Masukキーンコーンカーン……
「んっんー! ようやく終わったな」 「あぁ」 今日最後の講義が終わった。 はぁ疲れた……やっぱ、90分って長いわ。 「しかし、夏休みだってのに何で講義があるのかねぇ」 「知らね」 「でもまぁ、夏休み中の講義はこれで最後だ。残りの2週間はゆっくりさせてもらおうぜ」 「だなぁ」 と言っても、課題で出されたレポートがあるんだけどね。あれがなかなか大変だ。 「アラタはこの後すぐに帰るのか?」 「そのつもりだよ。家に居るダメ人間の世話をしなくちゃいけないからね」 「なるほどね」 東城のやつ、ちゃんと昼飯食ったかな? 一応、冷蔵庫に作り置きを入れて置いたけど。 てか、そもそも起きているかすら怪しいな。 「順調そうなの?」 「まぁ、それなりだよ」 東城と同棲を初めて、数週間ほど経った。それで分かったことは、東城はとにかくだらしないってことだ。 ゴミは片付けない、服は脱ぎっぱなし、朝は全く起きないで昼まで寝ている。数えればキリがない。 「龍もすぐに帰るのか?」 「いや、俺はこの後デート」 「松田さんと?」 「そう。夏祭りに行きたいんだと」 あぁ、そういや今日は夏祭りか。道理で駅前が混雑してたのか。 「アラタは東城さんと行かないのか?」 「今のところ行く予定はないよ」 「ほーん。せっかくなら、誘ってみれば?」 「いや、やめとく」 「何で?」 「単純に俺が嫌だからだよ。知ってるだろ、人混みは苦手なんだ」 「なるほどな」 ましてや、今日やる夏祭りは、この辺じゃ1番大きなやつだ。人の量がえげつないことは、簡単に予想出来る。 「あ。あぁ……」 「ん? どうした?」 「やっぱり、夏祭りに行くわ」 「急にどうした?」 「これだ」 スマホを開いたら、東城からメッセージが来ていた。内容は夏祭りのお誘い。 「ははは、こりゃ断れないな」 「全くだ」 東城から送られてきたメッセージは、17時に駅前集合。来なかったらパロスペシャル! だった。流石にパロスペシャルは、食らいたくない。 「んじゃ、一緒に行くか」 「だな」 ―――― ―― 「あ、龍君ー!」 「璃亜ちゃん。お待たせ」 俺と龍が待ち合わせ場所の駅前に着くと、そこにはもう、東城達が待っていた。あ、佐々木さんもいる。 「遅いよ。桜木君」 「これでも、急いで来たんだけどなぁ」 講義が終わったのは16時半だ。んで、今は16時50分。遅刻はしていない。 「こら、音葉《おとは》。文句言わないの」 「えー何? 栞菜《かんな》は、桜木君の味方なの?」 「味方も何も、桜木君を急に呼び出したのだから、文句を言うのはおかしいって話でしょ」 「ぶぅー、私、正論嫌い〜」 「そんなの知らないわよ……」 ははは……佐々木さんも大変だなぁ。 「まぁまぁ、無駄話はその辺にして、そろそろ行こうぜ」 「うん。私も龍君に賛成〜」 「なら、私も賛成!」 「はぁ……もう……」 佐々木さんは、こめかみの所を押さえて、大きなため息を吐きながら項垂れる。 うん、その気持ちはよく分かるよ。 「まぁ佐々木さん。俺は気にしてないから大丈夫だよ」 「何かすいません」 「だから大丈夫だって。ほら、俺らも行こう」 「そうですね」 俺達を置いて、先に歩いて行ってしまった、東城達を2人でゆっくりと追いかける。 ―――― ―― おぉ……こりゃ思った以上に賑わっているな。 祭り会場の河川敷に行くと、かなりの人でごった返していた。 「これは、1度はぐれたら合流は難しそうですね」 「ですね」 「なら、待ち合わせ場所でも決めとく?」 「だな。じゃあこの先にある神社にしとくか」 あそこは出店もやってないし、ちょうどいいだろう。それに最後にやる花火の、いい穴場だったりする。 「オッケーだ」 「私も異議なし」 「私もそこで大丈夫です」 「東城も大丈夫だろ?」 