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近藤は仲間を手に入れた!

Author: 橘まさと
last update publish date: 2026-08-27 09:23:05

■MUGENLABO 企画部

「この1週間の日報を見させて貰った。君は資料整理だけしていればいい」

 月曜から憂鬱になる一言が鬼上司の斎藤さんから言われた。

 俺は反論しようにもできない自分が悔しい。

「わかりました。やり方を教えてくださいませんか?」

「資料室にいって、ここにある企画書をまとめてくれ。やり方は……沖田の手が空かないから……山南、お前が手伝ってくれ」

「……了解です」

 俺はあまり話したことのない巨漢の山南さんと共に資料室へと向かった。

 無口というか無愛想というか、つかみどころのない人である。

 野暮ったい髪に四角いフレームの眼鏡をかけていて、表情があまり読めない人だ。

 チャットでも、あまり発言を見かけないのでなおさら会話に困った。

 書類の束をもった男二人が、資料室へ向かう廊下を無言で歩く。

 仕事で忙しくしている部屋の声を背に、オフィスの奥にある薄暗い資料室へとやってきた。

 正直言って気まずい……。

「山南さん、よろしくお願いします!」

「うん……よろしく。それで資料の整理の仕方だけど……」

「は、はい!」

 でかい図体に低い声、見下ろされていることもあってか俺は緊張してしまった。

 生存本能がヤバイというのを訴えているようである。

「あの……そんなに、僕……怖い、かな?」

 目の前の巨漢がシュンとしょげたように見えた。

 いや、見えるだけでなく本当になっている。

「あ、いやそのっ、山南さん、タッパありますし声も低いから……熊みたいで」

「熊って……僕は人間なんだけどなぁ」

 ため息を漏らした山南さんは資料室の椅子に腰かけて、しょぼしょぼと話し始めた。

「二人きりだから聞くんだけどね……近藤くんは結構慕われるタイプに見えるけど、どうしたら人と仲良くできるのなか? 特に、その沖田さんとか……とさ……」

「へ? れ、恋愛相談です、か?」

「ウン……そう。資料整理はこのくらいなら実際はかからないし、斎藤部長が近藤君にやらせたいことは過去の企画を見て勉強してほしいことだと思うから」

 山南さんの言葉に俺は安堵の息を漏らす。

 嫌われていたわけではなく、学ばせてくれるためにこの仕事を寄こしてくれたのだ。

 先週はデザインソフトを触ってみたけど、上手くいかなかったり、電話の連絡を伝え忘れたりと失敗続きだったのである。

「でも、俺は失敗多かったし……」

「近藤君は完璧を求めすぎだよ……肩の力を抜かないと……」

「山南さんはムキムキマッチョですよね」

「それは関係ないよね? まぁ、そういう返しもできるのが、近藤君のいいところかもしれない」

 フムと山南さんは腕を組んだ。

 考えこんでいるのかもしれないが、眉間にしわが寄っているので怒りを我慢しているようにも見える。

「山南さんは深く考えすぎですよ。もっと、こう勢いでやらないと!」

「勢い……か、僕は苦手だな……静かにもくもくやる方が好きだからライティング担当だしね」

「そうなんですね。ああ、さっきの話に戻りますけど……沖田さんと仲良くなりたいなら、【踊プリ】やりましょう。

「おどぷりって何?」

「沖田さんが机の上に置いているアクスタのキャラが出ているゲームですよ。スマホのソシャゲです」

「僕、ゲームはあまりやらないんだよね……」

「ゲームが苦手なら、アニメか漫画から入ってもいいと思います。共通の話題があるだけで会話のきっかけになりますし」

「漫画とかならいけるかも、できれば小説とかの方がいいんだけどね」

 ライティングが得意と聞いたので、何となくそうじゃないかと思ったけれど小説が好きなようだ。

 MMOで初対面同士の即席パーティ組んでキャリーしてきた経験から、相手の好みを理解する癖が俺にはある。

 だから、山南さんとの会話から求めているものを考えて読みだそうとした。

「公式の小説版はないですが、二次創作で小説を書いている人がピグシブにいますから、そちらから読んでみるのもいいかもしれないですね」

「二次創作があるくらい人気の作品なんだね……ニューページの一次作品中心に読んでいたから、気づかなかったよ。近藤君、ありがとう」

「いえ、どういたしまして……じゃあ、資料整理しましょうか」

「そうだね。整理もだけど、関連を紐づけていくから企画の中身を理解することが大切なことだよ」

 熊のように見えて怖かった山南さんの姿はもうない。

 はなして理解できれば、誰とでも仲良くなってできるのだ。

(でも、斎藤部長だけは難しいなぁ……ガード固すぎだし、言うことがきついんだもん)

