로그인強風でガタガタと揺れる窓に、激しく打ち付けられる横殴りの雨。テレビから流れるニュースでは、危険なので不用意な外出を控えるようにと、警戒のアナウンスが朝からずっと流れている。
「なぁ、本当に今日行くつもりなの?」 「うん。もちろんだよ」 「大丈夫なの?」 「大丈夫じゃなくても、絶対に行く」 「……」 東城は、ギターケースにビニールをかけながら言う。どうやら、意思は硬そうだな。 今日は、東城達のライブがある日だ。だけど、天気は最悪の台風だ。しかも、今回の台風は過去最高レベルらしい。 「じゃ、行ってくるね」 「気をつけろよ」 「うん。あ、桜木君は無理に来なくても大丈夫だからね」 「いや、俺も後からちゃんと行くよ」 「そっか。じゃあ待ってるね」 「あぁ」 そう言って東城は、家を出て行った。 ライブハウスまでは、タクシーを使って行くとは行っていたけど、やっぱり心配だな。こんなことなら、昨日のうちにレンタカーを借りておくんだった。 「12時、か……」 ライブ開始の時間は15時。 ニュースでは、台風が通り過ぎるのが夜だって言っていたから、ライブをやっている時はまだこの状態だろう。いや、むしろもっと強くなっているはずだ。 いくら、東城のバンドが人気でも、今日の客入りはかなり少ないと思う。それでも東城は、絶対に行くと言って聞かなかった。 例え1人でも来てくれるなら、私はその人のために全力で歌って演奏するんだって、言っていた。本当にすごいやつだよ。 「さて……」 とりあえず、帰ってきた東城に美味いもの食わせるために、準備だけしておくか。その後、俺もライブハウスに行くとしよう。 ―――― ―― 14時ちょい前か。思ったより時間かかっちまったな。もう出ないと、東城のライブに遅刻しちまうな。 外を見ると、相変わらずの暴風雨だ。東城は無事にライブハウスに着いたかな? とりあえず怪我だけしてないといいんだけど。 「ん? 龍からだ」 家を出ようとしたところで、龍から電話がかかってきた。俺は通話ボタンを押して、電話に出る。 「どうした?」 『おう。アラタ今どこだ?』 「家だ。今から出るところ」 『そっか。なら、ちょうどよかった。今、お前ん家の前に居るから一緒に行こうぜ。車借りてたんだ』 「そりゃ助かる。すぐに行く」 俺は、サイフとスマホをポケットに詰め込んで家を出る。 「おっす」 「おう、助かったよ。でもどうしたんだ、この車?」 「璃亜《りあ》ちゃんを送るために、昨日借りてたんだ」 「なるほどな」 「東城さんは大丈夫なのか?」 「大丈夫っぽいぞ。今スマホ見たら、東城から無事に着いたって連絡が来てた」 「んじゃ、みんな大丈夫っぽいな。佐々木さんも璃亜ちゃんと一緒に俺が送って行ったから」 「そっか」 とりあえず、全員大丈夫って分かってよかった。 問題はライブか。俺ら以外で、どれだけ来てるのかな? 最悪、俺達だけってこともありえる。 「しっかし、マジでやべぇな」 「だな。荒れるって聞いていたけど、ここまでだとは予想外だ」 「でもまぁ、道路自体は混雑してなくて助かったぜ」 確かに、そこだけは救いだな。 車がほとんど通ってないから、思いのほかスムーズに進んでいる。この感じだと、ライブまでは余裕で間に合いそうだ。 「うし、着いたぞ」 「あぁ、ありがと」 ライブハウス近くの駐車場に車を停めて、俺と龍は急いでライブハウスに駆け込んで行った。 ―――― ―― 「あちゃ〜、やっぱり、全然居ないな」 「まぁ、今回ばかりは仕方ないな」 俺達の他に居たのは、ほんの数人だけだ。