Share

第247話

Author: みそ煮
last update publish date: 2026-07-15 15:29:15

瀬奈は自分の気持ちに説明がつかなかった。前はたしかに湊斗を受け入れることをハッキリと拒んでいた。しかし、今は何故か彼を拒絶することができなかった。

誘拐されたとき、彼女が助けを求めたのは他の誰でもない、湊斗だった。やっぱり彼女は彼への想いを捨てることができなかったのだ。

――彼女は今になってようやく、そのことに気が付いた。

そのとき、瀬奈の目から一筋の涙が零れた。泣いてしまった彼女を見た湊斗は、また彼女を傷付けてしまっただろうかと焦った。

彼が手を伸ばそうとするも、その手は空中でピタリと止まった。あまりにも儚く、高潔な彼女に、汚らわしい自分が触れて壊れでもしたらどうしようという思いからだった。

湊斗は諦めてゆっくりと手を下げようとしたが、その腕を瀬奈が掴んだ。彼女が自分から彼に触れるのは珍しく、彼はビクッと肩を上げた。

「……湊斗」

「どうした?瀬奈」

瀬奈は泣きながら、顔を上げて湊斗を見つめた。彼の腕を掴んでいた瀬奈の手に、僅かに力が込められた。

「……誘拐されたとき、私あなたのことしか考えられなかった。あなたが助けに来ることを、何度も何度も心の中で願っていたの」

「瀬奈……」

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第328話

    泰西は瀬奈を驚きの目で見つめていた。たしかに、自分でも大胆な行動だという自覚がないわけではなかった。二人の父親が優しい人であればまだしも、そういうわけでもない。「……本気なのか?」「ええ、兄さん。私は里亜を父さんに紹介しようと思ってる」泰西は心配しているのだろう、あまり気が乗らない様子だった。彼は瀬奈が父親からキツく当たられているところを今までに何度も見ている。そんな父なら、里亜を傷付けるような言動をしても特に変ではない。そのことは彼女自身もよくわかっていた。「……兄さん、正直に言えば私も心配よ。でもね、いつまでも紹介しないっていうわけにもいかないでしょう」「……そうだな」里亜は正真正銘瀬奈の子供で、父にとっては孫娘に当たる。里亜も家族が増えるのは嬉しいだろうし、いつ亡くなるかわからない父にも一度くらいは会わせてあげたかった。「……父さんは、里亜の存在を知っているのかしら?」「ああ、存在自体はな。ただ……会いたいと言ったことは一度もない」「……そう、だったんだ」予想はしていたが、やはり父は里亜に興味などなかった。元々男児を望んでいた人だからか、千郷が女児を産んだときですらかなり責めたと聞く。そして瀬奈の母もまた、それが理由で父に常日頃から詰られていた。夫としても父としても、とても良い人だとは言えない。「――瀬奈、後悔しないか?」泰西の問いに、瀬奈は一瞬だけ悩んだあと答えた。「……ええ、どちらにせよ父さんに挨拶しないといけないでしょう?父さんは私を嫌ってるけど、礼儀には厳しい人だから」父は幼い子供にも厳しく接する人だ。里亜だけ挨拶に来ないなど絶対に許さないだろう。泰西は不安げな顔をしていたものの、反対することはなかった。彼なりに、瀬奈の意思を尊重してくれているのだろう。***それから数時間経ち、夕方になった頃、父が帰ってきた。瀬奈は里亜を連れ、彼の書斎を訪れた。「おじいちゃんに会えるの楽しみ!」「そうね、私も久しぶりなのよ」瀬奈は満面の笑みを浮かべる里亜の頭を優しく撫でた。瀬奈は自分が傷付くのはかまわないが、里亜が傷付いてしまうことだけは耐えられなかった。(母親なんだから、何が何でも守らないと)意を決して、二人は部屋に足を踏み入れた――

