LOGIN湊斗と誠也が無事に仲直りを果たし、パーティーに穏やかな雰囲気が戻った。瀬奈は部屋の隅に置かれていたプレゼントボックスの山を指差した。「里亜、みんなからプレゼントがたくさん届いているわよ。早速開けてみましょう」「わぁ、何が入っているんだろう?とっても楽しみ!」里亜はワクワクしながら、瀬奈と一緒にプレゼントの箱を開けた。愛想の良い里亜は、稲田町でもたくさんの人から好かれていた。全員が里亜のためにと、プレゼントを用意してくれたのである。最初の箱から出てきたのは、リボンがつけられた子供用の服だった。「わぁ、とっても可愛いワンピース!」「よかったわね、里亜」瀬奈は嬉しそうに微笑む娘の頭を撫でた。里亜は次々と箱を開封していった。最後に残ったのは、その中でも一番大きなプレゼントボックス。「あら……?この箱って、もしかして兄さんから……?」「え!?アイツがプレゼントを用意したですって!?」瀬奈の発言に、静香が真っ先に反応した。泰西は仕事があってパーティーには来れなかった。しかし、里亜宛てにプレゼントを贈ってくれたようだった。(兄さんったら……)このような気遣いができた人だったのかと、瀬奈は少しだけ驚いた。泰西が用意したプレゼントの箱は、他の人たちが贈ったものよりもずっと大きかった。「一体何を用意したのかしら……やけに重たいけど……」「アイツのことだし……何か変なものでも送り付けてきたんじゃないの?」「まさか、兄さんがそんなことするはずがないわ」泰西の名に、里亜ははしゃいだ。里亜は以前暁邸を訪れたことで、泰西にかなり懐くようになった。「伯父さんからのプレゼント!早く開けようよ、ママ!」「え、ええ……そうね……」瀬奈は里亜に急かされ、泰西からのプレゼントに手をかけた。その横で静香と里亜は何が出てくるのか、ただじっと見守っていた。「あら、まぁ……」「わぁ……!」里亜が感動したような声を上げた。箱の中から出てきたのは、ピアノだった。ピンク色の可愛らしい子供用電子ピアノには、歌が歌えるようにマイクも付属されている。(ピアノだなんて……兄さん、考えたわね)瀬奈も子供の頃はピアノを習っていた。才能があったわけではないが、今でも簡単な曲なら弾くことができる。「兄さんからの手紙もあるわ!なんて書いてあるのかしら!」瀬奈はプレゼントに同封されてい
里亜の何気ない一言に、誠也の顔がみるみるうちに青くなった。いつも冷静な彼がそんな表情をするなんて、珍しいものを見れた。って、今はそんなことを言っている場合ではない。(里亜、いくら何でもそれはマズいわよ)まだ幼い里亜は、そんなこと気にも留めていなかった。湊斗は険しい顔で誠也を問い詰めた。「お前、俺の妻だけではなく、娘までも誑かしていたのか……!?」「ご、誤解です……社長……!」彼の胸倉を掴み、今にも殴りかかりそうだった。その間に里亜はドレスをヒラヒラさせながら移動し、静香の元まで避難していた。後ろで揉める誠也と湊斗のことなど気にもしていない。「湊斗、落ち着いて。誠也さんは何もしていないわ。ここは人目が多いし……今日は里亜の誕生日パーティーなんだから」「……」瀬奈の言葉で湊斗はようやく落ち着きを取り戻したようだった。今日は里亜が六歳を迎えためでたい日だ。無関係な大人たちの争いごとは避けたい。瀬奈は湊斗と誠也の間に立った。「ほら、二人とも……せっかくの機会だし、仲直りしましょう」「な、仲直りだと……?お前、何を言っているんだ……?」湊斗はもちろん、誠也も彼女の提案に乗り気ではなかった。二人の過去の確執を思えば、当然のことかもしれない。(でもね……絶対に分かり合えない人間なんていないのよ?私もちょっと前まではあなたたちと同じような考えを抱いていたんだけど……)あれだけ仲の悪かった泰西と静香ですら、仲直りできたのだ。湊斗も誠也も根っからの悪ではないし、きっと上手くやっていけるはずだと、瀬奈は確信していた。「二人とも……仲良くしましょう!」「「……」」突然そんなことを言われても、仲良くなどできるはずがない。当然、湊斗と誠也は難色を示した。しかし、瀬奈は諦めなかった。「二人が仲良くなれば、きっと里亜も喜ぶと思うわ。私も……湊斗と誠也さんにいつまでも微妙な関係でいてほしくないし」「……」重い沈黙の中、先に口を開いたのは湊斗だった。「……わかったよ、お前がそう言うなら」「湊斗……!」彼は愛する瀬奈の意を汲み、誠也と仲直りすることを決めた。誠也は驚いていたが、他でもない湊斗がそう言うのならと、受け入れた。「変な言いがかりつけて悪かったな……」「いえ、お気になさらないでください、社長……」湊斗は照れくさそうにしながらも、誠也に手を差
