LOGINそれに、奏汰が酒をたくさん飲んで酔ってしまったら、玲は両親から彼をホテルまで送れと言いつけられるに決まっている。「父さんだって、そんなに飲んでないよ。奏汰君がわざわざうちまで来てくれて、しかもこんなにたくさん作ってくれたんだぞ。父さんも彼とはちょっと飲んでるくらいで、そんなにたくさん飲んでないさ。だったら、お前が彼の酒に付き合ったらどうだ?」玲は淡々と冷たい声で言った。「俺は夜、酒は控えているんだ」奏汰は玲に向かって微笑んだ。「玲さん、そうじゃなくて、俺にたくさん飲ませるのが嫌なんでしょう。俺に直接言うのは申し訳ないから、茂さんにそんなふうに言ってるんだ。安心して、俺は酒を飲み過ぎたって、胃を壊したりしないからさ」「だから、そう呼ぶなって言ってるし、なれなれしくするな!」「玲!」弥和が厳しい口調で娘を一喝した。「別に呼び方なんて気にする必要ないでしょ、何か問題でもあるわけ?」「母さん、彼は『白山社長』とか『白山さん』って呼ぶので十分だろ。俺と彼もそんなに仲良い間柄じゃないんだし、あまりなれなれしくタメ口だって使われたくないんだよ」玲はもはやどうしようもなくなり言った。「一体父さんと母さんは彼から何を吹き込まれたのか知らないけど、まるで実の子供は彼のほうみたいじゃないか。俺は拾われっ子のようだ」弥和はおかしくなって言った。「はいはい、あなたは拾ってきた子よ。奏汰さんのほうが実の子なの。これでいいでしょ。奏汰さんが本当に私たちの子供だったのなら、私たちだって白髪が出るほど悩むことはなかったわ」玲はすぐに黙ってしまった。玲は両親が自分の結婚について頭を抱えているとわかっている。それに、両親は明らかに奏汰を気に入っている。両親はまだ結城おばあさんが彼に与えた嫁候補が玲であるとは知らない。しかし、奏汰の選択を彼の家族が支持し、また、父親が奏汰と一緒にいる時に玲は女だという話をされたこともあり、両親はすでにわざわざ隠す気がなくなっているようだ。それですでに奏汰を娘の婿として見ているのだ。世間に玲と奏汰の噂話がいくら流れていようとも、両親は気にしていない。なるべく玲と奏汰が二人っきりになる機会を作りだし、玲が奏汰の告白を受け入れることを望んでいた。両親に気づかれないように、玲はきつく奏汰を睨みつけた。奏汰はすぐに酒の入っ
「母さんだって、うちに来てくれるお嫁さんは何か能力を持っている必要はないって言ってただろ。ただ何も心配せず、金を使っていればいいんだって。仕事が忙しく、結構な金を稼いではいるけど、使う暇がないんだ。結婚して、奥さんができたら、稼いだ金を一生懸命使ってもらわないでどうする?」咲は笑った。「別に私だってお金に困ってないけど」現在、彼女はしっかりと柴尾グループを管理している。彼女の貯金はすでにかなりの額になっているのだ。今の咲は、もう以前の彼女ではない。彼女はもう本来の能力を存分に発揮することができる。「金には困ってないだろうけど、俺が稼いだ金も使ってもらいたいよ。妻のために働いて稼いでるんだからな。それに、将来子供ができたら、養育費は俺が出す。君は何も構う必要はないんだ。ただいつまでも綺麗な君でいて、金を使っていればいいんだ」咲は辰巳の言葉に指摘した。「誰があなたの奥さんなの?私たちまだ結婚してないのよ。子供のことまで言いだすなんて、のんきなこと」「別にいいだろ、もう婚約はしてるんだし、遅かれ早かれ結婚して君は俺の奥さんになるんだから」咲は少しの間笑っていてから、また口を開いた。「先に結婚手続きをして、目が治ってから結婚式を挙げても構わないわよ」理仁と唯花の結婚式もまだだ。あの二人が結婚手続きをしてから今に至る時間は更に長い。「いや、こんなに長い時間待ったんだから、あと少しくらい問題ないさ。君の目が見えるようになって、俺の顔をしっかり見てもらってから、本当に一生俺と一緒に過ごしたいか確認してもらわないと。それから手続きに行って、結婚式だ」辰巳は自分に自信があるが、咲はまだ彼の顔を知らない。だから、まずは咲に自分がどんな顔をしているのか見てもらい、結婚相手はどんな男なのか知ってもらってから、結婚手続きをしたいと思っている。「私が好きになったのはあなた自身よ。別に顔を好きになったわけじゃないわ。あなたがどんな顔をしていても、私は変わらないから」結城家の男は揃いも揃ってイケメンばかりだという。彼女は何度もそのセリフを聞いてきた。咲も花屋の店員に、辰巳がどんな顔をしているのか尋ねてみたことがある。店員は咲と辰巳が一緒にいるとお似合いの美男美女だと言っていた。でも、辰巳は咲の目が治ってから結婚したいと譲らなかった。
