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ウカポン友の会①

last update Date de publication: 2026-02-26 19:10:48

「神崎さーん!」

 一月も半ばに入り、寒さがより厳しくなった頃。

 久我探偵事務所に名城璃久なしろりくがやってきた。

 神崎寿直かんざきすなおは手を止めて顔をあげる。

「どうしたの、璃久ちゃん」

「明日って、空いてますか?」

 神崎の机へまっすぐに寄ってきて、可愛い顔をした青年はそう言った。

 中性的なショートボブにぱっちりとした目、色白で小柄な背丈から、一見すると女の子のようだ。

「うん、特に予定はないけど」

「じゃあ、一緒に原宿行きませんか? 実は明日、親戚の子とウカポンショップに行くんです」

「え、ウカポンショップ!?」

 神崎のテンションが自然とあがり、璃久はにこりと笑った。

「三千円以上買うと、限定缶バッジがもらえるキャンペーン中なんです。もしよかったら、神崎さんも一緒にどうですか?」

「ああ、SNSで見かけたやつか。あの缶バッジ、いいなって思ってたんだよね」

「それじゃあ、ぜひ一緒に行きましょう!」

「いいの
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  • 久我探偵事務所の灯りの下で   灯りの下③

     やわらかな灯りの下でレイは続ける。「誰もぼくを必要としてくれなくて、いらない存在なんだって、悪夢が……」 彼を蝕んでいたのは、いじめられた時の記憶だ。 茶々丸という、社会とのつながりを保つ唯一の理由を失って、迷子になっていたのだ。「だから、変なことすれば、みんなかまってくれるって、思った」 それが帯裏ミステリーだった。「なのに、タケがずるをした。だからムカついた」「すまなかったな。だが、見過ごすわけにはいかなかったんだ」「追いつめてやろうと思った。ぼくをいじめたやつらと同じだと、思ってた」 その言葉には誰も反応できなかった。ただ、璃久が言う。「ボクもそうなんですけど、人って、自分の知っている範囲でしか、物事を捉えられないんですよね。 新しいことや未知のものを、無意識に、すでにある知識や経験にあてはめちゃうんです」 何人かがうなずき、感心してから、レイを見る。「狭かったな、お前の世界。でも、これからはそうはさせないぜ」 間遠はそう言ってレイの肩へ腕を回した。「いつでもここに遊びに来い。神崎はだいたいいるし、オレがいる時なら話し相手になってやる」 レイが小さく嗚咽を漏らした直後だった。「待て、間遠。僕はまだ許していないぞ」 温かくなりかけた空気が一気に冷めた。「ここは僕の事務所だ。最終的な判断は僕がくだす」 正論だった。「まあ、そうだよな。久我ちゃんの言う通りだ」 と、鯉川は缶ビールを開けた。「ボクは部外者なので黙ってます」 璃久はお寿司をいくつも皿に取り、神崎も言う。「その前に浩介の意見も聞いてやってください」「え、自分? あー、えっと」 注目された相楽は困惑しつつも、立ちあがってレイを見た。「正直、許せません。レイのやったことは悪質だし、事情があったからって同情もしません」 相楽の声は大きくてよく通るだけに、レイの心へまっすぐ届くように思われた。「けど、大事なのは過

