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今度こそ捨てる!四人とも

今度こそ捨てる!四人とも

By:  バズる転生作者Completed
Language: Japanese
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誕生日当日、彼氏の新堂京介(しんどう きょうすけ)を含む5人で、遊園地へ出かけた。 急流すべりの順番が来ると、彼ら4人は私・桑原千代(くわばら ちよ)を置いて我先に前の席へ乗り込んだ。 ほんの一瞬、呆然と立ち尽くした私は、何も言わず、後ろの席に腰を下ろした。 そこで初めて気づいた。 彼らはいつの間にか、みんなレインコートを着ていた。 何も知らされていなかったのは、私だけだった。 急な坂を一気に滑り落ちた瞬間、滝のような水しぶきが容赦なく全身を襲った。 頭の先からつま先までずぶ濡れになり、濡れた白いTシャツが肌に張りついて、体の線をくっきりと浮かび上がらせる。 藤宮梨乃(ふじみや りの)が振り返り、声を上げた。 「千代、なんでレインコート着てないの!?」 京介と二人の幼なじみは、顔を見合わせたまま、何も言わなかった。 でも、分かっていた。 彼らはただ、今回も私を忘れていただけ。 この前山に登ったとき、彼らは私を置き去りにした。 旅行に行ったときも、異国の地で、私だけが列車に取り残された。 レインコートを買うときでさえ、彼らはやはり私のことを忘れていた。 しばらくして化粧室へ向かい、ずぶ濡れになった自分の姿と、青ざめた顔を鏡に映して見つめたとき、ふいに苦笑がこぼれた。 どうしても私の居場所がない関係なら、もっと早く手放すべきだったのだ。

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Chapter 1

第1話

外に出ると、待っているはずの4人は、もうどこにもいない。

けれど、私は探しに行く気にもなれない。

人の流れに紛れるように、フロートパレードのエリアへ向かった。

梨乃は先頭のフロートに立ち、その周りを3人の男が取り囲むように並んでいた。

まるで、姫を守る騎士みたいだった。

「いいなあ。あれ、1ヶ月前に予約しないと乗れないらしいよ」

隣の若い女性の声が耳に入る。

私は黙って彼らを見つめる。京介が、梨乃の手を握っている。

――1ヶ月も前から、予約していたんだ。

それでも、私のことは忘れていた。

私はそっと目をそらした。

楽しそうに笑い合う観光客たちを前に、自分だけがまるで違う世界にいるような気がした。

パレードが終わると、彼らは帰ろうとしていた私を見つけた。

「千代、今までどこにいたんだ?

ほら、行くぞ。レストラン予約してあるんだ。誕生日を祝うぞ」

京介が私の手を取った。

小川翔(こがわ しょう)と大沢風斗(おおさわ ふうと)も笑いながら頷く。

「ずっと前から、千代のためにサプライズを用意してたんだよ」

梨乃まで無邪気に笑っていた。

私は一瞬だけ立ち止まった。

本当に、私のために?今日が私の誕生日だって、ちゃんと覚えていてくれたの?

