LOGIN
■自宅
〈サガ〉『敵は食い止めた!』 〈アイン〉『お兄ちゃん! 回復は任せて一気に行ってぇぇ!』 〈ユージン〉『おう! オレに任せろぉっ!』 岩でできた巨人——ゴーレム——を相手に3人のキャラクターと同じく3匹の動物や妖精が俺——近藤ユウ——の目の前のモニターで戦っていた。 巨大なゴーレムの腕をこれまた巨大な盾で防いでいる金髪ロングの騎士の横を通り抜けた赤髪の戦士が派手な片手剣を振るう。 魔法を武器にエンチャントして戦う勇者のユージンが俺の操作しているキャラだ。 物理攻撃があまりきかないゴーレムだが、勇者であれば魔法を武器に付与することでダメージが通るようになる。 派手な斬撃エフェクトと共にダメージがポップアップしていった。 連撃と共に派手な音共に激しいエフェクトが出る光景は何度見ても気持ちいい。 ——Vitctory——システムの表示がでたところで、俺はパソコンから離れて伸びをした。
壁の上の方にかかっている時計が目に入る。 23時を過ぎたところだ。 俺は慌ててパソコンに戻り、チャットメッセージを入れていく。〈ユージン〉『やっべ! 明日から新しい職場だから落ちなきゃ! じゃあ、また夜に!』
〈アイン〉『お兄ちゃん! お仕事頑張ってね♪』 〈サガ〉『じゃあ、今日はここで解散だな』俺は我先にとログアウトをして、パソコンテーブルの傍にあるベッドへとダイブする。
一番ハマっているゲームである【Familia of Eden(通称:FoE)】はファミリアと呼ばれる【使い魔】と一緒に冒険するファンタジーRPGだ。 パーティもファミリーと呼び、一緒に過ごす仲間たちとまさに家族のようになれるゲームで俺は楽しんでいる。 もちろん、ゲーム内での結婚システムもあり、俺もいずれは相手を見つけたいと思っていた。 だって、結婚したらステータス補正が上がるんだぜ? 最強を目指す俺にとってそれは避けては通れない道である。「派遣先が見つかってよかったぜ」
ベッドに寝転びながら、俺は天井を見てぼやく。
前の派遣先が雇止めになって1か月、何とか次の派遣先が見つかったのでモヤシ生活ともおさらばだ。 何より次の派遣先は【FoE】のCMとかも作っている広告会社である。 面接を受けて、ゲームへの熱意を伝えたら採用されたので俺としては一安心だった。 「問題は……上司だよなぁ……」俺は前の派遣先のことを思い出して深くため息をつく。
上司とそりが合わなかったためにやめざる負えなくなったのだ。 大きな問題にならなかったので、厳重注意の元で新しい派遣先を探してくれたので派遣会社のマネージャーさんには感謝している。 チッチッチッと時計の秒針が時間を刻むのが聞こえて来た。「ね、眠れん……」
俺は興奮しきっているのか布団で横になっていても眠れずにスマホを弄る。
【FoE】は珍しく、スマホアプリにメッセージ機能や生産、使い魔の育成を行う機能があり、家族として仲間との繋がりをより感じられる設計になっていた。 攻略掲示板などを眺めていると1通のメッセージが俺に届く。 さっきまで一緒にダンジョンボスのゴーレムと戦っていたヒーラーのアインだ。 〈アイン〉”もしかして、お兄ちゃん眠れてないですか? 楽しみなのは仕方ないですけど眠らなきゃダメですよ”「スマホでもログイン状態になるの忘れてた……いい妹だ。俺には実の妹がいないから本当に可愛い奴だぜ」
アインと出会ったのは1年ほど前で、動き方の分からないアインが男性プレイヤーに絡まれていたのを助けてからの仲だ。
妹のように可愛いが、言うべきところはしっかり言ってくれるし甘えてくるときは甘えてくる可愛い子である。 大学生と言っていた気がするが、実際のところはわからないし触れるつもりはなかった。 ゲーム内にリアルを持ち込まないのは俺の主義でもある。〈アイン〉”とっておきの魔法をかけますね、ねむくなーるねむくなーるねむくなーる♪”
文字だけの情報だが、指をグルグル回している光景が目に浮かんだ。
そうしていると、本当に俺の意識はまどろんできて、ゆっくり薄れていく……。■MUGENLABO 入口