合わせても、ギリ20人いないくらいだ。 「まぁ、プラスに考えれば、AGEを最前列で見れるってことに感謝しようぜ」 「だな。前に来た時は大分後ろの方だったもんな」 「あぁ。俺達で盛り上げてやろうぜ」 「おうよ」 そうこう話しているうちに、ライブ開始の時間になった。 今日のライブはAGEのワンマンじゃないから、別のバンドが初めに出てきた。 因みにAGEの出番は最後。つまり、大トリを任せられているってことだ。 頑張れよ、東城。ちゃんと見てるからさ。 ―音葉《おとは》視点― 「んー、やっぱり全然居ないね」 「仕方ないよ。この天気だし」 舞台袖から、フロアの様子を見ていた、璃亜と栞菜が残念そうに言う。 私もさっき、チラッと見たけど、いつもお客さんで満杯のフロアが、スカスカになっているのに違和感を感じた。 「あ、龍君来てくれている」 「桜木君も居るよ。音葉」 「そっか」 「あれ? 何か反応薄くない?」 「そんなことないよ」 そっか。桜木君、ちゃんと来てくれたんだ。にひひっ、よーし! やる気出てきた! 「それにしても、久しぶりだよね」 「何が?」 「こんなにガランとしたライブだよ」 「そうかもね」 まるで、初めてここのステージに立った時、みたいかも。あの頃は、チケットノルマキツかったなぁ。 「それじゃ、今日は初心に帰ったつもりで、全力でやろ!」 「って、音葉はいつも全力でしょ」 「にひひ〜、まぁね。でも、それは栞菜と璃亜も同じだよね?」 「もちろん!」 「うん!」 「だよね。にひひっ」 何も変わらない。 私達は何時だって、全力で歌って、全力で演奏してきた。それが、たかが台風ごときで変わらないんだ。 「よしっ、それじゃ行こっか!」 「うん!」 「ええ!」 何時ものように気合いを入れてから、私達はステージに向かう。その途中で、先にステージに上がっていた、人達が帰ってきた。 「お疲れ」 「ごめん。あんまり、盛り上げられなかった」 「大丈夫。後は任せて」 「うん。よろしく」 すれ違いざまに、上げられた手にタッチをする。ここでライブをする人達とのルーティンみたいなものだ。ライバルであって仲間。私達はそういう関係だ。 「……」 う〜ん。やっぱり冷たいな。 いつも肌で感じる、熱気のようなものが、今日はあまり感じられない。 いや、これでも始まった時よりも随分とマシになった方かな。 「あれ〜? どうしたのみんな? あんまり盛り上がってないじゃん」 私がの声に反応したのは、前にいる数人程度か……他の人達は後ろから、つまらなそうにただ眺めている。 会場を見回すと、桜木君達が不安そうな顔で見ている。そんな顔しなくても、大丈夫だよ桜木君。見ててね。 「テンション低いね。でも大丈夫! 私達がこれから、みんなの感情を爆発させてあげる!」 そう言ってから、一度、栞菜と璃亜を見てから1つ頷く。 「それじゃ、1曲目いくよ! ダンス&ピストル!」 『 理不尽な世の中だ 賢いバカが偉い世界 そんなもんは ぶち壊してやるさ! 私の銃弾で! ピストルを片手に踊って撃ち抜くよ! 踊れっ ダンス! バン! ダンス! バン! リズムに乗って もっと ガン! ステップ! ガン! ステップ! ノリよくさ バカな大人共よ 使えない権力者共よ お前らの時代はもう終わりだ 消えて 失せて しまえ! ガンステップダンスバン! 嘘ばかりの世界だ ずるい奴が勝つ世の中だ 正直に生きていくのが バカみたいだね 嫌だね いらないね こんな世界は だったら私が ぶち壊してやるさ! ピストルを片手に 踊って撃ち抜くよ! 踊れっ ダンス! バン! ダンス! バン! 