「うん、大丈夫だよ」 「んじゃ決まりだな」 待ち合わせ場所を決めて、俺達は会場に入っていく。 「さて、まずは何する?」 「私は龍君と一緒ならどこでもいいよ」 「俺も璃亜ちゃんと一緒ならどこでもいいぜ」 「いやん。龍君かっこいい!」 「はっはっは! だろぉ」 こいつら、めっちゃイチャつくな……完全にバカップルだわ。 「じゃあ私は桜木君と一緒がいい!」 東城はそう言うと、俺の腕にしがみついて来る。 「急に抱きつかないでよ……」 「えぇ〜いいじゃん別に」 それがあんまり良くないんですよ。あなたのおっぱいさんが、俺の腕に挟まってますからね? そのせいで、俺の心臓はドッキドキのバックバク何ですよ。 「じゃあ、花火が始まるまで、各々自由行動にしますか?」 「あ、それいいね! 栞菜ナイスアイディア!」 「俺も賛成だ」 こいつら、ノータイムで返事しやがったな。どんだけ2人で居たいんだよ。 「音葉は?」 「まぁいいんじゃない? 桜木君もそれでいいよね?」 「みんながいいなら、俺は構わないよ」 「じゃあ、決定だね。行こ、龍君」 「あぁ。んじゃ、また後でな」 そう言って、龍と松田さんは腕を組みながら行ってしまった。 「佐々木さんは、俺達と一緒に回ろうぜ」 「え? いいんですか?」 「じゃないと、佐々木さんが1人になっちゃうでしょ?」 「ま、まぁ……そうなんですけど……」 あぁ……これあれだな。 俺と東城に気を使っている感じだな。別に俺らは付き合っている訳じゃないから、気にしなくてもいいのに。 「東城も佐々木さんが一緒でもいいよね?」 「うん。全然いいよ」 「決まりだね」 「ありがとうございます」 よかったぁ〜 ここで、東城が嫌だとか言ったら、どうしようかと思ったぜ。まぁ、東城に限ってそんなことはないか。 「それで何からしますか?」 「とりあえず、適当に腹ごしらえしたいな」 「あ、なら私、たこ焼き食べたい」 「いいねぇ。佐々木さんは?」 「それなら……綿あめがいいです」 「オッケー、なら順番に行こうか」 ―――― ―― 「ふぅ……お腹いっぱい」 「私もです」 「同じく」 流石に食い過ぎたな。 東城と佐々木さんのリクエストである、たこ焼きと綿あめに加えて、いか焼きに小籠包、中華まんと焼きそばとチョコバナナ。 こんだけ食えば、もう満腹だ。 「それにしても……本当に桜木君のものは、音葉持ちなんだね」 「まぁね。桜木君とはそういう契約だからね」 改めて思うと、やっぱりこの契約ってすごいよな。遊びや外食の費用は全部、東城持ちだ。 今は違和感しかないけど、そのうちこれが当たり前だと思い出すのかな? うわぁ……そんな自分めっちゃ嫌だわ。想像もしたくない。 でもなぁ……これが東城と結んだ契約だもんな。とりあえず、まだ正常な考えが出来ているってことに安心しとこう。 「さてと、お腹もいっぱいになったし、遊びに行こうよ」 「そうだな。花火まではもう少し時間あるし」 「栞菜もいいよね?」 「うん、いいよ」 「それで? 東城は何かやりたいのあるのか?」 「もちろんあるよ! 栞菜は分かるよね?」 「多分、あれでしょ?」 「そうそう。あれあれ」 おっと? 2人は分かりあっているぞ。俺だけ仲間はずれじゃん。 てか、あれってなんだよ。気になるな。 「なぁ、そのあれを俺にも教えてくれよ」 「にひひっ、桜木君にはまだ秘密だよぉ〜」 「何でだよ……」 「まぁ、行ってからのお楽しみってことで」 「はぁ……分かったよ。んじゃ、早いとこ行こうぜ」 「うん!」 ―――― ―― 「東城音葉! 狙い撃つぜっ!」 なるほど。東城のやりたいやつって、射的のことだったのか。 「音葉は昔から射的が好きなんですよ」 「へぇ、そうなんだ」 「ただまぁ……すっごい下手くそなんですけどね……」 「うん……そのようだね」 既に10回以上やっているけど、1発足りとも掠ってすらいない。