Share

第1474話 番外編百二十二

Auteur: 花崎紬
夜。

佑樹と念江が外から帰宅すると、臨はソファでお菓子を食べていた。

「臨、ゆみはまだ帰ってきていないのか?」

佑樹は尋ねた。

「姉さんは春日崎に行ったよ。午後に出発した」

臨はポテトチップスを噛みながら言った。

何で急にそんなところへ?

二人は驚いた表情を浮かべた。

「彼女は一人で行ったのか?」

「最初は一人だったけど、今は澈兄さんが追いかけてるから、そのうち二人になるよ」

「お前がゆみの行き先を教えたのか?」

佑樹の目線が鋭くなった。

「うん。澈兄さんが一日中姉さんを探してて、焦ってたから教えたんだ。だって姉さんが一人であんな遠いところに行くのも危ないし、澈兄さんが付き添うのは良いことだろ?」

「あの二人がもめているのは分かってるんだろ?もし何か取り返しのつかないことでも起きたら、お前は責任を取れるのか?」

佑樹は臨に問い詰めた。

「え、そんなことになるわけがないだろう?」

臨は喉をごくりと鳴らして答えた。

「可能性はある。臨、これからは行動する前に結果をよく考えなさい」

念江が冷静に注意した。

「ゆみを迎えに行こうか?」

そして彼は提案した。

「いや」

佑樹は携帯を取り出した。

「人を向かわせる」

そう言うと、佑樹は隼人に電話をかけながら、階段を上がっていった。

「あれ?こんな時間にどうした?」

隼人はすぐ電話に出た。

「2日休みを取って、ゆみを迎えに行ってくれ」

「ゆみを?」

隼人は急に緊張した様子で答えた。

「行方不明になったのか?」

佑樹はゆみが一人で春日崎へ向かったことを説明した。

「なんて大胆な!一人でそんな遠くへ!わかった、詳しい住所を教えてくれ。今すぐチケットを取ってそこへ向かうから」

「すまない。後で飯をおごる」

「了解!」

リビングで、階段を上がる佑樹の背中を見て、臨の胸は後悔でいっぱいになった。

「兄さん」

臨は申し訳なさそうに念江を見た。

「俺、とんでもない間違いを犯したのかな……」

「ゆみと澈をくっつけてあげたい気持ちはわかる。だがお前は二人の問題に深入りしすぎだ」

念江は優しく言った。

「もし澈兄さんが先に姉さんと一緒になったら、兄さんたちは俺に怒る?」

臨は不安そうだった。

「怒らない」

念江は臨を慰めた。

「お前はまだ子供だ。わからないことは
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1745話 番外編百二十三

    「もちろんゆみを迎えに来たんだ。あんたもか?」隼人がそう問いかける視線には、明らかにライバル意識が浮かんでいた。「ああ」澈は率直に答えた。隼人はしばらく澈を見つめ、そして背後の民家に目を移した。「ゆみは、こんなところに来るなんて、どういうことだ?」「誰からゆみの居場所を聞いたんだ?」澈は隼人の質問を無視して、逆に問いかけた。「佑樹からだ。兄として妹の安全を心配し、警察官の俺に頼んできた」澈は唇を噛み、それ以上は何も言わなかった。振り返ってドアを叩こうとした瞬間、隼人が彼の手を掴んだ。「まだ朝5時半だ。ゆみは寝ているはず。ここで待とう」澈は微かに頷き、二人は扉の前の大きな石に腰を下ろした。「さっきの質問にまだ答えてないな。ゆみは一体ここへ何しにきたんだ?」隼人が再び口を開いた。「ゆみは6歳の頃からここで育ち、小林さんから霊障退治を学んだ」「じゃあ、前の事件を解決した時もその力を使ったのか?」隼人は驚いた顔で尋ねた。「なんか不気味で、考えるだけでゾッとするな」澈が頷くと、隼人は腕を擦りながら言った。「なあ」隼人は突然本題に入った。「あんた、ゆみのことが好きだろ?そうじゃなきゃこんな遠くまで来ないよな」「あんたも同じだろう」澈は俯きながら返した。「もちろんさ!」隼人は爽やかに言い放った。「佑樹の依頼もあったが、一番の理由は俺がゆみが好きだからだ。この件に関して、俺は正々堂々と受けて立つつもりだが、妨害はしないでもらいたい。たとえもしゆみが最後に選んだのはあんたの方だとしても、俺は後悔しない。努力をしたからだ」「後悔は……しない?」「ああ!」隼人は言い切った。「人生は短い。好きなように過ごすのが一番だ。たとえ結果が伴わなくても、努力したという事実が残る」その言葉に、澈は苦笑した。「何が可笑しいんだ?」隼人は理解できなかった。「羨ましいな」澈は深く息を吐いた。「考え方が僕よりずっと立派だ」「あんたは?どう考えてるんだ?」隼人は笑いながら聞いた。「僕はまだ何もかも安定していない。ゆみとは一緒になる資格がない」「何言ってんだ?」隼人は眉をひそめた。「どこまでやれば安定だと言えるんだ?」「少なくとも、家を持っ