主役の挨拶を終え、ようやくパーティーが始まった。「―――暁さん、里亜ちゃんも久しぶりね」「岡田さん、お久しぶりです」真っ先に瀬奈と里亜に挨拶をしたのは、稲田町で親しくしていた真由子だった。前の夫の不倫が原因で離婚した彼女とは、同じ心の傷を抱えた同士のようなものだった。女手一つで娘を育てるシングルマザーという点も共通しているし、ちなみに今日は彼女の娘もパーティーに来ている。似たような境遇にいたせいか、真由子とは何かと話が合った。真由子は瀬奈の耳元に顔を寄せると、小声で囁いた。「実でね……実は私、最近前の旦那からの復縁メールが届いたのよ」「な、それは本当ですか!?」瀬奈は驚きのあまり、声を上げた。真由子の前の夫は、彼女にDVを繰り返し、さらには愛人と再婚するために彼女を家から追い出したとんでもない男だった。しかし、愛人だった再婚相手との結婚生活が上手くいっておらず、彼女にまで暴力を振るうようになった挙句、逃げられてしまったのだという。(可哀想とも思わないわ……当然の報いよ)そのような経緯があり、元妻の真由子とよりを戻そうとしているということだ。その話を聞いた瀬奈は心配になった。もし、真由子にまだ元夫への愛情が残っているとしたら、彼女はあの男の元へ戻ってしまうかもしれない。(岡田さん……今回ばかりは絶対に戻っては……)しかし、そんな彼女の心配は杞憂だった。真由子は瀬奈を安心させるようにニッコリと笑った。「ええ……でもね、あんな男のところに戻るだなんて、死んでも御免よ!私は娘と二人で生きていくって決めたんだから」「岡田さん」「二度と連絡してこないで―――って返しておいたわ」真由子は瀬奈に向けてグッと親指を立てた。その返事に、瀬奈は何だか嬉しくなって真由子に笑い返した。二人の絆が、より深くなった瞬間だった。「―――瀬奈さん、お久しぶりですね」「あら、誠也さん。お久しぶりです」次に挨拶をしにやってきたのは、誠也だった。会うのはずいぶんと久しぶりだった。気のせいか、少し離れたところにいる湊斗の警戒心が高まった。「里亜ちゃん、六歳のお誕生日おめでとう」「ありがとう、お兄ちゃん!」里亜はふわふわの髪の毛を揺らしながら、誠也に抱き着いた。里亜は稲田町にいた頃、かなり誠也に懐いていた。久しぶりの再会であるため、かなり喜んでいた。そし
主役である里亜は、ピンク色のドレスを着て部屋に入ってきた。湊斗が今日誕生日を迎える里亜のため、特別に用意したものだった。「まぁ、なんて可愛いのかしら……!」「普段から愛らしい子だとは思っていたけれど……今日は妖精さんみたいね」真由子や遅れて到着した静香は、ドレス姿の里亜に自然と頬を緩ませた。里亜は誰から見ても愛らしい子だから、仕方がない。その中でも一番メロメロだったのは、もちろん湊斗だ。元々冷たく、人前で滅多に笑わない湊斗だが、今日は周囲が驚くくらい笑顔だ。自然と上がる口角を抑えることができず、彼女は里亜にデレデレだった。「里亜、こっちに来なさい」「はぁい」湊斗は里亜を呼び寄せると、彼女を抱き上げて膝の上に乗せた。ウェーブのかかった髪の毛は、瀬奈がヘアアイロンで巻いてあげたものだった。頭にはティアラが付けられている。いつだったか、里亜はお姫様になりたいと言っていた。その願いを誕生日である今日、叶えてあげることにしたのだ。正面に座る真由子が、里亜を見て口を開いた。「里亜ちゃんはいつもと変わらず可愛いわね。子供の頃の暁さんによく似ているんでしょうね……」「ありがとうございます。でもどっちかというと里亜は夫に似ているんですよ」「まぁ、神宮司社長に……?」その瞬間、真由子や誠也たちの視線が湊斗に集中した。「……何だ」信じられない、あの冷酷な社長がこんなに可愛かったのかでも言いたそうな瞳。湊斗は不快感を抱いた。湊斗の幼少期を知っている人物であれば、間違いなく瀬奈よりも彼のほうが里亜にそっくりだと感じるだろう。それほどまでに、二人は似た者親子だった。「さぁ、里亜。みんなに挨拶をするのよ」瀬奈は、湊斗の膝の上に座る里亜に小声で囁いた。里亜はコクッと頷くと、瀬奈と練習した通りに挨拶を始める。「今日は里亜の誕生日パーティーに来てくれてありがとうございます、みなさん」里亜が言葉を発した途端、場が静まり返った。小さな主催者の挨拶に、全員が耳を傾けている。「みなさんのために美味しいご飯をたくさん用意しました。ぜひ楽しんでいってください」里亜が挨拶を終えると、パチパチと小さな拍手が鳴り響いた。きちんと挨拶できた里亜の頭を、湊斗が愛しそうに撫でた。