咲はプライドの高い女性だ。そんな彼女と一緒にいるなら、辰巳も全てを彼女に代わってやってはいけない。「辰巳さん」「なに」「私と一緒にいて、疲れたりしない?」辰巳は立ち止まり、指で咲の顔をつついた。彼女の肌はきめ細かくすべすべしていて、彼は思わず何度か軽くつねり、それからまたその指を肌の上に滑らせた。最後には我慢できなくなった咲からパシンッとその大きな手を叩かれてしまった。「あなたに真面目な話をしているっていうのに、何してるのよ」咲は我慢できずに彼の顔をつねった。辰巳は顔を低い位置にして、彼女が自由に自分の顔を触れるようにしてあげた。彼女は両手で辰巳の顔を挟み、つねったがその力は強くなかった。辰巳は痛みは感じなかった。もちろん、咲も彼が痛がるようにするわけはない。彼が自分にするのと同じように。最初、辰巳が咲の顔をつねった時、感触が気持ちいいと思った。その時はほぼ彼女をからかってそのようにしていた。すると彼女は拒絶し、彼に顔をつままれると、激しく抵抗するような反応だった。それが今では、愛と慈しみを感じる動作に変わっていた。辰巳は彼女を少しでも傷つけるのが怖くて、力など入れることはできない。咲は肌の手入れをしっかりしていて、少しでも力を込めれば、赤くなってしまう。咲の顔がポッと赤くなっている様子はとても可愛らしい。しかし、つねって赤くさせるわけにはいかない。彼女にキスをして恥ずかしさで顔を赤くさせるのとはまったく違うのだ。「もし俺が君といて疲れを感じたり、負担に思ったりするようなら、近づいたりしないよ。もちろん、君を喜ばせようといろいろ考えたり、結婚したいとも思うわけないだろう。確かに咲は、うちのばあちゃんが選んできた結婚相手の候補だった。ばあちゃんからも、一年以内に君と一緒になれないと、家から追い出すって脅されもした。でもそれは、ただ口先だけなんだ。ばあちゃんはただその年は新年を家族と一緒に過ごさせないだけで、次の年からは元通りになるはずだ。それに、ばあちゃんが選んできた女性と結婚したいかしたくないかは、俺たち自身で決めていいんだよ。その女性と結婚したいと思えば、みんな大喜びで、嫌ならばあちゃんだってどうすることもできないよ。本当にばあちゃんからどうしても結婚しろと言われたのは理仁兄さんだけだね」
「誰かを本気で愛せば、自然と口から甘い言葉が出てくるもんだよ」薫子は夫の話も確かだと思い、笑って頷いた。「奏汰君のほうは柏浜で今どんな状況なのかしらね?彼が落ち着けば、次は拓真に朔久ね。もし、まとめて一緒に結婚してしまえば、結城家はおめでたいことが一気に続くわ」宗則は笑って言った。「そう考えても、現実はそう甘くないぞ。一番下はまだ高校生なんだからね」蓮は休みで家に帰っている時は、兄弟や従兄たちの奥さんを味方につけることに大忙しになる。唯花をしっかり味方につけておけば、彼は大学受験の練習問題の負担を軽減できる。そうしておかないと、八人いる兄や従兄たちから問題集をプレゼントされて、眩暈がするまで問題を解かされる羽目になるのだ。「それもそうね。蓮君はあと十年は待たないといけないし、あまり口に出さないほうがいいかもしれないわ。もしお兄さんの理仁さんみたいだったら、きっと十数年かかってやっと結婚するって感じでしょうし」そして結城おばあさんの年齢を考えて、薫子は小さな声で言った。「お義母さんはその時でもまだ蓮君に良いお嫁さんを見つけてきてくれるわよ」「母さんは九人の孫それぞれ平等に見ているから、もちろんみんなにお嫁さんを選んでくるさ」蓮は今高校生で、兄や従兄たちが結婚するような年齢まではあと十数年はある。おばあさんはもう結構な年だ。