逆によくそんな下手くそに出来るなと、関心しちゃうレベル。 「ぶぅー! 全然当たらない!」 あーあ……すげぇ膨れっつらだな。今どき小学生でも、あんなに頬を膨らませないぞ。 「桜木君〜、栞菜〜」 「頑張れ頑張れ。そんなんじゃ、立派なガン○ムマイスターになれないぞ」 「オトハ、ガンバレ、ガンバレ」 「お? 佐々木さんモノマネ上手いね」 「えへへ。これしか出来ないんですけどね」 「それでも十分すごいよ」 一瞬マジで、ハ○かと思ったもん。 てか、佐々木さんもガン○ム知ってるのか。ちょっと以外だ。 「桜木君も結構詳しいんですか?」 「そこまでではないよ。見てるのは、ほとんどアナザーシリーズだし」 「私もですよ。宇宙世紀シリーズは、話数が多くて」 「そうなんだよねぇ。多分、見始めたらすぐなんだろうけど、それまでがね」 「その気持ち分かります」 「だよね」 よかった。俺だけじゃなくて。 「ねぇ、ちょっと! 何2人でイチャイチャしてんのさ! 私はこんなに頑張っているのに!」 「別にイチャついてないよ」 「そうだよ。音葉の勘違い」 「どこがよ!」 あらら、随分とお怒りのようだな。ムキーって感じで、地団駄まで踏んでるよ。 てか、何回挑戦するつもりなんだか。もう20回は超えたぞ。 「なぁ、まだやるの?」 「取れるまでやる!」 取れるまでって……せめて、景品に当たるようになってから言ってほしいんだけどなぁ。 てか、射的屋のおっちゃんよ。もう、十分稼いだんだから、何か1個ぐらいくれてやれよ。 「佐々木さん、どうする?」 「んー、音葉があの状態になると長いですよ」 「あー、やっぱり?」 「はい」 うーん……時間的にそろそろ行かないと、花火に間に合わないな。 でも、あの様子だと、マジで取るまでテコでも動きそうにないし。 はぁ……仕方ないなぁ。 「東城。ちょい代わって」 「桜木君がやるの?」 「うん」 「出来るの?」 「まぁ、少なくても東城よりはマシだと思うよ」 「何それ? ムカつくんですけど」 そんなこと言ったってなぁ。東城が下手過ぎるのが悪いんだろ。 「まぁいいから。代わってよ」 「やだ!」 「あーじゃあ分かった。引き金は東城が引いて。俺が狙いを定めるから」 「まぁ……それだったらいいけど……」 東城はしぶしぶといった感じで、銃を構える。俺は後ろから覆い被さるようにして、支えてやる。 あ、しまったな。これ、傍から見たら東城に抱きついているみたいじゃん。でも、今さら離れたら、変に意識してるみたいになるし、気付かないフリしとこう。 「で? どれを狙ってるの?」 「あれ」 「何だよあれ……?」 東城が指さしたのは、ライオンのぬいぐるみだった。ただ……そのぬいぐるみがなかなかの見た目をしている。 「アオライオン。知らない?」 「知らないねぇ」 「人を煽り散らかす、キャラクターだよ」 「クソみたいなキャラクターだな……」 しっかし……見れば見るほど、腹立つ顔してるなあいつ。人を心底バカにした顔しやがってよ。しかも、中指立ててるんじゃねぇよ。 「まぁいいや。あれでいいのね」 「うん」 体は小さいけど、頭だけ無駄に大きい、よくあるタイプのぬいぐるみだな。だとすると、頭のところを小突いてやれば、簡単に落ちそうだ。 ちょうどいい。脳天ぶち抜いてやる。 「よし、この辺かな。東城、やっちまえ」 「うん! 東城音葉、狙い撃つぜ!」 東城の撃った弾は、眉間のど真ん中にしっかりと当たり、そのままゴトンと落ちていった。 「やった! やたやたっ! 取れたよ、桜木君!」 「おう。ナイスヘッドショットだったよ」 「にひひっ」 やれやれ……嬉しそうにしちゃってさ。手伝ったかいがあったな。 「ほい、おめでとさん」 東城が喜んでいる間に、おっちゃんがアオライオンを持ってきた。