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第113話

Author: 大落
未央は眉をひそめ、彼女がまだ何かを聞く前に、瑠莉はもう口を開いた。その声には嫌悪感が滲んでいた。

「私の後輩だったの。色んな女の子とかなり遊んでたわよ。前に私を口説いたこともあるわ。卒業した後、留学に行ったって聞いたけど、どうして彼を調べたいと思ったの?」

留学に行った?

未央は瞼がぴくっとした。何か重要な手がかりを見つけたような気がした。

「どこの学校に行ったか知ってる?」

「詳しくは知らないけど、確かカリフォルニアのほうだったわ」

瑠莉は暫く考えてから答えた。

未央は眉をひそめ、何かを思い出したようだった。彼女は思わず携帯を握りしめ、力が入りすぎて関節が白くなってしまった。

悠生から聞いた話では、絵里香が留学した先も同じだ……

すると、電話の向こうから瑠莉の声がした。

「もしもし?

どうしたの?急に黙っちゃって」

我に返った未央はややこわばった声で答えた。

「ありがとう。明日まだ用事があるの、また後で連絡するね」

電話を切ると、彼女は一人で街角に佇み、冷たい風に吹かれながら、足から登ってきた悪寒が全身に広がった。

偶然すぎる。

たまたま絵里香が美術展で茉莉に出会い、薬の瓶を拾ってあげた。

たまたま優二が茉莉の家庭教師になり、セクハラ行為をして、彼女の病状を悪化させてしまった。

もし、絵里香と優二が知り合いだったら……

未央は思わず震え出した。これは自分を狙った陰謀ではないかと気付いたのだ。

もし茉莉が本当に死んでしまったら、悲しみで狂った小城母は一体どんなことをやってしまったことか、誰にも想像はできない。

それだけでなく。

彼女の心療内科病院の評判も谷底に落ち、かつての白鳥グループのように完全に倒産する可能性も十分にあるのだ。

未央の瞳の中の光が暗くなり、鬱憤が込み上げてきた。

気付けば、彼女はスカイブルーカフェの前に立っていた。

その時、未央が無意識に顔をあげると、ちょうど窓際の席にある見慣れた姿が見えた。

彼女はすぐに足を踏み出し、その人物と面と向かって真実を問い出そうとした。

「滝本絵里香!茉莉ちゃんのことはあなたの仕業でしょう?」

冷たい女の怒鳴り声が響いた。

絵里香はゆっくりとカップを置き、平然とした様子で彼女を見つめた。

「白鳥さん、何の話でしょう?」

未央は彼女が認めないと分かっていたが
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