夫婦二人がさっきのように言うのは、おばあさんがあと十数年、二十年と健全でいてほしいと思ってのことだった。ひ孫が成人する頃まで長生きしてくれるのを望んでいる。部屋にいる二人がどんな話をしているのか、外に出たあの二人は知らない。咲は辰巳に手を引かれて、琴ヶ丘の中をゆったりと散歩していた。そして食事前に起きたことを思い出して、咲は小声で辰巳に尋ねた。「私たちも結婚してすぐに子供ができないと、あなたのご両親もさっきみたいになってしまうかな?」「そんなことないよ。あの二人も別に孫がほしいって焦ってないから。俺は君の目が見えるようになったら、一緒に旅行に行くつもりなんだ。いろんな所へ行って遊び回ろうよ。十年も光を失っていたんだから、その分楽しまなくっちゃね。いろんな観光地に連れて行ってあげるから。一緒に日の出や夕日を見たり、山登りに、スキューバダイビングしたりさ。何年間か二人で思いっきり遊んでから、また子供のことは
結城家の雰囲気にしろ、人にしろ、咲にとってはどれも輝いて見えた。咲はまだ結婚していないが、婚約してからは、辰巳の両親にはゆっくりと親しさを増していっていた。未来の義父母はまるで咲のことを自分の娘のように思い、目が不自由であることも全く気にしていない。以前も薫子が言っていたように、咲が息子と結婚したら何も気にせず、ただ家でお金を使っていればいいと、すでにそれを態度に示していた。自分の母親のもとでは、咲は母親からの愛を感じ取ることはできなかった。しかし、将来の義母からそれを受け取ることができた。母親から愛され、大事にされるというのは、本当に幸せなことなのだ。「そうよ、心にもないことを言うんじゃないわ。やっぱり女の子のほうが優しく気遣いがあるわね」薫子は咲の手を繋いで、いろいろ尋ね、関心を寄せてくれた。咲がもう少しで危険な目に遭いそうだったということは、余計な心配をさせないように彼らには教えなかった。「母さん、咲を連れてちょっと散歩してくるよ。歩いて疲れたら、すぐにお腹が空くだろ。そうしたら、母さんが咲に料理をふるまってあげたらいい」辰巳は立ち上がると、咲の傍まで来て彼女の手を繋いだ。薫子は、自分が咲と一緒に散歩しに行けばいいじゃないかと言いたくてしかたなかった。息子は部屋でおとなしくテレビでも見て父親に付き合っていればいい。しかし、息子がすでに咲の手を繋いでいるのを見て、薫子は自分の手を離すしかなかった。「しっかり咲さんの面倒を見なさいよ。彼女の髪の毛一本でも落ちたら、帰った後殴ってやるからね」それを聞いた瞬間、辰巳は顔を歪ませて言った。「それじゃ、殴られる運命は避けられないだろ。髪の毛が一本も落ちないなんてことがあるか?朝起きて、髪を梳かしただけで何本も抜けるじゃないか」薫子は彼を睨みつけた。「それが嫌なら、あなたは家でお父さんと一緒にテレビでも見てなさいよ。私が咲さんと一緒に散歩してくるから。私たち二人だっておしゃべりしたいわよ。あなたは普段忙しくてあまり咲さんを連れて帰ってこないでしょ。今日は珍しく帰ってきたんだから、週末は私に彼女を独占させてもらいたいわね」辰巳はすぐに腰をかがめて、咲の腰を支えて抱き上げ、そのまま大股で外へ出ていった。すると咲がひたすらこう言った。「辰巳さん、下におろして、私自分で歩ける
「唯花さんが気にして怒らなくて良かった。それに理仁をなだめてくれたしね。そうじゃなかったら、理仁からの説教がいつまで続いていたことやら。まるで理仁のほうが親で私たちが子供みたいになるぞ、かなり恥ずかしい」麗華は笑いながら夫の腕に手を回した。「ご飯を食べる時は好きな物を私の分もたくさん食べてね。あなたが私の代わりに理仁の怒りを受けてくれたんだから」あのリストは麗華が実家から持って帰ってきたものだし、彼女があれをローテーブルの下に挟んだのだから、責任がある。しかし、夫も一緒に息子から怒られてしまい、巻き込む形になってしまった。「さあ、ご飯を食べに行きましょう」この時、悟が明凛を連れて入ってきた。「お邪魔します」悟たちはきちんと二人に挨拶をした。麗華と栄達の二人は気さくな態度で彼らに一緒に食事をしようと言った。悟と明凛は琴ヶ丘邸で週末の休みを過ごすつもりで、よく遊びに来ているのだから、全く遠慮はせず、麗華夫妻と一緒にダイニングへ向かった。