それを東城は、満面の笑みで受け取る。 「にひひっ、桜木君。ありがと! 大事にするね!」 「お、おう……」 「あれれ〜? もしかして桜木君。照れちゃったの?」 「べ、別に照れてないよ……」 ちょっとしか…… 「にひひっ、桜木君ってば可愛い〜」 「うるさいなぁ」 「栞菜もそう思うでしょ?」 「ふふっ、そうですね」 「佐々木さんまで、やめてくれよ……」 「すいません」 あの〜佐々木さん? そう言いつつも、クスクス笑ってますよ。絶対に悪いと思ってないですよね? 「はぁ、もう……もういいや。とりあえず、そろそろ行こう。時間ギリギリだ」 「そうだね。行こっか」 「って、くっつくなよ」 「えぇ、別にいいじゃん。ほら、行くよ」 「はいはい」 ―――― ―― 「おう。遅かったな」 「ま、色々あったんだよ」 俺達が待ち合わせ場所の神社に行くと、龍と松田さんがもう居た。 「そっちは楽しめたか?」 「それなりにな」 「そっか」 「んじゃ、行こうぜ」 「だな」 神社の階段を登って、境内に向かう。 この階段を登ったちょっと先に、少し開けた広場がある。そこが、知る人ぞ知る隠れた穴場スポットだ。 「あ、始まった」 「あぁ」 月明かりが照らす夜空に、一発のデカい花火が花開く。そこから、次々と様々な色の花火が打ち上がった。 「綺麗だね」 「だな」 こうやって、花火を見るのは久しぶりだな。少なくても、地元を出てこっちに来てからは、まともに見てない。 「ねぇ、桜木君」 「ん?」 東城が、俺の服の袖をクイクイと引っ張る。 「来年は2人で来よっか」 「俺でいいのか?」 「ばぁか。桜木君だからいいんだよ」 来年も一緒に、か。 そうだな。俺と東城は、少なくても来年までは一緒にいる契約だ。なら、2人で来るのも悪くないか。 「……そっか。分かったよ」 「にひひっ、約束だからね」 「あぁ」「なぁ頼むよ」 「えぇ〜」 今年、高校に入学したばかりの息子、桜木奏多《さくらぎ かなた》は心底嫌そうな声を出す。 むぅ……まさかここまで嫌がるとは思わなかったな。 「そんなに嫌なの?」 「嫌だよ。てか、それ以前に何でお見合いなんてしなくちゃいけないのさ。まずは、その理由を聞かせてよ」 「まぁ話せば長くなるんだけどな」 音葉《おとは》と夫婦契約を結んでから、早いもので18年の時が経った。 大学を卒業したその日に音葉と結婚して、その年に第1子である奏多が産まれた。 早くね? って思うかもしれんが、仕方がなかったことなんだ。ちょいとテンションが上がって、音葉とフィーバーし過ぎちまった結果だ。 まぁ色々大変ではあったが、全く後悔はないから良しとしよう。 そして何と驚いたことに、小鞠さんがいつの間にか結婚していて、おまけに奏多と同い年の娘を出産したらしい。めでたいことだ。 で、だ。俺は完全に忘れてたんだが、昔小鞠さんとした約束の話が持ち上がってきた。 そう、お互いの子供を結構させようっていうあれだ。あの時は、冗談だと思って適当に流していたが、どうやら小鞠さんは本気だったようで、つい先日お見合いをやろうという連絡がきたのだ。 んで、慌てて奏多にお願いをしているってわけだ。 「まぁそういうことだ。頼むぞ、我が息子よ」 「いや、頼むぞじゃねぇよ。クソ親父」 「こらこら奏多君。お口が悪いですよ。そんなんじゃいい大人になれませんよ」 「うっぜぇ……」 ち、本当に口が悪いなこのガキ。いったい誰に似たんだか。 「はぁ……分かったよ。とりあえず、出るだけ出てあげるよ」 「お? いいのか?」 「相手は雪城さんの娘さんなんだよね? 父さんと母さんの立場もあるからねぇ」 おぉ……流石俺の息子だ。その辺、言わなくてもちゃんと分かっていらっしゃる。 今の小鞠さんは、音葉が所属している事務所の社長さんだ。俺も個人的に小鞠さんには、そこそこお世話になってる。だから、断るのは少々都合が悪いんだよな。 まぁ断ったからって、あの人が何かしてくるとは全く思わないけど、それでもまぁ色々あるもんなんだよ。 「ただし、条件が3つある」 「ほう。言ってみろ」 「まず1つ目、お見合いはする。ただ、その後のこと