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   灯りの下②

     レイは理解しがたいと言った顔をする。「でも、いなかったじゃないか」「うん、ここしばらくは忙しいみたいで、顔出してないな。けど、そもそもはゆるく体を動かすのが目的だ」 駅前のベンチから人が減り、夜の静けさが漂い始める。「たとえばサッカーをやりたい人がいたら、同じくやりたい人を集めてやる。 だいたいは休日の数時間で、長時間の拘束はしないのがルールだ」「何、それ……」「人数が多いと試合になることはあるけど、勝ち負けにはこだわらない。 スポーツを楽しみたい人だけが集まってるからな」「……意味分からない」「レイにとってはそうかもな。でも、居心地のいい場所ってのは、かならずどこかにあるものなんだよ」 間遠は経験から知っていた。「伊上がそれを作ってくれて、オレはまたスポーツを楽しめるようになった。 だから、あいつにはめちゃくちゃ感謝してるんだ」 辺りが薄暗くなり、駅前の明かりが存在感を増す。「それでさ、話は少し変わるんだけど、今度はオレが居場所を作ってやれないかって思ってる」「……」「レイ、オレがお前の居場所になるから、来いよ」「来いって、どこに?」 戸惑うレイに間遠はまぶしい笑みを向けた。「決まってんだろ、久我探偵事務所だよ」 意外にもレイは嫌がらなかった。 間遠は扉を開けて中へ入るようにうながし、レイがおずおずと室内へ足を踏み入れる。「お待ちしてました!」 と、開口一番に言ったのは名城璃久だった。 数歩進んだところでレイが立ち止まる。温かい視線ばかりではないことに気づいたのだろう。 実際、久我と相楽はまだ納得していない様子であり、鯉川も困惑顔だ。 にこにこと笑っているのは璃久だけだった。「や、やっぱり帰る」 視線に耐えかねたのか、怯えた様子を見せたレイへ、神崎が声をかけた。「あなたのために用意した料理、無駄にする

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   灯りの下①

    「これ、レイのいたずらっすよね?」 間遠桜はそう言ってスマートフォンの画面を久我健人へ見せた。 映っていたのはメッセージアプリのスクリーンショットだ。内容は間遠に対する悪口だった。「送られてきたのか?」 と、久我が眉間にしわを寄せるが、間遠は言った。「璃久ちゃんへの嫌がらせの後、しばらく何もなかったんで、忘れられてなくてよかったです」「……それで?」「今度はオレと遊びたいんだな、って返信しました」「傷つかなかったのか? あんな悪口を言われてたんだぞ」 間遠はスマホを操作しつつ、ちらりと久我を見やった。「別に。だってレイの捏造だってバレバレですし」「そうなのか? だが、どう見てもあれは……」 久我が困惑するのは当然だった。 大学の陸上部の仲間たちが、怪我をして走れなくなった間遠を嘲笑する内容だったからだ。 間遠は自信満々ににかっと笑う。「明らかなミスを犯してるんすよ、あいつ」 そして鯉川宗吾を振り返った。「鯉川さん、今送った画像の解析、お願いします」「明らかなミスしてるって言ってなかった? おじさんがやる意味ある?」「無視するのも可哀想でしょ。とにかく、お願いしますね」 と、間遠は自分の席へ戻った。 鯉川は久我と顔を見合わせて首をかしげるが、間遠はかまわずに今日のスケジュールを確認し始めた。 調査から戻る頃に、またレイからメールが届いていた。 今度は音声ファイルが添付されており、間遠は久我の前で再生した。 古い音声ということにしたいのだろう、ノイズが入っていて聞き取りにくいが、部員たちが間遠の悪口を話しているのが分かった。「すっげーな、レイって。こんなもんも作れるのか」 と、間遠が感心すると、久我は微妙な顔をした。「これも捏造か?」「当然っすよ。っつーか、何か勘違いしてるっぽいな」「どういうことだ?」

