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21不器用な朝

Author: 桜立風
last update publish date: 2026-09-29 16:34:30

……ハッと目が覚めるとそこには、

熊のぬいぐるみがあった。

「……ん?なんで、」

ぬいぐるみ系はすべて部屋に置いてきたはずだ。理由はもちろん、京極にバカにされるから。

凪は広いベッドに横たわっていた。寝ぼけた頭で、「一緒に寝よう」と京極に誘われたことを思い出す。……変な意味に取るのは照れくさくて、はい、と素直にベッドに入った。

誰かと一緒に眠るのは久しぶりで、そのあたたかなぬくもりに安心して、意外なほどすぐに寝てしまったと思う。

「隣に熊ちゃんがいるということは、先に起きてるんだな」

当然だが、京極も普通に眠ったのだろう。変に意識しなくて良かった……

階下に降りてみると、案の定京極がコーヒーを片手にタブレットを操っていた。

「おはようございます」

声をかけた瞬間、口をつけたコーヒーを吹き出しそうになった。……どうしたのだろう。……京極らしくない。

「おはよう。ほら、そこに作っておいたから……食べなさい」

指さす方に目をやって……驚いた。

「これ……料理ですか?」

「あっ?!どう見ても料理だろ。モーニングプレートってやつだ」

お皿の上にレタスとトマト、きゅうりを切ったサラダと、スクラン
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  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   22.鋭い目

    「ダメだ」 あまりにも早い即答に言葉を失った。 凪に続いて降りてくる京極。……いったいどうしたというのか。 「聞こえたか?ダメだと言ったんだ」 「……でも、もう狙われる理由はありませんよね」 「そういう問題じゃない」 運転席の山田に目配せをして、凪の背中を押しながら歩き出す京極。 つまみっ子倶楽部まで送り届けようとしているらしい。 ……なんだろ、過保護か? 「君は気にならないのか?なぜ……あのネックレスをお母さんが持っていたのか」 「それはもちろん、気になりますけど、京極社長の家に寝泊まりしなくても調べられますし」 「……問題はネックレスだけじゃない」 京極を見上げていて気づかなかった。前を見る彼の視線の先に、父が結婚を押し付けた……真壁雅人がいることに。 「……朝帰りか?呆れたな」 腕組みをして立ち塞がる真壁は嫌味な笑みを浮かべて首をかしげる。 「別に、関係ないと思いますけど」 「そうだ。彼女は今……俺の家から仕事に通っているものでな」 京極の言葉に、真壁の目が光った気がした。 「そう。それなら今日来て良かったな。本当はつまみっ子祭りの協賛に参加してやろうと思って来たんだけど……先に伝えておこうか」 嫌な予感がした。まさか父の会社との話に何か進展があったというのでは…… 「君のお父さんの会社ーー白石物産と真壁コーポレーションは、正式に業務提携することになった。うちからの資金が……お父さんの会社をいろいろと助けることになるよ?」 予想は当たった。余裕の笑みを浮かべ、京極の隣にいる凪に手を伸ばす真壁。 「こっちにおいで……凪」 「私の気持ちは変わりません。それから、今夜もう一度……父と話します」 「そう?……残念だなぁ」 凪には、真壁が考えていることが予想できた。父の会社と提携してしまえば、きっと自分を犠牲にして結婚に応じると。 「悪いけど、俺も離しませんよ?」 涼しい顔で話に入ってくる京極。さっきからチラチラと視線を向けて、真壁が彼を気にしていることは伝わっている。 ……それにしても離さないとは、京極は何を言おうとしているのか。 「この前から思ってたけど、あなた、いったい何者?僕たちの話に入ってくるのやめて欲しいんだけど……」 「……そういえばまだ名乗ってなかったな」 内ポケットから革の名刺入れを取