 言葉によるサンドバックを耐えきることが不安になっていたが、頼れる先輩ができたことで少し、解消できる。

「山南さん……山南先輩って呼んでもいいですか?」

「いいよ。僕も近藤君ともっと仲良くなりたいから……」

 ゲームだったらフレンド登録をしたいところだが、今は仕事中なので我慢するのだった。

■MUGENLABO 廊下

 時計をみたらお昼休憩の時間になっていたので、俺と山南先輩は資料室から外に出た。

 室内は暑かったので、二人とも汗だくである。

「ふぅ……近藤くん、楽しかったよ」

「俺もッス」

「また今度やらないか?」

「そうッスねぇ……」

 答えを返そうとしたとき、女性社員たちがひそひそと俺達を見ながらささやいている。

 そことで現状を俯瞰して分析を始めた。

 MMOで状況把握は攻略のために必要なスキルである。

 自分のステータス、敵のステータスなどから最適な戦略を選ぶのだ。

「汗だくの男二人……やらないかという言葉、女性社員だけが反応……ああぁああぁ!?」

 導きだされた答えに俺は両手で頭を抱えて人目をはばからずに吠える。

 山南先輩がムキムキマッチョなので余計に良くなかった。

 白いシャツが汗で透けてべったりしている。

 ばさりと書類などが落ちる音が聞こえた。

「まさか! 近藤くんと山南さんが……そういう仲だったとは! これはドッチが前ですか! 新解釈です!」

 俺が振り返った先にいるソラさんが鼻息を荒くして近づいてくる。

 これが先ほどの答え、|Q.E.D《しょうめいしゅうりょう》だ。

「いやぁぁだぁぁぁ! 俺は普通だぁぁぁぁ!」

 再び叫ぶ俺に対して、よくわかっていない山南先輩は熊のぬいぐるみのように静かになっている。

 山南先輩は純粋なので、そのままでいて欲しいと思った。

■野菜モリモリ キャベ二郎

「なーんだー。面白いネタだと思ったのにー」

「勘弁してください……」

 初日にも案内された定食屋に俺とソラさんは来ている。

 山南さんは自炊しているようなので、今度また誘ってと言って別れた。

 今回については、本当に良かったと思う。

「ここ奢りますから、変な噂を流さないでくださいね」

「まぁ、腐女子はひっそり楽しむものだからね……ただ、LIMEの腐女子グループは大盛り上がりだけど」

「何その魔窟。コワい」

 社員同士がLIMEをやっているのはわかるけど、腐女子グループがあって交流しているなんて怖かった。

 ソラさんともここ数日で仲良くなって俺は敬語が抜けないけど、ソラさんはだいぶ崩れて喋ってくれている。

 俺が敬語なのはリアル女子と話慣れていないのが一番の理由なんだけど、黙っていた。

「それはそれで置いておいて、仕事のほうはどう? だいぶ慣れた?」

「まぁ、そッスね……ソラさんや山南さんのおかげで仕事の理解ができました」

「ご注文の肉野菜炒め定食です」

 店員さんが料理を持ってきてくれたので、話はいったん打ち切り食べはじめる。

 肉野菜炒めといいつつも野菜のほうが圧倒的に多い。

 だけれども、肉のうまみが野菜にしみているので美味いのだ。

 野菜不足の現代人にはいい店なのだろう。

「まぁ……ただ……」

「ただ?」

「斎藤さんは苦手デス」

「斎藤部長が得意な人なんて、そんなにいないわよ。バリバリのキャリアウーマンだしね」

 もぐもぐと食べつつも、俺は胸に抱いていたものをソラさんに話し出す。

「ファーストインパクトが悪かったこともあるから、なおさらやり辛いんだよなぁ……どうしたものやら……」

「まぁ、斎藤部長は近藤クンのこと嫌っているわけじゃないわよ? あの人は見込みがなければ仕事を振らないからね」

「そういうもんなんですかね?」

「ほら、ゲームでもずっとキャリーされたままじゃ成長できないっていうじゃない?」

「なるほど……確かに、そっかMMOとかのパーティでの育成とかの感じは仕事でも応用効くんだ」

 ソラさんの言葉に俺は光が少し見えてきた気がした。

 大変で、ゲームを遊ぶ暇もないくらい忙しい仕事だけれども、俺はこの仕事でやりたいことがある。

「近藤クンってさ。どちらかといえばこういう制作の仕事よりも体を動かす仕事のほうが得意そうだけど、理由あるの?」

「ええっと……恥ずかしいんですけど、俺もあんまり動画をちまちま作るのは苦手というか興味なかったです」

「ぶっちゃけるねぇ~」

「けど……MeTubeで流れてきたFoEのCMを見て、ゲームをやりたいって思って、遊んだゲームがすっげぇ楽しくて……だから、出会いをくれたCMを作るようになりたいって思って勉強してきたッス」

「FoEのCM……ああ、それ作った人知ってるよ」

 ソラさんの言葉に俺は心臓がドキドキしてきているのを感じる。

 CMをつくった会社まではわかったが、誰かまでは調べきれなかったのだ。

 あったらお礼を言いたいと思っている人の情報が手に入ると興奮してくる。

「誰ですか! やっぱり、土方さんですか!?」

 思わず前のめりで詰め寄ったとき、お店の時計が目に入る。

 休憩が終わる時間が近かった。

「急がないと、休憩終わっちゃいます!」

「じゃあ、私は食べ終わったから支払いよろしく~。CMを作った人はそのうちわかるわよ♪」

 伝票を俺に渡してきたソラさんは意味深なウィンクをしてから、お店を後にした。

 一体、誰なんだ???

