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5話 東城音葉の弱点

Author: 宮坂大和
last update publish date: 2026-04-02 10:21:30

「あの〜東城さん?」

「なんだね、桜木君?」

「何故にネカフェなんすかね?」

「そりゃ、ここが最高のスポットだからですよ」

最高のスポット……ねぇ……

うん、まぁ分からんでもないよ。ネット使い放題、ドリンクにアイス食べ放題、漫画読み放題だしね。そんでもって、料金はお財布に優しいプライスレスだもんね。

でもさぁ、デートでここをチョイスするってどうなのよ? 俺、結構ウキウキワクワクで東城に着いて行ったんだよ。なのにネカフェって……。

「むぅ……何か不満そうだね」

「めっちゃ不満だよ」

「でも、桜木君1人じゃ絶対に入れない、カップルシートだよ?」

「まぁ、そこだけは満足してる」

そう。俺達は今カップルシートに居た。正直、俺の人生では無縁だと思っていたから、そこそこテンション上がっている。

「じゃあ聞くけど、桜木君はどこだったら満足したのさ?」

「そりゃ、いい感じのカフェとかお洒落な雑貨屋だよ」

「今どき、デートでそんなとこ行かないよ。夢見過ぎ」

えぇ……そんなこと無いと思うんだけどなぁ。

「あ、コーラ取って」

「はいはい」

「ありがと。ん〜、やっぱコーラ最高!」

「その気持ちは、すげぇ分かるけど、ちょいと行儀が悪くないか?」

東城は、俺の膝に頭を乗せて寝っ転がっている。膝枕というやつだ。

んで、そのままの体制で、コップに入ったコーラをストローで飲んでいる状態だ。

「もぅ……口うるさいお母さんじゃないんだから、そんなこと言わないでよ」

「なら、言わせない行動をとってくれ」

「ん〜それは無理かなぁ。だって私、ダメ人間だし」

「あぁそう……」

ダメ人間契約を結んでいるから、それを言われると何も反論出来ないな。

「そういえば、さっきから何読んでいるの?」

「キ〇肉マン」

「あぁそれ面白いよね。私も好き」

「マジか」

この漫画を女子で好きだって言う人、初めて見たな。

「因みに桜木君が好きな超人は?」

「断然、ラー〇ンマンだな」

「おぉ、いいとこチョイスするね」

「何だかんだで、1番強いと思ってる」

「確かに、いつも大事なところで勝ってくれるからねぇ」

「そうなんだよ」

中学生の頃、よくラー〇ンマンの真似をして、友達にキャメルクラッチしてたなぁ。

「そう言う東城が好きな超人は?」

「私? 私はねぇ、バッ〇ァローマン。やっぱり、1000万パワーは伊達じゃないね」

そうそう。あの強さには驚いたな。因みに俺は、ハリケーンミキサーよりも、王位争奪編で使った、超人十字架落としの方が好きだ。

「おぉ、2000万パワーズだな」

「違うよ。バッ〇ァローマンのパートナーは、モン〇ルマンだよ」

「そんなの知ってるよ。でも、中身はラー〇ンマンじゃん」

「そうだけど、私の中では、ラー〇ンマンとモン〇ルマンは別物」

「うわぁ……出たよ出ましたよ。そういう信者いるよなぁ」

「いやいや、桜木君何言ってるの? そっちの方が邪道だからね」

「何だよ? やるか?」

「いいよ。受けて立とうじゃん」

――――

――

「なかなかやるね。桜木君」

「東城もね」

キ〇肉マントークが白熱して、気が付けば小一時間ほど経っていた。

結局、ラー〇ンマン、モン〇ルマン問題は解決しなかったけど、まぁ満足である。正直あれは、キノコの山かタケノコの里、問題と似たようなものだからな。

とりあえず、1番かっこよくて強いのは、ア〇ル兄さんだってことで落ち着いた。

因みにア〇ル兄さんとは、主人公キ〇肉マンの兄貴のことで、キン肉マンソ〇ジャーでもある。

「なぁ東城」

「ん?」

「流石に足が痺れてきたから、1回下りてもらっていいか?」

「しょうがないなぁ、分かったよ」

ふぅ……ようやく解放されたぜ。

東城を膝枕するのは、悪い気はしない。むしろ役得であるけど、長時間となると少し、しんどいな。

「せっかくだから、何か映画観ようよ」

「そうだな。東城は何か観たいのある?」

「ぱっと出ないから、桜木君に任せるよ」

「了解」

さて、何観ようかな? 最近、映画館に行ってないから、どうせだったら、観たかったけど観に行けなかったやつにするか。