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    ……ハッと目が覚めるとそこには、熊のぬいぐるみがあった。「……ん?なんで、」ぬいぐるみ系はすべて部屋に置いてきたはずだ。理由はもちろん、京極にバカにされるから。凪は広いベッドに横たわっていた。寝ぼけた頭で、「一緒に寝よう」と京極に誘われたことを思い出す。……変な意味に取るのは照れくさくて、はい、と素直にベッドに入った。誰かと一緒に眠るのは久しぶりで、そのあたたかなぬくもりに安心して、意外なほどすぐに寝てしまったと思う。「隣に熊ちゃんがいるということは、先に起きてるんだな」当然だが、京極も普通に眠ったのだろう。変に意識しなくて良かった……階下に降りてみると、案の定京極がコーヒーを片手にタブレットを操っていた。「おはようございます」声をかけた瞬間、口をつけたコーヒーを吹き出しそうになった。……どうしたのだろう。……京極らしくない。「おはよう。ほら、そこに作っておいたから……食べなさい」指さす方に目をやって……驚いた。「これ……料理ですか?」「あっ?!どう見ても料理だろ。モーニングプレートってやつだ」お皿の上にレタスとトマト、きゅうりを切ったサラダと、スクランブルエッグ的なそぼろ卵、そしてなんと、ラップに包まれたキャンディチーズのような小さなおにぎりがいくつも乗っている。「可愛い……これも京極社長が?」「他にいないだろ?」「消去法じゃなくて、ちゃんと言ってくださいよ!」ひとくちサイズのラップおにぎりを手のひらに乗せて笑う凪に、京極は困ったような顔になる。……それが照れているように見えて、凪は遠慮なく笑った。「俺が作りました。……昨日、落ち込んでたみたいだから、少しは笑ってくれたらいいと思ってな」「……は?」急にカッコいいことを言うのはやめて欲しい……「それじゃ、いただきます。まずはいちばん可愛いミニミニおにぎりから……!」ラップを外し、凪はポン、と口の中に放り込んだ。モグモグと口を動かす様子をタブレットから視線を上げた京極が真剣な表情で見つめる。おにぎりには具が入っておらず、塩味も何もしない……「美味しいです!……さすが、いいお米使ってますね?!」「米の味を褒めるってか?……喧嘩売ってるだろ?」「まさか!……ちゃんと愛情をいただいてますよ?」ちぎり忘れたレタスにも、分厚く切られたきゅうりにも、ポロポロのスクランブ

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    鑑定士の言葉は凪に大きな衝撃を与えた。「まさか、当時の家政婦の中に君の母親がいたなんてな」「父とはずっと不仲で、私を産んですぐに仕事を探したというのは聞いたことあります。保育園が見つかって働き始めたって……まさかそれが、京極さんのご実家だなんて」「運命……?」小山内鑑定士の自宅から帰る車の中。凪は聞いた話を思い出してどうしても下を向いてしまう。そんな彼女に京極はめずらしく気遣う素振りを見せた。「……はぁ」「おい。運命かって聞いてるのにため息つくか?」「すみません……」またしても下を向く凪。ポン……と、大きな手が頭に乗った。何か言えばいいのに、京極は何も言わずにただ頭を撫でる。凪はそのぬくもりに癒されながら、不器用な京極の優しさが妙に心に沁みた。「俺はこれから出社するが……大丈夫か」「大丈夫です。……あの、」京極邸に到着し、車を停めて問いかける京極を見上げる凪。「ネックレス、本当に京極家に関係するものだったんですね。……いろいろ失礼なことを言ってすみませんでした」「いや、逆に俺は……正直に言うと、子供の頃君の母親と接点があったことを知って嬉しく思ってる」「それは……」京極はまっすぐ見つめる凪の瞳から逃れるように車から降り、それを見た凪も助手席のドアを開けた。「ほら、そういうとこ」降り立った凪は、振り返って助手席のシートをさっと手で払ったところだった。「ものに対しても人に対しても丁寧で誠実な気がする。……料理もうまくて生活もちゃんとしてて、君は母親に大事に育てられたんだと思うよ」「そんな……初めは私、結構暴言吐きましたよ」「媚びないところも魅力だ」その後は目を合わせず、京極は凪を家に置いて出社していった。京極の意外な褒め言葉に落ち着かなくなった凪は、京極邸を出て最寄り駅まで歩いてみることにした。すっかり秋の気配をまとった街並みは散歩にちょうどいい。スーパーマーケットを見つけ、ついでに夕飯の買い物をすることにしたのは『料理がうまい』なんて言われてしまったからだ。「あれ、凪ちゃんじゃない?」そこで意外な人に出会ってしまった……「あ、副社長……」「今日は急用でバイトは休みだって京極に聞いたけど」「はい……そうなんですよ、それがわりと早く終わってしまって、それで……」思いきりズル休みが見つかった気分になり、しどろもど