「おーい。アラタ君ー!」 「なんでいるんだよ……」 おっかしいなぁ。俺、今日帰るとは音葉に言ってなかったはずなんだけどなぁ。 てか、もう夜中なんだから、そんな大きな声出さないでもらえないですかね? 「お帰り」 「ただいま。んで? 何でいるの?」 「言い方悪い。何? 私が迎えに来るのは嫌なの?」 「まさか。嫌じゃないよ。ただ、何で俺が今日この時間に帰ってくるか、分かったのかなって思ってな」 「風実歌《ふみか》ちゃんから教えてもらったんだよ」 「なるほどな」 だから時間とか聞いてきたのか。納得納得。 「音葉は飯食ったのか?」 「うん。オムライス食べたよ」 「ほう。栞菜《かんな》ちゃんに作ってもらったの?」 「にひひっ。って思うじゃないですかぁ? でもね、私が作ったんだよねぇ」 「音葉。嘘つきは泥棒の始まりだぞ」 「全く信じてくれないねぇ!?」 当たり前だ。 卵すらまともに割れないやつが、オムライスを作った? そんなの信じろって言う方が無理だろ。 「胡桃《くるみ》に教えてもらったんだよ」 「胡桃ちゃんに?」 「うん。メイド喫茶特製のね」 「ほほう。まさに直伝ってやつだな」 「うん。これがめっちゃ美味いんだなぁ」 「え? てかガチで作れるようになったの?」 「ガチだよ。胡桃のやつに超スパルタで叩き込まれたんだよねぇ」 胡桃ちゃんのスパルタか。 めっちゃ厳しいってことだけは想像出来るわ。 「今度作ってあげようか?」 「お手並み拝見だな」 「にひひっ! 刮目していいよ」 「楽しみにしてる」 しかし、音葉と胡桃ちゃんがねぇ。 喧嘩ばかりしてるけど、やっぱ何だかんだで仲良いんだよな。 「そうだ。ありがとね、アラタ君」 「うん? 何のこと?」 「またまた〜、惚けちゃって」 「茶化すな。何の話だよ」 「スカウトのことだよ。雪城エンターテインメントから、契約の話が来てるんだよ。メジャーデビューしないかってね」 あぁなるほどね。その話か。 確か、もうすでにいくつかのバンドと契約して、メジャーデビューの話が進んでいるって言ってたな。まぁ当然、音葉達AGEにもこの話が来ててもおかしくはないか。 「別に俺にお礼を言うことじゃないだろ
「お? あにぃこれ美味しいよ」 「おぉ本当だな。絶品だ」 「あにぃ同じの作れない?」 「流石に無理だなぁ」 「うーん。残念」 クソ親父達が帰った後、俺と風実歌、それと雪城さん達で料理を食っていた。 まぁ残して行くには、少々もったいないくらいには、お高いところだからな。 ちなみに、和奏《わかな》さんは帰って行った。一緒にどうですか? って誘いはしたんだけど、和奏さん曰く、こういう高いところは仕事としてじゃなくて、プライベートで来たいからとのことだ。 まぁ気持ちは分からんでもない。 「それにしても、アラタさんと風実歌《ふみか》さんは仲がいいんですね」 「んー、多分普通ですよ。俺らとあのクソ兄貴が特別仲悪いだけなんで」 「なるほど。確かにそうかもしれませんね」 そもそもの話、あのクソ兄貴と仲良くなんて出来るわけがない。あいつ、性格が悪いってより、人として大分終わってるしな。 「あ、でもでも、あにぃは世の中のお兄ちゃんより、ずっといいと思いますよ!」 「こら、妹よ。恥ずかしいからやめなさい」 「えぇ〜、可愛い妹の愛を受け止めてよ」 「あーはいはい。ありがとな。愛してる愛してる」 「えへへぇ〜、私も愛してるよ。あにぃ」 やれやれ……何でうちの妹はこのやり取りがこんなに好きなんだろうねぇ? いい加減付き合うのにも飽きてきたぞ。 