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ……ね、寝坊した……」
俺は猛ダッシュでビルの中にあるMUGENLABOにつき、ギリギリ受付に向かう。
MUGENLABOは広告デザイン会社で、俺がある理由から広告を作りたいと思って、前の派遣先を退職してから新しく紹介先を派遣会社に探して貰った会社だ。 広告に関する知識やスキルもないが、ヤル気のあるところだけを面接で行って通ってここに居る。「まったく、腑抜けているな。5分前行動を徹底しろ。先が思いやられる」
「す、すみま、せん……」スーツで走り、息も絶え絶えになっている俺に名札を渡しながらツリ目のショートヘアの女性は鼻をフッとならした。
先輩なのはわかるし、遅刻した俺も悪いのだが、あの態度はどうなんだと内心思うも手を握って我慢する。 張りのある胸につい名札には【斎藤】とあり、役職は「俺の派遣人生終わった……更新までの3か月もてばいいなぁ……」
受付から離れながら、俺は天を仰いで呟く。
昨日の寝るまでは楽しかったのに……最悪な気分での仕事が始まった。■企画デザイン部
入社のミーティングをが終わり、すぐさま企画部ブースに移動させられた。
そこには4人のメンバーがいて、先ほどの鬼の斎藤さんを入れれば5人がメンバーである。「ここが企画デザイン部……いろんな広告を作っているんスね!」
俺が広告を作りたいと思った理由。
それは駅の広告を見て、FoEに出会えたことだった。 そうやって、人を動かす広告を作りたいという思いで、派遣先を選んでもらっている。「近藤、その語尾に『ッス』とつけるのは禁止だ。学生でもあるまいし、社会人としてシャキッとしろ!」
斎藤部長が鋭い目で俺を睨み、ブース内の空気が冷え込んだ。
エアコンをだれも操作していないのに……。「沖田。お前が見てやれ、一年先輩として年上の近藤相手でも遠慮せずに指導するように!」
「はい! わかりました!」俺よりも年下の可愛い子が背筋を伸ばした綺麗な敬礼を斎藤部長に向けたことで冷え切った空気に温かさが戻ってきた。
ああ、この子は部の清涼剤なんだなぁとなんと何しに俺は思う。「よろしくお願い……します。近藤ユウです」
「沖田ソラです。ソラちゃんって気軽に呼んでくださいね? お兄ちゃん♪」 「お兄ちゃん……」そう呼ばれた俺の脳裏には昨日寝る間で付き合ってくれたアインの姿が浮かんだ。
(もしかしたら、ソラさんがアイン? いや……そんなことを考えちゃダメだ。マナー違反だろ、俺!)
ぶんぶんと頭を振って想像を飛ばしていると、ソラが急接近して俺の顔を覗き込んでくる。
吸い込まれそうな瞳の上にあるまつ毛まで綺麗に見えた。 「大丈夫ですか? 入社時ミーティングで疲れたかもしれないですけど、簡単な業務内容の説明をするから私の隣に来て画面見ていてくださいね?」彼女はそう言って離れて、デスクの方へ歩いていく。
俺も後を追って進むと、空いたデスクの隣に、アクリルスタンドの並んだデスクがあった。 ここがソラさんの席らしい。「あ……これ、踊プリの天原だ」
「わかります!? ウチの部で話通じる人いなかったから、すごく嬉しいです♪」たまたま知っていた女性向けゲームの『踊る殿下様(通称:踊プリ)』の人気キャラクター、インド人とのハーフである天原ラジールを見つけてちょっと気持ちが楽になった。
ゲームオタクが俺だけだったらと思って不安になったが、ゲーム会社の動画広告を作っているんだから俺の様な人がいても不思議じゃない。「ウチの部は部長を除いてみんなゲーム好きなんですよー。それぞれ担当というか推しが違うので話をするのも新鮮な部分はあるんですけど……」
そうソラさんが俺に話してくると、PCの画面にチャットが流れてきた。
〈土方〉『沖田さん、雑談はほどほどにして進めたほうがいいよ。部長は黙っているけど、いつ爆発するかわからないから』「副部長の土方さんですね。動画制作のプロなんですよー」
「土方さんは面接の時にいたので知っています。副部長なんですね……もっと上の人かと思っていました」〈沖田〉『了解しました。チャットの操作をお昼までに教えておきます』