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   19.京極家のダイヤ

    「私は小山内と言います」 「はじめまして……汐沢凪と申します。今日は、よろしくお願いします」 鑑定士は凪の顔も見ずに名乗り、年季の入った鑑定用のルーペを右目につけ、ネックレスのダイヤと指輪のダイヤを交互に光に当てた。 ……それにしても、どういうことだろう。母の形見に、京極家のダイヤが使われていたなんて。 「李仁、お前もやっと前に進めたのか」 「は?」 「離婚して何年たった?……嫁さんとはずいぶん雰囲気が違うが、お前にはこういう人のほうが合ってるんじゃないのか」 京極が何か言おうと口を開きかけると、開いたままのドアが廊下側からノックされ、男性が入ってきた。 「じいちゃん、そのくらいにしておきなよ」 「……なにが」 「李仁くんは1人に決めない主義みたいだからさ」 京極と同じくらいの年齢の男性は、鑑定士の孫のようだ。ややトゲのあることを言っておいて平然と笑っているということは、かなり親しい間柄なのだろうか。 「あのさ……裕貴くん?」 「この前店に連れてきた女の子へのプレゼント、指輪のサイズ直したけど」 「あーー……」 チラリと凪の方へ目をやる京極。裕貴と呼んだ男性を廊下に連れて行こうとしたところで、鑑定士がつぶやいた。 「間違いない、これは京極家に代々伝わる希少性の高いダイヤモンドだ」 「……ほんとに?!ついに戻ったんだ?京極家のダイヤ!」 京極より先に反応したのは孫の裕貴。京極は少し複雑な表情になった。 「李仁くん!なんで喜ばないの?……離婚したのに奥さんに返してくれって言えなかったんでしょ?巡り巡って戻ってきて良かったじゃん!」 母の形見の謎が確定したこと、そして少しだけ京極の背景を知って、凪も同じように複雑な気持ちになった。 「それから……このダイヤには、加工された形跡があるな」 鑑定士はまだルーペを外さずにネックレスのダイヤをあらゆる角度から観察している。 「ネックレスと指輪に加工した時の跡じゃないの?それ、じいちゃんが自分でやったんだろ?」 「違う。私が加工した跡じゃない。あの時はアクセサリーへの加工を頼まれただけだ。石そのものをここまで細かく鑑定していない」 「……どういうこと?」 「私がアクセサリーに加工したものとは別に、石そのものに細工がされている」