激しくっ もっと ガン! ステップ! ガン! ステップ! 舞踊れっ 行きづらいなら 気に入らないなら 自分で変えてやるのさ ピストル片手に踊って笑って撃ち抜くよ ガンステップダンスバン!』 (オオォーー!!) (AGE最高ー!) 1曲目が終わる頃には、会場のボルテージが一気に跳ね上がっていた。さっきまでの空気が嘘のようだ。 そうそう。これだよこれ。ライブは盛り上がらないと面白くないよね。 さぁ、こっからもっと盛り上げていくよ! 「ありがとう! まだまだいくよー! みんな、私達にしっかり着いてきて!」 ―――― ―― 「イエーイ! お疲れー!」 「おつおつ!」 「お疲れ様」 ライブを終え、私達は控え室でささやかな打ち上げをしている。と言っても、缶ジュースで乾杯するくらいだけどね。本格的な打ち上げは、後日かな。 「いやぁ、楽しかったね」 「そうだね。今日も大成功って言ってもいいんじゃない? だよね、栞菜?」 「うん。お客さんも満足してくれたと思う」 「だよねだよね! にひひっ」 なんせ最後は、アンコールまでもらっちゃったもんね。当然、私達はそれに応えて、急遽もう1曲披露した。 これを成功と言わずして、何が成功かって話だよね。 「やっほー」 「みんなお疲れ」 「あ、龍君!」 控え室に桜木君と璃亜の彼氏の吉田君がやって来た。 本当は関係者以外入って来ちゃダメなんだけど、店長にお願いして特別に通してもらった。 璃亜は、嬉しそうに松田君に飛びつきに行った。私も、同じように桜木君の方へ向かう。 「ねねっ! どうだった?」 「あぁ、最高だったよ」 「にひひっ、ありがと!」 桜木君にそう言ってもらえるだけで、頑張った甲斐があったよ。嬉しくて、自然と笑顔になっちゃうな。 「佐々木さんもお疲れ様」 「はい。ありがとうございます」 桜木君は、後ろで私達を見ていた、栞菜にも労いの言葉をかける。 うん。やっぱり、桜木君はみんなに優しいな。そう……みんなに平等に優しい。それが桜木君のいいところなんだけど、今は今だけは、それがちょっと嫌だな……。 「ねぇねぇ、桜木君」 「うん?」 「頑張った私に、何かご褒美はないのかな?」 「急だな……」 「まぁ、今思いつたからね」 「具体的に何をして欲しいの?」 「それは桜木君が、考えないとダメだよ」 「えぇ……」 私がそう言うと、桜木君は少し困った顔をする。ダメだなぁ、つい桜木君の困った顔が見たくなって、こんなことばかり言っちゃうんだよね。我ながら、性格が悪い。 でも、何だかんだで桜木君は、いつも私の1番してほしいことをやってくれるから、やめられないんだよね。 「とりあえず、今はこれで我慢してくれ」 桜木君はそう言うと、私の頭を優しく撫でる。 うん。正解だよ。 「にひひっ」 「何だよ?」 「なーんでもないよ」 「そうですか」 ありがとね。 桜木君。 「さてと、そろそろ帰ろうぜ。雨が酷くなって来たしさ」 「そんなに酷いの?」 「来る時より、酷くなってるね」 あらら……そりゃ大変だ。 もうちょっと、余韻に浸っていたいけど、帰れなくなったら大変だもんね。 「龍。悪いけど、車を近くまで持ってきてくれないか?」 「分かった」 「全員乗れるよな?」 「後ろはちょっとキツくなるけど、多分大丈夫だと思うぞ」 「そっか。んじゃ頼むわ」 「オッケー」 そう言って、吉田君は車を取りに行った。 「あ、そうだ。みんなはこの後、何か用事ある?」 「私はないよ」 「東城が用事ないのは知ってるよ。俺が聞いているのは、佐々木さんと松田さん」 「私も特にないですよ」 「私も」 「そっか。