〈土方〉『よろしくね。近藤君もわからないことがあったらまずは沖田さんか、チャットに書き込んでね』「ウチの会社は全社員が共通でチャットツールを使ってやりとりしているんです。部署ごとのルームもありますけど、他にも趣味の部活ルームなんてのもありますよ。重要な連絡もこのチャットツールでやりろりしますから、朝と帰りには確実に目を通してくださいね」
「わかりました。なんかMMORPGみたいですね」 「クリエイター系はその方がとっつきやすいですからね。動画や素材のやりとりもチャットツールや共有のクラウドを使ってやります」そういって、ソラさんは俺も使っているアトベの動画編集ソフトを立ち上げて、編集途中の広告デザインを見せてくれた。
担当しているのは知らないゲームである。「ああ、そうそう。私達が作業するのはまだ未発表のゲームだったりすることもありますから、会社で見聞きしたことは他に言わないでくださいね?」
「機密保持契約ですね。入社時ミーティングで書いたので覚えています。会社の愚痴とかをSNSで流して炎上したって話もありますから気を付けます」SNSは多くの人が見るので、ちょっとしたことで大炎上することもあるので気を付けようと俺は心に決めた。
せっかくFoEに関係するところへ派遣とはいえ入れたんだから、下手をうってクビになりたくはない。「いい返事ですね! それじゃあ、チャットのルームの説明を続けますね」
そうして、作業画面とチャットツールのやり取りの仕方や、遅刻の連絡する方法などをソラさんから教えてもらっていたら、お昼のチャイムが鳴った。
「近藤さんはご飯どうします? ウチは会社が小さいから食堂がないので自分たちの机で食べるか外に行くのが多いですけど……」
「急いで来たので、朝飯も食べてないんですよ……安くてたくさん食べれるところって知ってます?」 「それなら、おすすめの定食屋さんがありますからそこに行きましょう!」 そういって、ソラさんに連れられて俺は昼食を取りに出かけるのだった。 鬼上司がいてどうなるかと思ったけど、案外うまくやっていけそうな気がする。■自宅
「あー、しんどい……」
俺はベッドへダイブして寝ころんだ。
広告デザインの仕事は初めてだったこともあり、華やかなデザインに秘められたすごく大変なことが身に染みる。 派遣社員で入社1週間目ということもあって19時の定時で帰らせてもらっているのだけが救いだった。「最近ゲームも遊んでないなぁ……」
パソコンデスクに座るのもおっくうになるほど疲れている。
FoEもログインができておらず、疲れて眠ってしまうのでスマホのアプリもろくに見てなかった。 ログインボーナスとメッセージの確認を行うだけで精いっぱいなのである。 メッセージには公式のイベント連絡の合間にアインやサガから心配したものがちょこちょこ入って来ていた。「今日は金曜で、明日も休みだから久しぶりにログインするかな」
疲れて眠りたくなる体を起こし、目を覚ますためにシャワーを浴びてからゲーミングチェアーに座る。
長時間のプレイのために給料をつぎ込んで買った代物で、これのお陰で俺は10時間だって連続プレイができた。「さぁて……今日も俺は世界の平和を守りますよっと……」
首と腕を鳴らした俺は久しぶりに見る起動画面で興奮を覚えた俺は赤髪の勇者、ユージンを選択してログインする。
ステーションに降り立つと、賑やかな画面と音が俺の目の前に広がった。 ”駅”とついている通り、FoEのいろんな場所へ移動するための連絡通路になっていて、列車で移動できるようになっている。 ログイン時にマイハウスを持っていない場合か、指定がない場合はこのステーションへ集まるのだ。 そのため、ごちゃごちゃした空気になるのは仕方ない。「ステーションが賑やかなのは……そうか、春の新人キャンペーンか。裏では大量に垢BANされる季節だねぇ……」
〈ガルガンチュア〉『そこにいるのはユージンじゃないか! 久しぶりだなぁ!』
〈ユージン〉『ガルさん! 久しぶりです! 新しい派遣先が大変で、スマホでのログインだけでした』ユージンに声をかけて来たのはガタイのいいおっさんアバターのガルさんことガルガンチュアだ。
