が心春の腕を軽く叩いて言った。「心春、部屋に行ってなさい。ママ、ちょっと和真と話すから」その声は穏やかだったが、有無を言わせない強さがあった。心春は一瞬だけ不安そうな顔をした。和真と会えば、自分はどういう顔をしていいのかわからない。責めたいのか。信じたいのか。自分でも整理がついていなかった。だが綾乃の落ち着いた表情を見ると、心春は小さく頷いた。「……うん」そして立ち上がる。綾乃は安心させるように微笑んだ。心春はその笑顔に背中を押されるように、リビングの奥にあるもう一つのドアへ向かった。静かにドアノブを回し、振り返る。綾乃はいつものように穏やかに座っていた。それを確認すると、心春は部屋を出て行った。そして――心春がドアを閉めた瞬間、メインのドアが勢いよく開いて、和真が血相を変えて入ってきた。普段の和真からは想像もできないほど余裕のない姿だった。ネクタイは少し緩み、額にはうっすら汗が滲んでいる。急いでここまで来たことが一目で分かった。ソファに座って顔を上げた綾乃が和真を見る。「騒がしいわよ、和真」まるで遅れてきた学生を叱る教師のような口調だった。和真はその言葉に一瞬呆気に取られていた。自分は必死だった。だが綾乃は驚く様子もない。慌てる様子もない。まるですべてを把握しているかのようだった。その時、和真の視線がテーブルの上に置かれたカップへ向く。まだ湯気の残るホットココア。しかも二人分。和真の目が鋭くなった。綾乃の前に置いてあるホットココアの入ったカップが目に入った和真は、綾乃に聞いた。「心春は?こっちに帰ってきてるんだろ?」声には焦りが滲んでいた。綾乃は慌てた様子もなく、和真に向かって言う。「和真、落ち着いて。あなたも座ったらどう?」和真は部屋を見回していたが、綾乃の言葉に自分もソファに座った。しかし落ち着いているとは言い難い。膝の上で組まれた手には力が入っている。「綾乃、心春は?ここにいるんだろ?話がしたいんだ、心春を呼んでくれよ」和真の言葉に綾乃は首を横に振って言った。「まずは何があったのかを私に話してからよ」そう言い和真の顔を凝視した。綾乃の視線は鋭い。若い頃から数々の修羅場をくぐってきた女性特有の迫力があった。和真は言いにくそうにしていたが、小さくため息をつくと話し

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