Se connecter数日休んで、俊介の精神状態は目が覚めたばかりの頃よりも少しよくなっていた。しかし、ベッドから降りて歩くことはまだ無理だった。体には無数のナイフで切られた傷がある。莉奈にこのように刺され、彼がまだ生きているのは奇跡としか言いようがない。ベッドから降りて行動したくても、医者からはまだまだ時間がかかると言われている。生と死の境目を経験し、俊介は誰が良い人間か、悪い人間かもよくわかっている。しかし、彼は莉奈を責めてはいなかった。結局彼女をあそこまで追いつめたのは自分だからだ。彼女の言っていたとおり、当時、俊介のほうから莉奈に近づいていった。あの時、俊介が下心を持たなかったら、、莉奈も真面目に彼の秘書をしているだけだっただろう。それで、二人が一緒になることもなく、こんな事件など起きなかったのだ。そして俊介は、最高の妻を自ら手放した。莉奈と結婚した後も、彼女が望む暮らしを与えてあげられなかった。二人の生活はまったく幸せではなかった。毎日喧嘩し、揉め事が起きていた。莉奈が自分を見失い俊介を刺し殺し、一緒に地獄に落ちようと思ったことを俊介は理解できた。彼は命の危険から逃れ、なんとか話をすることができるようになっていた。両親に、自分の怪我が良くなってから、情状酌量の嘆願書を提出し、彼女の弁護士に手伝ってもらって刑を軽くできるようにしたいと伝えた。両親はそれを聞いて叱りつけたが、俊介は自分の考えを変えようとしなかった。あまりの怒りに両親は俊介を放っておいて、田舎に帰りたいとさえ思った。「お母さん、唯月さんって今日陽ちゃんを連れて俊介のお見舞いに来るんじゃなかった?もう十一時よ、どうしてまだ来ないのかな?明日にするつもりなのかしら?」英子が時間を見て母親に尋ねた。「私お腹空いちゃった。唯月さんが来たら一緒に外で食べようって思ってるのに」英子は唯月の新店舗を見に行きたいと思っていた。場所が分かれば、唯月の新店舗がオープンしてから、英子が市内に来た時には、そこで美味しいものでお腹を満たせるというわけだ。英子は自分のお金を使うのには、非常に財布の紐が堅い。両親が彼女の家から引っ越していった後、もう代わって子供の面倒を見たり、買い物して食事を作ってくれる人がいなくなってしまった。そして英子は自分で買い物する時に、豚肉は高いし、鶏
この時、唯月がやって来た。「東社長」隼翔は彼女のほうを深い眼差しで見つめた。「唯月さん、今日は俺も病院に行く予定があって、君が陽君を連れて彼の父親のお見舞いに行くって聞いたから、ここまで来たんだ。一緒に行ってもいいかな」実際、彼が病院で再検査をする日はまだなので、行く必要はない。ただ口実をつくっているだけだ。唯月と陽が病院に俊介に会いに行くのが不安なのだ。佐々木家がどうにかして唯月を説得し、俊介と復縁させようと考えているからだ。俊介は生と死の境目を経験し、きっとようやく誰が自分に相応しかったのか気づいているだろう。そんな彼が家族の話を聞いて、また唯月を追いかけ始めるかもしれない。当初、俊介は唯月が醜くなったことに嫌気がさし、浮気をし始めた。唯月を裏切ったくせに、また唯月に復縁してくれと頼める資格があると思っているのか?唯月も絶対に俊介とヨリを戻すことはないと言っているが、それでも隼翔は心配だった。唯月が自分の告白を受け入れて結婚してくれるまで、彼はどうしても安心できない。それでなにかと唯月の前に現れては、周りに彼女の傍には自分がいるのだと主張している。「再検査の日はまだ先じゃありませんでしたか?」唯月が尋ねた。それに対し、隼翔はさらりと嘘をついておいた。「昨日の夜なんだか足が痛んで、先生に話したんだよ。先生から今日一度病院に来て見せてくれないかと言われてね」唯月は視線を彼の足へ落とした。「それなのに、陽を膝の上に乗せているんですか。陽、早く降りて、おじさんは足が痛いんですって、座ってたらダメよ」「大丈夫だよ、陽君は軽いから」隼翔は手の力を緩めることはなく、そのまま陽を膝に乗せて、ボディーガードに車の前まで押していくように言った。それから陽に言った。「陽君、おじさんの車で病院まで行こうか」「でも、おじちゃん、ぼく、さきおばちゃんのお店でお花をおとうさんに買わなくちゃ」隼翔は愛しそうな眼差しで陽を見て言った。「じゃ、一緒に買いに行こう。お父さんにあげるって、自分のお金で買うのかな?」陽はまだ三歳だが、実は結構な貯金がある。毎年正月にはいつもお年玉をもらっている。その金額は大人顔負けだ。「そうだよ。おとうさんに買うんだもん、もちろんぼくが出すよ。だって、ぼくのおとうさんだからね」隼
