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第10話
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九十九通の離婚届 第11話
私は頭を下げて、バッグからコピーした書類を取り出し、彼に差し出した。「離婚届はもう見たでしょう。これは以前あなたがくれた不動産の権利書よ。あなたに返す」宥一の体がこわばり、信じられないといった表情で私を見た。「紗英、これはどういう意味だ？もう説明しただろう、あの写真は……」「何だっていうの？」私は彼の言葉を遮って、冷ややかな表情を浮かべた。「あなたと悠真が私に内緒で恵と撮ったものでしょう？それにあのおじや、あなたが無理やり私に食べさせたんでしょう？宥一、私がもう少しで死ぬところだったって分かってるの？」宥一は口を開こうとして、かすれた声で言った。「君のアレルギーがそんなに重いとは知らなかった……」私は笑いたくなって、心の中で止まらない悲しみが湧いてきた。「それで私を病院に送った後は？どこに行ったの？」「俺は……」私は顔をそらして、窓の外の通行人を見ながら、感情のない声で言った。「恵のところに行ったのよね。やっと死線から戻ってきた私を病院に残して。財布もスマホも持ってなくて、看護師さんのスマホを借りてあなたに電話して、医療費を払ってもらおうと思ったの。誰が出たと思う？」私は苦笑した。「恵よ。あなたがシャワーを浴びてて都合が悪いって。宥一、そんなに急いでたの？」宥一は何かを思い出したのか、顔が青ざめてつぶやいた。「違う、そんなことはしてない。俺と恵はただ……」「どうでもいいわ」私は目を伏せて、目尻の涙を拭った。「宥一、あなたと恵がどんな関係でも気にしない。今になって本当に謝りたいと思ってるかどうかも気にしない。ただ分かってるのは、こんな日々にうんざりだということ。離婚しよう」悠真は私の言葉を理解したのか、席から飛び降りて私にしがみついた。「母さん……」私は悠真の頭を撫でて、最後にこのかつて愛していた子供を見つめた。まるで過去と完全に別れを告げるように。話し合いの最後、宥一は離婚に同意した。ただ、彼には一つ要求があった。離婚後も、私と連絡を取り続けたいと。私は同意した。役所を出た後、私は直接空港に向かった。搭乗前に、一枚の写真を受け取った。宥一が悠真を抱いて、深い眼差しでカメラを見つめていた。彼は言った。「
九十九通の離婚届 第10話
「私は違うわよ、私は……」「お前に何ができるって言うんだ？」宥一が階段を降りてきて、冷たい声で言った。「さあ言ってみろ、何ができるんだ？」息子はあわてて父親のそばに駆け寄り、その後ろに隠れる。恵は最初頭が真っ白になったが、すぐに笑顔を作った。「宥一、悠真と冗談を言ってただけよ。どうして急に出てきたの？」宥一は冷ややかな表情で恵を見つめる。「聞いてたぞ。お前が悠真に新しい母親になってやるって言ってるのを」恵の顔がこわばり、また彼の腕にしがみつこうとした。「宥一、どうしたの？私の気持ちが分かってるでしょ……」宥一は彼女の手を振り払い、怒りを抑えて問い詰める。「他に悠真に何を吹き込んだ？正直に言え！」恵の体が震えた。「何も……何もないわ……」宥一は息子を見下ろす。「悠真、お前が言え」息子はまだ小さいのに、ただならぬ雰囲気を感じ取っている。宥一のズボンをぎゅっと握り、不安そうに言った。「恵さんは……恵さんは母さんに誕生日プレゼントを渡せって……」宥一ははっとして、物置きからテーブルに伏せてある写真立てを見つけた。中の写真は、彼と息子が恵を囲んで親しげに写っているもので、まるで本当の家族のようだった。家族。宥一は写真立てを手に取ると、恵の前に激しく投げつける。「青井恵、誰が紗英にちょっかいを出していいと言った？」恵は悲鳴を上げて弁解しようとするが、宥一はもう聞く耳を持たなかった。「前回もお前だな。悠真にアレルギーでは死なないと教えたのは？紗英が死にそうになったのを知ってるのか！」恵は唇を噛み、不満そうに言う。「宥一、私は全部あなたと一緒にいるためにこんなことをしたのよ。分かってるでしょ、私はただあなたを愛しすぎてるだけなの」「出て行け」宥一は恵を見て、まるでゴミでも見るような目つきになった。「出て行け！」恵が出て行った後、すべてを知った宥一はソファにどっと座り込んだ。胸にぽっかりと穴が開いたみたいで、冷たい風が吹き抜けていく。宥一は顔を両手で覆って、涙ぐんだ目を隠す。「だめだ、紗英に会いに行かなくちゃ」宥一は勢いよく立ち上がって、息子を連れて外に向かった。こんなに急いで誰かに会いたいと思ったのは初めてだった。これは
