LOGIN力哉は妻から、娘の教育を間違えてしまったと文句を言われ続けている。小夏は武術の腕が高く、二十四歳になっても、恋愛一つしたことがない。知人に男性を紹介してもらっても、恋に発展することがなく、娘が男を見ると兄弟のように接してしまうようになったと愚痴をこぼす。兄弟のように仲が良かったとしても、絶対に恋人にはなれないというのか?毎回妻からぶつくさと言われる力哉は、それならいっそ頑張って娘をもう一人産んで、妻に淑女に育ててもらうとからかっている。そんな冗談を言われて忍は顔を赤くさせるのだ。孫ができてもおかしくない年齢だというのに、また子供を作るというのか?産みたいなら、若い時にすでに産んでいた。「ご飯よ、こんな夜にコーヒーをお出しするなんて、眠れなくなったらどうするのよ。あなたも、なかなか寝られないからってうるさくしないでよね」忍はキッチンから料理を運んでくると、夫に小言を呟いた。力哉はへらへら笑った。「弦君が遠くから来てくれたんだから、お客さんだろう。お客さんが来たらまずは何かお出しするってのがおもてなしだ。弦君、さあ、ご飯にしよう。小夏、ワインセラーから良いワインかブランデーか、適当に何か持ってきてくれ。お父さんは今日弦君とおしゃべりするからちょっと飲まないと」小夏は母親を見て尋ねた。「お母さんいいの?私もちょっと飲みたいわ」忍は彼女をキッと睨んで言った。「あなたは一口、二口飲むくらいで十分よ。たくさん飲んではだめ。お酒に弱いし、酒癖も悪いんだから、お客様の前で恥をかくわよ」まあ、一口も飲めないよりマシだ。すると小夏は嬉しそうにワインセラーから父親が保管している一品を持ち出してきた。兄たちはすでにグラスを用意していた。弦が来て、酒好き一家は酒の味を堪能できる。しかしそれもたしなむ程度で、あまり飲めない。忍が今鎮座しているからだ。「お母さん、弦さんが出張の間、お兄ちゃんがホテルじゃなくてうちに泊ってもらおうって提案したから、ホテルはキャンセルしようかって話してたの」小夏はおかずを箸でつまんで、食べながら話した。忍と力哉は互いに目を合わせて言った。「うちにはゲストルームがあるから、弦さんがこんな狭い質素な家で気になさらないのなら、泊ってもらっていいわ。弦は急いで返した。「おば様、私なら
小夏は大和に言った。「こっそりその時間にお酒を飲むなら、お母さんがうちにある良いお酒を全部売ってしまうわよ」小夏も酒を飲むのが好きだが、強くない。母親から酒を飲むのを禁止されるのは、小夏が女であまり酒に強くないから、酔いつぶれて何かあるといけないからだ。大和はケラケラと笑って小さな声で言った。「だから、弦さんにうちに泊ってもらうんだろ。弦さんはお客さんなんだ。彼が夜食買ってきてくれたら俺たちは家で酒を出して、弦さんと一緒に一杯やれるだろ。少しくらいなら酔っぱらうことはないから、昼間の仕事には問題ないって、母さんも何も言わないさ」酒をこよなく愛する者が、飲むのを禁止されるのはかなり苦しい。それで大和は弦のことを思い出した。前回弦が来た時、小夏以外の家族はみんな酒にありつけたからだ。弦に頼って酒に酔いしれる。これこそ大和が思いつく方法だった。母親が酒に対してここまで厳しいものだから、みんなどうしようもない。弦は笑って言った。「私がお宅にお邪魔させてもらっている期間、大和さんが夜何か食べたい時には気兼ねなく私に連絡してください。外で酒のつまみでも買って来ますから。酒は一、二杯程度にしておいて、あまり飲まないでくださいね。おば様が毎日酒を飲むのを禁止するのは、みなさんの健康を考えてのことなんですから」弦は将来家族になる予定の大和のご機嫌取りはしておきたいが、義理の母となる忍を怒らせるとまずい。義理の母親と大和なら、弦はもちろん忍のほうを選択する。大和は言った。「毎日は飲みませんよ。酒が恋しくなった時に一杯やるくらいですよ。あ、おふくろが出てきたので、この話はここまでで」母親の聞き慣れた足音がしてきたので、大和は急いで妹と弦に、酒の話題をやめるように言った。母親に聞かれるとこっぴどく叱られてしまう。弦は自分のスーツケースを取りに行き、大和と小夏の後について屋敷に向かった。出迎えにきた忍に会うと、彼は礼儀正しく挨拶をした。「おば様、またお邪魔してしまってすみません」忍は親しげな態度で弦に家の中に入るように促した。「そんな、他人行儀なことはおっしゃらないでくださいね。ささ、早く入って、手を洗って食事にしましょう。小夏から弦さんが私が作った料理を食べたいって聞いて、もうできていますよ。到着をずっと心待ち