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   18.母の形見の正体

    「そんなの急に……困りますよ」「どうして?つまみっ子の踊りなら、他のスタッフもうまく踊ってたろ?」「そういう問題じゃなくて……」京極は食べ終わった野菜のあんかけ丼に手を合わせ、箸置きに箸を置いた。そしてお茶を一口飲むと、言い聞かせるように話し出す。「いいか?もしそのネックレスが京極家に関わるものだとしたら、君が持っているのは危険だ」凪は襟元に手をやりながら思い出した。母の形見であるはずのこのネックレスに、京極が驚くほどの高値をつけたことを。「先に教えてください。このネックレスは京極社長にとって、奥さまだった女性に贈ったものだという以外に、大切な理由があるんですか?」「明日、一緒に鑑定に行けばすべてわかる。……稼げない分は俺が、」「お金は結構です。私はそんなもので動く人間じゃありません」京極の言葉を途中で遮り、凪はきっぱりと言った。「母の形見として大事にしてきたネックレスのこと、ちゃんと知りたいから行きます」「お久しぶりです。……えぇ、元気にやってますよ」翌朝、京極の低い声が聞こえて目が覚めた。布団から起き上がってみると、ベッドに京極の姿はない。……どうやら室内で繋がっている隣室で、誰かと電話をしているようだ。「はい、今日伺いたいんですが――先代がいると助かります。あの……ダイヤのことです」よく見ると少しドアが開いている。……勝手に耳に入ってくるのはそのせいだと思いながら、凪は自分の布団を簡単に片付け、京極の寝室を出る。実は……広すぎる部屋のどこでなら眠れるか、検証して決まったのは京極の寝室だった。当然そこも十分な広さの部屋ながら、すぐそばに人がいるという環境は、凪を思いのほか安心させたらしい。凪の眠りが浅いことは京極にバレていたことから、ベッドのそばに専用のラグを敷き、その上に布団を広げて眠ることが許された。まさかの寝室共有だったが、京極は平然としていたし、凪も意識することなく眠っていた。自室で着替え、階下に降りた凪は軽く身支度を整え、簡単な朝食を準備した。今日休みをもらうことは、昨夜のうちに小森に伝えてある。やがてリビングに入ってきた京極に、野菜スープと焼きたてのパンを出す。「朝、食事をするのか……」「食べない派ですか?」「そうだな。子供の頃から食べないな」またひとつ、知らなかった京極を知る。凪はその先も知りたいと思い

  • 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く   17.好き嫌い

    「はぇ……?」「ハエ?……どこに?」あたりを見渡す岳。凪は無意識にネックレスを隠すように手をやっていて、岳はその仕草を目ざとく捉えたらしい。「あの、気が散るので後はもう1人でやりますので」何か言いたげな岳の背中を押し、キッチンから追い出した。「ほぅ……岳の奴が?」バスの時間は無事に間に合い、凪は京極邸に帰ってきた。すでに家にいた京極が凪を迎える。「はい。ネックレスのこと、なんとなく本当のことは言いたくなくて、バーゲンで買ったって言いました」「残念だが、それはあいつには通用しないだろうな」「どういう意味ですか?」問いかけながら、凪は自然にキッチンに入っていった。抱えていたバッグの中から食材を取り出し、料理をはじめる。「なんだ、何か買ってきたのか」「はい。この家何もないので、呆れて買い物してきました」包丁を取り出し、軽やかに刻む音を響かせる凪を、不思議そうに見つめる京極。「一応言っておくが、俺は好き嫌いがあるぞ」急に子供みたいなことを言い出す京極がおかしくて笑い出す凪。「そうですか……ちなみに、何が嫌いなんですか?」「笑うなよ?」多分笑ってしまうと思いながら何度もうなずき、笑顔で京極の次の言葉を待つ。「ピーマンと椎茸と、セロリと……」「まだあるんですか?」「……辛いもの全般だ」約束を破り、声をあげて笑ってしまった。京極は仏頂面で腕を組み、凪の前に立つ。「大丈夫です……ここから出ていくまでに、私が好き嫌いを克服させてあげますよ」「……言ったな?」「はい!言いましたよ?……約束です!」小指を差し出す凪に、素直に小指を絡ませる京極。実は……無邪気な笑顔から目をそらせずにいた。「黒石のところとは、祖父の代から付き合いがあってな。屋敷に父親を呼ぶ時、一緒に息子の岳も連れてこさせた。同い年なのもあって、子供の頃はよく一緒に遊んだ」「はぁ……そういうご関係だったんですか」「あぁ。うちでは対応が難しいことを請け負ってくれて便利に使ってたんだが、岳の父親を祖父が可愛がって、家族ぐるみの付き合いになった」話ぶりから、どうやら京極の実家は裕福だと連想したが、黒石興業を便利に使うとは……対等な関係ではなかったらしい。……それにしてもさっきから、京極が料理をする自分の手元を覗きながら話をしていて、キッチンから出ていかない……「そろ

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