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1474話 番外編百二十二

    夜。佑樹と念江が外から帰宅すると、臨はソファでお菓子を食べていた。「臨、ゆみはまだ帰ってきていないのか?」佑樹は尋ねた。「姉さんは春日崎に行ったよ。午後に出発した」臨はポテトチップスを噛みながら言った。何で急にそんなところへ?二人は驚いた表情を浮かべた。「彼女は一人で行ったのか?」「最初は一人だったけど、今は澈兄さんが追いかけてるから、そのうち二人になるよ」「お前がゆみの行き先を教えたのか?」佑樹の目線が鋭くなった。「うん。澈兄さんが一日中姉さんを探してて、焦ってたから教えたんだ。だって姉さんが一人であんな遠いところに行くのも危ないし、澈兄さんが付き添うのは良いことだろ?」「あの二人がもめているのは分かってるんだろ?もし何か取り返しのつかないことでも起きたら、お前は責任を取れるのか?」佑樹は臨に問い詰めた。「え、そんなことになるわけがないだろう?」臨は喉をごくりと鳴らして答えた。「可能性はある。臨、これからは行動する前に結果をよく考えなさい」念江が冷静に注意した。「ゆみを迎えに行こうか?」そして彼は提案した。「いや」佑樹は携帯を取り出した。「人を向かわせる」そう言うと、佑樹は隼人に電話をかけながら、階段を上がっていった。「あれ?こんな時間にどうした?」隼人はすぐ電話に出た。「2日休みを取って、ゆみを迎えに行ってくれ」「ゆみを?」隼人は急に緊張した様子で答えた。「行方不明になったのか?」佑樹はゆみが一人で春日崎へ向かったことを説明した。「なんて大胆な!一人でそんな遠くへ!わかった、詳しい住所を教えてくれ。今すぐチケットを取ってそこへ向かうから」「すまない。後で飯をおごる」「了解!」リビングで、階段を上がる佑樹の背中を見て、臨の胸は後悔でいっぱいになった。「兄さん」臨は申し訳なさそうに念江を見た。「俺、とんでもない間違いを犯したのかな……」「ゆみと澈をくっつけてあげたい気持ちはわかる。だがお前は二人の問題に深入りしすぎだ」念江は優しく言った。「もし澈兄さんが先に姉さんと一緒になったら、兄さんたちは俺に怒る?」臨は不安そうだった。「怒らない」念江は臨を慰めた。「お前はまだ子供だ。わからないことは