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第327話

    里亜が泰西と千郷の娘と遊んでいた頃、瀬奈は彼の書斎にいた。泰西の机に積み重なっている書類を、瀬奈は一枚手に取った。会社に関連するもののようだが、何て書いてあるのかは全くわからない。瀬奈は泰西と比べると、全てにおいてが凡人だった。特に、経営に関することは全く知らない。「……」「お前、どうせ意味なんて理解できないだろう?」泰西が馬鹿にするように言い放った。図星であるのが余計に辛い。「仕方ないでしょう、私も姉さんもこういう教育は受けてないのよ」「お前、一体大学で何を学んだんだ」泰西は有名国立大学を卒業した後、海外の大学院に進学するという超エリートコースを歩んでいる。一方瀬奈は私立大学を卒業後、就職せずに神宮司家の妻になった。(湊斗もああ見えて院まで出てるし……私の周りはハイスぺだらけね)大学で何を学んだのかと言われても、正直あまり覚えていない。「兄さんはとっても立派な大学を卒業しているから、私とは何もかも違うのよ」絵に描いたようなエリートである泰西への劣等感が全くないわけではなかった。瀬奈は拗ねたように口を尖らせた。兄弟の中で何も持たずに生まれてきたのは自分だけな気がしてならない。そんな彼女に、泰西は珍しく励ましの言葉をかけた。「まぁ、そんなに落ち込むな。俺はお前のそういうところが良いところだと思ってるからさ」「ちょっと、それどういう意味!?」明らかに馬鹿にされているような気がするが、気のせいだろうか。「静香より接しやすくて一緒にいると気が楽ってことだ」泰西はそう言いながら、書斎の椅子に座った。今の言葉は、きっと彼なりに瀬奈のことを褒めているのだろう。特に目立ったところのない暁家の次女。昔から自分の価値をなかなか見出せない瀬奈だったが、静香や泰西はきちんと彼女のことを見ていたのだ。「ところで兄さん、父さんはいつ帰ってくるの?」「ん、今日はそんなに遅くならないはずだ。多分夕方くらいだな」今の時刻は昼の三時。つまり、あと数時間もすれば父親が敷地内にある本邸に帰ってくる。昔から、父親に関しては全くと言っていいほど良い思い出がない。複雑な面持ちの瀬奈に、泰西が尋ねた。「父さんのことが気になるのか?」「……私、今日里亜を父さんに紹介しようと思っているの」「……何だと?」その言葉に、泰西は驚いて作業の手を止めた――

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第326話

    里亜は純真無垢な瞳で、泰西を見上げた。泰西はそんな彼女と目を合わせ、僅かに首をかしげた。不快には思ってなさそうだけど、大丈夫だろうか。先に口を開いたのは、里亜のほうだった。「伯父さん、こんにちは」「ああ」ニッコリと笑って挨拶した里亜に、泰西が返事をした。里亜はペコリと小さな身体を軽く曲げて自己紹介をした。「初めまして、神宮司里亜です」「会うのは初めてではないが……暁泰西だ。知ってるとは思うけど、お前の母親の兄だ」里亜には泰西が伯父であることを事前に説明している。そのせいか、彼女は知らないおじさんであるはずの彼の前にかなり友好的だった。(兄さんは昔から子供に怖がられてばかりだったのに……里亜は平気なのね)泰西は冷徹な見た目で怖がられていたせいか、子供があまり好きではなかった。彼に対して怖気づかなかったのは里亜が初めてではないだろうか。無言になる泰西の代わりに、横に控えていた千郷が出た。「里亜ちゃんって言うのね。なんて可愛らしいのかしら。私たちにも娘がいるのよ。年齢は里亜ちゃんよりも少し上だけど……きっと気が合うと思うわ」「わぁ、楽しみです」千郷は里亜を連れて、娘の元へと向かった。残された瀬奈に、泰西が声をかけた。「あの子、顔は湊斗にそっくりだけど内面は幼い頃のお前によく似てるんだな」「そうね、見た目は湊斗寄りだけど性格は私にそっくりなの。とっても可愛いでしょう?」娘への愛が溢れる妹に、泰西はクスッと笑みを溢した。幼い頃から苦労の連続だった瀬奈が、こうして大切なものができて、幸せを掴み取った姿を見るのは何とも嬉しかった。「……兄さん、今日は突然のことだったのに、受け入れてくれてありがとうね」「何言ってるんだ、いつでも来いよ。俺はこう見えてお前が連絡してくるのを結婚当初から待ってたんだぞ」「あら、そうだったの?」その言葉に、瀬奈は意外そうに目を見開いた。てっきり自分と関わりたくないから縁を切ったのだとばかり思っていた。瀬奈は目を輝かせて泰西に尋ねた。「なら、次は姉さんも連れてきていい?私、二人には仲良くしてもらいたいと思ってるし!」「それだけは御免だ」その問いに、泰西は即答で言葉を返した。「ど、どうしてよ!」瀬奈はともかく、静香のことが苦手なのは昔から変わっていないようである。完璧な泰西の唯一の苦手なものであり、弱点こ

