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第2話

Author: 薫風
「あなたって血も涙もないの?弟をこんなに力任せに殴るなんて」

俺は彼女の言葉に、怒りを通り越して鼻で笑ってしまった。

10年もの間愛し続けてきた目の前の女を冷ややかに見据え、はっきりと告げた。

「雪乃、これ以上そいつを庇うつもりなら、そいつと一緒にここから出て行け」

俺の記憶の限り、雪乃に対してこれほど激しい怒りをぶちまけたのは初めてのことだった。

雪乃は信じられないといった顔で俺を見つめ、俺たちの間に立ち尽くしたまま、しばらく言葉を失っていた。

栄太は血の滲む口元を押さえて苦渋に満ちた笑みを浮かべると、雪乃をじっと見つめた。

「雪乃、気にしないで。僕はただ、君のウェディングドレス姿を一目見たかっただけなんだ。すごく綺麗だよ。この姿を、ずっと心に焼き付けておくから」

彼が背を向けて立ち去ろうとしたその時、雪乃がその腕をきつく掴んだ。

「私も、一緒に行くわ」

遠ざかる二人の背中を見つめながら、俺は拳を強く握りしめ、口の端に自嘲の笑みを浮かべた。

周囲の参列者たちは皆、同情の眼差しで俺を見ていた。よりにもよって結婚式当日に、俺はいい笑い者になった。

胸の奥が無数の針で刺されるような痛みに蝕まれ、耳元で鳴り響く華やかな結婚行進曲は、その痛みを倍増させる呪詛のようにしか聞こえなかった。

祝福のための幸福なメロディーが、今の俺には五臓六腑を粉々に打ち砕く凶器にしか感じられなかった。

頭の中を駆け巡るのは、去り際に何度も振り返った栄太の瞳の奥底に潜む、あの嘲笑と優越感ばかりだ。

あいつは、また勝った。

婚外子の分際で父の愛情を奪い取り、今度は俺の婚約者までも奪い去っていった。俺はすべてを失い、完全に敗北した。

「ああ、本当に可哀想に。結婚式当日に自分の弟に花嫁を奪われるなんてね」

「ほら、行きましょう。もう見ちゃダメよ、今日の式はもうお開きね」

参列者たちはそそくさと会場を後にしていった。

俺は胸をきつく押さえ、身を引き裂かれるような痛みに耐えていた。

俺は怒りに任せて結婚式場をめちゃくちゃに破壊した。半月かけて丹念に準備した会場は、見るも無残な有様へと変わり果てた。

敷き詰められた生花は無残に踏み躙られ、あの高価なダイヤの指輪さえも、俺の足で泥土の奥深くへと踏みつけられた。

雪乃が山あいでの結婚式に憧れていたからこそ、わざわざ友人に頼み込んでこの会場をデザインしてもらったというのに。

すべて俺自身が手塩にかけて飾り付けたものだ。それが今や、盛大な笑い話となって俺の頬を容赦なく張り飛ばしている。

俺は獣のように吼え、この手で飾り付けた美しい会場を手当たり次第にぶち壊して、胸の中で渦巻く怒りをぶちまけた。

10年だぞ。人の一生に、10年という歳月が何度あるというのか。

かつては目を細めて笑い、迷うことなく俺の胸に飛び込んできて、一生一緒にいると誓ってくれた女が結局のところ、別の男を選んだ。

俺には「誓いません」という冷酷な一言を叩きつけた。

その一方で、俺が最も憎む男には「一緒に行くわ」という優しい言葉を与えた。

俺は泥酔したまま谷間の芝生に大の字に寝転がり、意識が朦朧とするまで酒をあおり続けた。

ぼんやりとした視界の中、周囲に突然柔らかなピアノの旋律が響き渡り、遠くからウェディングドレスを身に纏った人影が近づいてくるのが見えた。

俺は目をこすり、幻覚でも見ているのかと呆けた。

その女性は笑みを浮かべており、俺の記憶の中にある少女の姿と重なるほど美しかった。

彼女は気品に満ちた優雅な所作で、俺が自暴自棄になって泥に踏みつけたダイヤの指輪を拾い上げると、真っ直ぐに歩み寄ってきた。

「誓います、陽斗。私があなたと、残りの人生を共に歩むことを誓うわ。婚姻届を出しに行きましょう」

俺はもう堪えきれず、目を真っ赤に腫らした。どれほど唇を噛み締めても、胸の奥で渦巻く狂おしい痛みを抑えきれなかった。

その瞬間、彼女はそっとしゃがみ込み、惨めで泥まみれになった俺を力強く抱きしめてくれた。

痛ましさと慈しみに満ちたその美しい瞳で見つめながら、彼女はそっと唇を寄せ、俺の頬を伝う涙を口づけで拭ってくれた。

彼女はまるで一筋の光のように、暗闇の底へと沈んでいた俺の心を照らし出してくれた。

……

父から電話があり、話があるから今すぐ実家へ戻ってこいと言われた。

話の用件はおおよそ察しがついた。俺は気持ちを整理し、この世で一番帰りたくないあの家へと足を踏み入れた。

玄関をくぐると、リビングには雪乃の姿もあった。

俺の結婚式から逃げ出したはずの花嫁は、恥じらうような笑みを浮かべ、栄太の腕の中にすっぽりと収まっていた。

母は、甲斐甲斐しく二人のために果物を剥いている。

父は参列者一人一人に電話をかけてペコペコと謝罪している真っ最中だった。

「本当にすみません。本日の結婚式は中止となりました。せっかくお越しいただいたのにとんだお粗末で……日を改めて、あの馬鹿息子を直接お宅へ伺わせて謝罪させますので」

いかにも一家団欒といったその光景を前にして、俺は全身の血が凍りつくような寒気を感じていた。

彼らが一番詫びるべき相手は、他でもないこの俺のはずじゃないのか?

結婚式の儀式が始まるまさにその時、栄太は電話一本で両親を式場から呼び出していた。

俺はすがるような思いで二人を見つめ、せめて式が終わるまで待ってくれないかと懇願した。

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