なら、この後、うちでご飯でも食べて行く? すき焼きの用意したんだ」 「いいんですか?」 「もちろん。この天気じゃ、外で打ち上げ出来ないでしょ? だから、変わりと言っちゃ何だけど、どうかな?」 流石、桜木君だなぁ。 そんなことまで、考えてくれたなんて。 「それって、龍君も来るの?」 「あぁ、龍も誘ってるよ」 「なら、私も行く」 「オッケー。佐々木さんは?」 「じゃあ、私も参加します」 「あいよ」 「じゃあ、みんなですき焼きパーティーだね!」 うーん……本当は、2人で食べたかったけど、仕方ないかな。 「おーい。車持ってきたぞ」 「おう、サンキュ。んじゃ、みんな行こうぜ」 「はーい」 「うん」 「よろしくお願いします」 まぁ、何はともあれ、今日のライブも大成功だ。 とりあえず今日は、この喜びをみんなで分かち合うとしますか。「なぁ頼むよ」 「えぇ〜」 今年、高校に入学したばかりの息子、桜木奏多《さくらぎ かなた》は心底嫌そうな声を出す。 むぅ……まさかここまで嫌がるとは思わなかったな。 「そんなに嫌なの?」 「嫌だよ。てか、それ以前に何でお見合いなんてしなくちゃいけないのさ。まずは、その理由を聞かせてよ」 「まぁ話せば長くなるんだけどな」 音葉《おとは》と夫婦契約を結んでから、早いもので18年の時が経った。 大学を卒業したその日に音葉と結婚して、その年に第1子である奏多が産まれた。 早くね? って思うかもしれんが、仕方がなかったことなんだ。ちょいとテンションが上がって、音葉とフィーバーし過ぎちまった結果だ。 まぁ色々大変ではあったが、全く後悔はないから良しとしよう。 そして何と驚いたことに、小鞠さんがいつの間にか結婚していて、おまけに奏多と同い年の娘を出産したらしい。めでたいことだ。 で、だ。俺は完全に忘れてたんだが、昔小鞠さんとした約束の話が持ち上がってきた。 そう、お互いの子供を結構させようっていうあれだ。あの時は、冗談だと思って適当に流していたが、どうやら小鞠さんは本気だったようで、つい先日お見合いをやろうという連絡がきたのだ。 んで、慌てて奏多にお願いをしているってわけだ。 「まぁそういうことだ。頼むぞ、我が息子よ」 「いや、頼むぞじゃねぇよ。クソ親父」 「こらこら奏多君。お口が悪いですよ。そんなんじゃいい大人になれませんよ」 「うっぜぇ……」 ち、本当に口が悪いなこのガキ。いったい誰に似たんだか。 「はぁ……分かったよ。とりあえず、出るだけ出てあげるよ」 「お? いいのか?」 「相手は雪城さんの娘さんなんだよね? 父さんと母さんの立場もあるからねぇ」 おぉ……流石俺の息子だ。その辺、言わなくてもちゃんと分かっていらっしゃる。 今の小鞠さんは、音葉が所属している事務所の社長さんだ。俺も個人的に小鞠さんには、そこそこお世話になってる。だから、断るのは少々都合が悪いんだよな。 まぁ断ったからって、あの人が何かしてくるとは全く思わないけど、それでもまぁ色々あるもんなんだよ。 「ただし、条件が3つある」 「ほう。言ってみろ」 「まず1つ目、お見合いはする。ただ、その後のこと
