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chapter:優作の秘密Ⅲ

last update publish date: 2026-10-31 19:19:48

午後六時を過ぎた頃、飯田と辻本とファーストフード店を後にし、駅前で解散した。相変わらず、九割がたアイドルの話ではあったが、自分の気持ちを他人に吐露したことで少しだけ気持ちが軽くなった気がする。

自宅の最寄り行のバス停へ向かおうとスマホの時計を見ると、バス時刻までまだ三十分ほど時間があった。

暇を潰すために近くのコンビニへ入ろうと出入口に向かう途中で、店から出てきた男二人が腰を抱きながら歩いてはすれ違う。

なんだか異様な光景に、店の扉を開ける寸前のところで立ち止まって振り返った。遠ざかる二つの背中をじっと見つめる。ひとりは灰色のスーツ姿の男で、もうひとりはその男に腰を抱かれている、見たことある制服の男。

否、今自分が着ている制服と一緒だ。ということは同じ学校の奴。

ふと、先ほどまで飯田と辻本と話をしていたことを思い出す。あの噂がもし本当であるのなら、優作もこんな風に男に抱かれ歩いているのだろうか。千晃のことでさえ鬱陶しく思うほどに惚れている男(ひと)がいるのにそんなわけがない。だけど、青年の後ろ姿には見覚えがあった。

髪の毛が肩まであり、ハーフアップにしていて、まるで女性みたいに中性的な容姿で……。

男二人がコンビニの駐車場に停めてあった車の方へと近づいていく。一際他の車に比べて存在感を放つ黒くて高そうな車。自動車に関して詳しいわけではないが有名なところではいくつかは知っている。千晃が知っている中で一番に出てきそうな国産車だった。

二人が左右で分かれ、その高級車の助手席に乗り込もうとする制服の男の横顔を見た瞬間に、まさかと思っていたことが確信に変わる。千晃は、そうだと分かると自然と体が動き、サイドドアを開けて乗り込もうとする男の肩を掴んで引き止めていた。

「優?」

肩を掴み、振り返った顔は、紛れもなく優作だった。

今朝の活き活きとした表情とは違い、覇気のない冷たい視線。だけど、得も言えぬ色気を放っていて、千晃の心の奥底に眠る欲のような感情がドキッと波打つ感覚を覚えた。

思考が止まる程の優作の姿に見とれてしまっていると、彼は千晃を無視して車に乗り込もうとしたので、慌てて手首を引っ掴んだ。誰がどう見ても、例のパパ活と問われても否定できない。この状況はあまり好ましくない気がする。

千晃はそのまま、扉を勢いよく閉めては、車と男から離そうと試みたが、優作の足が鉛のように動かなかった。

「吉岡、いきなり何すんだよ」

「何はこっちのセリフなんだけど、優こそなにしてんの」

「別に……」

掴んだ手を振り落とされ、再びドアに手を掛けようとする優作の肩を掴んで引き止める。

「別になわけないじゃん、あの人だれ」

助手席側のドアウインドウが開けられた奥の運転席に目線を映すと、三十代から四十代くらいの男が煙草を咥えて、こちらのやり取りを待つかのように一服していた。

いくら仲の良い兄弟であっても、腰に手を回してコンビニから出てくるなんてことはしない。

それに、さっきから優作のことを色眼鏡で見ているのが、千晃の癪に障る。高い車も、男が身に付けているゴールドの時計も、やはりあの噂は事実なのではないかと信憑性が増してくる。

「お前には関係ない」

「関係ないって、昼間は急に学校いなくなったじゃん。優、なんかあったんじゃないの?」

もし本当なら黙って見過ごせるわけがない。彼自身に何か訳があるのかもしれないが、優作が好きなのは篠塚だ。今一緒にいる男じゃない。

「あーうざっ。いなくなって悪い?お前に迷惑かけてねえし」

「そういうことじゃない。今朝は楽しそうだった優が急に顔色変えて帰っていくとこみたら、心配するのは当たり前だろ」

「大きなお世話だ」

「いいから言えよ。誰なんだよ」

店から出てくる人たちの集まってくる視線を横目にしながらも優作との口論は止まらない。

なかなか口を割らない優作を腹立たしく思いながらも、運転席を指して問い詰める。

「利害関係のある友達。以上、これで安心したかよ」

「はぁ?それ、どういうことだよ」

「はぁ……金貰ってセックスしてる友達って言えば伝わる?」

「せっ……」

溜息の後に淡々と吐かれた言葉に動揺する。千晃にとって聞き慣れなくて羞恥を覚えるその単語に顔が熱くなる。それと同時に、ほんの少しでも優作が身売りするような真似なんかしないと信じていただけにショックだった。だからと言って軽蔑してる訳じゃなくて、尚更この手は離せない。

普段なら優作の事情に触れすぎぬように身を引いていたが、一歩も食い下がる気はなかった。優作がどんな行いをしてようとも、道を外そうとも、自分の気持ちが届かないのならせめて、優作には好きな人と幸せになってほしい……。

こんな適当な男とじゃなくてちゃんと……。

「ねえ、優作くん。まだかな?僕も時間がないんだ。あまり遅くなると妻がうるさくてね。早くしてほしいんだけど」

今まで黙ってやりとりを傍観していた運転席の男が声を掛けてきた。妻がうるさくて……ってこの人は既婚者なのだろうか……。そう疑問に思った矢先に、ハンドルを握る左手薬指に銀色に光る指輪が目に入り、確信する。いい年をした既婚者が、男子高校生に鼻の下を伸ばして、お金払ってまで体の関係を迫っているなんて気味が悪い。こんな男に優作を渡すわけにいかない。

「いや、話を終わったんで、もうだいじょうぶ……」

「すみません。優はこれから用事があるんで帰ります。それに優、好きな子いるんで関係はこれっきりでお願いします。失礼しました」

男に返事をする優作に割って入るように千晃が、頭を下げて丁重にお断りをすると、彼の手首を力ずくで掴んでは、その場から逃げ出した。

「おい、吉岡」

優作が何度も名前を呼ぶのを無視して、ただひたすらに走る。少しでも男が追ってこないようにと夢中で走ったせいか、気づいたらいつものバス停を通り過ぎた先にある公園に辿り着いていた。

誰もいない夜の公園は、電灯の明かりだけが照らされていて、少し寂しい。全力で走ったせいか、息が上がり、千晃は両手を膝につかせて屈むと、何度も浅く息を吐いては呼吸を整えた。

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