星城にて。唯月は昨夜、陽に父親のお見舞いに行くから病院に今日連れて行くと伝えていた。しかし、陽は日が高くなってからやっと起きてきて、食事をして出かける頃には太陽はすでに高い位置にのぼっていた。外はかなり暑くなっている。陽は小さなカバンを背負って、母親の後ろについて下におりていった。彼のカバンの中には父親に持って行くと言って、お菓子を入れている。「おかあさん、お花、買いに行く?」陽は歩きながら唯月に尋ねていた。唯月は立ち止まり、陽が近くに来てから手を繋いで引いて歩いた。「お父さんに花を買ってあげたいの?」「うん、ぼく、お金も持って来たよ。テレビでおみまいに行く時にはみんなお花を持って行くんだ」陽は今幼稚園に通うのは、初日から数日間のあの時ほど積極的ではなくなっている。しかし、幼稚園に通うようになってからは前よりもっと物分かりが良くなり、少し大人びたような感じだ。病院に父親のお見舞いに行くなら、花を買わないといけないと理解していた。「いくら持って来たの?」唯月は可笑しくなって彼に尋ねた。「百円じゃ花束は買えないわよ」陽は答えた。「花たばはお札じゃないと買えないでしょ。ぼく何枚か持ってきたよ。おとうさんに買うのに十分だと思う」唯花の後をくっついて回っている陽は、よく叔母と一緒に咲の家に花束を買いに行くのについて行っている。それで花束がいくらかかるのか知っているのだ。唯月は笑って言った。「ならいいわ。お父さんに花を買うなら、自分のお金で買ってね。お母さんはフルーツを買うわ」「わかった」陽は気持ちの良い返事をした。借りているマンションから出てきたところに、隼翔の姿があった。彼は車椅子に座り、後ろにはボディーガードが二人ついている。「あずまおじちゃん」隼翔がいるのを見ると、陽は母親の手をほどいて、走っていった。隼翔は笑顔で陽のほうを向いて両手を広げた。陽が車椅子の前まで来ると、前のめりになって彼を抱き上げた。まずは陽の小さな顔に何度かキスをして、自分の膝の上に座らせた。「おじちゃん、どうしてここにいるの?ぼくとおかあさんと一緒におとうさんのおみまいに行くの?」隼翔は唯月が今日陽を連れて俊介のお見舞いに行くことを知っていたから、リハビリは休んで、ボディーガードにここまで連れてきてもらっ
「兄さんが来ました」碧は奏汰に兄が来たことを教えようと思ってそう一声かけたが、奏汰のほうはすでに二つの袋を提げ、立ち上がって玲のほうへ向かっていた。碧は呟いた。「ほんとよく見てるな、動きが素早い」それでこそあの姉につきまとえる。しかも姉にこれほど辛抱強く耐えさせることさえできている。周りは玲が奏汰からつきまとわれる様子を見れば、二人がいつ関係を実らせるのかと憶測している。しかし、玲の双子の弟である碧は姉が奏汰のしつこさを許しているところが気になっている。玲は一体どんな人物だ?あそこまで能力の高い人間が奏汰一人をどうにもできないわけがあるまい。明らかに玲は奏汰のことを高く評価している。だから、彼からつきまとわれてもどうしようもないふりをして、そのまま彼の好きなようにさせているのだろう。ああ、こんな話は心の中にとどめておいて、絶対に口に出してはいけない。うっかり口を滑らせでもすれば、姉から大目玉を食らってしまう。玲は奏汰がやって来たのを見て、顔をこわばらせた。奏汰は近寄り、彼女の顔を見て笑った。「毎日毎日、そんなかたい表情でいて疲れないんですか?」玲は奏汰を睨みつけた。「だいたいの人は自分を良く見せようとするものなのに、あなたはそんなふうに怖い顔をして逆のことをしていますね。お腹が空いてるんじゃないですか?さっきうちのスタッフに頼んで朝食を持ってきてもらったんで、車で食べましょうか。