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第566話
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今さら私を愛しているなんてもう遅い 第600話
夜は静かで、長かった。VIP病室には、医療機器のわずかな「ピピッ」という音だけが、規則的にはっきりと響いていた。未央は博人のベッドのそばに座り、一睡もしていなかった。彼女はただ静かに彼を見つめ、まるで彼の生涯の全ての姿を心に刻み込むかのようだった。灯りの下、彼の青白い寝顔は普段の冷たさと横暴さが消え、幾分か脆く見えた。長く濃いまつげがまぶたの下に影を落とし、固く結ばれた唇は、今も苦しみに耐えているようだった。未央は手を伸ばし、指先でそっと彼の深い顔立ちをなぞり、心の中は相変わらず複雑だった。彼女は二人で歩んだこの7年を思い返していた。甘い時も、喧嘩も、誤解も、傷つけ合った時も、そして……昨日のように、自分の安全を顧みず守ってくれた時もあった。この男は、彼女を愛させ、また恨ませもした。彼女は自分がもう彼に絶望したと思っていたが、彼女を守るために血の海に倒れる彼を見た瞬間、彼女は悟った。彼女の心の一番深いところで、彼への愛は、決して完全に消えたことはなかったのだ。ただ、あまりにも多くの傷と失望によって、深く埋められていただけなのだ。今、彼は自身の生身の体で、彼女と子供を致命的な危険から守ってくれて、彼女の心の中に冷たさと恨みで築き上げられた高い壁を完全に打ち砕いてしまった。空が次第に白み始め、最初の朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋を照らした。ベッドに横たわった男のまつげが微かに震え、ゆっくりと目を開けた。その瞬間目に飛び込んできたのは、ベッドのそばで眠っている未央だった。彼女はとても疲れ果てた様子で、そのままベッドの縁にもたれかかり、片手はまだ彼の手をしっかり握り、眉間にしわを寄せて、不安そうに眠っていた。博人の心は、一瞬にして言いようのない切なさと優しさで満たされた。彼は彼女を驚かせず、ただ静かに彼女を見つめた。妊娠して少しふっくらした彼女の頬を、目の下の薄いクマを見て、形容できないほど膨大な憐れみと後悔で心がいっぱいになった。自分のせいで、彼女にこれほどの苦しみを味わわせたのだ。彼は体を動かし、彼女のために滑り落ちた薄い毛布をかけ直そうとしたが、背中の傷を引きずり、痛みに息を呑んだ。このわずかな物音は、もともと浅い眠りだった未央を目覚めさせた。「目が覚めたの!?」彼女は顔を上げ、博人が目を開け
今さら私を愛しているなんてもう遅い 第599話
「大丈夫、本当に大丈夫です！」未央はもがきながら起き上がろうとし、視線を博人の担架から離せなかった。「私も彼と一緒に病院に行きます！」「奥様、あまり興奮してはいけません。あなたは今妊娠中ですので……」「大丈夫です！」未央は頑なに主張した。結局、医師の判断により、彼女がただ少し驚いただけで今は異常なしという結論が出ると、ようやく博人と一緒に救急車に同乗することが許可された。救急車の中では、博人はすでに出血量が多すぎて半昏睡状態に陥っていたが、彼の手は依然として未央の手をしっかり握りしめていて、まるでそうすることでしか安心できないかのようだった。未央は彼の冷たい手を握り返し、涙を静かにこぼして、それが二人が握り合う手の上に滴り落ちた。……病院の救急オペ室の外にて。未央は産婦人科医から彼女と胎児が無事であることを再び確認された後、すぐにオペ室の入口へ走り、焦りながら待った。敦と悠奈も知らせを聞いて駆けつけた。「未央さん、大丈夫？無事？」悠奈は彼女の青ざめた顔色を見て心配そうに尋ねた。未央は首を横に振ったが、視線は固く閉ざされたオペ室の扉を捉えていた。高橋は隣の敦に状況を報告していた。「……病院の監視記録は確保しました。あの給仕は背後から故意に押されたもので、押した人物はキャップとマスクをしていて、スタイルは……以前リゾートホテルに現れたあの綿井綾に非常に似ています！彼女は混乱に乗じて去りましたが、うちの者が全力で追跡しております！」「綿井綾だって？」敦の顔色は一瞬で険しくなった。「またこの女か！彼女は一体何がしたいんだ？」未央はこの名前を聞いて、体も震えた。やはり彼女だった！あの女は、彼女の結婚を破壊するだけでなく、今では……彼女の子供まで傷つけようとしている！強い恨みと後悔が心中に湧き上がってきた。今日、博人がいなかったら……未央はそれ以上考えられず、博人への心配と罪悪感がますます強くなっていった。どれくらい経っただろうか、オペ室の扉がついに開いた。そして医師が中から出てきた。「先生！彼はどうですか!?」未央が真っ先に駆け寄り、声は震えていた。医師はマスクを外し、疲れた表情で言った。「患者は危険な状態を脱しました。背中の傷は深く、出血量が多くて、陶器の破片がいくつか深く刺さっていまし