ギルド【賢者の集い】のギルドマスターではあるが、ガルさんは賢者ではなく、錬金術師である。 なんで、こうなったのかは誰も知らず【FoE七不思議】としてWikiにも掲載されていた。〈ガルガンチュア〉『今度は長く働けるけどいいな! 応援してるぜぇ!』
会話をしながら、モーションでポージングをしていくアバターの姿に俺は吹き出す。
飲み物を飲んでいたらディスプレイにぶっかけていたので、よかった。 ガルさんはマッチョなアバターにポージングをして会話するので、誰が呼んだか【錬筋術師】とい異名で呼ばれてもいる。〈ユージン〉『ガルさんは新人歓迎ですか?』
〈ガルガンチュア〉『そうだぜぇ~。ユージンがいっていたようにマナーの悪いプレイヤーから新人を守っているだ。ワイルドだろぉ~?』 〈ユージン〉『何がワイルドなのか、わからないですって』 〈猫天使ぐりゅえる〉『そのネタ若い子にはわからないのじゃ。ローカル芸人さんのネタなのじゃからの』 〈ガルガンチュア〉『そ、そうだったのか……まだまだ全国で行ける人だと思っているのに……』ガーンというエモートを使ってショックを受けて言るガルさんの傍に立っているのは猫耳と尻尾、さらに天使の羽が生えたロリっ子の【ぐりゅさん】だ。
ガルさんとはリアルでも夫婦であり、FoEで【賢者の集い】主催の結婚式が行われたのは記憶に新しい。〈ユージン〉『ぐりゅさんもこんばんわ』
〈猫天使ぐりゅえる〉『うむ、こんばんわなのじゃ♪』エモートで喜びを表しながら、ぐりゅさんもユージンに挨拶してきた。
この人も廃課金勢だが、俺はゲームで強くなるために課金するガチ勢で、ぐりゅさんは衣装や使い魔に金をつぎ込むエンジョイ勢である。〈ユージン〉『久しぶりにログインしたんですが、今日もにぎわっていて、実家に帰ってきたよう様な気分になりました』
〈猫天使ぐりゅえる〉『ゆるりとするがよい。ゲームはサ終しない限りお主の居場所じゃ』 〈ユージン〉『サ終はつらいですよねぇ……』 〈ガルガンチュア〉『ユージン、お前が今暇なら新人のキャリーを一緒にやらないか? お前とも久しぶりに遊びたいぞ、今夜は寝かさん、ふんっ!』 〈猫天使ぐりゅえる〉『くふふふふ、ガル×ユー……くふふふふ』 〈ユージン〉『ぐりゅさん!? 俺とガルさんはそんなんじゃないですからっ!? ちょっとガルさん、嫁さんが腐り始めているから止めてくださいよ』 〈ガルガンチュア〉『何をいう! ぐりゅはそこがいいところなんだよ!』 〈ユージン〉『えぇぇ!? 今、のろけるところあったぁ!?』俺がガルさんのボケに突っ込んだりして、話が盛り上がっているとき新着メッセージが届いた。
〈システム〉『アインさんからの新着メッセージがあります』
メッセージの中身を確認すると、俺は移動することを決める。
一緒に話すための呼び出しだった。〈ユージン〉『ガルさん、ちょっとアインが呼んでいるので行ってきます。キャリーはまた今度』
〈ガルガンチュア〉『アインであれば仕方ないな。優しくしてやるんだぞ?』 〈猫天使ぐりゅえる〉『ではの!』 二人と離れ、俺はステーションの中から世界樹の生えているエリアに向かう列車へ乗る。 久しぶりにアインと直接会ってチャットできるのが楽しみだった。列車が止まって降りると、巨大な木が見えた。
ここがユグドラ大陸という自然豊かなフィールドの多いエリアである。 エルフのNPCも多いので、エルフプレイヤーも数多く集まっていた。「さて、アインはいつもの場所だな」
俺はユージンを操作して、停車場から街に出て遠くに見える世界樹を目指す。
しばらく走っていくと街から少し離れた場所にある小高い丘の公園のような場所へたどり着いた。 彫刻の施された白い石造りの門には鐘がついていて、結婚などのお祝いで鳴らすのが通例となっている。 この公園はバレンタインやジューンブライド時期にはカップルが数多く集まり、何度爆破してやろうかと思ったことか数えたくなかった。「さて、アインは……」
俺はまばらに人がいる公園の中で、ベンチに座っているアインを見つける。