花京院家に到着した頃にはすでに空は暗くなっていた。小夏の家族はみんな弦と小夏の到着を待ちわびていた。車の音が聞こえると、長男の大和が外に見に出てきた。妹の車だとわかるとすぐに笑顔になって車まで迎えに行き、弦が乗っている助手席側のドアを開けた。「九条さん、いらっしゃい」「大和さん、私のことは名前で呼んでくださいと言ったでしょう」弦は大和よりも年上だったが、大和は隼翔に似て細かい事を気にしない大雑把な性格だから、弦から名前で呼ばれてもまったく気にしていなかった。「みんな二人が帰ってくるのを待ってたんですよ」大和はそう言いながら、後ろのトランクを開けて、中から弦のスーツケースを取り出した。小夏は言った。「お兄ちゃん、弦さんはホテルをとってるの。ご飯を食べ終わったら、ホテルまで送っていくから、荷物はそのまま置いといて」「そうなのか。弦さん、ホテルはキャンセルしたらどうです?うちにはゲストルームがあるから、もし弦さんがよければ、うちに泊ってくれて構いませんよ。これからも、こっちに出張で来るなら、うちに泊ればいいです」大和は弦と小夏は友人関係で、自分とも、もう友達になっていると思っている。弦が出張で蔵峯に来ているのを知らないならともかく、知っているのだから、蔵峯人としてしっかりと弦をもてなしたいと考えている。「本当ですか?ホテルならまだキャンセル可能です。じゃあ、今からキャンセルの電話をかけようかな。でも、私がここにいてみなさんにご迷惑になるんじゃないですか。私は仕事が忙しいので朝早く、夜は遅くなると思うので、みなさんが休んでいるところに邪魔してしまいそうで……」蔵峯の出張は小夏に会うための口実でもあるし、また実際本当に出張でもあった。弦は本気で会社を蔵峯でも発展させようと巨額の投資を考えていた。そうすれば、今後小夏を追いかけるために、よく蔵峯に訪れることができるし、彼女と晴れて結婚できた後には、小夏もしょっちゅう実家に帰ることができる。それに、彼ら九条家は今、蔵峯では何の力も持っていないから、それではまずい。今後、弦は頻繁に蔵峯に訪れることになる。もし、こちらに自分の勢力が出来上がっていなければ、彼自身の安全に関わる問題でもあるし、なによりも彼が心配しているのは、自分のせいで花京院家が危険に晒されることだ。そ
弦は笑って言った。「その時はいつでも私に言ってくださいね。そうだ、そちらに送った二つの荷物は届いていますか?ネットで物流を見て今日届くみたいでしたが」弦はたくさん星城の特産品や、小夏の両親にと思い、栄養のある食べ物などを買って一緒に宅急便で蔵峯に送っていた。受け取り人は小夏宛てだ。小夏は彼の運命の女性。だから、彼女の家族には良い印象を持たせるようにしなければならない。遠くから手ぶらで来るわけには到底いかないのだ。小夏は言った。「それは私もわかりません。午後空港に直接お迎えに来たので。宅急便が今日届くなら、母が一日中いるから、代わりに受け取ってくれますよ。弦さん、何を買ってくれたんですか?わざわざまたお金を使わなくていいのに」「ただ、星城のお土産を買って送っただけですよ。この間小夏さんが来た時は慌ただしかったので、あまりお土産を用意することができなかったんです。今回はたくさん買って、二日前に宅急便で送っておきました。私がここに着いた時に荷物もちょうど到着するように。私の両親から、小夏さんが助けてくれたのに、お返しが足りていないと言って怒られてしまいまして。私がちゃんと恩返しできないようであれば、次に何か危険な目に遭った時に、誰も助けてくれなくなるぞ、なんて言われてしまったんですよ。恩を受けたらその倍以上お返ししなさいと。小夏さん、私は恩知らずな人間ではありませんからね」小夏は笑った。「弦さん、もちろんわかっています。あなたはもう十分恩返ししてくれましたよ。この間子供たちを連れて試合に参加するために行った時は、私たちに美味しい物をご馳走してくれて、遊びに連れていってくれたでしょ。しかも、お金も私は出さなくていいって。それにわざわざ結城社長と唯花さんの結婚式に招待までしてくれて、もう恩返しは終わっていますよ」「いいえ、こんなものでは足りません」彼が小夏に全てを捧げてこそ、やっと恩返しできるというもの。「おじ様もおば様も、そこまで気になさらなくていいのに」小夏は弦の両親に会ったことがある。とても親切で優しい印象を持ち、小夏はとても好感を抱いている。二人は教養に溢れ、口調もとても穏やかだ。弦の母親の静江は彼女の手をとってニコニコと小夏に微笑んでいる時、小夏は相手が自分を娘のように大切に思ってくれているのを感じ