けれど、そんな期待はレストランに着いた瞬間、あっさり砕けた。

「申し訳ございません。ご予約は四名様で承っております。満席のため、お席の追加はできかねます」

私は足を止めた。

ほんの一瞬でも期待した自分が、馬鹿みたいに思えた。

京介が呆けたように言った。

「人数、間違えた」

思わず、笑いそうになった。

間違えた?情報系の学部で首席を取るあなたが、5人すら数え間違えるなんて。

梨乃が困ったように眉を下げた。

「どうしよう……私、ちょっとお腹空いちゃって……」

京介たちが、何か言いたげに私を見た。

「私が抜けるわ。みんなでゆっくり食べてきて」

私が先に言うと、京介はすぐに笑った。

「やっぱり千代は優しいな。そういや、ダイエットするって言ってたもんな」

そう言って、京介は私の頭を軽く撫で、そのまま頬にもそっと触れた。

翔と風斗は、すでに梨乃を連れて店の中へ入っていた。

「入口で待ってて。終わったら呼ぶから」

ガラス越しに見えたのは、楽しそうに笑い合う4人。

梅雨のT市は蒸し暑い。なのに、骨の芯だけが冷えていく。

涙が滲みそうになる目を何度か瞬きして、私は彼らを待つこともなく、浮き立つ人の流れに逆らうように、歩き出した。

そういえば、山に登ったときも、同じだった。

ゴンドラは1台につき4人までしか乗れなくて、京介はなぜか最初から4人分のチケットしか買わなかった。

先に下りてるから、あとで迎えに来る。そう言い残して、4人はそのまま行ってしまった。

けれど、いつまで待っても誰も来なかった。

日が傾き始めて、さすがにおかしいと思い、山道を歩き出したところで、係員に声をかけられた。

私はようやく山を下りることができた。

家に戻ると、4人は何事もなかったみたいに映画を観ていた。

「千代?どうして今ごろ帰ってきたの?2階で寝てるのかと思ってた」

そのきょとんとした顔を見た瞬間、ああ、本当に忘れられていたんだと分かった。

卒業旅行のときも、そうだった。

みんなが海外へ行こうと言い出した。

言葉も通じないし、そもそも気も進まなかったのに、大丈夫だよ、ちゃんと面倒を見るからと何度も言われて、半ば無理やり連れて行かれた。

それなのに、最初の移動で私は列車に置き去りにされた。

聞き取れない言葉ばかりが飛び交う中で、どうしたらいいのかも分からなかった。怖くて、心細くて、頭が真っ白になって。そのまま熱を出し、私は意識を失った。

目を覚ました時には、現地の警察に保護されていた。

そこから大使館を通して帰国することになったけれど、4人のうち誰ひとりとして、私に連絡を取ろうとはしなかった。

彼らが帰国した時には、私はもう家にいた。

玄関先で顔を合わせた4人は、そろって驚いたように目を見開いた。

「え?どうしてもう帰ってるの?私たちと一緒だと思ってた」

私って、そんなに影が薄かったのかな。

十数日もの間、私がいないことに誰も気づかなかった。

それどころか、4人だけで撮った写真を、楽しそうに見せられた。

夜風に頬を撫でられて、ふと我に返った。

私は母に電話をかけた。

「母さん、前に言ってたよね。私が24歳になったら、国内に残るか、海外支社で修業するか、自分で選んでいいって。

私、決めたの。海外に行く」

電話を切ると、夜空に花火が咲いた。

【誕生日おめでとう】の文字のあとに並んでいたのは、4人のイニシャルだった。肝心の私のイニシャルだけが、そこにはなかった。

私は小さく笑って、誰にも聞こえない声で呟く。

「千代、24歳の誕生日、おめでとう」

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蘇枋美郷
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ええ!!こんな尻切れ蜻蛉な終わり方… クズ男達はどうせ勝手に落ちぶれていくだろうが、それよりあのクズ女を訴えた後にどん底まで堕ちたところまで読みたかった!
2026-10-14 14:56:31
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松坂 美枝
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最近オタサーの姫サークルから抜ける話が続くけど嫌いじゃない(笑) 誕生日会の主役を外に追いやったり山や海外に置き去りに出来る人間性が恐ろしいよ 婚約者だったのに 山の事故がなかったら一生過ちに気づかなそう
2026-10-14 09:39:05
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haya