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1473話 番外編百二十一

    「澈くんが来てたの?」紀美子は慌てて立ち上がった。「今どこにいるの?何で早く中に入れてあげなかったの?」「ちょっと、母さん!」臨はふてくされた。「落ち着いてって!澈兄さんはとっくに帰ったよ。午後の話だってば」「だって澈くんはゆみの将来の彼氏になるかもしれない人でしょ?ちゃんと接待しないと失礼だわ」紀美子は笑って言った。「姉さんのことを、母さんが決めつけないでよ」臨は母の隣に座り込んだ。「あの二人、早かれ遅かれ、一緒になるわ。お母さんはあんたが生まれる前から澈くんを知ってるの。とても良い子よ。両親も親戚もお金がないようだけど、それでもゆみは彼と幸せになれると信じてる」「でももし二人が一緒になれなかったら?」臨の頭に隼人の顔が浮かんだ。「それは重要じゃない。ゆみが愛し、一生を託したいと思う相手ができるかどうかよ」「そういえば母さん、姉さんが俺を弟子にすると言ってたから、大学卒業後は就職しないよ」「あんたがそれでいいのなら、お母さんは反対しないわ」紀美子は言った。「しっかりと姉についていけば、飢え死はしないでしょう」「なんだそれ?」臨は呆れた。「俺だって将来は結婚して、家庭を養わなきゃならないんだよ?」「大丈夫、お母さんが1000万円あげる」紀美子は言った。「普通の人なら一生かかっても貯められない額よ」「たった1000万だけ?」臨は不満をこぼした。「姉さんには普段平気で500万とかあげてたじゃん!なんで俺は1000万だけなんだ?」「もらえるだけありがたいと思いなさい。そんな細かいことばかり気にしてると、男は廃れるわ」紀美子はそう言い残し、キッチンへ消えた。 末っ子は一番可愛がられるって聞いてたのに、実際は姉さんだけが特別扱いじゃないか!臨はソファを叩いて怒りを発散した。しかしその後……臨は仰向けになり、笑みを浮かべた。姉さんが幸せなら、それでいい。金なんて、所詮は紙切れだ!一方。一日中ゆみを探し回ったが見つからず、澈は仕方なく再び臨に電話した。臨はうとうとしていたが、着信音で飛び起きた。「もしもし、澈兄さん」「すまない、また邪魔しちゃって」「姉さんが帰ったか、聞きたいんだろ?」「ああ」「まだだよ」臨は言

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1472話 番外編百二十

    「わからないなら、説明してやる!」澈の目は強く光った。「確かに僕は劣等感を持っている。だが、ゆみとの身分の差など考えたことはない!自分の努力でゆみを幸せにできれば、それで十分だ!他人にどう見られようが気にしない。ゆみの心に僕がいると分かれば、それでいい」「冗談じゃない!」奈々子は声を荒げた。「森川家は世間から注目されている名門よ!庶民のあなたがゆみと付き合えば、すぐに目をつけられ、みんなから嘲笑されるだけよ!」「それがどうした?」澈は冷静に言い返した。「僕は自分のすべきことをするだけ。他人の目線など気にしない」「この先、ずっと陰口を言われても耐えられると思う?いつまで持ちこたえられると思う?」「奈々子、君は僕のことを理解しているつもりだろうけど、何もわかっていないよ」澈の声には確信があった。「僕は『両親や伯母を殺した厄介者』などの罵声の中で育ってきた。それでも今まで生きてきたんだ」「澈、本当にその道を選ぶの?」「ああ!」澈は言い切った。「むしろ感謝したいくらいだ。紗子さんを通して、大切なことが分かった。さもなければ、いつまでも自己中心的な考えに囚われていただろう。奈々子、君と僕の友人関係はこれで終わりだ。今後はただの同窓生として接しよう」煩わしい友人関係に決着をつけると、澈の心はゆみへの後悔でいっぱいになった。ゆみのことを思うと、彼は店にじっとしていられなかった。携帯を握り、杖をつきながら葬儀屋を出ると、澈はタクシーで潤ヶ丘へ向かった。しかし、そこに着くと、門の前でボディガードに止められた。ゆみの代わりに、彼は臨に電話をかけた。「澈兄さん?」しばらくして臨が電話に出た。「臨、今家にいる?」「いや、学校だけど」「授業中にすまない」澈は我に返った。「全然!何かあった?」澈は簡潔にゆみとのことを説明した。「今潤ヶ丘に来たけど、ボディガードさんが入れてくれないんだ」「電話をボディガードに代わって!」臨は即座に言った。電話で臨が事情を説明すると、ボディガードはようやく通してくれた。子供の頃の記憶を頼りに、彼はゆみの家を見つけた。「どちら様ですか?」邸宅の前に立つ二人のボディガードは尋ねた。「ゆみに会いに来た」「お嬢様は10分ほ

