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第10話

作者: 硝子の砂糖
続いて、警察は彼女に対し、さらにいくつかの容疑を提示した。

「ホテルではあなたが同じ手口で再び放火を実行し、その実行犯もすでに確保しています。

さらに、複数の犯人を買収して月島雪代さんを拉致し、傷害を負わせた件についても、実行犯は全員逮捕済みです。

これら一連の事件があなたの指示によるものだという証拠を、我々はすでに掌握しています」

それらの言葉は、次々と夏実に降りかかる雷のようだった。彼女の身体は激しい震えに襲われた。

「私じゃない!私の弁護士に会わせて……!」

最後に震える声で絞り出したのは、その一言だけだった。

取調室の外で、慎一郎は中の会話を一言一句、はっきりと聞いていた。

拳を握りしめ、彼は壁を一拳で叩きつけた。

夏実が雪代に対してこれほどの危害を加えていたことを、今になって知った。

かつて雪代が夏実を指摘した時でさえ、彼は信じようとしなかった。

押し寄せる怒りが彼を飲み込みそうだった。夏実を憎むと同時に、自分自身にも激しい怒りを感じた。

……

三日後、月島家が多額の保釈金を支払ったことで、夏実は保釈された。

身の危険をひどく恐れるあまり、彼女は自室に引きこもり、もう外へは一歩も踏み出そうとしなかった。

突然、ドアが激しい音を立てて蹴破られた。その響きに夏実は全身を震わせた。

彼女が状況を理解するより早く、鉄の腕のような手がその首を激しく締め上げた。

「夏実、よくも……よくも雪代にそんな真似ができたな!」

慎一郎の怒りに満ちた声が頭上から響き、首を締めつける手の力は、彼女の首を折らんばかりだった。

夏実の顔は真っ赤に染まり、窒息しそうになる直前に、ようやく慎一郎は彼女を放り出した。

「慎一郎、話を聞いて、私じゃない……私がしたことじゃないの。誰かが私を陥れたの……!」

警察がどうやってそれらを突き止めたかはわからないが、直感で、すべてが雪代の仕業だと夏実は確信した。

彼女が必死に言い訳しようとするのを、慎一郎は厳しい声で遮った。

「取調室での話はすべて聞いた。まだ自分じゃないと言うのか!

お前を甘く見ていた。あれらが全部お前の企みだと知っていたら、とっくに代償を払わせていたぞ!」

彼の瞳には冷たい光が走り、それが刃となって夏実を貫けばいいとすら思えた。

夏実の身体は激しい震えに襲われ、そこへ一通の書類が、
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