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分かりやすい程のしたたかな最低女と馬鹿3人。 見切りをつけるのが遅すぎる…ここまでコケにされて、寛大というか…。
2026-10-14 16:52:08
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8 Chapters
第1話
外に出ると、待っているはずの4人は、もうどこにもいない。けれど、私は探しに行く気にもなれない。人の流れに紛れるように、フロートパレードのエリアへ向かった。梨乃は先頭のフロートに立ち、その周りを3人の男が取り囲むように並んでいた。まるで、姫を守る騎士みたいだった。「いいなあ。あれ、1ヶ月前に予約しないと乗れないらしいよ」隣の若い女性の声が耳に入る。私は黙って彼らを見つめる。京介が、梨乃の手を握っている。――1ヶ月も前から、予約していたんだ。それでも、私のことは忘れていた。私はそっと目をそらした。楽しそうに笑い合う観光客たちを前に、自分だけがまるで違う世界にいるような気がした。パレードが終わると、彼らは帰ろうとしていた私を見つけた。「千代、今までどこにいたんだ?ほら、行くぞ。レストラン予約してあるんだ。誕生日を祝うぞ」京介が私の手を取った。小川翔(こがわ しょう)と大沢風斗(おおさわ ふうと)も笑いながら頷く。「ずっと前から、千代のためにサプライズを用意してたんだよ」梨乃まで無邪気に笑っていた。私は一瞬だけ立ち止まった。本当に、私のために?今日が私の誕生日だって、ちゃんと覚えていてくれたの?けれど、そんな期待はレストランに着いた瞬間、あっさり砕けた。「申し訳ございません。ご予約は四名様で承っております。満席のため、お席の追加はできかねます」私は足を止めた。ほんの一瞬でも期待した自分が、馬鹿みたいに思えた。京介が呆けたように言った。「人数、間違えた」思わず、笑いそうになった。間違えた?情報系の学部で首席を取るあなたが、5人すら数え間違えるなんて。梨乃が困ったように眉を下げた。「どうしよう……私、ちょっとお腹空いちゃって……」京介たちが、何か言いたげに私を見た。「私が抜けるわ。みんなでゆっくり食べてきて」私が先に言うと、京介はすぐに笑った。「やっぱり千代は優しいな。そういや、ダイエットするって言ってたもんな」そう言って、京介は私の頭を軽く撫で、そのまま頬にもそっと触れた。翔と風斗は、すでに梨乃を連れて店の中へ入っていた。「入口で待ってて。終わったら呼ぶから」ガラス越しに見えたのは、楽しそうに笑い合う4人。梅雨のT市は蒸し
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第2話
家に帰ると、母・桑原美咲(くわばら みさき)はひと目で私が熱を出していることに気づいた。「まあ、すごい熱……!京介たちと誕生日を過ごすんじゃなかったの?」「……もう、いいの。あの人たちのことは、もういい」声を出すたび、喉が焼けるようにひりついた。母はしばらく黙り込んでから、静かに言った。「無理に合わせなくていいわ。海外へ行きたいなら、そうしてね」私はうなずいて、2階の自室へ上がった。ベッドに横になろうとした時、京介からメッセージが届いた。【おい、どこ行ったんだよ。勝手に帰るなら、せめてひと言くらい入れろよ】先に帰った私を気遣う言葉は、ひとつもなかった。並んでいたのは、責める言葉ばかりだった。5人のグループチャットでは、真っ先に梨乃が謝ってきた。【ごめんね、千代。私、席の予約を間違えちゃって……】すぐに京介が返信する。【お前のせいじゃないだろ。あの場で嫌なら嫌って言えばよかったんだよ。今さらそんな態度取られても困る】翔もすぐに続いた。【そうだよ。梨乃のせいじゃないって】風斗も短く打った。【千代がひとりで拗ねてるだけじゃん】私は黙ったまま画面を見つめる。グループ名は「姫と3騎士」。私はあとから加えられただけで、京介が私につけた名前は「姫のメイド」だった。頭の奥がずきずきと痛んでいる。もう何も見たくない。だから、逃げるようにグループを抜けた。せめて少しだけ、静かになりたいのだ。その夜、夢を見た。子どもの頃、京介も翔も風斗も、口をそろえたように「千代は僕たちが一生守る」と言っていた。私をいじめる相手がいれば、誰より先に怒ってくれた。けれど、そこに本物のお姫様みたいな子が現れた。貧しい山あいの町から転校してきた、ユリの花みたいな梨乃。私は彼女を自分たちの輪の中へ迎え入れた。まさかそれが、自分の居場所を手放すことになるなんて、その時は思いもしなかった。梨乃が来てから、京介たちは目に見えて彼女を甘やかすようになった。ペットボトルの蓋を開けるのは当たり前で、飲み物を用意し、勉強を教え、荷物を持ち、毎日のように家まで送っている。かつて私に向けられていたものは、いつの間にか全部、彼女のものになっていた。夢の中で、場面がふっと切り替わる。騎士姿の京介が、私に剣を突き