九十九通の離婚届 第9話
「母さんは父さんにくっついてる吸血鬼だ」車が急ブレーキをかけ、宥一は顔を真っ青にして振り返り、まだしゃべり続ける息子を見つめた。七歳の子供の口から、こんなにひどい言葉が出てくるなんて、誰が想像できただろう。悠真はびくっとした。宥一は深呼吸して尋ねた。「そんな言葉、誰が教えたんだ？」彼は覚えていた。昔の息子はあんなに素直でいい子だったのに。どうして、どうしてこんなふうになってしまったんだ？それに息子が昔は妻のことを一番好きで、どこに行くときも甘えた声で「母さん」と呼んでいた。いつの間にか、悠真は反抗的になった。母親を変えてほしいと騒ぎ立てるだけじゃなく、母親への嫌悪感をあからさまに見せるようになった。宥一はずっと、悠真が妻の変なところをたくさん見たから、妻を嫌いになったんだと思っていた。でも違った。昔の私は間違いなく、一番優しくて善良な人だったのに。どうしてこうなったんだ？なぜこんなことになってしまったんだ？その時、ある人物が頭に浮かんだ。青井恵。そうだ、すべての変化は恵が帰国してから始まったんだ。宥一の背筋が凍った。悠真は縮こまって、怖そうに答えた。「その……恵さんが言ったんだ」やはりそうか。宥一は振り返ると、瞳の奥に怒りが燃え上がった。家に戻ると、宥一はすぐに恵に電話した。来てもらうために。「宥一？」恵がやってきてドアをノックし、二人の姿を見ると目を輝かせた。昨夜彼らが帰った後、恵はずっとそわそわしていた。宥一は彼女が離婚後に捕まえられる最高の男で、せっかく狙った獲物を逃がすわけにはいかなかった。そう思うと、恵はますます甘い笑顔を浮かべた。宥一はうなずいて、中に入るよう促した。「紗英がちょっと用事で数日家を空けるから、悠真の面倒を見てもらえるかな？」何気ない口調で言いながら、恵の様子をうかがった。恵は飛び跳ねるようにうなずいた。まるでずっとこの瞬間を待っていたかのように。「もちろんよ、宥一。あなたのためなら何でもするって知ってるでしょ」その言葉には深い意味が込められていて、宥一は思わず眉をひそめた。息子を恵に任せ、宥一は適当な口実をつけて二階に上がった。宥一がドアを閉めるや否や、恵は我慢できずに息子に話しかけた。「悠真
九十九通の離婚届 第8話
宥一は眉をひそめ、変だと思って尋ねた。「小学校には給食があるんじゃないのか？」先生が説明した。「実は悠真くんは昔から体質が弱くて、いろんなものが食べられませんでした。なので入学の時に、悠真くんのお母さんと相談して、今後は悠真くんがお弁当を持ってくることにしたんです。ずっとそうしてきたのですが、今日は……」宥一はうなずき、中断中の会議を見ながら適当に言った。「それなら悠真の母親に電話してくれ。今、すごく忙しいんだ」先生はしばらく沈黙してから、慎重に口を開いた。「お電話したのですが、悠真くんのお母さんは既に離婚したとおっしゃって、今後悠真くんのことはお父さんにお任せしますと」宥一は一瞬呆然とし、信じられないといった様子で尋ねた。「本当にそう言ったのか？」先生がまだ答える間もなく、悠真が泣きながら叫んだ。「父さん、母さんが僕を捨てた！母さんが本当に僕のことをほったらかすんだ！」宥一は目を閉じ、この時になってようやく私が本気だということを理解した。電話を切って、宥一は直接会議を終了し、車で小学校に向かった。息子と会った時、彼はどれだけ泣いていたのか分からないが、両目は真っ赤だった。宥一は疲れて眉間を押さえ、息子を家に連れて帰った。帰る時、先生が宥一を呼び止めた。「小山さん、悠真くんがお母さんに対してちょっと失礼すぎると思うんです。子供はまだ小さいですが、価値観を身につける大事な時期でもありますので、気をつけていただければと思います」帰り道、宥一はとても静かだった。彼の頭には過去の記憶が次々と浮かんでいた。あの年、私が出産したばかりの時、悠真が早産で保育器に入った。医師の制止を振り切ってベッドから起き上がった私は、ガラス越しに悠真を見ながら泣いていた。悠真が保育器にいる間中、私はずっと泣いていた。その後状況は安定したが、悠真は早産のせいで体が弱かった。母乳が足りない私は、悠真により多くの栄養を与えるために、いろんな方法で母乳の出を良くしようとした。一番痛いマッサージも、歯を食いしばって続けた。母乳が十分出るようになった頃、悠真も歯が生えてきた。私の胸はいつも傷だらけで、やっと傷がかさぶたになったと思うと、また噛まれて破れてしまう。宥一は見ていられなくなり