理仁はこの時、まだ機嫌がなおっていなかったが、親友夫婦もいるし、妻からずっとおかずを取ってもらい、おとなしく食事をしていた。それでこれ以上怒りのオーラを出すことはなかった。食後、三十分ほど休んでから、理仁は唯花を連れて散歩に出かけた。悟と明凛は理仁の機嫌が悪いことを察し、彼は明凛を連れてすぐに外に出ることはしなかった。部屋の中で栄達夫妻とおしゃべりをしたり、世間話をしたり、また噂話に花を咲かせた。辰巳のほうは咲を連れて自分の実家に帰った。辰巳の両親と弟たちは家にいなかった。執事が辰巳が婚約者を連れて帰ってきたのを見て、すぐに彼の両親に連絡した。すると少しして、辰巳の両親が急いで帰ってきた。両親が帰ってきてから、辰巳は母親の薫子に部屋の隅の方へ追いやられた。薫子は息子の婚約者である咲のことを、まるで実の娘のように大事にしている。もはや、薫子にとって辰巳のほうがおまけなのだ。「咲さん、せっかく来てくれたんだし、数日いて、私のお話相手になってくれない?」薫子は咲の手を握りしめて離そうとしなかった。咲を見つめる薫子の眼差しは非常に優しかった。そして薫子は息子を叱った。「帰ってくるなら事前に連絡しなさいよね。わかっていたらキッチンに咲さんの好きな料理を用意させておいたのに」
理紗の叔父は有名な医者で、漢方薬に詳しかった。家族の誰かが具合が悪くなると、理紗は必ずその人を連れて叔父のところへ行って、漢方薬を出してもらうのだ。玲凰は本当にその漢方薬が苦手でたまらなかった。だから、普段から気をつけて、風邪を引かないようにしていた。たまにくしゃみを出しても、妻に見つからないように隠れるほどだった。今理仁を心配している唯花を見ると、玲凰は自分のことを想った理紗のことを思い出し、彼女を慰めるように言った。「そんなに心配しないで。九条家に行くんですか。俺が送ってあげましょう」「ありがとうございます、玲凰さん」玲凰は妻の方に顔を向けて言った。「理紗、家で待っ
メッセージを送った後、彼女は携帯をズボンのポケットに戻した。この時すでに深夜だったから、みんなは今頃夢の中だろう。彼女もすぐにみんなからの返事を期待しているわけではなかった。その時、理仁は「ようやく」目を覚ました。目を開けて唯花が視界に入ってきた時、彼は、まさか唯花がここにいるとは信じられないといったふりをして、わざと驚いてみせた。そして、点滴を打っていないほうの手で目をこすり、ぶつくさと独り言のようなものを漏らした。「俺は熱で頭がおかしくなったんだろうか。それともまだ目が覚めていないのか、うちの唯花さんの姿が見えるんだが」唯花は彼の手をとり、手の甲をギュッとつねった。「い
唯月は詩乃に言った。「伯母さん、私も唯花もまだまだ働ける年齢だし、健康ですから伯母さんに助けていただかなくても大丈夫ですよ。あまり心配なさらないでください、私たちもっと良い生活ができるように努力していきますから。一つだけお願いしたいことがあるんです。私と唯花が伯母さんの姪だということはできるだけあまり多くの人に知られないようにしてもらえませんか。私も唯花も今までの人生でいろいろな人に出会ってきました。優しい人にも出会いましたが、中には冷たく悪い人間もいました。私たちが伯母さんの姪だということを知って、それを利用する人が伯母さんや神崎グループにご迷惑をかけないか心配なんです」詩乃は暫くの
唯花は姫華がすぐ結城社長への恋心を捨てるのが非常に難しいことを理解していた。姫華はもう長い間、結城社長を追いかけていないのだ。今日ここに来たのは、たぶん、密かに結城社長を一目でも見てみたいからなのだろう。叶わぬ恋に落ちるというのは、さぞつらかろう。「前にここで何度もミルクティーを頼んだの。この店のミルクティーとお菓子が美味しかったから、また食べに来たけど、今考えると、結構普通ね」姫華は何もないようにそう話した。まるで本当にミルクティーを飲むために来たようだった。彼女は確かに以前ここで何度もミルクティーを飲んだことがある。以前美味しく感じたのは、ここで待つ価値があったからかもしれ







