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第1025話

Author: リンフェイ
詩乃は話し続けた。「今日ここへ私が来たのは、あなた達と喧嘩するためではないわ。ただ二人の姪っ子に付き添って昔妹が生活した場所を見に来たの。ついでにあなた達に言っておくけど、そちらが自らこの家から引っ越してくれるというのであれば、面倒事は少なくて済むの。もし、ここから出ていくつもりがないのであれば、不当にこの家を占拠した罪で裁判所に訴えますからね。

裁判で家を取り返させてもらうわ。その時には裁判所の判断で財産をどう振り分けるのか見てみようじゃないの!私の姪二人の相続分がそちらに渡るとは思わないことね。そもそも彼女たちの相続分じゃないものは、別にこの子たちだって欲しいと思っていないのだから」

村人たちはそれぞれお互いに目を合わせていた。なるほど今井佳織の実の姉が姪である唯花姉妹のことを見つけていたのか。

神崎夫人が唯花たちの伯母であると知って、内海家はもちろんその事実を村では伝えていなかった。

佳織の実の姉が唯花姉妹を見つけ出したことは、内海家にとっては、最悪の事態だったのだ。智文は当初、神崎グループ傘下の子会社で管理職をしていたのだからだ。

智文がクビになったのは、つまり神崎家を怒らせたからであって、それとともに年収二千万という収入のある仕事を失ってしまったのだった。

そしてそれ以降、智文は仕事を見つけることができなくなった。

それに、智文はその後、結城グループで働けるとも思っていたのだ。彼は、神崎グループ出身者であるから、結城グループが神崎グループを潰せると判断し、彼を雇ってくれるだろうとまで考えていたのだ。しかし、それがまさかのまさか、結城グループ社長は唯花の夫だったのだ。

村人はその噂を聞いて、内海家は隆史夫妻から甘い甘い汁を長年吸い続けてきたから、そろそろツキが回って来て、その汁を吐き戻す時期がきたのだと思っていた。

佳織の本当の家族がやって来たのだから、内海家はもう終焉を迎える時期だろう。

佳織の姉が村で当時の話を聞いて回れば、内海家が昔どのように結託して佳織をいじめていたのかすぐにわかる話だ。

内海じいさんとばあさんには六人の子供がいる。息子四人と娘二人だ。彼らが一番煙たがっていたのは隆史だった。しかし、子供たちの中で一番親孝行をしていたのは隆史だった。おじいさんたちが普段どこか体調が悪いと、すぐに隆史がやって来て、お金を出し全身全霊
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