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   ネットのおもちゃ③

     璃久は膝を立てて三角座りをした。ぎゅっと膝を抱き、顔を埋めるようにして考える。 昨日、間遠が言っていた。ネットで拡散された写真を消すのは、いたちごっこだと。 璃久は悲しい気持ちになりながら言った。「終わりがないことをやっている自覚、ありますか?」「ああ、あるよ」「それでも、やめられないんですか?」「やめられないね。どうしても、俺がやらなきゃって思っちまう」 鯉川は立ち上がり、台所へ行くと冷蔵庫を開けた。 缶ビールを取り出し、その場でごくごくと飲み始める。「俺の両親はある意味、賢かったんだ。そういう写真に高値をつけても、買う人間がいることを知ってた」「……」「でも、それがあいつの……違うな、俺の人生までもを壊しちまったんだ」「もうやめてください、鯉川さんっ」 璃久が声をあげると、鯉川が冷めた目を向けて自嘲する。「璃久ちゃんには分からねぇよな、俺の気持ちなんてよ」「分かりません。でも、鯉川さんのやってることが、リストカットと同じだってことくらいは分かります!」 鯉川が目をみはり、璃久は震えそうになる足で立ちあがった。「もう許してあげてください。自分のこと、許してあげて……っ」 ぼろぼろと涙がこぼれ、頬を伝い落ちていく。「鯉川さん、もういいでしょう? もうそんなに自分をいじめなくても、いいはずでしょう?」「……贖罪だとしても?」「そんなの、自己満足じゃないですかっ。 もういない人に向けて罪滅ぼしをしたって、満足するのは自分だけじゃないですか!」 言ってからはっとした。「違う、満足なんてしない。するわけがないんです」「……」「だって、鯉川さんは満足しようとしてないでしょう? 行為が目的になってて、結果を見ようとしてないんです」 鯉川が小さく笑った。「すごいな、璃久ちゃんは。そうだ、俺は満足なんてしな

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   ネットのおもちゃ②

     鯉川がシャワーを浴び終えた頃、璃久も足の踏み場ができる程度には片付けができた。「ごめんね、璃久ちゃん。ありがとう」 と、濡れた髪のまま鯉川が戻ってきて、璃久はゴミ袋を部屋の隅へ積む。「別にいいんですよ。それより、みなさんから話は聞きました。大丈夫ですか、鯉川さん」 璃久がじっと鯉川を見つめると、彼は視線をそらした。「ごめん。でも、やらなきゃいけないんだ」「ハッキングして写真を消してるんでしょう?」 間髪をいれずに璃久が問うと、鯉川はパソコンの方を見て返す。「六年前に自殺した娘さんなんだ。 ネットのおもちゃにされてて、ひどいのだとディープフェイクまで作られてた。消したいって思うのは当然だよ」「だからって、鯉川さんが無理をしてまで、引き受ける必要はあるんですか?」 鯉川はため息をつき、奥の部屋からペットボトルのミネラルウォーターを取ってきた。「座って話そう。これ、飲んでいいよ」「ありがとうございます」 ペットボトルを受け取り、璃久は座卓のそばに腰を下ろした。 鯉川も座卓を囲んで左側に座り、キャップを開けて水をごくごくと飲む。しばらく水分補給すらしていなかったようだ。 半分ほど飲み干してから、鯉川は口を開いた。「昨日はドタキャンしちゃって、ごめん」「いえ、また今度にすればいいだけですから」「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、おじさんには話したくないことがたくさんあるんだ」「もしかして、ボクに帰れって言ってますか?」「……ごめん。せっかく来てくれて悪いけど、部屋も片付けてもらっちゃって悪いけど、できれば早く帰ってほしい」 いつもより伸びた無精髭が痛々しく見えた。普段の軽口は影すらなく、鯉川は弱々しい顔をしていた。「嫌です、って言ったら?」 鯉川がのぞきこむように璃久の目を見る。「璃久ちゃんって、可愛い顔して押しが強いんだよね」 からかうような口調ではなく、むしろ自信の情けなさを反映したような台詞だった。 璃久もミネラルウ