今さら私を愛しているなんてもう遅い 第598話
この瞬間、時間が無限に引きのばされたかのようだった。未央は冷たい床に横たわり、自分の激しい鼓動と、男が痛みを堪えるうめき声だけを聞いていた。温かい液体が、彼の背中から、彼女の頬と首筋に滴り落ち、きつい血の匂いがした。血だ……博人の血……彼女は呆然と、自分を必死に守っている男を見つめ、頭の中は真っ白になった。「未央……お前……大丈夫か」博人の声はかすれて切迫し、隠しきれない震えが感じ取れる。「どこか……どこか怪我は？子供……子供は……」彼は体を起こして彼女の様子を見ようとしたが、背中から走る激痛で目の前が真っ暗になり、再び彼女の上に倒れかかった。「博人！」未央はようやく我に返り、激痛で血の気を失った彼の顔を見て、天地がひっくり返るような恐れが心の中に湧き上がってきた。「動かないで！あなたの背中……背中から血が！」彼女は手を伸ばし、彼の背中に触れようとしたが、恐ろしくてそれができず、ただ呆然と、真っ白なワイシャツの上で広がる真っ赤な血を見つめることしかできなかった。「俺は大丈夫だ……」博人は歯を食いしばり、額には冷や汗が光っていたが、視線は相変わらず彼女を捉えて離さず、心配と後悔に満ちていた。「俺のことはいい……早く、自分の体調を確認して……腹は大丈夫か？」彼の世界では、まるで彼女と彼らの子供だけが残っているかのようだった。彼自身の傷も痛みも、すべて後回しにされていた。その時、高橋と数人のボディガードもようやく駆けつけてきた。「西嶋社長！」「奥様！」彼らは目の前の血生臭い光景を見て顔色を青白くさせ、すぐに駆け寄ってきた。悲鳴を上げる客たちを素早く避難させながら、救急車を呼んだ。「早く！救急車を！」カオス状態の現場は、博人には影響を与えなかった。彼の目には、未央しか映っていなかったからだ。未央は彼の様子を見て、心の中が何かに強く締め付けられるようで、息もできないほどの痛みを感じた。この男は……彼女が恨んで、嫌いになって、絶望したこともあるのだが……最も危険な瞬間に、ためらいもなく自分の体で、彼女と彼らの子供を守ってくれたのだ。もし……もしさっきの一撃が、彼女の体に直撃していたら……未央はそれ以上考えられなかった。涙が、もはや抑えきれずにあふれ出した。「私、大丈夫……博人、私は大丈夫よ……」彼女
今さら私を愛しているなんてもう遅い 第597話
時は過ぎていって、あっという間にもう一ヶ月が過ぎた。この一ヶ月の間、博人は未央の生活から完全に消えていた。彼はまるで目に見えない約束を守るかのように、二度と自ら彼女に連絡することもなく、白鳥家の邸宅にも足を踏み入れることはなかった。未央はこの得がたい平穏を享受していた。彼女の妊娠反応は次第に落ち着き、お腹も少し膨らんできて、全身から母性の柔らかな輝きが放たれていた。父親の体調は日々回復していて、息子の笑顔は無邪気で、そして彼女の事業――「希望心療内科」も、リフォームが完成し、ついに開業の日を迎えた。開業のその日、太陽の光は明るく輝いていた。病院は温かみを感じさせる上品な内装だった。入り口には友人たちから贈られた花が並んでいた。未央はゆったりとした快適なマタニティドレスを着て、嬉しそうな笑みを浮かべ、祝いに訪れた友人やお客さんたちを迎えた。瑠莉や悠奈も訪れてきた。大きく回復した宗一郎でさえ、娘の事業が再び再開するのをこの目で見ようと出てきて、その顔には安心感と誇らしさが満ちていた。「未央さん、おめでとう！」悠奈は彼女の手を握り、心から喜びを感じていた。「あなたならきっとできると分かっていたわ！見て、今のあなたは、自立していて、自信に満ちて、そして美しいわ。これまでのどんな時よりも輝いているの！」未央は笑った。「大げさよ。早く中に座って」病院内を行き交う人々と、友人たちの誠実な笑顔を見て、未央の心は未来への希望で満ちていた。彼女はついに自分自身の力で、彼女と子供たちに安定した家庭を与えることができるのだ。……病院から少し離れた場所にある黒い車の中で。博人は静かにその中に座り、覗き見防止フイルムを貼った窓越しに、人々に囲まれ、優しく魅力的な笑顔を浮かべるあの姿を見つめていた。彼は現場には行かなかった。敦の忠告を、彼はしっかり受け入れていた。今自分が現れれば、彼女に困惑とプレッシャーを与えるだけだと分かっているのだ。彼にできることは、遠くで静かに彼女を見つめ、守ることだけだった。「西嶋社長」運転席に座っている高橋が低い声で報告した。「うちの者が全ての客とスタッフを確認しておきました。現時点では不審な人物は発見されていません。クリニック内外の警備も手配完了です」博人は「ああ」と一声だけ返したが、視線はまだ未央から離さ
