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第9話

Author: 庄司瑠美
帰宅後、母との関係は気まずくなった。顔を合わせても、言葉が出てこない。

母は焦りと深い意味を込めた目で私を見つめるが、お墓での出来事で心に溝ができ、私は意図的に母の視線を避けた。

最後には居心地の悪さに耐えられなくなり、出張を口実に病院の近くに滞在し、昼は治療を受け、夜は通りを散歩して気を紛らわせた。

やっと気持ちを整理して家に戻ると、いつものようにソファで待っている両親の姿はなく、家の中は重苦しい雰囲気に包まれていた。

不思議に思いながら家に入ると、父が部屋から出てきた。たった二日で、父は荒れ果て、目は充血して生気がなく、髭も剃っていなかった。

声をかけようとした矢先、弟が寝癖だらけの頭で両親の部屋から出てきた。胸が締め付けられるような不安を感じ、尋ねようとした時、弟が泣きながら私に駆け寄ってきた。

「お姉ちゃん......やっと帰ってきた!

お母さんが病気なんだ、肺がん......

どうすればいいんだよ、姉ちゃん。僕まだ22歳なんだよ。お母さんがいなくなるなんて嫌だ。僕はまだ結婚もしていないのに、お母さんがいなくなったら、僕どうすればいいんだ」

雷に打たれたような衝撃を受け、頭が真っ白になった。震える手で携帯を取り出し、四月四日までまだかなりの日数があることを確認した。

前世では母は何の問題もなく、私の誕生日に弟の誕生日を祝うことさえできたのに......なぜ今世では、こんなことに。

弟の泣き声も気にせず、部屋に駆け込んだ。ベッドの上の母は虚ろな目で窓の外を見つめていたが、私を見るなり悲しげに泣き出した。

「安代、安代が帰ってきたのね。

もう怒ってないの?お母さんを許してくれたの?」

血のつながりは本当に不思議なもので、母が泣くのを見ると胸が痛んで、降参するしかなかった。前に出て母を慰めた。

「お母さん、幸男が癌だって言ってたけど、本当?」

母は黙ったまま、頭を少し傾けてベッドサイドの診断書を見るよう促し、泣き声を交えながら話し始めた。

「安代、この病気の治療費は私たちには無理よ。

私のことは諦めて、家を売って。その売却金をあなたの持参金にして。

お母さんはずっとあなたに申し訳ないことをしてきた。死ぬ前にこの家しか形に残せるものがないの。これを換金して持参金にすれば、嫁ぎ先でも軽く見られることはないわ」

私は母の顔に触れ、
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