「お? これあるんだ」

「いいのあったの?」

「うん。これにする」

俺が選んだのは、去年公開されたホラー映画だ。とにかく、怖くて完成度が良いって、口コミの評価がめっちゃ高かったんだよな。

「どれどれ? え……?」

「ん?」

映画のタイトルを見た東城は、顔を引きつらせて固まった。

「ね、ねぇ……桜木君……」

「何だ?」

「こ、これにするの……?」

「あぁ、ずっと気になっていて観たかったんだよね」

「……そ、そうなんだ……」

おっと? もしかして、東城のやつ。

「なぁ、もしかしてさ――」

「べ、別に平気だよ!」

「い、いや、でもさ……」

「全然問題ないから!」

そう言う割には、ありえないくらい顔が強ばっているし、カタカタ震えながら、俺にしがみついているじゃん。

「やっぱ別のにする?」

「だから、大丈夫だってば!」

「とても大丈夫には見えないんだが……」

「うう、うるさい! ほら、再生!」

「あ……」

東城は、やけくそ気味に動画の再生ボタンを押してしまった。

あーあ……どうなっても俺は知らないぞ。

「……っ、……っ、……っ」

あのー東城さん? まだ始まってすらいないのに、鼻息がすごいですよ。

本当に大丈夫か? この映画2時間あるんだぜ。その調子で、最後まで持つんですか?

「う、うぅ……ひっ!」

映画が始まって、冒頭のところで既に、ビビりまくっているよ。まだ人物紹介とか世界観の説明ぐらいしかやってないぞ。どこに怖がる要素あるんだよ。

しかしまぁ、東城の意外な弱点発見だな。これは、少しからかって見るのもアリだな。よしっ

「あ、飲み物がなくなったな。俺、ちょっと取ってくるわ」

「だだだ、ダメ!」

「いやでもさ」

「ダメったらダメなの!」

立ち上がろうとする、俺の腕を掴んで無理矢理座らせる。しかも、すごい力だ。どうやら、意地でも行かせないつもりだな。

「お、お願いだからぁ……どこにも行かないで……」

「っ……わ、分かったよ……」

くそ……それは反則だって。そんな、涙目で言われたら、もう行けないじゃん。

「…………」

気が付くと、東城はさっきよりもガッツリしがみついていた。

東城のおっぱいが俺の腕に、これでもかってくらい挟まれている。こいつは、非常にまずい。意識が腕に集中して映画の内容が全く入ってこない。

「……ぅ」

「……」

「……ひっ」

「……」

待て待て、まだホラーシーンないぞ。いったい何でビビっているんだよ。いや、そんなことよりも、腕に挟まったものが凶悪過ぎる。俺にはこっちの方が怖いんだが。

「…………うひっ」

あ、ああ! 東城さん!? そんなにくっついたら、更に深みにハマってしまうって!

てか、もうしがみついているって、レベルじゃないよ!? 足まで巻きついていますって!

「…………う、うぅ」

「……」

やばいぞ。いよいよ展開も怪しくなってきた。多分、そろそろ来る頃だ。

『ギャー!』

「ああぁぁーー!」

「痛い痛い痛い!」

案の定、不気味な髪の長い女の幽霊が、飛び出してきた。

それと同時に、東城が耳元で悲鳴をあげながら、とんでもない力で抱きついてくる。

ダメだこいつ。恐怖で力加減がバカになっているぞ。

「い、いやっ! あっあぁ!」

「痛い! 痛いって東城!」

指と爪が、くい込んでいるって! ああ! でもその分おっぱいが! おっぱいがダイレクトで俺の腕に! 痛いけど、おっぱいの感触が気持ちよ過ぎる! おっぱい最高!

「うぎぁいやぁー!」

「うおっびっくりした!」

「うやうやいや!」

「いてててっ!」

こいつまた悲鳴あげやがった。

だから指がくい込んでいるって! どんな力だよ! 握りつぶす気か!

「〇#☆¥*△□!?」

「ついに言語すら失った!?」

「〇#$¥☆%*□△ー!」

「いでぇー!」

腕噛まれた!?

いや、ちょっと待ってくれ! そのまま首を振らないで! 食いちぎられる!

あぁでも! おっぱいが太ももが当たって最高だぜー! ヒャッハー!

「あうあうわうわう」

「何だって?」

「ど、ドア……手が、」

「あぁはいはい。そうだね」

幽霊に追いかけられた主人公達が、どっかの部屋に逃げ込んだはいいが、ドアの隙間から手が出てくるっていう、まぁよくあるやつだ。

それに東城さんは、大いにビビっていらっしゃる。

「#△+*○□¥☆%!」

本当に大丈夫なのか?