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   ネットのおもちゃ①

     日曜日の夕方、新宿の繁華街から少し離れた喫茶店で、名城璃久は間遠桜と向かい合っていた。「それで、鯉川さんに何があったんですか?」 たずねる璃久へ間遠は困ったように笑う。「オレも久我さんから聞いた話なんで、くわしいことは分からないんだけどさ」 と、前置きをした。「先週の金曜日だから、一昨日だな。依頼の相談があったんだけど、久我さんは断ったんだ。明確に法に反するから、って」「その依頼っていうのは?」「確か、娘の写真がネットで拡散されてて、それを消してもらいたいって話だった」「写真を消す?」 璃久が首をかしげると、間遠はアイスコーヒーを一口飲んだ。「拡散される原因になった一人を見つけることはできても、警察はすでに拡散された写真を消すことまではできねぇんだ」「そうなんですか?」「その写真が投稿されたサイトの運営者を通さないとならないし、時間がかかる。削除要請が通っても、その写真を保存した別の誰かがいて、また投稿するかもしれない。つまり、いたちごっこなんだよ」「ああ、なるほど……」「他に写真を消すとしたら、それこそハッキングするしかない。でもそれは犯罪だから、久我さんは断ったんだ」「それで?」「けど、鯉川さんが引き受けたらしい。それも、個人的にな」 璃久はびっくりして目を丸くした。「いくら止めても聞かなかったそうだ。なんか鯉川さん、怖い顔してたって久我さんは言ってたな」 間遠の目に心配の色が浮かび、璃久は言った。「実は今日、鯉川さんと食事をする予定だったんです。でも、ドタキャンされちゃって」「マジかよ、あの鯉川さんが?」 間遠が驚き、璃久は返す。「ボクもびっくりしちゃいました。だから、何かあったのかなと思って、間遠さんに連絡したんです」「そういうことだったか。となると、写真の削除をちまちまやってるのかもしれねぇな」「そうなりますよね。何だか心配です」 と、璃久は伏し目がちにテ

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   猫と桜③

    「この度は久我探偵事務所にご依頼いただき、ありがとうございました」 玄関先で間遠が頭をさげると、古川大貴も深々と礼をした。「こちらこそ、ありがとうございました」「それでは、失礼します」 と、間遠は玄関の戸を開いた直後、ふと立ち止まった。――広大な庭、目を楽しませてくれるさまざまな緑。「どうかしましたか?」 後ろから古川大貴が怪訝そうに声をかけてきて、間遠は振り返る。「箱の中に入っていた写真の意味、分かったかもしれません」「え?」 間遠は一歩外に出て、桜の木を見つめた。「

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   猫と桜②

    「お庭、広いですよね。しかもいろんな植物が植えられています」 ふと感想をもらした間遠へ、古川大貴は言った。「亡くなった祖母が、ガーデニングを趣味にしていたんです。その後は祖父が世話をしていました」「お一人で、ですか?」「さすがにそれは無理なので、孫の僕たちが手伝ってましたよ。ただ、この家もどうなってしまうか……」 古川大貴が沈んだ表情をし、間遠は静かに問いかける。「この家、取り壊してしまうんですか?」「親戚たちの間では、そういう話になっています。もう誰も住む人はいないので、土地

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   猫と桜①

     インターネットを通してやってきた依頼を見て、久我健人は眉をひそめた。「猫……?」 自分の席でコーヒーを飲んでいた間遠桜はそちらを見る。「猫探しの依頼っすか?」「ああ、いや、そうじゃないんだ。遺言状に愛猫の名前だけが書かれていて、その暗号を解いてもらいたいという内容でな」 久我はそう答えたが、気乗りしない顔で息をつく。「何だか妙な話だ。注意した方がいいかもしれない」 間遠は首をかしげ、隣の席の神崎寿直と顔を見合わせる。

  • 久我探偵事務所の灯りの下で   帯裏ミステリー②

     初日の収穫は三冊だった。「まずはこの『雪葬』の帯裏っすね」 と、間遠が本から帯を外して裏側を見せた。 久我は目つきを鋭くし、書かれた文章を読みあげた。「『雄一は部屋に戻った後、翌朝まで目を覚ますことはなかったと言う』か」「次に見つけたのが『凍える遺書』」 二冊目の帯裏には『執事の藤原が言うには、午前一時頃に妙な物音を聞いたらしい』と、あった。 今度は相楽が報告する。「自分が見つけたのはこれ、『茶色の墓標』です」 帯を外して裏返し、久我はそれも読みあげた。「『後妻の絢子

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