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第3話
彼女はすぐに退職手続きを済ませ、その日のうちに京介の専属アシスタントになった。彼女の就任祝いに、彼らは郊外の山あいにある貸別荘を借り切ったらしい。景色のいい高台に広がる別荘地の一角で、梨乃が前から一度行ってみたいと話していた場所だと聞いた。山の天気は変わりやすく、その日も夜には雨になるかもしれないと予報が出ていた。けれど、そんなことを気にする者は誰もいなかった。「行かない」届いた招待状を見た瞬間、私は眉をひそめてそう言った。すると案の定、梨乃が泣いた。京介は慌てて梨乃をなだめ、その足で私の家まで押しかけてきた。彼は私の部屋の前に立ち、逃がさないとでも言うように行く手を塞ぐ。「もうわがまま言うなよ」私は疲れたように息をついた。「私、一体何をわがまま言ってるっていうの?行きたくないって思うことすら、だめなの?」ここ数年、ずっとそうだった。梨乃の機嫌を損ねれば、悪いのは私。彼女が涙を見せれば、責められるのも私。誰ひとり、私がどう思っているのかなんて聞いてくれなかった。卒業写真を撮る日だって、そうだった。彼らは梨乃にだけ花を用意して、私のことは忘れていた。それはいけないと思ったのか、梨乃は自分の花を私に譲ろうとした。けれど、私は受け取らなかった。すると彼らは、梨乃が気まずい思いをしないようにと、私を卒業写真に入れなかった。彼ら4人だけの、思い出の1枚。一生に一度しかない写真に、私の居場所がないなんて。今回の誕生日だって同じだった。遊園地に行くことになったのは、梨乃が行きたがっていたから、京介が決めただけ。決して、私が好きだからじゃない。それでも疲れた声で拒めば、京介にはわがままにしか見えないらしい。彼は口を引き結び、感情を抑え込むようにしながら言った。「梨乃は田舎から出てきて、やっと俺たちみたいな相手に出会えたんだ。千代が来てくれないと、あいつはまた余計なことを考え込む。千代、頼むよ」私は呆然と彼を見つめた。京介が、私に「頼む」と言う。そんな日が来るなんて、思ってもみなかった。――でも、それは恋人である私のためじゃない。梨乃のために、だわ。私は視線を落とす。滲んだ視界のせいで、足元がぼやけた。「……わかった」その一言に、京介はようやく安
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第4話
私は少し離れた端の席に腰を下ろしていた。スマホに、明朝の便のチェックイン通知が表示された。近づいてきた京介が、私の手元を見下ろす。「何を見てた」私はすぐに画面を伏せた。「別に」向こうで、梨乃の弾んだ笑い声が上がる。私はそちらを一瞥してから、静かに手を差し出した。「大事な梨乃も満足したでしょう。そろそろ返してくれる?」その言い方が癇に障ったのか、京介の眉がほんのわずかに寄る。けれど次の瞬間には何事もなかったように表情を消し、ペンダントを私の手に戻す。受け取ろうとした、そのときだった。横合いから梨乃が勢いよくぶつかってきて、私の身体がぐらりと揺れる。ペンダントは指先をすり抜け、そのまま足元へ落ちた。乾いた音がして、次の瞬間には無残に割れていた。息が止まった。散らばった破片を呆然と見つめたまま、ゆっくりとその場にしゃがみ込む。梨乃は唇を噛みしめ、泣きそうな顔で謝った。「ごめん、千代。気づかなくて……」私が口を開くより早く、翔が梨乃をかばうように言った。「梨乃は悪くないだろ。千代が取り損ねただけじゃないのか」風斗も京介も、梨乃をかばうようにそのそばを離れない。翔は気まずい空気を打ち消すように、テーブルに置かれていた小さなメッセージタグとペンを手に取った。「もういいって。せっかくだし、ひとことずつ書いて庭の飾り木に結ぼうぜ。記念にもなるだろ」梨乃はぱっと顔を輝かせた。「じゃあ私、5人がずっと一緒にいられますようにって書く!」彼らは、そんな彼女に優しく目を細めた。私は返事もせず、足元に散った破片を拾い集めた。指先が切れても、気にならなかった。ただ、胸の奥だけがじわじわと痛んだ。翔がメッセージタグを1枚ずつ配っていく。けれど、私の番になったところで、彼の手がふいに止まった。彼の手元には、もう何も残っていない。その瞬間に悟る。まただ。私は最初から、彼らの「5人」の中に入っていない。翔は頭をかきながら、取り繕うように笑った。「こういうの、千代は別に好きじゃないだろ?1枚くらいなくても平気だって」京介が、私の気持ちを決めつけるように言った。「いいよ。千代は気にしてない」そう言うと4人は庭先で身を寄せ合い、互いの願い事を覗き込んでは笑い合っていた