小夏は言った。「九条さんはとても強いんだから、ボディーガードなんて必要ないじゃないですか。あの日の夜は私が動くのが早すぎたんですよね。きっと、あの日私が助けなくても、あなたの強さなら、あんなチンピラたちなんて、ひと捻りで完全に打ち負かしていたでしょう。私ったら誰かがピンチなのを見ると瞬時に体が動いちゃうものだから。九条さんがやっつける機会を奪っちゃいました。私だってあなたがチンピラをこてんぱんにやっつけるカッコいい姿を見るチャンスを逃してしまいましたね」弦は小夏の言葉に焦って言った。「私は確かに武術の心得はありますが、小夏さんが思っているほど強くなんてありません。あの日は不良たちの数も多く、私一人では太刀打ちできなかったはずです。やっぱり小夏さんのほうが私よりすごいでしょう。それにうちはボディーガードを雇っていますが、私もあまりつけてはいないんです。たまに二人ボディーガードを連れて出かけたりしますが、彼らは背がとても高いので、周りに威圧感を与えるために連れているようなものです。それにある程度は強いので、ああいった不良たちに立ち向かうのは問題ありません。でも、本当に訓練を受けた強者が相手だと、彼らではひとたまりもないでしょう。それにさっきも言いましたが、あの日のような多勢に無勢な状況では、ボディーガードでは小夏さんのように本気で武術ができる方とは比べることはできません」自分の部下を弱く見せるために、弦は今必死だった。どうせその部下たちは今傍にはいないから、彼がどのように言っても、彼らにはわからないし、聞かれることもない。それに彼らが今目の前にいようとも、弦に反論することなどできはしない。主人が将来の妻を手に入れるために、ボディーガードたちは小夏に殴られて警察に送られもしたのだ。今、彼らは怪我が治り退院しているが、今後は小夏の前に現れないようにしなければならない。彼女に正体がばれてしまっては困るからだ。小夏は言った。「星城は治安がとても良いはずです。あの事件、あれから調査しましたか?もしかして、誰かがわざとあなたを陥れようと、狙ってきたんじゃないかって思ってるんです。ああいう事件が毎日起きるとは考えにくいし、九条さんも普段はボディーガードをあまり連れていないでしょ、新しく誰かを雇う必要はないように思います。私は、うちの
弦は笑って言った。「きっと親世代の人ってみんなそういうものなんですよ。私の両親も同じで、よく口を挟んでくるんです。大の大人の男のくせに、私の父親だってそうなんです。母のほうは言うまでもありませんね。父に会うとうるさく言われるのが怖くて、まるで猫を見た鼠みたいにどこかに隠れてしまいたくなります」弦と小夏は車に乗った。弦が運転したいと思っていたが、小夏がさっさと運転席に乗ったのを見て、彼は言った。「小夏さんが運転しますか?」「ええ、私がしましょう。九条さんは道に慣れていないし、普通の車だからきっと運転するのに慣れてないはずです。安心してください。私、車の運転は得意なので、事故を起こしたりしませんから」弦は助手席のほうにぐるりと回って乗り込むと、シートベルトを締めながら言った。「私はどんな車も運転したことがありますよ。以前、まだ会社が大きくなかった頃は、自転車通勤や、バイクに乗ったり、バスを使っていたことだってあるんです。今高級車に乗っているのは、まあ、主にメンツのためですね」もし少しくらい小夏に嘘をついてもいいのであれば、弦は持っている車はローンで分割払いにしていると言いたかった。しかし、本当の身分を告げてしまっている今、弦はそのような嘘をつくことはできない。小夏は理解して言った。「九条さんは今大企業の社長さんですから、良い車に乗って、ある程度体裁を保つ必要があるでしょう。私のお父さんと兄さんたちも友達と出かける時なんかは、ちょっと良い車に乗ってますよ。普段使うのは普通の車なんです。この車も二百万いかないくらいかな。私にとっては足代わりですから、高級車に乗りたいとは特に思わないんです。もちろん、私には貯金がないから、高級車なんて手が出せないですけどね」小夏の貯金はそこまで多くない。彼女はまだ道場で働き始めて数年も経っていない。稼いだお金で車も買い、貯金は少なくなった。それに、この間大会に参加するために、子供たちを星城に連れていって、自分の貯金を使ってみんなをスカイロイヤルに泊らせてあげた。それからあちこち子供たちを連れて回ったし、結構お土産も買っていた。だから、もともと少なかった貯金は今ではほとんどなくなってしまった。それで今はもう一度貯金を頑張らなければならない。頑張って自分で家を購入したいという