■MUGENLABO

「それで遅刻してきたと……近藤、貴様は仕事をなめているのか? やる気がないならやめたまえ」

「……すみませんでした」

「ふぅ……私も言い過ぎたな。わかればいいんだ。次から気を付けるように」

 もったいないからと野菜炒めを残さず食べてでようとしたら、支払いの列ができてしまっていたので休憩時間内に帰ってこれなかった。

 ソラさんは両手を合わせて謝ってくれている。

 しかし、これは俺の責任でもあるのでしょうがない。

「はい、気を付けます」

 俺は改めて頭を下げて自分のデスクへと戻った。

 動画編集の作業も最近はやっており、無駄な空白の削除や音声素材の収集などを主にやっている。

 地味で時間のかかる雑用ばかりだが、まだ駆け出しだからと俺は自分に言い聞かせた。

〈土方〉『近藤くん、お疲れ様。操作なれているから細かい指示をださなくてもやってくれるから助かっているよ』

〈山南〉『まだ始まってひと月もたってないのに作業できるんだから、自信もっていい』

 チャットでメッセージを送ってくれる土方さんや山南さんのやさしさが身に染みる。

〈近藤〉『ありがとうございます。頑張ります』

〈伊東〉『そーそー、気楽にいこー。気楽にー』

〈土方〉『伊東くんは、遅れているからもうちょっと納期意識して頑張ろうか』

〈伊東〉『うわーっ!? ヤブヘビだったー!』

 伊東先輩は俺より一つ上。

 でも、適当というか楽しいことに全振りするタイプで面倒なことにはあまり触れないタイプだ。

 大学在学中の俺がそのままだったら、きっと伊東先輩みたいになっていただろう。

〈伊東〉『話は変わりますけど。近藤の歓迎会がまだできてないから、このプロジェクトが終わったらやりましょーよ』

〈土方〉『ダメというか、先に仕事といいたけれど伊東くんは餌が決まっていたほうがやる気でるんだよねぇ』

〈伊東〉『ワンワン! 楽しイベントのためなら頑張るワン』

 犬のスタンプまでつけてくるので、伊東先輩はこの部のムードメーカーなんだろうなというのがよくわかるやり取りだった。

〈沖田〉『近藤クン、ちょっとキラキラ系のエフェクト作ってー』

〈近藤〉『わかりました。もっと具体的なイメージが欲しいです。すでにどこかにあるかもしれないので』

〈沖田〉『おっけー。それじゃあ、個チャで送るね』

 送られてきた資料見ながら、エフェクトを作ったりして、その日の業務は終わる。

 仕事に集中することができれば嫌なことが忘れられるからいいよな。

■自宅

「あぁー。つーかーれーたー」

 今日も今日とて帰宅早々いったんベッドへダイブした。

 すぐに寝てしまわないだけ、だいぶ慣れてきたほうだけれども、まだまだゲームをやる気にはならない。

「そういや、最近アインからも連絡がないな……テストが近いから勉強しているって言ってたっけ」

 スマホのFoEアプリを確認し、連絡があまりとれなくなるというメッセージを受け取ったのは数日前だ。

「気持ちがへこんでるから、アインと話したかったなぁ……」

 家に帰って一人でいると、今日斎藤部長に叱られたことが思い返されて自己嫌悪に陥る。

 けれど、俺はあきらめるわけにはいかないし、手を出すなんて持ってのほかだ。

 その時、メッセージの受信をスマホが知らせてくる。

 相手は俺の担当をしている坂本さんだ。

『元気してるかな? そろそろ一か月だから、更新等について問題ないかの確認だよ』

『ありがとうございます。更新は俺のほうからはします。向こうから嫌われてなければなんですけど……』

『嫌われるって何かあったの?』

『別に何もないですよ。風呂入ったりするので、これで』

 これ以上話したらぼろが出そうだったので、俺はメッセージを閉じる。

 やっぱり仕事の関係者には本音が出せないから、アインに会いたくなった。

「風呂に行ってさっぱりするか、それでもモヤモヤするならアクションゲームでもやってすっきりしよう! そうしよう!」

 俺はそう自分に言い聞かせてから、シャワーを浴びるために気合を入れてベッドから起き上がる。

 土日はまだ遠いのだ。

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