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第325話

    湊斗と話をした翌日、瀬奈は里亜を連れて暁家へと向かっていた。車の後部座席に乗り込んだ里亜は、落ち着かないように足をパタパタさせていた。「ママ、どこに行くの?」「伯父さんの家よ。里亜も一度会ったことがあるはずだわ」「伯父さん……」里亜は稲田町で暮らしていた頃、一度だけ泰西に会ったことがある。しかしそれほど印象のある出会いではなかったのか、既に記憶からかき消されているようだった。「伯父さんは……優しい人?」「……………そうね。まぁ、優しいと思うわ」かなり難しい質問だったが、里亜を不安にさせないために瀬奈は優しいと言っておいた。瀬奈はともかく、幼い子供相手にキツく当たることなんてないだろう。それに、最近の泰西は妻の千郷と仲直りして僅かだが穏やかな性格になっているようだし。(……どちらかというと、兄さんより父さんのほうが心配なのよね。里亜とは一度も会ったことないだろうし)瀬奈は今日、正式に里亜を父に紹介しようと思っていた。どちらにせよ、いつまでも隠し通すことなんてできない。何を言われるかはわからない。瀬奈はいざというときのために、里亜のために父親に反旗を翻す準備もできていた。「じいじは良い人?」「うーん……まぁ、会ってみればわかるわ」二人の初対面がどんなふうになるのか、全く想像がつかない。瀬奈は里亜の問いに肯定することも否定することもできなかった。――話しているうちに、車は暁家の本邸へと到着した。***暁邸で二人を迎えたのは、泰西と千郷だった。瀬奈が泊まりに行くという連絡をしたのは千郷のほうだったが、泰西も妹のためにわざわざ時間を作ったようだった。瀬奈を見た泰西はニヤリと笑いながら口を開いた。「――それで、旦那と喧嘩したから一時的に俺たちの家に避難してきたってことか?」「………兄さんったら、落ち込んでる妹を慰めてあげることもできないわけ?」からかうような泰西の口調に、瀬奈は口を膨らませた。「冗談だって。まぁ、夫婦として一緒に暮らしている以上、そういうことは誰にでもあるさ。深く考える必要はない」泰西は瀬奈を労うように、その肩に手を置いた。慰めてほしいと言ったのは彼女だったが、彼が素直に受け入れるとは思いもしていなかった。「いつまでいるか知らないけど、ゆっくりしていけばいいさ。たまには旦那と離れて息抜きすることも大切だ」「………