「う、う〜ん。やっぱり、仲がいいと思いますけど……色んな意味で」 「あはは……確かに僕の目にも、そう見えるかなぁ」 「気のせいですよ」 そうそう気のせいだ。俺はシスコンじゃないし、風実歌もブラコンじゃない。そこそこ仲がいいどこにでもいる兄妹なのだ。それ以上でもそれ以下でもないのである。 「そうだ。アラタさん、1つお願いがあるのですが」 「ん? なんすか?」 小鞠さんが俺にお願い? 何だろ? 全く想像出来ないな。 「私と結婚しませんか?」 「ぶほはっ!?」 「ちょ、あにぃ汚いよ! ほら、水」 「あ、ありが、と……」 きゅ、急に何言い出すんだこの人!? 食ってた餃子が変なところに入っていっちまったじゃねぇかよ。 「それでどうでしょうか? アラタさん」 「いや、ちょっと待ってくれ。いきなり何言ってんですか?」 「何って、
「遅いぞ」 「時間通りだろ」 「社会人なら10分前行動が基本だ」 「はいはい。そいつは悪かったな」 今日はいよいよ、俺のお見合いの日がやってきた。昨日、一昨日と挨拶回りだのと、あっちこっち連れ回されての今日だ。おかげで休む暇もなかった。ったく、本当に人の扱いが酷いもんだぜ。 でもまぁ、それも今日で終わりだ。さっさと済ませて早くあっちに帰りたいものだ。 俺達は今、お見合い会場となっている料亭に来ている。珍しいことにクソ親父にクソ兄貴、クソババアと俺と風実歌の家族全員参加だ。しかも、俺らが早く来ての相手さんを待ってる状態だ。 こりゃ、よっぽど相手さんを立ててるってことだな。 ちなみに、ホームズはお留守番だ。今日は獅雄《れお》さんに預かってもらってる。 「恥じかかすなよ。アラタ」 「努力するよ。クソ兄貴」 「お前。間違っても、相手方の前でそんな呼び方するなよ?」 「わーってるよ。今だけだ」 「ふん。相変わらず、出来の悪いやつだな」 ったく……こっちはこっちで、うるせぇやつだなぁ。少し黙ってらんねぇのか? 「ねぇあにぃ? 本当に大丈夫なの?」 「心配するな。風実歌は料理が運ばれてきたら、美味しそうに食ってればいいさ」 「んな適当な……」 「いいんだよ。適当で」 どうせ、これから始まるのは茶番なんだからな。しっかりするだけ無駄ってもんだ。 だったら、味だけは美味いご飯を楽しんでた方が何百倍もいい。 「桜木さん。お待たせしました」 お? 来たっぽいな。 扉が開いて、50代後半くらいのスーツを着た男性と、俺と同い年くらいの和服を着た金髪の女性が入って来た。 「雪城さん。本日はお越しいただきありがとうございます」 「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます」 「どうぞ。まずはおかけ下さい」 お決まりの硬っ苦しい挨拶を済ませると、クソ親父は雪城さん達を席に通す。 雪城さん達が席に座ると、待ち構えてたかのように、料理が運ばれてきた。 うわ……高そう。いったい1食いくらするんだこれ? 「ほら、アラタ。何してる。お前も挨拶しろ」 はいはい。分かってますよ。 「桜木アラタです。今日はよろしくお願いします。雪城さん」 「あぁ。こちらこそよろしくね。アラタ君。ほ
「なぁ音葉《おとは》。1人で大丈夫か?」 「にひひっ、大丈夫だよ。栞菜《かんな》とかが助けに来てくれることになってるから」 「なるほど。確かにそれは心強いな」 まぁ……栞菜ちゃんには、また迷惑かけることになるけどね……。 ごめんね。うちの子がポンコツのダメ人間で。戻ってきたら、俺が責任もって世話するんで、少しの間お願いします。 「ねぇ……何か今、心の中で失礼なこと考えてなかった?」 「気のせいだよ」 「本当かなぁ」 「本当だって」 「まぁいいや。気をつけて行ってきてね。