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第4話

Author: バズる転生作者
私は少し離れた端の席に腰を下ろしていた。スマホに、明朝の便のチェックイン通知が表示された。

近づいてきた京介が、私の手元を見下ろす。

「何を見てた」

私はすぐに画面を伏せた。

「別に」

向こうで、梨乃の弾んだ笑い声が上がる。私はそちらを一瞥してから、静かに手を差し出した。

「大事な梨乃も満足したでしょう。そろそろ返してくれる?」

その言い方が癇に障ったのか、京介の眉がほんのわずかに寄る。

けれど次の瞬間には何事もなかったように表情を消し、ペンダントを私の手に戻す。

受け取ろうとした、そのときだった。

横合いから梨乃が勢いよくぶつかってきて、私の身体がぐらりと揺れる。

ペンダントは指先をすり抜け、そのまま足元へ落ちた。

乾いた音がして、次の瞬間には無残に割れていた。

息が止まった。

散らばった破片を呆然と見つめたまま、ゆっくりとその場にしゃがみ込む。

梨乃は唇を噛みしめ、泣きそうな顔で謝った。

「ごめん、千代。気づかなくて……」

私が口を開くより早く、翔が梨乃をかばうように言った。

「梨乃は悪くないだろ。千代が取り損ねただけじゃないのか」

風斗も京介も、梨乃をかばうようにそのそばを離れない。

翔は気まずい空気を打ち消すように、テーブルに置かれていた小さなメッセージタグとペンを手に取った。

「もういいって。せっかくだし、ひとことずつ書いて庭の飾り木に結ぼうぜ。記念にもなるだろ」

梨乃はぱっと顔を輝かせた。

「じゃあ私、5人がずっと一緒にいられますようにって書く!」

彼らは、そんな彼女に優しく目を細めた。

私は返事もせず、足元に散った破片を拾い集めた。

指先が切れても、気にならなかった。ただ、胸の奥だけがじわじわと痛んだ。

翔がメッセージタグを1枚ずつ配っていく。

けれど、私の番になったところで、彼の手がふいに止まった。

彼の手元には、もう何も残っていない。

その瞬間に悟る。

まただ。私は最初から、彼らの「5人」の中に入っていない。

翔は頭をかきながら、取り繕うように笑った。

「こういうの、千代は別に好きじゃないだろ?1枚くらいなくても平気だって」

京介が、私の気持ちを決めつけるように言った。

「いいよ。千代は気にしてない」

そう言うと4人は庭先で身を寄せ合い、互いの願い事を覗き込んでは笑い合っていた。

私たちのあいだには、どうしたって越えられない壁がある。

あの輪の中に、私は最初から入れてすらいなかった。

ふと顔を上げると、夜空をひと筋の流れ星が駆けていった。

私はそっと目を閉じる。

どうか、あの人たちが私の人生から、きれいさっぱりいなくなりますように。

願いごとを託すなら、あんな願い札より、流れ星のほうがまだましに思えた。

そっと目を開けると、飾り木に結ばれたタグが夜風に揺れている。

いつの間にか、彼らはもう願いごとを書き終えていたらしい。

翔が書いた願いごとは、こうだった。

【梨乃が健やかで穏やかな日々を送れますように】

風斗はこう書いていた。

【一生、梨乃を守れますように】

そして京介も、やはり私にはひと言も触れなかった。

【梨乃がこれからもずっと、俺のそばで何の憂いもなく笑っていられますように】

私はそっと目をそらした。彼らの願いは、きっと叶うのだろう。

ようやく、息の詰まるような時間が終わった。心も身体も限界で、私は一刻も早くこの別荘を離れたい。

けれど、その場を離れようとした、そのときだった。

空が裂けたように、雨が一気に落ちてくる。

京介はすばやく上着を脱いで梨乃の頭にかぶせ、翔と風斗と一緒に彼女を別荘の中へ急がせた。

私も遅れて中へ駆け込む。

髪から雫が滴っても、誰ひとりこちらを見ようとしない。

窓の外の雨脚を見た京介が、低い声で言う。

「まずいな。裏の斜面が危ない。この雨じゃ土砂が流れ込んでくるかもしれない。

早くここを出たほうがいい。

俺が車を回す。お前たちは梨乃を守れ」

言い終わるや否や、京介は土砂降りの中へ飛び出していった。

ほどなくして、外でクラクションが鳴る。

翔と風斗は目を見交わすと、振り返りもせず、梨乃を守るようにして玄関へ駆け出した。

私もあとに続こうとした。

けれど、雨音の向こうから、京介の声が飛んできた。

「全員乗ったな。行くぞ」

次の瞬間、タイヤが泥水を大きくはね上げ、私の足元を汚した。

私はその場に立ち尽くしたまま、遠ざかっていくテールランプを見送る。

それから、自嘲するように小さく笑った。

……家の運転手に待機してもらっていて助かった。

今夜のうちにここを抜けるつもりで呼んでおいたのが、まさかこんな形で役に立つなんて。

私は別荘を離れ、家に戻って荷物をまとめ、そのまま空港へ向かった。

飛行機が滑走路を離れた瞬間、あの人たちとの縁も、ようやくそこで途切れたのだと思った。

到着して機内モードを解除した瞬間、通知が一気に流れ込んできた。

その中にあった速報で、あの別荘が土砂崩れに巻き込まれたことを知った。

グループチャットには、京介から立て続けにボイスメッセージが届いていた。

再生した途端、ひどく取り乱した声が耳に飛び込んでくる。

「千代は!?千代はどこにいるんだ!」

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