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1471話 番外編百十九

    ゆみは心から澈のことが好きだった。誰かを好きになれば、自然とその人の立場から物事を考えるようになる。紗子は気持ちを落ち着かせ、携帯を取り出して澈に電話をかけた。「もしもし?」澈はすぐに電話に出た。「吉田紗子です」「何かご用?」紗子は奈々子がゆみに言ったことを澈に伝えたが、話せば話すほど、ゆみが不憫でならなかった。「澈くん、もしこれがあなたの本音なら、直接ゆみに伝えてください」「それは僕の考えではない。奈々子は僕を代弁したわけではない」電話の向こうで澈はしばらく沈黙してから言った。「でも今、ゆみはそれを真に受けているわ!あなたの友人に、もう二度と余計なことを言わないでと伝えてください!」「分かった、きちんと話す」澈の声は低く重かった。「ゆみは今どうしてる?」「あの子は今、感情を押し殺して、何も話そうとしない。澈くん、一つだけ質問があるんだけど、正直に答えてくれる?」「うん」「あなたは本当にゆみのことが好きで、彼女と付き合いたいと思ってるの?」「うん。けど今ではない」「理由は?」「今の僕ではまだゆみを十分に守れない。自分さえまともに養えない状態だ」「それがそんなに重要なの?」紗子は問い詰めた。「ゆみ本人に、養ってほしいか聞いたことあるの?」「僕にとって、ゆみのために尽くすのは当然のことだ」「尽くし方にもいろいろあるじゃない。経済的なものと、感情的なもの。彼女に必要なのは後者よ」紗子は熱を込めて説明した。「彼女は人生で、あなた以外こんなに気にかける存在はないわ。あなたの考えをゆみに押し付けないでほしい。だって彼女はそんなことを望んでいないから。責任感を持つことは男として立派なことだけど、責任はどんな形でも表現できるはずよ。安定した仕事について、お金を稼いでからじゃないとダメだとか、そんな決まりはないんだから。お互いを知ることだって、二人が付き合っているうちに少しずつ知っていけばいいじゃない!」紗子の言葉は、澈にとってまさに目から鱗だった。彼はその場に立ち尽くし、紗子の言葉を頭の中で反復した。もしかしたら、自分の考えはあまりに自己中心的なものだったのかもしれない。いつも自分の視点だけで物事を捉え、ゆみの気持ちを聞こうとしなかった。「ゆみと話してみる

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1470話 番外編百十八

    ゆみは奈々子の言葉に呆然とし、紗子が戻ってきたのもさえも気づかなかった。紗子はゆみの異変に気付き、彼女の目の前で手を振った。ゆみはようやく我に返り、虚ろな目で紗子を見上げた。「どうしたの?」紗子は目を見張った。「紗子ちゃん……」ゆみの目には突然涙が浮かんだ。「うん、ここにいるよ」紗子は慌ててゆみの傍に座って返事した。すると、ゆみは紗子の胸に飛び込み、うつむいたまま声を殺して泣き始めた。「一体何があったの?教えて。奈々子に何かひどいことを言われたの?」紗子は心配でたまらず、ゆみの背中を撫で続けた。ゆみは首を振ったが、実際、奈々子の言葉は棘のように彼女の喉に刺さっていた。そしてその痛みのせいで、一言も言葉が出てこなかった。ゆみは話したいことは聞かなくても自分から話す子なので、紗子はそれ以上詮索せず、ただ彼女を抱きしめた。……結局、ドレスも、紗子が代わりにゆみの好みを伝え、店員にサイズ合わせを任せた。帰りの車の中で、ゆみはずっと窓の外を無言で見つめていた。「ゆみ、着いたよ」潤ヶ丘に着くと、紗子は声をかけた。ゆみは瞬きし、「うん」とだけ返事した。ドアを開けて降りるゆみの姿は、まるで人形のようで魂が抜けていた。紗子がドアを閉めようとした瞬間、ふとゆみに手を止められた。「紗子ちゃん、私、澈くんのことを諦めた方がいいかな?」ゆみは振り返り、いきなり紗子に問いかけた。「どうして急に?」紗子は驚いた。「だって、彼を一生苦しませたくないから……」ゆみの目が赤くなった。紗子が反応する前に、車のドアが閉められた。ゆみが寂しそうな後姿で消えて行くのを見て、紗子の頭には奈々子の顔が浮かんだ。彼女だ。きっと彼女がゆみに何か言ったに違いない。でなければ、ゆみがこんなに落ち込むはずがない。「奈々子の連絡先を調べて」紗子はボディガードに指示した。「承知しました」10分もかからず、奈々子の連絡先が紗子の携帯に届いた。深呼吸をしてから、紗子は奈々子に電話をかけた。「吉田紗子です」奈々子が電話に出た瞬間に、紗子は切り出した。「用件は?」「あなた、今日ゆみに何か言った?」紗子は単刀直入に問いかけた。「本人に聞いたら?」奈々子は冷笑した。

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status