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第5話
グループチャットが静まり返る。しばらくして、翔と風斗がようやくメッセージを送ってくる。【昨夜、千代は車に乗ったっけ?】【いや、忘れてた。気づかなかった】そのやり取りを目にした瞬間、車内にいた京介は息が止まりそうになった。自分も、千代が車に乗ったかどうかすら確認していなかった。今朝、土砂崩れのニュースを見た瞬間から、胸の奥がずっとざわついている。千代に何度電話をかけても、一度もつながらない。こんなこと、今まで一度もなかった。京介はきつく目を閉じる。きつく結ばれた唇が、押し寄せる動揺を懸命に押し殺しているようだった。そのとき、ふとドライブレコーダーの後方映像に目が留まった。京介は弾かれたように昨夜の記録を再生する。嵐の中、翔と風斗が梨乃を車へ乗せた。その直後、車のドアが閉まった。細い人影が、車の外に取り残されていた。その一瞬が、はっきりと映っている。京介の呼吸が止まった。まさか――自分は千代を、あの場に置き去りにしたのか?ラジオから流れる土砂崩れの続報が、かろうじて保っていた冷静さを少しずつ奪っていく。もし彼女が本当にあの中にいるのだとしたら、自分はこの先、どうやって生きていけばいいのだろう。そのとき初めて、京介は思い知った。自分が間違っていたことを。そして、失ってはいけないものを失おうとしていることを。京介はアクセルを強く踏み込み、昨日の別荘地へ向かう。ほどなくして、翔と風斗も追いついてくる。彼らの顔色は真っ青だった。「千代は……昨夜、車に乗れなかったのか」京介は全身をこわばらせたまま、ゆっくりとうなずく。二人は顔を見合わせた。同じ恐怖が、互いの目に浮かんでいる。昨日まであれほど賑わっていた別荘地は、今や無残な被災現場と化している。消防隊員、救急隊員、報道陣があたりを埋め尽くし、現場は騒然としている。さっきの映像が、ふいに京介の脳裏によみがえった。そこに映っていた千代の青ざめた顔に、京介はたまらず中へ駆け出しかける。だが、消防士に鋭く制止される。「入らないでください!中は危険です!」「恋人が中にいるんだ!助けに行かせてくれ!」京介の目は赤い。消防士は一瞬言葉を詰まらせたが、それでも首を振った。「こちらで全力を尽くしています。ですが、今は二次崩落の
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第6話
その瞬間、京介は息をすることさえ忘れた。まるで周囲の空気が一気に奪われたように、喉がひりつき、胸の奥が苦しく締めつけられる。「千代……」翔も風斗も、呆然とその場に立ち尽くしていた。昨日まであんなにも元気だった人が、もう二度と戻らないかもしれない――そんな現実を、誰ひとり受け止めきれずにいた。もし千代に何かあったら、自分たちはどう償えばいいのか。この先、どんな顔をして生きていけばいいのか。京介は目を真っ赤にしたまま、引き寄せられるように担架へ駆け寄った。震える手で、白い布をそっとめくる。そこにあったのは、見知らぬ顔だった。その瞬間、京介の唇から大きく息がこぼれた。全身から力が抜け、足元がぐらりと揺れる。翔と風斗に支えられなければ、その場に崩れ落ちていたかもしれない。「……よかった。千代じゃない」翔がはっとしたように顔を上げた。「そういえば、千代には運転手がいたはずだ。俺たちが先に出たあと、自分で連絡して迎えに来てもらった可能性もあるんじゃないか?」京介はかすかに首を振った。分からない。けれど今は、ただそうであってほしいと願うことしかできなかった。捜索が終わっても、最後まで千代の姿は見つからなかった。それは同時に、翔の推測が外れていない可能性を示している。男たちは顔を見合わせると、すぐに車へ乗り込んだ。向かう先は、桑原家だった。道中、京介はアクセルを深く踏み込んだ。赤信号さえ目に入らないほど、張りつめたまま車を走らせる。頭の中にあるのは、ただひとつ。1秒でも早く、千代に会いたい。後部座席の梨乃は、猛スピードに顔を青くしていた。「京介、少しだけ……ゆっくり走っていい?怖いの……」けれど、誰もその言葉に応えなかった。梨乃がもう一度声をかけようとした、そのとき。「怖いなら降りろ」鋭い声が、車内の空気を切り裂いた。梨乃はびくりと肩を震わせる。目の縁がみるみる赤くなり、唇を噛みしめたまま、梨乃は何も言えなくなる。どうして。どうして、私がこんなふうに言われなきゃいけないの。その目の奥に、悔しさと憎しみにも似た色がじわりと滲む。ふと振り返った翔と風斗は、そんな梨乃の表情を目にして思わず息をのんだ。二人は無言のままそっと目を見合わせた。互いの瞳に滲