〈ユージン〉『アイン、待たせた』
〈アイン〉『お兄ちゃん、お久しぶりだね。元気してる? 最近連絡もあまりなかったから心配だったんだよ?』 〈ユージン〉『新しい仕事がちょっとな……』 〈アイン〉『無理はしないでね? お兄ちゃんが倒れたら、みんなに迷惑かかっちゃうっ』 〈ユージン〉『アインは優しいなぁ……その優しさが心に染みるぜ。チャットもいいけど、何かクエストとかで必要なものとかあるか? 土日もあるから手伝うぞ?』 〈アイン〉『今日はゆっくりお話できたらと思っていたし、お兄ちゃんもお疲れだと思うから、明日からで大丈夫だよっ』 〈ユージン〉『アインがそういうならいいけどな。仕事の話はできないけどなぁ、見れてない今季のアニメとかも土日とかに消化したいんだけど、オススメある?』 〈アイン〉『そうだね~。私がチェックしているのだと~不滅の剣かな?』 〈ユージン〉『異世界ファンタジー系だったな。ファンタジー系好きだから俺もハマれそう。配信してたらこの土日で見てみよう』 〈アイン〉『お兄ちゃんなら、絶対気に入ると思うよ』 〈ユージン〉『アインは俺のこと本当によくわかってくれるなぁ……泣いちゃいそうだ』 〈アイン〉『お兄ちゃん、泣くならよしよしヾ(・ω・`) してあげたいけど、ゲームじゃできないから、気持ちだけね♪』アインとのチャットは楽しい。
忙しかった会社でのこともあって、なおさら楽しい気持ちで満たされてくる。 そんな風にアインと楽しくチャットしていたと思っていたら、俺はいつの間にか寝てしまっていた。■自室
「やっべっ!? アインに申し訳ないことをしたなぁ……」翌朝、キーボードの上にうつ伏せになって寝ていたのに気づき、起き上がる。
〈ユージン〉『くぁwせdrftgyふじこlpppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppp』画面ではユージンが狂気にまみれたことを発言していた。
寝落ちなんて、いつぶりだろうか……よっぽど仕事の疲れが来ていたんだなというのを思うと共に、アインへのお詫びに何かしなくちゃいけないとも思う。「あ、メッセージ来てる」
俺は画面を操作してメッセージを確認すると、思わず吹き出してしまう。 〈アイン〉『お兄ちゃんお疲れだったようなので、今日はゆっくり寝てね? いい? 寝るのも大事なことだよ~?』先手を打たれて止められたので、俺は苦笑をするしかなかった。
アインは俺のことを本当によくわかってくれていて、兄弟のいない俺にとって本当の妹のような存在である。「じゃあ……ベッドでまずは寝直すかな。あとは起きた時間でそれからのことを考える」
そう俺が思っていると、電話が鳴った。
着信履歴を見ると、発信先は派遣会社のマネージャーの坂本さんである。『もしもし、近藤君?』
「はい、近藤です……土曜の朝からどうしたんですか?」 『お休みのところごめんね? 派遣してから1週間たったから、確認のためにね。大丈夫そう?』 「はい……忙しくて疲れ気味ですが、何とかやっていけると思います」電話口から聞こえてくる坂本さんの優しい声で俺は眠気がぶりかえしてきた。
「すみません、ちょっと眠くて……二度寝したいです」
『ふふふ、休日に寝てばかりなのは健全な男の子として心配だけど、働き始めは仕方ないよね。何かあったら私にいうんだよ?』アインだけでなく、坂本さんにも心配される俺ってどうなんだと思わなくもない。
だが、それよりもかなり眠かった。「はい、気を付けます。それじゃあ……ふわぁ」
『わかった。気が抜けているのもわかるけど、君はもう少し社会人としてのマナーを覚えたほうがいいよ』坂本さんの注意を頭の片隅に置いておきながら、ベッドへダイブする。