「おーい。アラタ君ー!」 「なんでいるんだよ……」 おっかしいなぁ。俺、今日帰るとは音葉に言ってなかったはずなんだけどなぁ。 てか、もう夜中なんだから、そんな大きな声出さないでもらえないですかね? 「お帰り」 「ただいま。んで? 何でいるの?」 「言い方悪い。何? 私が迎えに来るのは嫌なの?」 「まさか。嫌じゃないよ。ただ、何で俺が今日この時間に帰ってくるか、分かったのかなって思ってな」 「風実歌《ふみか》ちゃんから教えてもらったんだよ」 「なるほどな」 だから時間とか聞いてきたのか。納得納得。 「音葉は飯食ったのか?」 「うん。オムライス食べたよ」 「ほう。栞菜《かんな》ちゃんに作ってもらったの?」 「にひひっ。って思うじゃないですかぁ? でもね、私が作ったんだよねぇ」 「音葉。嘘つきは泥棒の始まりだぞ」 「全く信じてくれないねぇ!?」 当たり前だ。 卵すらまともに割れないやつが、オムライスを作った? そんなの信じろって言う方が無理だろ。 「胡桃《くるみ》に教えてもらったんだよ」 「胡桃ちゃんに?」 「うん。メイド喫茶特製のね」 「ほほう。まさに直伝ってやつだな」 「うん。これがめっちゃ美味いんだなぁ」 「え? てかガチで作れるようになったの?」 「ガチだよ。胡桃のやつに超スパルタで叩き込まれたんだよねぇ」 胡桃ちゃんのスパルタか。 めっちゃ厳しいってことだけは想像出来るわ。 「今度作ってあげようか?」 「お手並み拝見だな」 「にひひっ! 刮目していいよ」 「楽しみにしてる」 しかし、音葉と胡桃ちゃんがねぇ。 喧嘩ばかりしてるけど、やっぱ何だかんだで仲良いんだよな。 「そうだ。ありがとね、アラタ君」 「うん? 何のこと?」 「またまた〜、惚けちゃって」 「茶化すな。何の話だよ」 「スカウトのことだよ。雪城エンターテインメントから、契約の話が来てるんだよ。メジャーデビューしないかってね」 あぁなるほどね。その話か。 確か、もうすでにいくつかのバンドと契約して、メジャーデビューの話が進んでいるって言ってたな。まぁ当然、音葉達AGEにもこの話が来ててもおかしくはないか。 「別に俺にお礼を言うことじゃないだろ
「お? あにぃこれ美味しいよ」 「おぉ本当だな。絶品だ」 「あにぃ同じの作れない?」 「流石に無理だなぁ」 「うーん。残念」 クソ親父達が帰った後、俺と風実歌、それと雪城さん達で料理を食っていた。 まぁ残して行くには、少々もったいないくらいには、お高いところだからな。 ちなみに、和奏《わかな》さんは帰って行った。一緒にどうですか? って誘いはしたんだけど、和奏さん曰く、こういう高いところは仕事としてじゃなくて、プライベートで来たいからとのことだ。 まぁ気持ちは分からんでもない。 「それにしても、アラタさんと風実歌《ふみか》さんは仲がいいんですね」 「んー、多分普通ですよ。俺らとあのクソ兄貴が特別仲悪いだけなんで」 「なるほど。確かにそうかもしれませんね」 そもそもの話、あのクソ兄貴と仲良くなんて出来るわけがない。あいつ、性格が悪いってより、人として大分終わってるしな。 「あ、でもでも、あにぃは世の中のお兄ちゃんより、ずっといいと思いますよ!」 「こら、妹よ。恥ずかしいからやめなさい」 「えぇ〜、可愛い妹の愛を受け止めてよ」 「あーはいはい。ありがとな。愛してる愛してる」 「えへへぇ〜、私も愛してるよ。あにぃ」 やれやれ……何でうちの妹はこのやり取りがこんなに好きなんだろうねぇ? いい加減付き合うのにも飽きてきたぞ。 「う、う〜ん。やっぱり、仲がいいと思いますけど……色んな意味で」 「あはは……確かに僕の目にも、そう見えるかなぁ」 「気のせいですよ」 そうそう気のせいだ。俺はシスコンじゃないし、風実歌もブラコンじゃない。そこそこ仲がいいどこにでもいる兄妹なのだ。それ以上でもそれ以下でもないのである。 「そうだ。アラタさん、1つお願いがあるのですが」 「ん? なんすか?」 小鞠さんが俺にお願い? 何だろ? 全く想像出来ないな。 「私と結婚しませんか?」 「ぶほはっ!?」 「ちょ、あにぃ汚いよ! ほら、水」 「あ、ありが、と……」 きゅ、急に何言い出すんだこの人!? 食ってた餃子が変なところに入っていっちまったじゃねぇかよ。 「それでどうでしょうか? アラタさん」 「いや、ちょっと待ってくれ。いきなり何言ってんですか?」 「何って、