今さら私を愛しているなんてもう遅い 第596話
「何だ、教えてくれ」「彼女はどうやら白鳥さんの病院の消防系の整備と衛生管理方面を密かに調査しているようです。どうやらその面から手を打ち、白鳥さんにトラブルを起こそうとしているようです」博人の目が一瞬氷のように冷たくなり、周囲の空気さえも何度か下がったように感じられた。「ちゃんと始末しろよ」彼は噛みしめるように低い声でこの言葉を絞り出した。「未央に知られるな。きれいに片付けろ。彼女の耳にどんな噂も入らないようにしてくれ」「はい！西嶋社長ご安心ください。すでに処理済みです」高橋は慌てて言った。「私たちは前もって連絡を取り、それに関する機関も天見製薬と西嶋社長の関係も承知していますから。あちらの審査は順調に通りましたよ。綿井の小細工など、全く何の効果もありませんでした」博人はうなずき、これで少し安心した様子を見せた。彼は知っていた。旭と綾は簡単には引き下がらないだろう。ビジネス上の攻撃はほんの第一歩に過ぎない。彼らは遅かれ早かれ再び矛先を未央に向けるはずだ。彼は常に警戒を怠らず、彼女を傷つける可能性のある全ての危険を、芽のうちに摘み取らなければならない。……希望心療内科にて。未央は新しくリフォームした病院を見て、心が達成感でいっぱいだった。この病院のすべては彼女自身の手によるものだった。ここは、彼女の新たな人生の出発点だ。「未央、順調だったね」瑠莉は興奮して言った。「経営に関するいろいろな審査は特に難しいと聞いていたのに、再審査されてからまさかそんなにすぐに問題ないっていう結果をもらうなんて！ついてるじゃん！」未央も笑った。「そうね、最近運がいいのかも」彼女はそれ以上深く考えず、自分が準備した書類が揃っていたことと、父親のコネが役立ったのだろうと思った。彼女は全く知らなかった。彼女の見えないところで、博人が彼女のためにどれほどのトラブルを解決してくれていたかを。……夜が更けた、MLグループにて。「おかしいですよ、私はちゃんと人を手配して、消防検査で白鳥未央の病院を引っ掛ける準備をしていたのに、どういうわけか、あちらの審査があんなに順調に行くだなんて、ありえないんですよ」彼女は歯を噛みしめながら言った。「きっと誰かが陰で彼女を助けているんです！」旭はソファにもたれかかり、手にしたグラスを揺らしながら、それ
今さら私を愛しているなんてもう遅い 第595話
あの夜以来、博人はまるで未央の世界から完全に消え去ったかのようだった。彼はもう白鳥家の邸宅には戻らず、一本の電話も、一通のメッセージもよこさなかった。あの天地を覆うような、息苦しいほどの支配感と執着は、一夜にして跡形もなく消えてしまったのだ。最初、未央はまだ少し戸惑いを感じていた。しかしすぐに、彼女は今までにない安らぎと……落ち着きを感じた。争いもなく、疑いもなく、あの気まぐれなことに感情を動かせることもない。彼女はついに心を落ち着けて、自分の人生をしっかりと歩むことができるのだ。彼女の情緒はずっと安定していて、医師の指導の下、お腹の中の子供の状態も日に日に落ち着いていった。父の宗一郎の体調も、彼女の心のこもった世話で日々回復していった。彼女の病院も順調にやっている。全てが彼女の望む方向に向かって進んでいた。時折、夜が更けて静かな時、彼女は博人のことを思い出すこともあった。彼は今どうなっているだろう？西嶋グループの危機は去ったのだろうか？彼は……本当に考えを改めて、離婚に同意するのだろうか、などだ。そんな時はいつも、彼女は無理やりそうした考えを振り払い、もう心を揺らさず、同じ過ちを繰り返さないよう自分に言い聞かせた。彼女が知らなかったのは、彼女の見えないところで巨大な保護綱が静かに彼女を守り、全ての風雨を遮断しているということだった。……西嶋グループ、社長室にて。博人は別人のようになっていた。彼はもはや時間と精力を未央を取り戻すのに費やすことはなく、全ての集中力を仕事に注いでいた。彼の目が血走ってますます恐ろしくなっていて、以前よりずっと痩せてしまったが、眼差しはこれまで以上に鋭く、そして……冷静だった。敦のあの言葉が、彼を完全に目覚めさせたのだ。彼はついに理解した。愛は独占ではなく、支配ではなく、ましてや傷つけることで自分の気持ちを証明することではないと。愛は守ること、尊重すること、彼女が望む人生を歩ませるようにすることであるのだ。たとえその人生に……一時的に自分がいなくても。彼がすべきことは、彼女に許しを迫ることではなく、彼女と子供を傷つける可能性のある全ての障害を取り除き、そして新しい自分で、おそらく永遠に来ないかもしれない……彼女がくれるチャンスを待つことだった。「三条の方は何か新しい動きはあるか」
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