さ、行きましょう。茂さんと弥和さんが家で昼ご飯を一緒に食べるのを待ってますよ」すると奏汰は片手を差し出して、玲の手をとろうとしたが、避けられてしまった。玲は返事もせず朝食も受け取らないで、ボディーガードたちを従え、大股でホテルの外へ歩き出した。そこへ碧が姉に近寄っていった。「兄さん」碧はそう呼びかけながら玲の歩調に合わせてついていった。「兄さん、俺は兄さんがお腹空いてるとか全然考えてなかったけど、奏汰さんは気づいてわざわざ朝食を持って来させたんだよ。さっき届いたばっかりだ、間違いない。ラグジュリゾートのレストランのなんだぞ」玲はこの時も返事をしなかった。玲は風を切るように勢いよく歩き、あっという間にホテルを出ていった。ボディーガードたちもそれに続いた。芸能記者が付近で待ち構えていて、玲と碧が出てきても写真
「兄さん、なんで携帯に出なかったの?」「マナーモードにしてたんだよ。あのクソ野郎!」玲は奏汰を罵り、すぐに弟に尋ねた。「なんで家から、ホテルの部屋に電話をかけられるんだ?」「だって俺もホテルにいるからだよ。フロントに今いるんだ。奏汰さんもいるよ、一緒に兄さんを迎えに来たんだ。それから、兄さんと奏汰さんがまたネットに上がってるぞ。もし見る気力があるなら見てみなよ。検索ランキング一位にいくかもだよ」玲はすぐに電話を切って、受話器を置くと、ベッドの上に座り携帯を取り出した。まずはマナーモードを解除して、音が鳴るようにしておいた。それからさっき弟が言っていたゴシップニュースとやらを確認した。彼の言う通り、また柏浜のネットニュースに上がっていた。写真は昨夜のもので、彼女と奏汰が散歩している様子を盗撮したものだった。あのしつこい芸能記者たちも本当に執念がすごい。二人は秘密にしてある隠し通路からホテルを出たし、あの時間帯はもう真っ暗で人通りもなかった。それなのに、二人が一緒にいるところを盗撮されてしまったのだ。そしてゴシップの内容は、白山玲と結城奏汰が人の気配がなくなった夜中に、ボディーガードもつけずにお忍びデートをしていたというものだ。それから、白山玲は結城奏汰に落ちてしまったとも書いてあった。しかし、内容が変わり、その後は二人が何かで揉めて、白山玲はずっと不機嫌で冷たい表情をしていた。結城奏汰への態度も悪く、恐らく喧嘩したのだろうと書かれている。そして、白山玲はまだ結城奏汰に落ちていないのかもしれないとも書いている。ただ、彼にしつこくつきまとわれて、仕方なく人がいなくなった夜中に話し合いをしたのだと。それで、白山玲の態度は悪く、不機嫌そうなのだというのだ。その記事を見終わると、玲はホッと胸をなでおろした。芸能記者たちは彼女と奏汰の盗撮はしたが、近寄ることはできなかった。それで、二人の会話内容が聞こえず、ただの推測でこの記事を書いているだけだった。同時に、玲はまた芸能記者は他に何か書く記事はないのかと思った。なぜいつもいつも自分と結城奏汰にだけ目をつけているのか?男同士の恋愛を初めて見たからか?それもあの男のせいだ。結城奏汰さえいなければ、玲もこんな厄介事に巻き込まれることはなかった。確かに、彼女は以前もゴシッ
「でも、どうやってもあなたが女性だという証拠を見つけだすことができなかった。それから、辰巳兄さんと唯花さんにアドバイスを求めて、二人からそのままあなたにアプローチしろって言われたんです。時間ももう迫っているし、二人のアドバイス通りにすることに決めました。ほら、あの花を敷き詰めた日に早速行動に移したんです。それからのあなたの反応がとても面白くって。そして、これにはまっちゃったんですよね。今あなたのことを好きなのかといわれると自分でもはっきりと答えられませんが、諦めずに結婚までしたいと思っている気持ちは、間違いはないです」玲は黙っていた。この男が直接アピールしてきたのは、その二人の助言があったからなのか。あの二人のせいで、ひどい目に遭ってしまった。平穏だった日々が、見事壊されたのだ。もし、奏汰の計画通り、まずは玲が女である綻びを見つけてから行動するつもりだったのであれば、奏汰は数年かけても見つけられなかったかもしれない。