「遅いぞ」 「時間通りだろ」 「社会人なら10分前行動が基本だ」 「はいはい。そいつは悪かったな」 今日はいよいよ、俺のお見合いの日がやってきた。昨日、一昨日と挨拶回りだのと、あっちこっち連れ回されての今日だ。おかげで休む暇もなかった。ったく、本当に人の扱いが酷いもんだぜ。 でもまぁ、それも今日で終わりだ。さっさと済ませて早くあっちに帰りたいものだ。 俺達は今、お見合い会場となっている料亭に来ている。珍しいことにクソ親父にクソ兄貴、クソババアと俺と風実歌の家族全員参加だ。しかも、俺らが早く来ての相手さんを待ってる状態だ。 こりゃ、よっぽど相手さんを立ててるってことだな。 ちなみに、ホームズはお留守番だ。今日は獅雄《れお》さんに預かってもらってる。 「恥じかかすなよ。アラタ」 「努力するよ。クソ兄貴」 「お前。間違っても、相手方の前でそんな呼び方するなよ?」 「わーってるよ。今だけだ」 「ふん。相変わらず、出来の悪いやつだな」 ったく……こっちはこっちで、うるせぇやつだなぁ。少し黙ってらんねぇのか? 「ねぇあにぃ? 本当に大丈夫なの?」 「心配するな。風実歌は料理が運ばれてきたら、美味しそうに食ってればいいさ」 「んな適当な……」 「いいんだよ。適当で」 どうせ、これから始まるのは茶番なんだからな。しっかりするだけ無駄ってもんだ。 だったら、味だけは美味いご飯を楽しんでた方が何百倍もいい。 「桜木さん。お待たせしました」 お? 来たっぽいな。 扉が開いて、50代後半くらいのスーツを着た男性と、俺と同い年くらいの和服を着た金髪の女性が入って来た。 「雪城さん。本日はお越しいただきありがとうございます」 「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます」 「どうぞ。まずはおかけ下さい」 お決まりの硬っ苦しい挨拶を済ませると、クソ親父は雪城さん達を席に通す。 雪城さん達が席に座ると、待ち構えてたかのように、料理が運ばれてきた。 うわ……高そう。いったい1食いくらするんだこれ? 「ほら、アラタ。何してる。お前も挨拶しろ」 はいはい。分かってますよ。 「桜木アラタです。今日はよろしくお願いします。雪城さん」 「あぁ。こちらこそよろしくね。アラタ君。ほ
「なぁ音葉《おとは》。1人で大丈夫か?」 「にひひっ、大丈夫だよ。栞菜《かんな》とかが助けに来てくれることになってるから」 「なるほど。確かにそれは心強いな」 まぁ……栞菜ちゃんには、また迷惑かけることになるけどね……。 ごめんね。うちの子がポンコツのダメ人間で。戻ってきたら、俺が責任もって世話するんで、少しの間お願いします。 「ねぇ……何か今、心の中で失礼なこと考えてなかった?」 「気のせいだよ」 「本当かなぁ」 「本当だって」 「まぁいいや。気をつけて行ってきてね。それと、ちゃんと帰って来てね」 「あぁ分かってるよ」 「行ってらっしゃい。アラタ君」 「行ってきます。音葉」 ―――― ―― 音葉達のライブバトルが終わって早数日。あの後、打ち上げやら、胡桃《くるみ》ちゃんの歓迎会やらをやっているうちに、あっという間にクソ親父との約束の日がやってきた。