映画は中盤に入ったところだ。今でこれだったら、クライマックスには死んじゃう可能性があるな。

「ひぐっ、う、うぅ……うっ、っ、うぐ……」

「泣いた!?」

おいおい、嘘だろ……ガチ泣きじゃん。どんだけ追い詰められているんだよ。

こりゃ東城のためにも、ここらで見るのをやめた方がよさそうだ。

「あー東城? もう見るのやめようぜ。な?」

「うーうっ、やだぁ……」

「何でだよ……」

「見るのぉ……ひぎぃ!」

意味が分からないよ。そんなになってまで、ホラー映画なんて見るもんじゃないよ。

「ひぐっ、うぅ……っ、うっ、うぐぅ……っ、げほっ、げほっ」

「泣き過ぎて、むせちゃってるじゃん。大丈夫かよ……」

「だ、大丈夫じゃないぃ……」

「なら、見るのやめろよ」

「それはいやぁ……」

そっかぁ、やめないのか。いや、だから何でだよ……マジで意味分かんないよ。

「いやぁー!」

「だから痛いってー!」

――――

――

「……」

「……」

よ、ようやく映画が終わった……。

疲れた。本当に疲れた。多分、俺の人生で1番、濃密な2時間だった。色んな意味で。

「……」

東城は真っ赤に泣き腫らした目を、虚空に向けていた。微動だにしない。

「東城? 生きてる?」

「……」

「おーい」

「……なんて事ない、つまらない映画だったわね」

「どの口が言ってんだよ、ふざけんなよ。ぶっ飛ばすぞ」

あんだけ、ギャーギャー騒いでおいて、よくそんな事が言えたな、こいつ。

「ほら、正直に言ってみろ」

「……怖すぎて、死ぬかと思いました……」

「よろしい」

東城は、手の甲で涙を拭きながら言う。残念なことに未だに涙は止まっていないようだ。

「ほら、帰るよ」

「う、うん……」

東城が大騒ぎしたせいで、隣からはうるさいと怒鳴られるし、店員さんから怒られるし、散々だった。

これ以上は、お店の迷惑になるし、何より俺が早く帰りたい。

「東城?」

「あ、あのね……?」

「ん?」

「腰が抜けちゃって、立てない……」

「マジかよ……」

東城は頑張って立とうとしているけど、全く立てる気配がない。それどころか、足がガクガクと震えまくっている。

「はぁ……仕方ないなぁ。ほら、背中に乗って」

「……ありがとう」

「いいよ」

俺は東城をおぶって、部屋から出る。会計の時に店員さんから、何やってんだこいつら? みたいな目で見られたけど、完全スルーさせてもらった。

あ、因みにしっかり出禁になりました。

「おぉ、真っ暗だな」

日もすっかり落ちていて、空は真っ暗だ。まぁ、あっちこっちに街灯があるから、そこまで暗い訳じゃないんだけどね。

「しかし、東城があんなに怖いのが苦手だと思わなかったな」

「あれだけは、どうしても無理なの」

「じゃあ何で、ホラー映画見たんだよ」

「あれだよ。怖いのが苦手だけど、心霊番組とかは見たくなっちゃうやつ」

「なるほどね」

結構いるんだよなぁ。そのタイプの人間。

「桜木君は、怖いの平気なんだね」

「まぁ、そうだね」

「信じてないの?」

「ん〜どうだろうね。実際に見たことないからなぁ」

最終的には、俺に害がなければ、いてもいなくても、どちらでもいい。

「あ、今日のこと秘密にしてね」

「えぇ〜、どうしようかなぁ」

「本気で怒るよ」

「分かった分かった。分かったから、首締めないで」

「もう……」

危ねぇ……スリーパーで、絞め落とされるかと思った。

「約束だからね」

「うん、了解」

「絶対だよ。喋ったら許さないんだからね」

「大丈夫だよ。誰にも言わないから」

言われなくても、初めから誰にも言うつもりはない。

だってねぇ、あんな無様な姿は、普通知られたくないもんね。俺だってやだもん。

自分がやられて嫌なことは、人にやらない。これ、生きていく中で大事なことだ。

「なぁ、東城?」

「なに?」

「1つ素朴な疑問があるんだけどいい?」

「うん。いいよ」

「お前、この後、トイレとか風呂とか大丈夫なの?」

映画では、幽霊がトイレから這い出て来たり、いきなり風呂から出てきたりしたんだよな。

あれは、嫌でも思い出すはずだ。

「あ、ああ……」

「東城?」

「な、何で忘れてたのに、思い出させちゃうの!」

「そいつは悪かったよ。でも、大事なことだよ?」

「む、むりぃ……」

「ですよねぇ〜」

うん、まぁね。聞く前から分かってはいたけどさ。こうも、予想通りの反応だとはなぁ。

「きょ、今日は、トイレもお風呂も1人では無理……」

「じゃあどうするの?」

「さ、桜木君と一緒に?」

「いや、それは流石に無理でしょ」

「じゃあ、お風呂には入らない! トイレは漏らす!」

「勘弁してくれ……」

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