そのまま二度寝して、起きたら夕方だったけど、仕方ないよ、な?■MUGENLABO 資料室「近藤くん、大丈夫かい? 体調悪いなら帰る?」「あ、山南さん、大丈夫……です、たぶん」 ゲームバーケルプで酒を飲み、ボードゲームで遊んだ翌日。 会社で仕事をしていた俺は気持ち割るさを感じていた。 二日酔いとは違って、妙な寒気すらある。 俺の顔を覗いてくる山南さんの顔が近いのか遠いのかすらわからなかった。「だめだよ! かなり症状が悪そうだ。まずは倉庫から出て。部長を呼んでくるから」 資料の片づけを山南さんとやっていた作業を中断し、俺はよろよろと外に出た。 エアコンがガンガンに効いていて冷たくなった壁が気持ちいい。 いや、気持ちいいと思うのほうがおかしいのかもしれない。 「近藤! 大丈夫か! 意識はあるか?」「ん……部長、大丈夫、です」「こういう状態の大丈夫は信用できないな。近くの病院につれていく、私が付き添いをするからあとのことは頼む」「了解しました」 部長が山南さんに引き継いでいたことを見たところから、俺の意識はなくなっていた。■ユウのマンション「近藤、大丈夫か?」「あ、はい……薬と休養のおかげで、だいぶ復帰しました」 タクシーで病院に運ばれ、横になって薬と点滴をしてもらったらかなり元に戻った。 診断は熱中症とのことだったが、狭い資料室での仕事が問題だったのかもしれない。 時間は16時、会社まで戻ったら定時になるくらいの時間だ。「もう時間も時間だ。家まで連れていくぞ」 タクシーの支払いを終えてともに外へ出た部長は一緒に階段を上って部屋の前まで連れていってくれる。 肩を貸されて動くのは正直言って恥ずかしいが、まだうまく歩けないので助かった。 鍵を使ってドアを開けて、一緒になかに入る。「ほら、段差があるから気を付けて」「すみません……」
■ユウのマンション 寝室 食事を終えた後、ナオに電話がかかってきて帰らなければいけなくなったということで駅まで見送り解散した。 今は寝室でベッドに寝ころびながら今日起きたことを振り返っている。 「ナオから告白されたかぁ……結論は言いそびれたけども、どうしたもんかなぁ。ネットの恋愛だって悩む俺にリアルの恋愛は無茶だぁ!」 気持ちがあれたのか、一人で叫んだ。 こういう時に頼れるのはあの人しかいない。 俺はFoEのメッセージアプリを立ち上げて、ガルさんに連絡をする。〈ガルガンチュア〉『メッセージでくるとはどうしたんだ?』〈ユージン〉『すみません、姪っ子から告白されて……年齢差もあるからどうしたものかと思って……』〈ガルガンチュア〉『なるほどなるほど、リア充ははじけるべきだな!』〈ユージン〉『ガルさんにだけは言われたくない……昔は一緒に遊んでいたけど、ちょっと疎遠になって……それから再会したら』 俺はガルさんに向けて事情を説明した。 具体的なところはぼかすが関係性についてはハッキリ伝えた。 こんなときに相談できる既婚者の男性がいるのは助かる。〈ガルガンチュア〉『明日、ユージンは暇だな? ぐりゅえるの店に来てくれ』〈ユージン〉『あー、そういえばギルドのメンバーは知っていた風の様子でしたね。場所はしらないですが』〈ガルガンチュア〉『詳しくはこちらに上げるので、夜の営業時間にでも来てくれ』 ガル山からの返信で俺はようやく心が落ち着いた。 それから、ゆっくりと目を閉じて夢の中へと降りていった。■都内某所 Cafe Cherub(カフェ・ケルブ) ケルプは最近都内に増えてきているボードゲームバーという形式の店で、天使の羽が生えた猫耳少女の看板が印象的な店だった。 ドアを開けばチリリンとベルがなり、薄暗い店内が見える。 おしゃれな空間にはかっこいいBGM……よくよく聞くと往年のレトロRPGのジャズアレンジだった。「こんばんわ。えっと初めてなんですが」「いらっしゃい、カウンターに座りなよ」 火はついていないが咥えタバコをしているワイルドな美女のマスターが俺を案内してくれる。 俺は静かな店内のカウンターに座って後ろに並んでいる酒の棚と高価そうなボードゲーム棚を交互に眺めていた。「ぐりゅさんは……まだですかね?」「何をいている。今、