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第7話
その頃、遠い海の向こうで、私はちょうど空港に降り立ったところだった。スマホには、あの3人からのメッセージが山のように溜まっていた。なかでも京介からのものは群を抜いていて、百件を優に超えている。私は一通たりとも返さなかった。そのまま全員をブロックし、まとめて削除する。慌ただしく飛び出したせいで、あの連中の連絡先まで消しそびれるところだった。そんな時、母からビデオ通話が入った。「京介たちが屋敷まで来たのよ。そのあと、京介が交通事故に遭ったの」私はただ小さくうなずいた。昔の私なら、仕事の手を止めてでも、すぐに彼のもとへ駆けつけていただろう。けれど今は違う。ただ小さくうなずいて、「わかった」と返すだけだ。彼の生死なんて、もう私には何の関係もない。「そうそう、婚約解消の件だけど、こちらから新堂家へきちんと伝えておいたから」「ありがとう、母さん」通話を切ると、私はA国であらかじめ買っておいた家へ戻った。荷物をほどき、ようやくほっと息をつく。あの腐りきった関係に、もう二度と振り回されることはない。ただ、一つだけ意外だった。まさか梨乃が、京介にクビにされてたなんて。あれだけ大事にしてたはずなのに、何があったんだろう。そう思いはしたものの、私はすぐに首を振った。もう彼らのことを深く考えるつもりはない。私の中では、もう終わった存在だ。A国での生活は、驚くほど充実していた。支社で働きながら、現場で一つひとつ仕事を覚えていった。以前よりも、ずっと多くのことを吸収できている実感があった。周囲は最初こそ私を軽んじていたけれど、いつしか皆が当たり前のように私を「社長」と呼ぶようになっていた。そんなある日、私はまた1つ、大きなプロジェクトを勝ち取った。オフィスの入り口に立ち、皆に向かって声を張り上げる。「みんな、今月のボーナスはいつもの5倍よ。今夜は私のおごり。好きなだけ頼んでちょうだい」たちまち歓声が上がる。私は微笑んでいた。もしかしたら、最初からこうするべきだったのかもしれない。少しずつ心をすり減らすような関係にしがみつくくらいなら、全部を仕事に注いでしまったほうが、ずっとよかった。あれからも、私はずっと全員をブロックしたままだった。けれど着信を拒否すれば、今度はメールを送ってく
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第8話
私は黙って彼の言葉を聞いていた。表情ひとつ変わらなかった。そんな私とは正反対に、彼の目は痛いほど揺れている。彼もそれに気づいたのか、顔がさらに曇っていく。しばらく沈黙が落ちたあと、私は「うん」とだけ返した。立ち去ろうとした瞬間、手首を掴まれた。力は強くない。かつて私に梨乃へ謝れと迫った時より、ずっと優しい。だからこそ、その優しさが余計に皮肉だった。「行かないでくれないか」彼は伏し目がちのまま、そっと私を見た。あの切れ長の目は、今は哀願の色を帯びている。「千代、俺は別れたくない」あれほど強引だった彼が、今はひどく弱々しく見える。「梨乃はもうクビにした。今後、あいつとは一切関わらない。信じてくれ」私は彼をしばらく見つめた。それから、慌てる彼をよそに、掴まれた手を振りほどいた。「信じない。前にあなた、私を一生守るって言ったよね。あなたの『一生』って、たった十年だったの?」彼の目が、悲しみと後悔で揺れた。私は深く息を吸った。もう、うんざり。「もう来ないで。二度と関わらないで。あなたと話すことは、もう何もない」そう言い捨てて背を向けた。彼は追ってこない。ただ、蒼白な顔で私の背中を見つめているだけだ。彼が諦めないことくらい、分かっていた。だから翌朝、玄関先に京介たちがそろって立っているのを見ても、たいして驚きはしなかった。翔の手には、私が毎年楽しみにしていた、この時期限定の焼き菓子があった。「千代……ごめん」そして、風斗の手にあるものを見た瞬間、私は言葉を失った。それは「仲直りチケット」だった。たどたどしい字を見た瞬間、子供の頃の私が作ったものだと分かった。風斗はそれをそっと広げた。「……仲直りチケット1枚。1回だけ許してあげるって、そう書いてあった」読み上げたあと、彼は不安そうに私を見た。「千代……これ、まだ有効かな?」私はゆっくりそれを受け取り、書かれた文字をぼんやり眺めた。そして、彼の目に希望が浮かんだ、その瞬間――私はそれを破り捨てた。風斗は息を呑み、目を見開いた。「千代……」自分でも驚くほど、声が冷えている。「子供の頃の約束なんて、何の意味があるの?あなたも言ったよね。私をちゃんと守るって。なのに、守れなかった。だ
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