玲は二十年以上の長きにわたって、男を演じてきた。だから、もはや完璧としか言えない。「玲さん、俺は生まれて初めて女性に興味を持ちました。だから、あなたのことを諦めるつもりはありません。それが嫌なら、俺に他の女性を好きにさせてみせてくださいよ。じゃないと、一生あなたにつきまといますからね」初めは、結城おばあさんが玲を結婚相手として選んだ。そして今、彼は結婚相手として玲がいいと思っている。玲は暫くの間、静かに彼を見つめていた。しかし、ひとことも何も言わずに、大きな歩幅で前方に歩いていった。奏汰は彼女が大股で歩いていく後ろ姿を見つめ、少ししてから低い声で笑って、その後に続いた。彼がまた玲に何か言っても、彼女は奏汰に構おうとしなかった。玲はこの時、この状況を突破する方法を模索していた。さっき奏汰は、他の女性を好きになれば、諦めてくれるという話をしていた。それなら、多くの美女たちを彼に接近させて、本物の女性というものがいかに優しく美しいのかを教えてやればいい。そうすれば、女らしさの欠片もない偽の男には二度とつきまとってこないだろう。奏汰も自ら、玲のことが好きなのかどうかわからず、ただ面白い人だと思っているだけだと言っていた。それに、彼は祖母から勝手に結婚相手を選ばれて、仕方なく行動を開始しただけだ。
「何か助けが必要な場合は、遠慮せずに何でも言ってくださいよ。俺たち夫婦にできることならなんだってしますんで」理仁は続けて言った。「俺も唯花さんも、神崎嬢が幸せになるのを望んでいるんですよ」姫華のことを好きになったのが桐生善という男であり、理仁は姫華が彼と結婚すれば絶対に幸せになれると確信していた。桐生家の家風は非常に素晴らしいのだ。A市において、善と結婚したいと夢見ている女性はごまんといる。彼は桐生家の五番目の御曹司で、現当主である蒼真とは実の兄弟なのだ。他の従兄弟たちと比べて、彼は女性たちからもっとモテるわけである。もし彼が星城でのビジネスを任されここに長期滞在する身
「唯月さん、妊娠を経験したあなたなら、これ以上吐かないようにするにはどうしたらいいか、何か知っていますか?」玲凰は妻である理紗のことをとても心配していた。彼女が何を食べても吐いてしまうものだから、見ているだけで辛くなり、子供を諦めようという考えに至ったのである。そして堕胎することはもっと体を傷つけることになると聞き、その苦しみを理紗に味わわせたくないと思い始めたのだ。唯月は言った。「それは難しいですね。もしあまりに嘔吐がひどいようであれば、お医者さんに診てもらったらいいと思います。陽を妊娠している時、私はあまり吐かなかったものですから」彼女が妊娠して検査に行っていた頃、他の妊婦
唯月は莉奈を構いたくなかった。莉奈も何か有力な情報を得ることができず、そそくさと俊介の元へ戻るしかなった。同時に唯月の借りている部屋をじろじろと見て回った。借りている部屋は大きくはないが、唯月はきちんと綺麗に整頓していて、レイアウトも心を落ち着かせる温かさがある。莉奈はそれを見て家庭を切り盛りするという意味では、唯月は自分よりも上手だと認めざるをえなかった。俊介は息子にレゴを教えてやっていた。彼は普段あまり息子と一緒に過ごす機会はなく、この時目の前に乱雑に広がる小さなレゴパーツを見て、また組み立て方の説明書に目を移すと、本当に難しいということがわかった。彼が組み立てようとし
陽は莉奈のことと、母親の説明も思い出していた。彼はやはり母親のセリフに込められた意味を理解できず、首を傾げて隼翔に尋ねた。「あずまおじたんは、けっこんしてるの?」「いいや、おじさんは結婚相手がいないから、まだ結婚していないんだよ」「おじたんはどうしてけっこん相手がいないの?」「だって、おじさんには好きな女性がいないからね」陽は目をぱちぱちさせて、興味津々な様子で尋ねた。「おじたんは僕のママは好きじゃないの?あと唯花おばたんに、ひめはおばたん。みんなすっごくいい人だよ。おじたんは好きじゃない?」隼翔「……」彼はおかしくなって言った。「君のおばさんは良い人だね。だけど、おば