■FoE内 深海監獄アクア・プリズン 第三階層 二階層目のボスも倒して進んで第三階層まできたが、だいぶ厳しくなってきた。 レベルとしては問題ないが、手数が足らない感じを〈ユージン〉は得ている。〈猫天使ぐるりゅえる〉『回復アイテムも乏しくなってきたのじゃ』〈ガルガンチュア〉『作れなくもないが、ギルドメンバーをここまでキャリーしつつ来てこの先に温存しておくのも手だな』〈ユージン〉『ボスがどれだけ強いかわからないが、ギルド単位で挑んだ方が安全なのは俺も思いました』 セーフエリアで一息ついていると、12時の知らせが届く。 時間的もここまでのようだ。〈アイン〉『今日は調べながら来ましたし、次は寄り道しないで直進すればもっと早いと思います』〈猫天使ぐりゅえる〉『アインは賢い子じゃのぅ。まさしくその通りなのじゃ。資料としてまとめる時間も別に欲しいしここまでじゃの』〈ユージン〉『社会人だらけだから時間単位で何となく切り上げられるのは助かります』 何せ今日は月曜日なのだから、無理はできない。 〈ガルガンチュア〉『では、テレボードを使ってかえるぞ』 テレボードは板状のアイテムで、乗ったメンバーをダンジョン外へと運んでくれる特殊アイテムだ。 複数人が乗れる上、何度でも使えて便利だが、かなり高いので持っている人は少ない。 そして、再びビーチに戻ったら、解散かと思ったらアインがユージンに声をかけてきた。〈アイン〉『お兄ちゃん、ちょっとだけお話してもいい?』〈ユージン〉『ああ、大丈夫だ』 時間も時間のためかビーチは夜空になっていて、ひともまばらになっている。 ビーチの隅に二人で座り、浮かぶ月を眺めた。 ゲームの中だというのにとってもきれいな光景である。〈アイン〉『ごめんね、私……気持ちがどうにも止められなくて迷惑かけているよね?』〈ユージン〉『いいさ、いろいろアインも過去にあっただろうし』〈アイン〉『ありがとう♪ 指輪は本当にうれしいから……結婚だってしてもいいからね? おやすみ♪』 最後の言葉はどっちの気持ちなのだろうか……経験の乏しいユージンにはわからなかった。■御茶ノ水駅近く 白鳥亭 アインと浜辺で語った週の土曜日、俺はナオのデートに付き合うこととなる。 待ち合わせ場所は長らく愛されている食堂が待ち合わせ場所だ。 朝からの出発で
■MUGENLABO イベントも終わって、翌日から仕事になる。 お盆休みの最終日にだいたい開催されるのがコミギャラなのでしかたないが、今回ばかりはもっと遅くあってほしかった。「足が重い……」 ブースの部屋を開ける手がノブを握ったまま動かない。 斎藤部長の『お兄ちゃん』という言葉が重く感じていた。「近藤、入るなら入れ。そのままだとほかのメンバ―も困るぞ」 会社の福利厚生で買ってくれているコーヒーを入れた斎藤部長が俺の背中から声をかけてくる。 サガの『アインの方はユージンのことを気にしてなさそうだ。だから、お前も切り替えるべきだな。そもそもそういうスタンスだったんだろ?』という言葉がよみがえった。 深呼吸をしてからドアの中に入る。「近藤くんもおはよー。お土産だよー」「ありがとうございます」 ソラさんのいつも通りの明るさが俺にとってすごくありがたい。 手にしたお土産を見ると、半裸の褐色男が袋に描かれたチョコ菓子のようだ。 『マハラジャスティック』という名前で、なんというか……界隈のセンスを疑う商品である。「なんか、食べづらいお菓子ですね?」「え、なんで? なんでなのかなー? 何を考えたのかなー? ねーねー」 俺の周りをちょこまかと動きながらわかっててあおってくるソラさんをウザいと思う半分、気持ちが楽になるのも事実だ。「沖田も近藤も、朝のミーティングはじめるぞ」「「はい!」」◇ ◇ ◇——昼休み——「近藤、昼を一緒に済ますぞ。会議室をとって弁当も頼んでいる。打ち上げ時の報告も聞いておきたいので来るように」「は、はい……」 有無をいわさない鬼の斎藤ぶりを発揮させて俺は会議室へと向かう。 後ろからご愁傷様というような雰囲気を感じたのは気のせいではないようだ。「それで打ち上げはただ遊んでいたわけではないだろうな?」「はい、関係各社様やLYONEの方と名刺も交換しました」「その後のお礼メール等はだしているか?」 そういう風にいわれてから、俺は何もしてないことに気づく。 たしかに、名刺だけでは忘れてしまうが連絡を待つだけでなく先にメールを出せば返信の可能性もでてくる。 失念していたことに突っ込まれて、俺はますます気持ちが沈んだ。「まぁ、お前も今年入社したばかりだし営業に近い仕事は慣れていない。ちゃんと今日中にだして