九十九通の離婚届 第7話
「何か用？」子供は頬を赤らめて、少し恥ずかしそうに言った。「昨夜、紗英さんが限定版のおもちゃをくれたんです。お母さんがとても高いから、ちゃんとお礼を言いなさいって。紗英さんはお家にいますか？」彼は目をぱちくりさせて、無邪気に尋ねる。宥一の顔の笑みが固まった。「昨夜おもちゃをもらった？」子供はうなずく。「はい、包装がとてもきれいでした。紗英さんが本当は誰かにあげる予定だったって。でもその人はきっと好きじゃないから、僕にくれました」「誰が好きじゃないって言った！」息子が急に大声を出した。「それは母さんが僕にくれた誕生日プレゼントだ。返して！」そう言って隣の子の手から花束をひったくり、地面に叩きつけた。「母さんはお前の花なんか好きじゃない！」宥一の目つきが鋭くなり、急いで悠真の手を掴む。「何してるんだ！」隣の家の子は驚いて、口をとがらせて今にも泣きそうになった。宥一は慌てて声を和らげて謝る。「ごめんね、おじさんが悠真の代わりに謝るよ。この花束はとてもきれいだね。ちゃんと伝えるから、いいかな？」子供はうなずいて走り去った。悠真は下唇をぎゅっと噛み締め、不満そうに宥一に食ってかかる。「どうしてあいつの味方をするんだ？あのプレゼントは母さんが僕にくれるはずだったのに」宥一はため息をつき、少し疲れた様子で言う。「分かったから、今度お前の母さんがまた買ってくれるよ。とりあえず学校に行こう」道中、父子はそれぞれ自分の世界に浸り、誰も口をきかなかった。……お昼に、息子の先生から突然私に電話がかかってきた。「悠真くんのお母さんでしょうか？悠真くんの担任です。実は今日、悠真くんがお弁当を持ってきていないので、お持ちいただけますか？」電話を受けた時、私はちょうど自分のために豪華な昼食を作ったところだった。テーブルに並んだ色とりどりの美味しそうな料理を見ながら、私は淡々と返事した。「すみません、夫と離婚しました。悠真のことは、今後直接父親にご連絡ください」電話の向こうの声が止まり、先生は気まずそうに言った。「は……はい……」私は微笑み、電話を切ろうとした時、向こうから騒がしい声が聞こえた。息子が先生の携帯を取り上げて、怒った声で言った。
九十九通の離婚届 第6話
宥一は見なくてもすぐに分かった。これは彼が私に投げつけた九十九枚目の離婚届だった。実際、九十九枚目と一枚目の内容はほぼ同じだった。違うのは日付ぐらいだろう。でも今回は違う。申請者の欄の空白が消えて、代わりにはっきりとした文字がある。小山紗英。ドンッ！宥一の目がくらみ、ゴミ箱にぶつかった。息子が驚いて彼の腕を支える。私は彼を一瞥し、荷物を持って立ち去った。息子は私を追いかけたかったが、宥一から離れるわけにもいかず、怖がって泣き続けた。「父さん、大丈夫？」宥一は我に返り、離婚届を持つ手が微かに震えている。「大丈夫だ」息子はホッと息をついたが、すぐにあの書類を思い出して慌てて尋ねる。「父さん、離婚って何？母さんはどうして父さんと離婚するの！」彼は恐ろしそうに宥一を見て、また目を赤くして私が去った方向を見た。今度、彼はついに「母さん」と呼ぶことを覚えた。息子のこれらの疑問に対し、宥一の頭は真っ白だった。不安、慌て、後悔が同時に浮かぶ。彼は芝生にへたり込み、しゃがれた声で言った。「お前の母さんは……俺たちを捨てたんだ」「そんなはずない！父さん、だまされちゃダメ！」息子は一秒も迷わず、顔を真っ赤にして反論する。「絶対母さんがうそついてるんだ、僕たちの気を引こうとして！分かった、きっと僕たちが恵さんの方を好きになったから嫉妬して、わざと僕たちを困らせようとしてるんだ！」離婚届を握っていた宥一の手が緩み、顔色が良くなる。「そうだ、お前の言う通りだ。紗英が俺を離れるはずがない。あいつは仕事もなく、友達もいない。俺を離れて誰がぜいたくな暮らしをさせてくれるんだ？」話すほど宥一は自信を取り戻し、立ち上がって軽蔑の笑みを浮かべた。「紗英はこんなつまらない芝居しかできないんだ。悠真、あいつのことは放っておけ。そのうち飽きて勝手にしっぽを巻いて帰ってくる」宥一は手にしたくしゃくしゃになった書類を地面に投げ捨て、目に不敵な光を浮かべた。悠真はうなずき、心の不安を完全に押し殺した。そして私は、現金で一括購入したワンルームマンションに住んでいた。一人暮らしの再スタート。翌朝早く、宥一は身なりを整えて悠真を学校に送り出した。息子は宥一の手を引いていたが