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第324話

    熱から回復した瀬奈は、夜遅くに帰宅した湊斗に会いに行っていた。瀬奈と湊斗は、リビングで向かい合って座っていた。彼は疲れた様子で、正面に座る瀬奈をじっと眺めていた。最近湊斗は毎日のように帰りが遅くなっていて、瀬奈は彼とまともに話す時間も取れていなかった。そのせいか、向かい合って話すのは久しぶりだった。しかし今日、彼女がここへやって来たのは彼に浮気の件を問い詰めるためではない。瀬奈は湊斗に自身の思いを打ち明けた。「それで……少しだけ里亜を連れて実家へ帰りたいと思っているの」「実家へ?」実家――と聞き、湊斗は意外そうに眉を上げた。そのような反応になるのも当然だった。瀬奈は暁家とは縁を切っているも同然だし、今までの結婚生活においても一度も実家へ帰ったことはなかったから。そんな彼女がなぜ、突然暁家へ帰ろうとしているのか。妻が子供を連れて出て行くだなんて、夫であれば普通慌てるような状況だった。しかし、湊斗は冷静沈着に彼女に尋ねた。「里亜も連れて行くのか?」「ええ、どのみちそう遠くはないし……暁家の邸からでも幼稚園へは何の問題もなく通えるはずよ。私の職場も……暁家からのほうが近いくらいだし」瀬奈の言葉を聞いてもなお、湊斗は彼女の帰省を渋っているようだった。「……湊斗、兄さんや父さんに里亜を会わせてあげたいの。二人は一度も里亜を見たことがないでしょう?いくら私に冷たくても、何の罪もない幼い子供にまではキツく当たらないはずよ」瀬奈は何とか彼を説得しようと、思いつく言葉を全て並べ立てた。そんな彼女の説得が効いてきたのだろう。湊斗はしばらく黙り込んだあと、口を開いた。「……そうか、わかった。お前が望むなら好きなようにしろ」「……」湊斗は特に引き留めることもせず、受け入れた。瀬奈はチクリと胸の痛みを感じながらも、言葉を返した。「……ありがとう、湊斗。おかげでしばらくは楽に過ごせそうだわ」「……ああ。ゆっくり休んでこい」彼はソファから立ち上がると、そのまま部屋へ戻って行った。瀬奈は去って行く彼の後ろ姿をじっと見つめていた。引き留められなかったこと。わかってはいたが、何だか少し寂しかった。

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第323話

    「あーつまんない!あの日からずっと湊斗は忙しくて会えないし!」「優里亜お嬢様、落ち着いてください」瀬奈が湊斗と疎遠になる一方で、優里亜は苛立ちを募らせていた。優里亜は湊斗の実母の妹の子で、彼にとっては従兄妹に当たる。年齢は彼より三つ下だが、昔から湊斗を愛している。彼と結婚したいと思っていた優里亜は、瀬奈が消えた今がチャンスだと思っていた。それで湊斗を外出に誘って仲を深めようとしていたが……。「ようやく邪魔な本妻が消えたと思ったのに……あの女と離婚してないってどういうこと!?それどころか子供がいたなんて聞いてないわ!」湊斗の本妻である瀬奈に子供がいたことを優里亜はこのとき初めて知った。優里亜はあの日、湊斗と観劇デートに行ってから一度も会っていない。連絡を取ろうとしても、何かと理由をつけて断られてしまうのである。「今湊斗に連絡しても、どうせ返事はないんだろうなぁ……」優里亜は不満げに呟いた。湊斗が自分に冷たいのは今に始まったことではなかったが、こうも無視され続けると辛いものだ。それにしても、最近の湊斗の塩対応は異常だった。きっとあの本妻の女がみっともなく彼に縋り付いているんだわ。彼に愛されてないくせに、なんて惨めな女なのかしら!神宮司瀬奈の噂は、優里亜も知っていた。本妻のくせに湊斗から蛇蝎のごとく嫌われているのだという。あれだけ必死になって彼の妻の座を射止めたにもかかわらず、結婚初日から放置されるだなんて。瀬奈の心境を思い、優里亜は笑いが止まらなかった。そんな彼女の元に、ある人物が訪れた。「――優里亜、久しぶりね」「…………アンタ、もしかして小夏?」彼女の家にやってきたのは、湊斗のもう一人の従兄妹である小夏だった。二人は湊斗の共通の知り合いとして、昔から何かと接点があった。だからといって特別仲が良いわけではなく、会うのもずいぶん久しぶりだった。「何の用よ、小夏」優里亜は突如訪問してきた彼女に冷たく尋ねた。彼女は基本的に、湊斗の周りをうろつく女が好きではなかった。小夏から特に何かされているわけではないが、彼女のことは気に入らない。何とも理不尽な理由である。「まぁまぁ、せっかく会えたんだから。少しくらい話しましょうよ」小夏はそんな優里亜を宥め、彼女の正面の椅子に腰を下ろした。彼女は苛ついた様子の優里亜を見てニヤリと笑い、ゆっ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status