■8月某日 東京国際展示場「なんだかんだあって、部長と仕事以外の話できなかった……ゲームも疲れてログインあまりできなかったしなぁ」 俺は賑わう人の波をかいくぐぐりながら待ち合わせ場所まで移動する。 朝早くからの集合ということもあって、現地集合だ。 二人きりで会うのがまたイベントというのが何とも言えない気持ちになる。「あ、斎藤部長! こっちです!」 「おはよう。近藤、朝早くからすまないな」 パンツルックのびしっとしたスーツ姿の部長の姿はいつもながらに凛々しい。 この部長がゲームでは癒し系ほわほわヒーラーのアインであることを知っているのは俺だけだ。「なんだ、ひとの顔をジロジロと……」 「いえ、なんでもありません! サークル参加なんて初めてなんで緊張しているんです!」 「まぁ、私も多いわけではないが……FoEの会社様からCMのお礼にと招待いただいたんだ。必要とあればお前は臨時スタッフとして手伝ってもらうぞ」 コミックギャラクシー……通称コミギャラは夏と冬に開かれる同人誌即売会で、最近では企業の参入も多い。 企業ブースでは限定商品が売られ、長蛇の列に並ぶも変えなかったことは多くあった。 その内側に入れるなんて、関連会社に入れてよかったと思う。「はい! むしろ、仕事があるほうが嬉しいです!」 「仕事仕事もいいが、ちゃんと休めよ……ゲームばかりで寝てないなんて困るから、な」 最後の方はぼそぼそといわれて聞き取れなかったが、メリハリつけろということは分かった。 俺は部長と共に一般参加者が列をなして並ぶ横を通って、サークル入場口へと進む。 サークル入場口も参加者が多いためか人込みになっていた。「部長、手をつなぎましょう! はぐれないために!」 「ひゃぁ! あ、ああ……そう、だな……」 部長の手を握り、俺が先に進みつつ人込みを謝りながらかき分ける。 そんな俺の手を握る部長の手は柔らかく、そして強く感じた。◇ ◇ ◇■コミギャラ企業ブース内 LYN
■個室居酒屋「楽宴」 アインの正体が部長だという事実が発覚した後、俺はしばらく何の言葉も出なかった。 部長の方も顔が真っ赤になって固まっている。 飲みかけのビールの泡は消えているし、どうしたらいいかと分からない様子だ。「申し訳ございません、店内が混雑してきましたのでお会計をしていただいてもよろしいでしょうか?」 「あ、ああ……すまない。いくぞ……近藤」 「は、はい……」 ちょうどいいタイミングでお店の人が促してくれたので、俺達は席を立って店をでる。 無言先を進む部長についていくと、宮下公園にたどりついた。 自販機で水のペットボトルを買って、ベンチに二人して座る。 ここまで無言だ。「あの……部長?」 「すまない、少しだけ……もう少しだけ待ってくれないか?」 厳しい雰囲気をいつも放っている斎藤部長のこの焦った様子はなかなか見られない。 だから、黙ってペットボトルの水を飲みつつ部長が落ち着くのを待った。 もちろん、俺の方も部長がアインだと聞いて驚いてしょうがないが、なんかあまりにも現実感が無さ過ぎて考えがまとまっていない。「よし、大丈夫だ。まさか……近藤が、ユージンお兄ちゃんだったとは……」 「お兄ちゃん呼びは……実年齢も違うんで、勘弁してください」 「いや……ま、そうだな……近藤のままでいこう。ゲーム中は……まぁ、いいよ、な?」 不安げな上目使いで俺を見上げてくる部長の姿に、本当にいつもの部長なのか不安にすらなった。 酔っている俺が見ている夢という方が納得できる。「ええ、大丈夫です。リアルとゲームは別ですから……」 俺はそう答えると部長はえへへと笑った。 可愛い! 酔っているせいなのか、そんな風に見えてしまった。「その、アインは大学生といっていたから、部長とは思いませんでした」 「まぁ、あれはな……私の素性はゲームでは明かしたくなかったのもあるし、今の自分とは違う自分でいたかったんだ……」 ふと、遠くをみるような眼