それと、ちゃんと帰って来てね」 「あぁ分かってるよ」 「行ってらっしゃい。アラタ君」 「行ってきます。音葉」 ―――― ―― 音葉達のライブバトルが終わって早数日。あの後、打ち上げやら、胡桃《くるみ》ちゃんの歓迎会やらをやっているうちに、あっという間にクソ親父との約束の日がやってきた。そんな訳で、嫌々ながら地元に帰ることになった。 あ、ちなみに胡桃ちゃんとは、歓迎会で結構仲良くなった。主に音葉に対する愚痴や苦労なんかを話してたら意気投合した。今じゃお互いに名前呼びする仲になった。 「新幹線に乗ってる間は、大人しくしてろよ?」 「にゃ〜あ」 「いや、ほんとに頼むぞ。ホームズ」 うちの愛猫、ホームズも連れて帰ることになった。まぁ、俺がいない間、音葉には流石に任せられないってことになったからだ。 ネットで調べたら、新幹線に猫を乗せても大丈夫とのことだったから安心したぜ。今は、俺のバックの中で頭だけ出して大人しくしてる。 ふむ。こうして見ると、某ゲームの主人公みたいだな。 「っと、そろそろ発車の時間だな」 ぼやぼやしてるとあっという間だな。 指定席を取ってあるから確実に座れるけど、ぎりぎりに行って乗り込むのに苦労したくないし、さっさと座ってしまおうか。 あーあ……それにしても、まじでくそめんどくせぇなぁ。 ―――― ―― 「あにぃ〜! こっちこっち!」 駅から出てすぐに、風実歌《ふみか》の大変元気な声が辺りに響き渡る。 うん。ちょい恥ずかしいから、あれやめてくれないかな? ほら、めっちゃ注目集めてるじゃん。お兄ちゃんは、シャイで恥ずかしがり屋さんだから目立つのは嫌いなんだよ? 「お
―胡桃視点― 負けた……。 結果を聞くまでもない。完全に私達の負けだ。 その証拠に会場は、大AGEコールが鳴り響いている。 悔しい……悔しい悔しい悔しい! 「胡桃」 「大丈夫。帰ろう……」 私はそれだけ言って舞台袖へ帰ろうとする。 ごめん優。今はちょっと顔を見れない。多分、私すっごい酷い顔してるから。情けなくて見せられないよ。 「胡桃!」 「え?」 会場の大AGEコールをかき消すほどの大きな声で、音葉が私の名前を呼んだ。 余りにも突然のことで驚いてしまった私は、思わず音葉の方を向いてしまう。 「にひひっ」 音葉はいつものように、白い歯を見せて笑うと、ジャーンとギターを掻き鳴らす。 それに応えるように、璃亜はベースを栞菜はドラムを弾き始めだ。 「こ、この曲は……」 忘れもしない。これは、私達がまだAGEだった頃に初めて作って演奏した曲だ。 何で今さらこの曲をこの場所で演奏してんのよ。バカじゃないの? でも……。 「あぁ……そう……」 ほんとに腹立つやつだ。 何? その顔。 出来るよな? 早く入って来いって顔してさ。 いいよ。やってあげるよ。忘れてるかもしれないけど、この曲のメインは私なんだから! ―――― ―― 「はぁ……はぁ……」 突然始まった演奏に会場のお客さんは、戸惑いはしたものの、すぐに熱狂に変わった。 まぁ当然かな。この曲で盛り上がらないわけがないんだから。 「にひひ、出来るじゃん」 「うるさい。急になんのつもり?」 「べっつに〜。ただ泣きそうな顔してたから、ちょっと慰めてあげただけだよ」 「はぁ? 喧嘩売っての?」 ほんとに音葉は昔からこうだ。ほんとにムカつく。 「はいはい。2人ともその辺にして」 分かってましたよって言わんばかりに、栞菜が私と音葉の間に入ってきた。 なんというか、流石と言うべきかな。私と音葉が喧嘩しそうになると、いつもこうやって間に入ってくれたっけ? 「ごめんね胡桃。急にやっちゃって」 「別にいい……」 無視しようと思えば出来た。それなのに演奏に参加したのは私だ。だから、栞菜が謝ることじゃない。 「ねぇ胡桃。やっぱり戻ってこない?」 「その話は前に断ったでしょ」 「お