それから数週間が経ち、里亜の誕生日当日になった。里亜は六歳になり、あと半年も経たないうちに小学校へ入学することとなる。(時の流れはとっても早いのねぇ……)瀬奈はすっかり大きくなった里亜を見つめ、心の中で呟いた。今日、彼女は里亜の誕生日パーティーを開いていた。場所はすっかり住み慣れた神宮司邸、瀬奈はパーティーのためにケーキやチキンなどの料理を一生懸命作っていた。(部屋の飾りつけもしないと……)瀬奈は猛スピードで料理と飾りつけを終わらせ、招待客たちを迎え入れた。「―――神宮司さん、久しぶりね」「瀬奈さん、お久しぶりです」始まりの時間が近づき、家を訪れたのは誠也や真由子たち稲田町のメンバーだった。会うのは実に数ヶ月ぶりだった。何だか、ずいぶん懐かしく感じられる。瀬奈は誠也たちとの再会を、心から喜んだ。「皆さん、ようこそ神宮司家へ!今日は里亜のために足を運んでくださって、とっても嬉しいです」「当然のことですよ、瀬奈さん」誠也が笑顔で言葉を返した。後ろには皆川社長や親しくしていた社員たちもいる。もちろん、里亜にとっては叔母の静香やその旦那も後々来ることになっていた。「よかったら、私たちも何か準備を手伝いましょうか?」「いえいえ……既に大半は終わらせているんです。皆さんはゆっくりしていてください」瀬奈は彼らをリビングに通した。その後湊斗が仕事から戻り、いよいよパーティーが始まった。開始早々、彼女の横に座っていた湊斗が不満そうに愚痴を溢した。「なぜこんなにも多く人が……俺とお前と里亜だけではダメだったのか?」「どうせなら、人をたくさん呼んだほうがいいでしょう?賑やかだし」「だが、あの男まで呼ぶ必要があるか?」湊斗が視線を向けた先にいたのは、誠也だった。湊斗と誠也には、実はかなり深い因縁があった。「里亜は誠也さんに懐いていたし……彼だけ呼ばないなんて酷い話だわ」「……」誠也を呼ぶかは瀬奈も悩んだが、里亜自身が望んでいたので仕方がない。大事なのは瀬奈の意思ではなく、主役の里亜の意思だった。そこまで言うと、湊斗は諦めたように口を開いた。「じゃあ……二人きりになるの禁止な」「……湊斗?」―――そのとき、湊斗がまるで周囲に見せびらかすように瀬奈を抱きしめた。そして、彼女の頬にチュッとキスをした。(ちょ、ちょっと人前でなんてことしてる
百合子と愛斗の二人は他の誰よりも、沙織の逮捕に驚いていた。どれだけ彼女が毒だったとしても、血の繋がった母親であることに変わりはない。百合子は沙織の身を案じていた。もしかすると、誤認逮捕で苦しんでいるのかもしれない。そう思うと、いてもたってもいられなかった。「愛斗……お母さんに会いに行こうよ。事実確認をしないと……」そう提案した百合子に、愛斗は冷たく言葉を返した。「……俺は行かないよ、姉さん」「ど、どうして……?」愛斗は姉のその質問には答えなかった。ただ、興味がなさそうに行くつもりはないと吐き捨てる。(愛斗ったら、どうしたのかしら?母さんに会わないだなんて)百合子がいくら誘っても、愛斗は行かないの一点張りだった。仕方ないなと思いながらも、百合子は一人で面会に行くことを決めた。***沙織が収容されていたのは、被疑者を一時的に拘束する留置場だった。百合子は沙織の娘であるため、面会が認められた。数日ぶりに会う沙織は、前に見たときとほとんど変わっていなかった。強いていうなら、服装くらいだろう。いつも華やかな装いの沙織だが、今日はグレーのスウェットを着ていた。すっぴんでも化粧をしているときとあまり変わらない。沙織は娘である百合子の目から見ても、美しい女性だった。「百合子!私に会いに来てくれたのね!なんて優しい子!さすがは私の娘、女神だわ!」「お、お母さん……」沙織は百合子の姿を見ると、目を輝かせた。まるで会いたかったとでも言いたそうに、満面の笑みを浮かべた。(逮捕されたって聞いたから心配してたんだけど……なんかいつもより機嫌が良さそう……)百合子はその姿にひとまず安心した。病んでいたらどうしようかと思っていたが、杞憂だったようだ。沙織はニコニコしながら、口を開いた。「ねえ、百合子……お母さんからのお願い聞いてくれる?」「お願い?何?」「実はね、差し入れしてほしいものがあるんだけど……」沙織は現金や衣服など、いくつか物を挙げた。百合子はパシりのように扱われている気がしてならなかったが、他でもない母親の頼みだ。(特に違反しているわけでもないし、いいか……)母親の真意はわからないが、何も言わずに聞き入れた。「それとね、もう一つ大事なお願いがあるんだけど……」「……?」沙織は誰にも聞こえないように、声を潜めた。一体何を言われるのか