そんな訳で、嫌々ながら地元に帰ることになった。 あ、ちなみに胡桃ちゃんとは、歓迎会で結構仲良くなった。主に音葉に対する愚痴や苦労なんかを話してたら意気投合した。今じゃお互いに名前呼びする仲になった。 「新幹線に乗ってる間は、大人しくしてろよ?」 「にゃ〜あ」 「いや、ほんとに頼むぞ。ホームズ」 うちの愛猫、ホームズも連れて帰ることになった。まぁ、俺がいない間、音葉には流石に任せられないってことになったからだ。 ネットで調べたら、新幹線に猫を乗せても大丈夫とのことだったから安心したぜ。今は、俺のバックの中で頭だけ出して大人しくしてる。 ふむ。こうして見ると、某ゲームの主人公みたいだな。 「っと、そろそろ発車の時間だな」 ぼやぼやしてるとあっという間だな。 指定席を取ってあるから確実に座れるけど、ぎりぎりに行って乗り込むのに苦労したくないし、さっさと座ってしまおうか。 あーあ……それにしても、まじでくそめんどくせぇなぁ。 ―――― ―― 「あにぃ〜! こっちこっち!」 駅から出てすぐに、風実歌《ふみか》の大変元気な声が辺りに響き渡る。 うん。ちょい恥ずかしいから、あれやめてくれないかな? ほら、めっちゃ注目集めてるじゃん。お兄ちゃんは、シャイで恥ずかしがり屋さんだから目立つのは嫌いなんだよ? 「お
―胡桃視点― 負けた……。 結果を聞くまでもない。完全に私達の負けだ。 その証拠に会場は、大AGEコールが鳴り響いている。 悔しい……悔しい悔しい悔しい! 「胡桃」 「大丈夫。帰ろう……」 私はそれだけ言って舞台袖へ帰ろうとする。 ごめん優。今はちょっと顔を見れない。多分、私すっごい酷い顔してるから。情けなくて見せられないよ。 「胡桃!」 「え?」 会場の大AGEコールをかき消すほどの大きな声で、音葉が私の名前を呼んだ。 余りにも突然のことで驚いてしまった私は、思わず音葉の方を向いてしまう。 「にひひっ」 音葉はいつものように、白い歯を見せて笑うと、ジャーンとギターを掻き鳴らす。 それに応えるように、璃亜はベースを栞菜はドラムを弾き始めだ。 「こ、この曲は……」 忘れもしない。これは、私達がまだAGEだった頃に初めて作って演奏した曲だ。 何で今さらこの曲をこの場所で演奏してんのよ。バカじゃないの? でも……。 「あぁ……そう……」 ほんとに腹立つやつだ。 何? その顔。 出来るよな? 早く入って来いって顔してさ。 いいよ。やってあげるよ。忘れてるかもしれないけど、この曲のメインは私なんだから! ―――― ―― 「はぁ……はぁ……」 突然始まった演奏に会場のお客さんは、戸惑いはしたものの、すぐに熱狂に変わった。 まぁ当然かな。この曲で盛り上がらないわけがないんだから。 「にひひ、出来るじゃん」 「うるさい。急になんのつもり?」 「べっつに〜。ただ泣きそうな顔してたから、ちょっと慰めてあげただけだよ」 「はぁ? 喧嘩売っての?」 ほんとに音葉は昔からこうだ。ほんとにムカつく。 「はいはい。2人ともその辺にして」 分かってましたよって言わんばかりに、栞菜が私と音葉の間に入ってきた。 なんというか、流石と言うべきかな。私と音葉が喧嘩しそうになると、いつもこうやって間に入ってくれたっけ? 「ごめんね胡桃。急にやっちゃって」 「別にいい……」 無視しようと思えば出来た。それなのに演奏に参加したのは私だ。だから、栞菜が謝ることじゃない。 「ねぇ胡桃。やっぱり戻ってこない?」 「その話は前に断ったでしょ」 「お